胃と腸 40巻11号 (2005年10月)

今月の主題 小腸内視鏡検査法の進歩

序説

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はじめに

 2000年に GIVEN Imaging 社のワイヤレスカプセル内視鏡(wireless capsule endoscopy ; 以後 CE)が発表されて以来1),CE はまたたく間に全世界で使用され数多くの論文が発表されている.しかし,本邦ではいまだ薬事法すら通らず,試用の域を出ていない2)

 ダブルバルーン小腸内視鏡(double balloon endoscopy ; 以後 DBE)は山本博徳らが発明(フジノン東芝),CE のわずか1年後にその論文が発表された3).当初,本邦ではあまり注目されなかったが,欧米での学会発表,ライブなどによって脚光を浴び,本年のみで15編の英文論文が発表されている.

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要旨 1970年前後に開発された小腸ファイバースコープによる小腸内視鏡検査の歴史を概説した.小腸は解剖学的に口からも肛門からも遠く,複雑なループを形成した長い臓器であるので,内視鏡検査が不利な臓器である.開発当初はプッシュ式,ロープウエイ式,ゾンデ式の3方式として独自に進歩を競い,それなりの成果を得ることができた.この間の先人たちのエネルギーには目を見張らされたが,ある所で越えられない壁にぶつかり,その後の進歩は遅々としたものであり,広く臨床に普及するものではなかった.カプセル内視鏡,ダブルバルーン法がこの壁を撃ち破ることができるのか,興味が持たれる.併せて盲目的生検を中心とした小腸生検法の歴史についても述べた.

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要旨 2003年11月に市販開始となったダブルバルーン内視鏡は,高い全小腸内視鏡観察率を達成し,従来の内視鏡で施行可能な内視鏡治療の多くを小腸においても施行可能にした.自治医科大学消化器内科では2000年9月から2005年4月までの間に小腸疾患の診断・治療目的に217人の患者に対し354件のダブルバルーン内視鏡検査を施行した.ダブルバルーン内視鏡の小腸への挿入性に関しては,全小腸の観察を意図した65例における全小腸観察は50例(77%)で可能であり,開腹手術の既往のない症例に限ると37例中34例(92%)で可能であった.ダブルバルーン内視鏡の大きな特徴は,病変の観察後引き続いて内視鏡治療が可能な点である.実際われわれは,ダブルバルーン内視鏡を用いて焼灼術,クリッピングなどの止血術,ポリペクトミー,粘膜切除術,内視鏡的拡張術,ステント留置など様々な内視鏡治療を行ってきた.ダブルバルーン内視鏡は小腸疾患の診断・治療において重要な役割を果してゆくことが期待される.

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要旨 全小腸を容易に観察できるカプセル型の内視鏡(capsule endoscopy ; CE)が開発され,ヨーロッパ,アメリカでは2001年から使用されている.CE の第一の適応は,原因不明消化管出血である.その他の適応として,Crohn 病,NSAIDs の副作用の評価,遺伝性ポリポーシスのサーベイランスなどがある.CE には全く苦痛なく小腸の内視鏡検査が行えるという利点があり,小腸疾患のスクリーニングに最適である.一方で,CE の所見のみでは確定診断に至らないことも多く,CE による診断学の発展が望まれる.

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要旨 ダブルバルーン小腸内視鏡検査(DBE)による炎症性小腸疾患の診断能を X 線検査との対比で評価した.対象疾患は,Crohn 病26例,腸結核7例,NSAIDs 腸炎8例と非特異性多発性小腸潰瘍症3例である.狭窄が多い Crohn 病と非特異性多発性小腸潰瘍症では,DBE 挿入が困難なため観察が不十分であった.一方,腸結核と NSAIDs 腸炎では微細な病変が主体であり,DBE の深部挿入が可能なため内視鏡による病変の観察が X 線より優れていた.以上から,狭窄や深い潰瘍が生じる Crohn 病などの疾患における DBE には限界があり,X 線検査を組み合わせた慎重な検査姿勢が望まれる.

