胃と腸 42巻1号 (2007年1月)

今月の主題 胃分化型SM1癌の診断―垂直浸潤500μm

序説

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 胃癌治療ガイドライン(第2版)1)によるEMR(endoscopic mucosal resection)の適応はM癌では(1)分化型癌UL(-),(2)分化型癌UL(+),3cm以下,とされている.そして,EMR後の切除標本の病理検索で水平断端(-)でも(1)pSM1(SM垂直浸潤距離500μm以下)で脈管侵襲(-)であれば経過観察,(2)pSM浸潤が500μmを超える場合はリンパ節郭清を伴う胃切除が必要,とされている.したがって内視鏡治療の現場では,切除技術のほかに,pMおよびpSM1癌とpSM2癌(垂直浸潤距離が500μmを超えるもの)を術前に鑑別してESD(endoscopic submucosal dissection)の適応を決め,術後の病理診断によって患者さんのその後の治療方針を決定することになる.

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 外科的切除されたSM癌を対象に,組織型間の悪性度の違いを,脈管侵襲・リンパ節転移の点から検討した.その結果,乳頭腺癌はほかの組織型と比較して脈管侵襲陽性率やリンパ節転移陽性率が高く,悪性度が高い組織型であることがわかった.高分化型腺癌に観察される乳頭腺癌成分に注目すると,乳頭腺癌成分が多いものほど脈管侵襲陽性率やリンパ節転移率が高く,乳頭腺癌成分が優勢か否かのみならず,乳頭腺癌成分が含まれるものは含まれないものよりも悪性度が高いことがわかった.そのほか,SM浸潤における組織型の変化を検討したが,高分化型から低分化型に移行するSM腺癌の多くは,粘膜内で移行を示すことがわかった.診断目的の生検にて乳頭腺癌成分が採取された場合は,内視鏡的切除の適応について慎重な対応が必要である.

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 胃分化型SM癌を,癌研Broders分類を用い,分化型純型(高分化,中分化:癌研Broders分類2a,2b),分化型混合型(高,中分化優位,低分化型成分あり:癌研Broders分類2a,2b>3,4)に亜分類し,リンパ節転移について検討した.胃分化型SM癌は556例あり,分化型SM癌でのリンパ節転移率はそれぞれSM1:3.8%,SM2:12% であった.SM1に関しては分化純型0%,分化型混合型4/34(12%)と,転移例はすべて分化型混合型であった.4例中3例はUl(+)例であった.脈管侵襲は全例にみられた.SM浸潤部の組織型はBroders分類の2a(高分化型),2b(中分化型)であり,粘膜内に低分化成分(3,4)がみられる症例が4/4(100%)例あった.粘液形質では2/4(50%)が腸型,2/4(50%)が胃型であった.これに対し,SM2以深の分化型純型,分化型混合型のリンパ節転移例での粘液形質はそれぞれ,分化型純型で胃型28%,腸型32%,分化型混合型で胃型52%,腸型7% と分化型混合型においては胃型形質の発現を半数に認めた.胃分化型SM1癌の転移例の特徴としては全例脈管侵襲陽性であること,必ずしも深部浸潤部の組織型が低分化ではないことと,瘢痕を伴う病変であった.

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 目的:分化型SM胃癌の垂直距離からみたX線的な描出能や組織学的な特徴を明らかにする.対象と方法:ひだ集中のない陥凹型pSM癌70病変を対象とし,X線・組織所見を対比検討した.結果:(1)pSM1癌とpSM2癌の臨床病理学的な差異:pSM1癌に比べpSM2癌は,中分化型主体,0IIc+IIa型を呈し,リンパ管侵襲率が有意に高かった.(2)SM垂直距離からみた5つの撮影手技単独のX線的描出感度:いずれの撮影手技も描出(+)群はほとんどが500μm以上のpSM2癌であった.描出(-)群は垂直距離にばらつきが認められ,撮影手技単独による描出の限界が示唆された.(3)SM垂直距離別にみた総合的なX線的描出感度:5つの撮影手技を駆使した場合,1,000μm以上あれば描出感度は90%と良好であった.しかし,500μm未満ではほとんど描出不能で,500~999μmは50%と不良であった.(4)SM垂直距離別にみたSM癌巣の組織学的な特徴:500μm未満は,Mとの厚さの比:M>SM,SM水平距離:5mm未満,Mとの幅の比:M>>SM,SM発育分布形式:点状,線維形成反応:なし~軽度,粘膜筋板の状態:保持~部分断裂がほとんどを占め,SM癌巣の厚さ・硬さに関連する組織因子に乏しく,1,000μm以上と深いほど著明であったことが,描出感度の差の要因と思われた.結論:SM癌巣の組織学的な特徴の違いから,X線的に良好な描出が得られる垂直距離は1,000μm 以上で,今後は500~999μmに対する診断能向上が必要である.

