胃と腸 41巻12号 (2006年11月)

今月の主題 小腸疾患診療の新たな展開

序説

小腸疾患診療の新たな展開 飯田 三雄
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 従来,小腸疾患の診断はX線造影検査が中心であり,内視鏡検査の開発・普及は立ち遅れてきた.しかし,2000年にGiven Imaging社が開発したワイヤレスカプセル内視鏡の登場に続き,2001年には山本らによりダブルバルーン法が考案され,小腸内視鏡検査は大きな進歩を遂げた.これらの新しい内視鏡検査法の確立・普及とともに,臨床現場では小腸疾患の診療面で新たな展開を迎えている.すなわち,これまでのX線造影検査中心の診断体系から内視鏡検査を加えた新たな診断体系の確立を迫られるとともに,ダブルバルーン内視鏡を用いた新たな治療体系の構築も必要となってきた.本誌では,40巻11号で「小腸内視鏡検査法の進歩」という特集が組まれ,カプセル内視鏡とダブルバルーン内視鏡の手技と適応が紹介されている.その後1年を経て企画された本特集では,各種小腸疾患診療における新しい局面について,主として内視鏡検査の役割という観点から論じていただく予定である.

 出血は小腸疾患の最も重要な症候である.Fig. 1に筆者らの施設における現時点での小腸出血の診断手順を示す.大量出血を来した患者の診察にあたっては,バイタルサインや意識レベルの把握から出血性ショックの有無を確認後,輸液・輸血ルートの確保を行ったうえで,血管造影またはダブルバルーン内視鏡が施行される.一方,少量・中等量出血の場合,上部消化管内視鏡検査および大腸内視鏡検査をまず行い,小腸以外の消化管からの出血を完全に否定したうえでダブルバルーン内視鏡,カプセル内視鏡,小腸造影または腹部超音波検査のいずれかを施行する.すなわち,症状・一般検査から急性炎症性疾患が疑われれば腹部超音波検査または小腸造影が,慢性炎症性疾患または腫瘍性疾患が疑われれば小腸造影またはダブルバルーン内視鏡がそれぞれ第一選択となる.少量・中等量の出血があっても症状・一般検査所見に乏しい症例ではカプセル内視鏡が他検査に優先される.なお,明らかな顕出血は認めなくても,腹痛・下痢などの症状や潜出血がある場合は小腸造影またはダブルバルーン内視鏡が行われる.このように,ダブルバルーン内視鏡とカプセル内視鏡の登場によって小腸出血性疾患に対するアプローチの方法も従来とは大きく異なってきた感がある.本号で両内視鏡検査法の役割が明確になることを期待したい.

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要旨 カプセル内視鏡とダブルバルーン内視鏡の小腸出血性疾患の診断における現状と課題について概説した.小腸出血性疾患の診断に両者は非常に有用である.事前のカプセル内視鏡検査の有無によって,ダブルバルーン内視鏡の診断率に有意な差を認めないことから,両者を常に組み合わせて行う必要はないかもしれない.カプセル内視鏡単独での所見陰性とするには疑問があり,ダブルバルーン内視鏡による検査を追加し,現状における “真の陰性” を評価する必要がある.原因不明の消化管出血を認めながら小腸に病変を発見できない症例も経験され,これら症例の詳細を明るみにすることが今後の課題である.

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要旨 小腸腫瘍はまれではあるが,腸重積,イレウス,出血の原因となりうるため臨床上重要である.小腸悪性腫瘍では小腸癌と悪性リンパ腫が多く,癌は上部空腸またはBauhin弁近傍の回腸に好発し,悪性リンパ腫は回腸に多い.一方,良性腫瘍ではGIST,脂肪腫,血管腫の順で頻度が高いが,GISTは空腸に多く脂肪腫と血管腫は回腸に多い.いずれも特異的な臨床症状はなく腹部超音波検査,小腸透視検査,CT検査などのスクリーニング検査での検出率は50%前後であるため,疑った場合には小腸内視鏡検査の適応となる.また,小腸腫瘍性疾患に対する内視鏡治療には,出血例に対する止血術と,病変の摘除術が挙げられる.