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要旨 ゾンデ法小腸 X 線検査とダブルバルーン小腸内視鏡検査(DBE)を施行した38例の X 線・内視鏡所見を比較した.非限局性小腸疾患(炎症性・びまん性小腸疾患,消化管ポリポーシス)30例中1例では DBE が十二指腸までしか挿入できなかった.他の29例では X 線の異常皺襞像(皺襞腫大,皺襞消失)10病変の50%,粘膜所見(潰瘍,多発結節,多発顆粒)13病変の92%,変形7病変の100% が DBE で異常所見として観察された.また,29例中9例(31%)で X 線正常部に DBE で微細所見が認められた.限局性小腸病変(小腸腫瘍,小腸・小腸吻合部)8例のうち,DBE 挿入不能例,X 線非描出例,X 線・内視鏡非描出例が各1例存在した.他の5例では DBE で皺襞集中所見が,X 線で狭窄部の性状や小腸索との関係が明瞭であった.以上より,DBE は小腸疾患の診断に有用であるが,特に非限局性小腸病変では X 線検査との併用が必要と考えられた.

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要旨 ダブルバルーン内視鏡とカプセル内視鏡の特徴を概説した.両者の検査原理の相違から,カプセル内視鏡はスクリーニングにその適応を発揮し,ダブルバルーン内視鏡は精査・治療に幅広く適応とされる.内視鏡所見と臨床診断の一致に向けての信頼性向上と,狭窄が疑われる症例への対応がカプセル内視鏡の課題であり,腸管の高度癒着症例への対応がダブルバルーン内視鏡の課題である.カプセル内視鏡診断学に,ダブルバルーン内視鏡は大きく貢献するものと思われる.また,機器や処置具の改良に伴い小腸内視鏡診療が,さらに発展することが期待される.

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要旨 ダブルバルーン小腸内視鏡(double-balloon enteroscopy ; DBE)検査の有用性について,スクリーニング検査として従来より施行されている体外式超音波検査法および小腸造影による診断能の差異について述べた.小腸疾患が疑われ DBE を施行した99症例のうち59症例(60%)に病変を認めた.病変の内訳としては,びらん・潰瘍性病変が全体の51.6% と半数を占めていた.事前のスクリーニング検査では45.1% が描出されておらず,その多くはびらん・小潰瘍性病変などの微小病変であった.これらの微小病変におけるスクリーニング検査の描出率は不良で,DBE 検査は微小な粘膜病変の診断において特に有用な検査法である.

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要旨 以前は内視鏡観察が困難であった深部小腸が近年のダブルバルーン内視鏡,カプセル内視鏡の開発により観察可能になった.また,光の反射光をイメージングする光学的干渉断層法(optical coherence tomography ; OCT)という新しい診断手法が現在開発中である.OCT は10~20μm の優れた空間分解能を有するため,従来の超音波,CT,MRI で描出不可能であった表層部の微細構造が観察可能である.今回は予備的研究として正常小腸壁の OCT 画像と組織学的層構造との対比を小腸の手術摘出標本にピン打ちを行い検討した.また,各種小腸病変における OCT 画像を提示し,問題点と今後の課題を検討する.

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要旨 症例は77歳,男性.繰り返すタール便と貧血を主訴に当科紹介入院となった.前医における上部・下部消化管内視鏡検査にて出血源を認めず,出血源は小腸にあると考えられた.ダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行したところ,回腸に10mm 程度の粘膜下腫瘍様隆起を認めた.隆起表面は発赤調粘膜に覆われており小潰瘍を伴っていた.その他の部位に局在病変を認めず前述の病変が出血源であると考え,病変部を含む小腸部分切除術を行った.病理組織学的には回腸壁全層に拡張した動静脈を認め動静脈奇形と診断された.原因不明の消化管出血に対しては小腸出血性病変の存在を念頭に置き,積極的に小腸内視鏡検査を施行するべきであると考えられた.