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 病理組織学的にSM癌と診断された,ひだ集中のない分化型陥凹型早期胃癌294例を対象とし,内視鏡画像の見直し診断により,SM1,SM2癌の内視鏡所見の違いを検討した.SM浸潤部の最大径の平均値は,SM2:10.4mm,SM1:2.6mmとSM1癌では小さな範囲での浸潤であった.SM2癌は,腫瘍径20mm以上の病変,肉眼型では表面複合型,陥凹面の色調では発赤の強い病変,陥凹内結節の有無では結節の存在する病変においてSM1癌に比し多くなっていた.SM2癌は,SM1癌と異なる内視鏡所見を有しており,上記所見はSM2癌を示唆する内視鏡的指標になりえると考えられた.

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 目的:ひだ集中を有するSM1癌が従来のX線診断指標を用いて診断可能であるか明らかにすることを目的とした.対象:ひだ集中を有する陥凹型胃癌(分化型癌主体)31病変を対象とした.また,ひだ集中を有するM癌45病変,SM2癌29病変を対照とした.方法:(1)ひだ集中を有する陥凹型M癌とSM1癌の術前深達度診断能を検討した.(2)ひだ集中を有する陥凹型早期胃癌に対して,X線的なSM深部浸潤所見ありと判定した頻度(有所見率)と,捉えた所見が病理組織学的に癌の浸潤と因果関係ありと判定された頻度(所見的中率)を求め,各深達度別に比較検討した.成績:(1)pMでcM,SM1は40/45病変(89%),pSM1でcM,SM1は20/31(65%)であった.pM,pSM1癌ともにUl-III,IV合併例を深読み誤診していた.(2)対象としたSM1癌はM癌と比較して高度Ul合併例が多く有所見率の頻度が高かったが統計学的な差はなかった(22.6% vs 8.9%:p=ns).所見的中率もSM1癌0%,M癌0%であり病理組織学的な裏付けで捉えられた所見に差はなかった.SM2癌の所見的中率は84%(21/25病変)でありSM1癌,M癌と比較して有意に高かった(p<0.01).まとめ:従来のSM深部浸潤の診断指標でひだ集中を有するSM1癌の浸潤所見を捉えることは困難であった.Ul(+)SM2癌においてはSM中層浸潤例(垂直浸潤距離500~800μm),高度Ul合併例の診断能の向上が必要であった.

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 集中皺襞を伴うSM1癌(粘膜筋板下端から垂直浸潤500μm未満)とSM2癌(垂直浸潤500μm以上)とを比較すると,先太りならびに癒合所見はSM2癌に有意に多く,これらの所見が癌のsm浸潤(癒合はM癌では認められないことを以前報告済み1)),特にsm深層への浸潤に伴って出現する所見であることが示唆される.また,SM1癌とSM2癌の肉眼所見を比較すると,SM2癌において病変部の厚みが目立ち,この所見は送気量を減らしたときに特に強調される.これは病理組織学的には,癌が500μmを超えてsm深層に浸潤すると,浸潤する腫瘍量や反応性に出現する線維組織量が増えるためと考えられ,病変部におけるsm層の厚みが2,000μmを超える早期胃癌の約75%がSM2癌であった.したがって,超音波内視鏡(EUS)により病変部sm層の厚みを計測することで,間接的に癌のsm浸潤深度の鑑別が可能となると考えられる.

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 分化型SM癌の深達所見を9症例で検討した.SM浸潤500μm前後の鑑別は症例数が少なく検討不可能であった.SM浸潤1,000μm前後の鑑別は病変の厚みの評価が必要と思われた.そのためには従来から言われてきたSM中等度以深の深達度診断に加えて病変内の収縮・伸展で生じるわずかな凹凸変化にも注意を払う必要がある.今後は癌の SM 浸潤を定量的に扱いながら検討を行う必要があるため,SM層の情報を積極的に収集するよう配慮された検査所見の蓄積および検討が必要である.