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要旨 従来,小腸造影検査が大きな役割を担ってきた小腸の検査方法として,VCE(video capsule endosopy)とDBE(double balloon endosocpy)という新しい検査方法が登場し,小腸疾患に対する診療体系は大きく変わろうとしている.特にDBEは小腸全域において詳細な内視鏡観察が可能であるだけでなく,生検や内視鏡的治療まで可能であり,胃や大腸において行われてきた診断・治療が,小腸においても可能になった.本稿では,DBEを用いた小腸非腫瘍性疾患に対する診断・治療について,比較的頻度の高い疾患を中心に多数の画像を示しながら解説する.

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要旨 非特異性多発性小腸潰瘍症(CNSU)とNSAIDs起因性小腸潰瘍症(NSAIDs腸症)各6例の臨床像と小腸内視鏡所見を比較した.CNSUは診断時年齢が低く女性が多い傾向にあったが有意差はなかった.易疲労と腹痛,貧血,低蛋白血症,軽微な炎症所見が両群に共通した臨床像で,ヘモグロビン値は鉄剤を投与されていたCNSUで高かった.単発ないし多発性の全周性狭窄をCNSUの6例(100%)とNSAIDs腸症の3例(50%)に認め,狭窄部の開放性潰瘍は前者の5例と後者の1例にみられた.一方,辺縁明瞭な浅い非狭窄性輪状潰瘍はCNSUの3例(50%)とNSAIDs腸症の4例(67%)にみられ,前者全例と後者の1例では開放性であった.NSAIDs腸症2例に小潰瘍を,CNSUの3例に縦走・斜走潰瘍を認めた.以上より,CNSUとNSAIDs腸症の臨床像は類似するが,腸病変の内視鏡像は異なり前者は慢性開放性潰瘍を,後者は治癒傾向の強い潰瘍を特徴とすると考えた.

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要旨 Crohn病症例のうち同時期にダブルバルーン小腸内視鏡検査(DBE)と小腸X線造影検査を施行された4症例について画像比較を中心に比較検討した.また出血例1例と狭窄2例,さらに狭窄と出血の合併例についても検討した.その結果典型例,微細病変のいずれもDBEは小腸X線造影検査に比し有用あるいは同等であった.瘻孔,癒着症例ではDBE挿入は困難で危険を伴うと考えられた.また小腸狭窄例ではDBEを用いた内視鏡的バルーン拡張が有効であり,出血症例の出血源検索および内視鏡的治療にもDBEは有用であった.

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要旨 今回,小腸型Crohn病4例にカプセル内視鏡を行い,その有用性,全小腸観察能,滞留率を検討した.さらに,小腸型・小腸大腸型Crohn病28例にダブルバルーン内視鏡を施行し,診断・治療における有用性を検討した.カプセル内視鏡施行全例でCrohn病を示唆する病変が認められたが,肓腸到達率,小腸内滞留率は25%であった.ダブルバルーン内視鏡では96%に小腸病変が詳細に観察できた.小腸狭窄を呈した11例に単回および複数回のダブルバルーン内視鏡下バルーン拡張術を施行し,現在まで8例(73%)で手術が回避されている.今後,ダブルバルーン内視鏡下バルーン拡張術は小腸狭窄に対して外科手術前に考慮すべき治療法になりうると考えられる.

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要旨 MSCT(multislice CT)の高速化・高分解能は短時間に体幹を0.6mm×0.6mm×0.5mmのisotropic voxcel dataとして撮像可能にする.その結果,消化管領域全体を詳細に観察することが可能になった.小腸脂肪腫による腸重積・Meckel憩室症・小腸癌・Crohn病・小腸結核のCT enterographyと小腸X線検査・小腸ダブルバルーン内視鏡などの臨床所見をあわせて呈示し,小腸病変に対して任意多断面再構成(MPR ; multiplanar reconstruction)や曲面任意多断面再構成(CMPR ; curved multiplanar reconstruction)を用いることによって,粘膜の微細な所見の評価困難であるものの,ある程度の消化管病変は小腸X線診断に準じて評価可能である.

