胃と腸 41巻13号 (2006年12月)

今月の主題 大腸腫瘍に対する拡大内視鏡診断の最先端

序説

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 20 世紀後半にポリペクトミーが行われるようになったが,診断と治療が同時にできるというメリットがある一方,治療が先行し診断が後につけられるという,内視鏡診断学が欠如した奇妙な状況が続いた.すなわちポリープから癌が発生するという理論に振り回され,ポリープ治療が先行する内視鏡的ポリペクトミーが全世界で行われた.

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 V 型 pit pattern は癌に特徴的な pit pattern として提唱されたが,その細分類の命名や定義にわかりにくい部分があった.2001 年に工藤・鶴田らの合意により,V 型 pit pattern 細分類の命名は VI 型・VN 型に統一された.その後,各施設によって VI 型・VN 型の定義が微妙に異なっていたが,2004 年 4 月の “箱根 pit pattern シンポジウム” で VN 型の定義が明確になされ,VN 型 pit pattern は深達度診断における SM 高度浸潤の確実な指標となった.その結果,VI 型に M 癌と SM 軽度浸潤癌・SM 高度浸潤癌すべてが含まれることになり,それらを鑑別するための VI 型 pit pattern の解析が盛んに行われている.一方,最近 NBI 拡大観察などの微小血管診断学も解析に導入されるようになり,より精密な早期大腸癌の質的診断が模索されており,今後のさらなる拡大内視鏡診断学の発展が期待される.

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 2002 年からの厚生労働省がん研究助成金「大腸腫瘍性病変における腺口構造の診断学的意義の解明に関する研究」班(工藤班)を通じて,大腸癌の V 型 pit pattern は概念の統一化と細分化がなされた.2004 年,明らかな無構造領域を有する pit pattern を VN 型,不整腺管構造を有する pit pattern を VI 型とした箱根シンポジウムのコンセンサスが得られた.さらに,pit の内腔狭小,辺縁不整,輪郭不明瞭,stromal area の染色性の低下・消失,scratch sign 等の所見を参考にして VI 型高度不整は “既存の pit pattern が破壊,荒廃したもの” と定義された.その結果 V 型 pit patten の分類により大腸腫瘍の内視鏡診断はよりいっそう簡便になり,かつ sm 癌の指標が明確になった.大腸 pit pattern 診断は観察から治療方法が直結した診断学になった.

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 大腸における内視鏡診断の要素として,病変の腺管開口部の形態から診断する拡大内視鏡診断,pit pattern 診断は既に市民権を得ていると思われる.今回上皮性由来の病変に関する腫瘍・非腫瘍の鑑別について検討を行った.当センターにおいて拡大内視鏡観察が行われ,かつ標本が切除され病理組織学的検討を行った隆起型・表面型 1,328 病変を対象として,I・II 型 pit pattern を呈する非腫瘍性 pit 群と III~V 型 pit pattern を呈する腫瘍性 pit 群の 2 群に大別して,その病理組織像と対比した.また誤診例についても検討した.その結果,拡大内視鏡による腫瘍・非腫瘍の鑑別は感度,特異度が 89.3 %,96.2 %(p<0.01)と高値を示し十分に信頼に足るものであったが,今回の検討は retrospective study であるためバイアスが含まれており,これを是正するとさらなる高い診断能であることが示唆された.一方誤診した病変の検討では,非腫瘍性 pit と判断した群では低異型度腺腫,5 mm 以下の微小病変が多く,また腫瘍性 pit と判断した病変群では炎症性ポリープ,過形成性ポリープと誤診される場合が指摘でき,これらの病変を診断する際は注意を要すると思われた.

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 粘膜下層(sm)に浸潤した部を分断して分割切除してしまうと組織学的転移危険因子の評価は不可能に近い.また,分割切除標本では側方切除断端における腫瘍組織の有無の組織学的評価もかなり難しい.したがって,分割切除を行う場合は切除前に sm に浅く浸潤している(sm-s)可能性のある部位を診断し同部を一括して十分に切除すること(計画的分割切除)と切除時内視鏡的に腫瘍遺残のないことを確認することが必要である.sm-s の診断には拡大観察による軽度不整 VI pit の存在の有無が有用な指標であり,腫瘍遺残の確認には拡大観察による腫瘍性 pit(IIIs,IIIL,IV,V 型 pit)残存の有無が有用な指標である.