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要旨 35歳,男性.下血にて近医緊急入院し上下部消化管内視鏡検査を施行されたが,明らかな出血源は認めなかったため,小腸からの出血を疑われ当科紹介入院した.当院で施行されたダブルバルーン小腸内視鏡検査にて,多発する輪状潰瘍を認め,同時に施行された潰瘍辺縁からの生検にて中~高度の炎症細胞浸潤を認め,後に施行された小腸透視の所見と合わせて小腸結核と診断した.抗結核薬を投与したところ症状は軽快し,現在,外来にて経過観察中である.

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要旨 患者は68歳,男性.黒色便にて近医を受診し,消化管精査目的にて当院紹介となる.上・下部消化管内視鏡検査では異常を認めなかった.その後も黒色便を認め,貧血を呈したため,カプセル内視鏡を施行したところ,上部空腸に,潰瘍を伴う粘膜下腫瘍を認めた.ダブルバルーン内視鏡による生検組織の免疫組織学的検討で KIT 陽性であり,GIST と術前診断し,空腸部分切除術を施行した.HE 染色では紡錘形細胞が束状不規則に増生し,強拡大10視野中40個以上の核分裂像を認めた.免疫組織染色では KIT 陽性,CD34陰性,α-SMA 陽性,NSE 陽性で,筋原性・神経原性双方に分化を示す高悪性度の GIST と診断した.リンパ節転移は認めず,術後経過は良好である.

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飯田(司会) 本日はお忙しい中をお集まりいただきありがとうございます.ご承知のごとく,小腸というのは消化管の臓器の中では,口からも,肛門からも遠く,そして極めて長いため今まで診断が最もしにくい場所でありました.そのため内視鏡検査法も,胃や大腸に比べると非常に立ち遅れ,いわゆる暗黒大陸と呼ばれた臓器だったのですが,最近,カプセル内視鏡と,山本先生が開発されたダブルバルーン内視鏡という2つの検査法がほぼ確立して,これが普及しつつあります.こういった現状をふまえて,この2つの内視鏡検査法について,ご経験豊富な先生方にお集まりいただいて,座談会を行うことになりました.それでは,ダブルバルーン小腸内視鏡検査法から,討論を開始したいと思います.私もプッシュ式小腸内視鏡はかなり経験したのですが,患者さんにかなり苦痛を与えるし,うまくいっても Treitz 靱帯から1m を越えることはまずない,というように検査法自体に非常に制限があったわけですが,ダブルバルーン法を開発された山本先生がどういう思いつきから,これをブレイクスルーしたのかというところから,まずお話しいただきたいと思います.

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欧文目次

編集後記 芳野 純治
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 巻頭の「小腸内視鏡検査の歴史」で述べられているように,小腸は消化管の中で内視鏡検査が行われ難い唯一の臓器であった.しかし,近年のダブルバルーン内視鏡やカプセル内視鏡の開発により,新たな展開がみられるようになった.特に,ダブルバルーン内視鏡は開腹の既往のない症例では 92 %に全小腸の観察がされ,検査時間は平均 2 時間以内と記載されている.しかも,これまでなかったほどの多数の病変が以前より比較的容易に診断されるようになった.また,ポリペクトミーや止血などの各種の治療が可能なことも大きな利点である.一方,スクリーニング検査法として,カプセル内視鏡や体外式腹部超音波検査が役割を果していくのであろうか.小腸検査法の新たなる変革の時期になったと言える.

 小腸内視鏡検査に比して小腸 X 線造影検査は,狭窄を有する症例やびまん性の疾患に対して有用性がみられるとしている.また,小腸内視鏡検査は微小病変の診断に特に優れるとされる.これは胃・大腸疾患に対するX線検査と内視鏡検査との対比と同様である.序説で八尾が憂えるように,今後,小腸疾患の検査でも同様になるのであろうか.

基本情報

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胃と腸
40巻11号 (2005年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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