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要旨 消化管病変を有した里吉症候群の2例を経験した.第1例目は36歳女性.高度の下痢,腹痛,吐気を主訴に紹介.受診時,全身の完全脱毛,無月経を認めた.入院時検査所見で吸収不良症候群を認めた.消化管検査で,胃は胃体部を中心にスキルス様の伸展不良所見と多発する粘膜下隆起を認めた.十二指腸から小腸はKerckringひだが消失し,びまん性に粘膜粗ぞうで,多発する大小不同の微細顆粒や結節状隆起を認めた.生検組織学的には確定診断できなかった.中心静脈栄養や副腎皮質ステロイド投与を行ったが,約2年後,小腸,大腸は紐状に狭小化し,敗血症を合併,死亡した.剖検病理組織所見では食道を除く全消化管にgastroenterocolitis cystica polyposaを認め,里吉症候群と確定診断した.筋痙攣は手指,背筋に軽度のみであった.第2例目は39歳女性,高度の下痢と吸収不良症候群の精査目的で紹介.16歳より全身の不完全脱毛,無月経が出現し,時に両下肢,手指の筋痙攣を認めた.消化管X線検査では十二指腸から小腸はKerckringひだが消失し,類円形から多角形の密在する輪郭明瞭な顆粒ないし結節から形成された粘膜病変を認め,あたかも軽石状の外観(pumiceous appearance)を呈した.内視鏡検査では,粘膜面はまだら発赤調で,散布性白斑を伴う微細顆粒状の粘膜変化を認めたが,生検組織学的には診断に特異所見はなかった.里吉症候群を強く疑い,dantrolene sodiumを投与したところ,吸収不良症候群は改善した.2例とも筋痙攣は極めて軽度であり,下痢症状に基づく吸収不良症候群が主体で,十二指腸から小腸の軽石状の外観(pumiceous appearance)を呈するX線像が特徴的であった.

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要旨 症例は57歳,男性.下血を主訴に当院を受診した.上下部消化管内視鏡にて出血源を同定できなかったために,ダブルバルーン内視鏡を施行した.経口的挿入にて空腸下部に3/4周性の周堤を有する潰瘍性病変を認めた.観察可能な範囲では空腸に限局する病変であった.生検にてT細胞性リンパ腫と確定診断した.CT,ガリウムシンチグラフィー等にて他臓器病変を認めず,限局性の病変であることから腹腔鏡補助下空腸部分切除術を施行した.切除検体の病型は細胞傷害性T細胞性リンパ腫の範疇に帰属する悪性リンパ腫であり,深達度はse,腸間膜リンパ節にはリンパ腫細胞の浸潤巣は認めなかった.術後,CHOP療法を7コース施行し,無再発生存中である.

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要旨 患者は44歳,女性.近医にて鉄欠乏性貧血,便潜血反応陽性を指摘され,上部消化管内視鏡検査,大腸内視鏡検査を施行されたが,特記すべき異常を認めず,小腸精査目的にて当院を紹介受診した.当院で施行した体外式超音波検査にて小腸に低エコー腫瘤を,小腸造影にて空腸に全周性の潰瘍性病変を,腹部造影CTにて小腸壁肥厚を認め空腸癌が疑われた.ダブルバルーン内視鏡検査にて空腸に不整な潰瘍性病変を認め生検にて空腸癌と最終診断した.

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要旨 患者は70歳代,女性.検診で施行した腹部超音波検査で小腸内に大きさ20mm大の低エコー腫瘤を指摘され,精査目的にて入院した.小腸X線造影所見でも回腸に単発する約20mm大の有茎性の隆起病変を認め,表面は微細顆粒状を呈していた.ダブルバルーン小腸内視鏡の経肛門的アプローチにて近位側回腸の病変に到達することが可能であった.病変は表面発赤調で細顆粒状を呈する大きさ20mm大の有茎性隆起病変であり,高周波スネアにて切除回収しえた. 病理組織学的には過誤腫性ポリープを基盤として,表層部で腺管の過形成を来したポリープと診断された.