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 大腸腫瘍性病変の内視鏡的治療において,その局所遺残が最も問題となるのは,側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)である.われわれも,LST における EMR(endoscopic mucosal resection)後の,病変部観察には神経質に対処してきた.本稿では,内視鏡的治療の適応となる LST の特徴と,局所再発の頻度および予後について検討し,拡大観察がいかなる局面で有用性を発揮できるのかについて述べる.LST に対する内視鏡的治療後の遺残や局所再発は極めて小さな場合が多く,即座の治療を行うためには,拡大電子スコープが欠かせない.EMR ないし EPMR 後の遺残を予防するには,切除端を全周性に拡大電子スコープで観察し,腫瘍 pit の遺残を確認することが重要である.さらに経過観察中に,局所再発を疑った場合は,拡大電子スコープを用いて腫瘍であることを確認し,病変の大きさに応じた処置方法を選択して,治癒させることが重要である.

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 本稿では,1999 年よりわれわれが開発してきた内視鏡の観察光の分光特性を狭帯域特性へ変更(短波長側にシフト)することで,病変の視認性や表面微細構造,毛細血管観察の向上を可能にした narrow band imaging(NBI) system の大腸内視鏡検査における有用性について述べた.NBI system の登場により,腫瘍の血管新生にもとづく病変の視認性の向上,毛細血管構築を中心とした従来の内視鏡では観察できなかった微小血管診断学が浮き彫りになってきた(endoscopic microangiology ; EMA).NBI を大腸内視鏡検査に導入することにより,腫瘍/非腫瘍の鑑別に要する色素観察が不要になるとともに(optical chromoendoscopy),capillary pattern(CP)観察により質的/量的診断が瞬時に可能となるだろう.また,NBI をはじめとした instrument-based chromoendoscopy とも言える新技術の開発に伴って,high-contrast endoscopy といった大きな概念として色素内視鏡は stain-based と instrument-based に分ける必要性が出てくるものと考えられる.

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 大腸限局性病変および正常粘膜,計 75 病変を probe-type endocytoscope で観察した.当該病変の病理組織結果および内視鏡画像を知らない病理医が,endocytoscopy 画像を診断し,最終病理組織診断と対比した.endocytoscopy 診断の正診率は 93.3 %,Kappa value は 0.910 であり,病理診断と有意な相関を示した.endocytoscopy による腫瘍と非腫瘍の鑑別診断能は母集団が少ないが 100 %,sm 以深癌の診断率は感度 92.3 %,特異度 100 %であった.最近,通常の拡大内視鏡と endocytoscopy が一体となった scope が開発された.通常観察,拡大観察,450 倍の超拡大観察が 1 本の scope で連続的に施行可能となった.今後,さらなる症例の蓄積により,診断能向上への寄与が期待される.

症例検討

V 型 pit pattern 診断の実際
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 大腸における拡大観察は,大腸腫瘍表面の pit 構造を見ることで,腫瘍・非腫瘍の鑑別や,腫瘍の異型度,癌の深達度の判定などに利用されてきた.さらに最近では,計画的分割切除における有用性や,EMR(endoscopic mucosal resection)後の微小局所遺残病変診断への応用も注目され,また一歩進んだ拡大観察の方法として NBI(narrow band imaging)を用いた pit pattern 診断,微小血管構築診断や,病理組織レベルに迫る超拡大観察など,新しい手段も開発・応用されつつある.しかし一方で,V 型 pit pattern 診断については内視鏡医によって診断基準にばらつきがあるなど,理解しにくい点が多いとも言われている.

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は じ め に  V 型 pit pattern 細分類の定義や診断の現状を把握する目的で,今回全国の 10 人の拡大内視鏡診断を行っている大腸内視鏡専門医(Table 1)に,各施設から 2 例ずつ症例を呈示してもらい合計 20 例の病変に対して pit pattern 診断を行っていただいたので,その集計結果についてまとめてみたい.

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 腫瘍性病変の pit pattern は,最表層の組織構築を表しているものであるので,深層部の組織像とは必ずしも一致しない.ただし,これまでの解析で,pit pattern 診断が腫瘍の良悪性判定と深達度診断に有用であることが示されてきた.今回,具体的症例の pit pattern 診断結果を踏まえ組織像を検討させていただいたが,病理の立場から pit pattern 診断の問題点について述べてみたい.なお,組織像の読影はすべて筆者が行った(Table 1).

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 症例は 62 歳,男性.大腸早期癌(粘膜内癌)の内視鏡的治療 6 年後に,経過観察目的の大腸内視鏡検査と生検にて上行結腸に IIc+IIa 型印環細胞癌を指摘された.上部消化管内視鏡検査,胸・腹部 CT 検査等の画像診断に異常はなく,上行結腸部分切除術が施行された.病理組織学的には最大径 10 mm,IIc+IIa 型 signet-ring cell carcinoma with adenoma,深達度 sm3,ly2,v1,Infα,n1 と診断された.大腸原発早期印環細胞癌の報告例は少なく,臨床病理組織学特徴を明らかにするためには早期癌症例の集積が必要と考え報告した.