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 分化型SM胃癌84例(SM1癌25例,SM2癌59例)に対する超音波内視鏡検査による診断能をみた.正診率は全体で77.4%,SM1癌で56.0%,SM2癌で86.4%であった.UL(-)病変48例の正診率は72.9%,SM1癌で50.0%,SM2癌で80.6%であった.UL(-)病変でのEUSにおける第3層の変化を不整型,欠損型,混合型に分類したところ,SMと正診できたSM1癌はすべて不整型であった.不整型は欠損型,混合型に比較して粘膜下層内での深達距離が浅く,混合型に比較して粘膜下層内での病変の拡がりが狭かった.粘膜筋板下端より750μm浸潤していればSM病変と診断可能であった.

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 超音波内視鏡は,それまでの粘膜表面からの深達度診断から,断層像による深達度診断をもたらした.一方,胃癌の内視鏡治療に関しては,近年のITナイフ,Hookナイフ,Flexナイフなどの機器の開発と粘膜切除の適応拡大という機運と相まって,粘膜下層剥離術(ESD)が急速に臨床の場で広まっている.この適応決定において粘膜下層への500μmの浸潤の診断は,臨床上重要な問題である.これに対して連続断層面が自動的に撮影可能な三次元超音波内視鏡3D-EUSによる胃癌深達度診断成績は,潰瘍非合併群において,SM浸潤500μm以下群では56.7%(17/30),500~1,000μm群は77.8%(21/27),1,000~2,000μm群は86.7%(26/30),2,000<μm群は91.4%(32/35)で,全体では 78.7%(96/122)と500μmを超えると80%前後以上の成績であり,臨床上の要求をある程度満足できており,内視鏡治療術前の検査として施行されるべきと考えられた.しかしながら,潰瘍,あるいは潰瘍線維化合併例においては,線維化内への微小浸潤の診断は困難であり,今後の新しい診断技術の開発を待たざるを得ないのが現状である.

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 分化型早期胃癌の拡大内視鏡像を術後深達度診断別に解析し,SM1癌の特徴について検討した.術後病理診断が得られた陥凹型病変60例を対象とした.微細表面構造では,SM癌で有意に無構造領域の出現を認め,M癌とSM1癌の比較でも有意差を認めた(p<0.05).また,微細血管構造については分化型癌に特徴的な微細網目状血管(fine network pattern)と孤立性血管(solitary pattern)の混在がSM癌では多かった.SM1癌の無構造領域を詳細に検討すると,融合状の腺管構造と伸展したあるいは樹枝状血管が認められ,拡大内視鏡によるSM1癌診断の指標となると思われた.また,本検討においてはSM1とSM2癌では微細表面構造と微細血管構造に違いを認めなかった.

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 SM浸潤が粘膜筋板下端から500μm未満のSM1分化型胃癌には内視鏡治療の適応拡大が試みられており,SM1分化型胃癌の術前深達度診断能の向上が期待されている.目的:狭帯域フィルター併用拡大内視鏡(narrow band imaging system with magnifying endoscopy;NBI-ME)からみた胃分化型SM1癌の特徴を検討しNBI-MEの深達度診断に対する有用性を検証する.対象:早期胃癌94症例98病変.方法:腺管構造を反映し,分化度と関連していることが証明された "腺管模様" の密度の変化(density change)と破壊像(destructive sign)の有所見率を腫瘍の辺縁と中心部,もしくは粘膜内病変部とSM浸潤部でretrospectiveに比較検討した.結果:density changeはM癌の95%で認められなかった.SM1癌,SM2(500μm以深)癌のそれぞれ86%,67%で認められ,そのうちの67%,75%で密度の低下が観察された.一方,destructive signはM癌では10%,SM1癌では29%に認められるのみであったが,SM2癌では92%に認められた.結語:腺管模様の密度の変化が認められるが破壊されるような強い構造変化がない部分で SM 微小浸潤の可能性があることが示唆された.限られた症例での検討ではあるが,NBI-MEは胃分化型SM1癌の診断に有用な可能性があると考えられた.