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 昨今,molecular biology(MB)全盛である.MBでなければ科学的でないという雰囲気と,MBであれば安心という雰囲気が同居していて楽観的ムードであるが,MBで治療が無効である,ということも明らかになる点については誰も黙して語らない.まあ,そのときはそのときに考え対処するしかないのであろうが….

 さて,消化器のMBの中で最も進んでいるのは,大腸癌についてであり,癌に関するMBの先鞭をつけたと言っても過言ではない,ということを知っている人は意外と少ないのではあるまいか.私はその歴史の中で重要な役を演じた人々と直接接触する機会があったのでここで紹介しておきたい.

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 本年7月21日(金)新高輪プリンスホテルで開催された「2006年7月度早期胃癌研究会」に提示された〔第1例〕「憩室症と壁在膿瘍に伴う多発炎症性ポリープ」についての討論で感じたことを書き記すことにしたい.

 先陣を切ってあの症例の所見を読影した先生には注文するところはない.筆者自身,指名されて読影していた随分と昔のことを思い起こしても,系統的な論述をする余裕はほとんどなかったといってもいい.しかし,補足的な解説を担当する運営委員の諸兄にはやはり注文をつけたくなる.

早期胃癌研究会

2006年7月の例会から 松井 敏幸 , 浜田 勉
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 2006年7月の早期胃癌研究会は,7月21日(金)に新高輪プリンスホテルで開催された.司会は松井敏幸(福岡大学筑紫病院消化器科)と浜田勉(社会保険中央総合病院内科)が担当した.mini lectureは今回より新シリーズ「画像診断教育レクチャー」に刷新され,浜田勉が「胃 : 上皮性腫瘍を考えるべき粘膜下腫瘍様病変の形態」と題して講演した.

 〔第1例〕 50歳代,男性.憩室症と壁在膿瘍に伴う多発炎症性ポリープ(症例提供 : 大阪鉄道病院外科 麦谷達郎).

2006年9月の例会から 斉藤 裕輔 , 細川 治
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 2006年9月の早期胃癌研究会は9月20日(水)に東商ホールで開催された.司会は斉藤裕輔(市立旭川病院消化器センター)と細川治(福井県立病院外科)が担当した.また第12回白壁賞と第31回村上記念「胃と腸」賞の授賞式がとり行われた.

 〔第1例〕 70歳代,女性.大きさ10mmの粘膜下腫瘍様の形態を呈した進行大腸癌症例(症例提供 : 札幌厚生病院胃腸科 黒川 聖).

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欧文目次

編集後記 斉藤 裕輔
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 本号は「小腸疾患診療の新たな展開」と題して特集した.これまでのカプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡の適応や技術的側面に比重を置いた特集から一歩進んで,今後の小腸疾患概念を再構築するうえでの両内視鏡検査を中心に小腸病変に対する各種検査法の役割,使い分けについて,三井,眞部,矢野論文で多くの症例を呈示しながら解説された.長坂,大宮論文では Crohn 病の診断治療における小腸内視鏡の役割と有用性が述べられた.また,新しい検査法である CT enterography の有用性についても岩田論文で述べられた.さらに松本論文では異同が議論されていた非特異性多発性小腸潰瘍症と NSAIDs 潰瘍について小腸内視鏡を用いた詳細な検討がなされ,画像的に異なった疾患であることが報告された.本特集号において,大変多くの小腸疾患の内視鏡像が提示されたほか,さらに今後,急速に進むことが予測される小腸疾患概念の再構築,整理という臨床研究の分野において,内視鏡検査が必要不可欠であることが再確認された.近い将来,小腸疾患の再構築による疾患概念の完成のほか,「主題研究」の長浜論文で詳細に述べられた里吉病のような,全く新しい小腸疾患が発見されることも期待する.

基本情報

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胃と腸
41巻12号 (2006年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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