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 1970 年代の St. Mark Hospital(SMH)の外科医たちは皆教科書に名を連ねるほどの名士ばかりであった.その後の変遷ぶりを考えれば,あの時期こそ SMH が coloproctology の世界に最後の輝きを放った時代だったのだと思う.次の世代の SMH の外科医たちの役割が,以前とはかなり異なったものになってきたのも時代の流れというものであろう.

追悼

並木正義先生を偲ぶ 下田 忠和
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 平成 18 年(2006 年)4 月 11 日に並木正義先生がご逝去されました.先生は旭川医科大学を退官後しばらくして,体調をくずされ不自由なお体となられましたが,元気に毎日を過ごされているとお聞きしていましたので,突然の訃報に接し驚いた次第でした.私の心の中にぽっかりと穴があいた感じと同時に,走馬燈のごとく私の脳裏には様々な想い出が駆けめぐりました.数年前,岡山での学会でお会いしお元気なお姿を拝見しましたが,そのときが先生にお会いした最後となりました.先生のお弟子さんである渡二郎先生の「白壁賞」受賞を祝うために不自由なお体をおされて岡山においでなりました.先生はお弟子さんを大事にされましたが,そのときの先生の表情から渡先生の受賞はよほど嬉しかったに違いないと感じました.実は私にとっても,先生は私の人生を導いてくださったお一人であります.私がまだ医学部の学生であったとき(昭和 40 年),先生の講義で胃癌の治療には内視鏡検査(当時はまだ胃カメラが主流)による早期発見が極めて重要であることを拝聴しました.実際,先生は早くから胃カメラを駆使して早期癌をたくさん発見されており,先生のもとに胃カメラの教えを受けに北海道中から多くの先生がはせ参じていました.そこで私も臨床実習と称して数人の仲間と先生の教室に出入りし,消化管疾患診断の実際を経験させていただきました.先生には迷惑であったと思いますが,実によく指導をしていただいたことが昨日のことのように思い出されます.

並木正義先生を偲ぶ 斉藤 裕輔
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 私の恩師であり,「胃と腸」創刊の年,1966 年から 1994 年まで本誌の編集委員を勤めておられました並木正義先生が 2006 年 4 月 11 日に逝去されました.

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 DDW(Digestive Disease Week)-Japan 2006 は 2006 年 10 月 11 日(水)~14 日(土)の 4 日間札幌コンベンションセンター,道立総合体育センターにおいて開催された.

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 DDW-Japan 2006 が 2006 年 10 月 11 日(水)~14 日(土)の 4 日間札幌コンベンションセンター,道立総合体育センターで行われた.

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欧文目次

編集後記 平田 一郎
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 1978 年,多田が大腸腫瘍に対して拡大内視鏡による pit pattern 分類を行った.その後,工藤らによって大腸の拡大内視鏡検査が普及し,現在,工藤の pit pattern 分類が広く用いられている.本号では「大腸腫瘍に対する拡大内視鏡診断の最先端」というテーマで,興味深い有益な論文が多数寄せられた.そこには大腸腫瘍の拡大内視鏡診断における新しい知見と最近の動向が随所にちりばめられている.まず,以前より問題であった V 型 pit pattern 診断について箱根シンポジウム,工藤班会議を経て VN 型と VI 型の再定義がなされ,次に VI 型の亜分類として軽度不整,高度不整が取り決められた過程,その有用性と問題点が該当論文で詳細に論じられている.また,症例検討では 10 人の専門医が実際の症例の V 型 pit pattern 診断(VI 軽度不整,VI 高度不整,VN)を行い,一致率が 65 % であったことは興味深い.再現性として決して良いとは言えないが,専門医が迷うような難しい症例が取り上げられていたことも影響しているであろう.さらに,大腸の拡大観察が計画的分割切除や,EMR 後の微小局所遺残病変診断に応用され,その有用性を発揮している事実も述べられた.また,NBI を用いた pit pattern 診断・微小血管構築診断や,病理組織レベルに迫る超拡大内視鏡など拡大観察の新しい方法の有用性や将来展望についても論じられ,本号を読めば大腸腫瘍の拡大内視鏡診断の up date が十二分に理解できるようになっている.

基本情報

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胃と腸
41巻13号 (2006年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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