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 イギリスでは日本でいうナースはシスター(sister)と呼ばれ,ナースは日本の準看護師に相当する.総婦長はメイトロン(matron)と呼ばれ病院の管理者の一員であった.ちなみにSt. Mark's Hospital(SMH)には院長の職は存在せず,複数の医師,事務長,メイトロン,地域代表(中高年の婦人)からなる人々が病院の管理運営を担当していた.

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欧文目次

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 癌研究会附属病院の大橋計彦らが,十二指腸乳頭の特異な所見を伴った粘液産生膵腫瘍を,世界に先駆けて報告してからはや四半世紀が経過した.この間,数多くの報告がわが国および諸外国からなされ,この疾患が膵臓病の中で重要な位置を占めるようになった.なぜ重要なのかと言うと,発生頻度はそれほど高くはないが,経過とともに癌化する傾向が強いからである.

 わが国の高齢者の剖検膵では,半数以上に微小なものも含めて嚢胞性病変が認められる.このような状況の中で,嚢胞性疾患の鑑別診断が治療上重要になってきた.世界保健機関(WHO)が,粘液を産生する嚢胞性膵腫瘍を膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と粘液性嚢胞腫瘍(MCN)の2群に分類したのが10年前であった.それ以後,本疾患に対する理解が急速に深まった.

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 この度,第一東和会病院院長,滋賀医科大学臨床教授,藤村昌樹博士が『胆道外科におけるCチューブ法ハンドブック』を刊行されました.藤村昌樹先生は,30年来の胆道外科のエキスパートであり,また本邦において内視鏡外科手術が日常の臨床に登場してからは,それまでの経験を生かして,内視鏡外科手術を推進され,多大の成果を学会で報告されてきました.私も胆道鏡を開発して,Tチューブ瘻孔を介しての遺残結石や肝内結石の治療に情熱を傾けた一時代を経験した関係上,藤村昌樹先生がこのようなご著書を刊行されたことはご同慶にたえません.

 今や,総胆管結石の手術も施設によっては100%内視鏡下に行われるようになって,総胆管結石に対する治療戦略は一変しました.しかし小さな創から内視鏡を挿入して拡大した視野の下に精密な手術を行うことができ,かつ低侵襲である内視鏡外科手術の利点を生かすなかで,これまでに培われた総胆管結石の治療に関する基礎的理論は変わるものではありません.今回本著を拝読して思ったことは,Cチューブの応用に関しても著者の胆道外科医としての基本的な根拠に基づく考え方がそこここに窺われ,高く評価できる名著であると考えます.

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 膵癌は難治癌の代表格であり,しかも手術でしか根治を期待できなかった癌の1つである.外科医が多年にわたり,手術法の改良に努めてきたために,膵癌切除術は安全な手術になったが,切除後の生存曲線は芳しくない.化学療法としてgemcitabineが登場して以来,膵癌に対して化学・放射線照射療法の有効であったとする報告が増えつつあるが,長期生存の向上に関してはさらなる新薬の開発が待たれるところである.現状では膵癌の長期生存者を増やすためには,早期診断で小膵癌を見つけて,早期に切除手術するのが本道である.いかにして小膵癌を見つけるか,これが膵癌臨床医の長年の課題である.

 このたび九州大学臨床・腫瘍外科の田中雅夫教授と山口幸二助教授が出版された本アトラスには,様々な経過で見つけられた小膵癌患者の興味深い症例の記録が集積されている.

編集後記 浜田 勉
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 内視鏡治療が盛んな現在の状況でのSM1癌の診断を取り扱おうとして企画され,病理学的側面と診断的側面の2つの視点から考える必要が示された.

 まず,分化型の中で,伊東は乳頭腺癌成分を含むものに,藤崎は粘膜内に混合する組織型を示すものに悪性度が高く内視鏡治療の適応を慎重にすべきと一歩踏み込んだ病理学的分析結果を示したが,SM1判定には粘膜や粘膜下層の全層観察がやはり不可欠で生検だけでは困難な面があると思われる.また,垂直距離500μmの詳細な病理所見を論じるうえで,過去の外科的切除標本は5mm間隔で,一方,EMRやESDで切除された標本は通常2mm間隔で切り出されており,この切り出し幅の差は結果に影響しないのだろうか.さらに,全層を固めた切除標本と局注して一部疎な組織が認められるEMRやESD標本における500μmを同列に扱ってよいのかも問いたい点である.

基本情報

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胃と腸
42巻1号 (2007年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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