胃と腸 40巻10号 (2005年9月)

今月の主題 難治性潰瘍性大腸炎―診断と治療の新知見

序説

  • 文献概要を表示

難治性潰瘍性大腸炎の定義

 1987年の厚生省(現,厚生労働省)難治性炎症性腸管障害調査研究班によれば,“難治性潰瘍性大腸炎” とは「厳格な内科治療下にありながら,発症あるいは再燃から 6 か月以上なお活動期にある症例,または頻回に再燃を繰り返す症例」と定義され1),広く用いられていた.しかし,その後の治療法の進歩や治療方針の再検討により,原則としてステロイド療法を中心に考えることとして,現在はより臨床的に問題となる “ステロイド抵抗例”(ステロイド1~1.5mg/kg を1~2週間投与しても効果のない症例)と “ステロイド依存例”(ステロイド漸減中に再燃した症例)を指すことになっている2)

  • 文献概要を表示

潰瘍性大腸炎の大部分の症例は5-アミノサリチル酸製剤やステロイド製剤により緩解導入,緩解維持が可能であるが,これらの通常の治療法では緩解導入が困難な症例,あるいは緩解導入後にステロイド製剤の漸減により再燃する症例などの,いわゆる難治例も存在するのが現状である.難治性潰瘍性大腸炎の代表として,ステロイド抵抗性,ステロイド依存性の症例が挙げられるが,本稿では主に実際の臨床に即した難治性潰瘍性大腸炎の病態と治療について,研究班の治療指針に基づいて概説する.

  • 文献概要を表示

難治性潰瘍性大腸炎(難治性 UC)の内視鏡像の特徴と臨床像を明らかにする目的で,ステロイド抵抗例41例とステロイド奏効例27例を対象に縦走潰瘍,広範粘膜脱落,打ち抜き潰瘍,不整形潰瘍などの難治性病変の頻度および出現部位に関して両群で比較検討した.ステロイド抵抗例では,縦走潰瘍と広範粘膜脱落の出現頻度が高く,深部大腸に有意に重度の病変が存在していた.難治性病変が存在するUC症例はステロイド治療に抵抗する可能性が高いため,追加治療を念頭に置いた経過観察が必要であると考えられた.内視鏡検査により難治性病変の有無や治療の効果判定などを正確に診断することは,追加治療の必要性,今後の方針を考慮していくために重要な因子であると考える.

  • 文献概要を表示

潰瘍性大腸炎における体外式超音波法(ultrasonography法 ; US法)の活動性評価は,従来のBモード画像による壁肥厚や層構造の観察に,ドプラ法による血流シグナルの解析を加えることで,より正確な診断が可能になった.US 法は,内視鏡検査と異なり前処置が不要で簡便かつ非侵襲的であることから,積極的に臨床応用すべきmodalityである.近年の超音波造影剤やflash echo imaging法の開発により,消化管壁内の微細血流評価が可能となり,従来の検査法では診断できない詳細な病態が把握でき,難治例の予測診断などに応用可能であり,さらなる発展が期待される.

  • 文献概要を表示

中等症以上の潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)の連続例でサイトメガロウイルス(cytomegalovirus ; CMV)感染を合併した症例の臨床像,抗ウイルス剤の治療効果,長期経過について検討した.CMVの感染率は 32.0 %(41/128)と高率であった.臨床的には感染例は非感染例に比べ高齢であった.また,ステロイド抵抗性症例に感染例が多くCMV感染がUCの難治性要因であることが示唆された.抗ウイルス剤の治療効果については,感染例41例中32例(78.0%)に投与したが,その有効率は64.3%と比較的高率であり感染例に対しては早期に抗ウイルス剤を投与すべきである.しかし,いったん治療に成功しても,中等度以上の再燃を来した場合,再度 CMV 感染を合併していることが多く,徐々に難治化する傾向がみられた.以上,難治性UCの治療に際しCMV感染を考慮することが必要である.

  • 文献概要を表示

潰瘍性大腸炎の診断・治療は研究班による診断基準案,治療指針案等の作成により,軽症や中等症に関しては専門医でなくても可能となってきた.しかし,いわゆるステロイド不応例,ステロイド離脱困難例などの “難治” と定義される症例は,現在でも治療に苦慮することが多く,結果としてステロイドが大量に投与されているのが現状である.これらの問題を解決するために,最近使用されることが多くなってきたのが免疫抑制剤である.例えば緩解導入療法としてはcyclosporineの持続静注療法が有効と報告され,当院の成績でも約70%に効果が認められ,その報告を裏付けている.また,緩解維持療法としてはAZAや6-MPの内服が有効とされ,今後,潰瘍性大腸炎における免疫抑制剤療法の発展が期待される.

  • 文献概要を表示

遠心分離式細胞分離装置,顆粒球除去カラム,白血球除去フィルターを用いた白血球除去療法は,本邦における臨床試験を経て,主にステロイド抵抗性の潰瘍性大腸炎のalternative therapyとして確立され,治療指針に組み入れられるに至った.いずれの方法を用いても,60~70%の症例に対して臨床症状や内視鏡所見の改善が期待できる.施行に伴う副作用は少なく,出現しても軽微で一過性であるが,体外循環について習熟した施設で行われるべきである.また,本法による改善効果の発現が比較的緩徐であることから,大出血や穿孔の危険のある症例では,その適応に際しては注意を要する.

  • 文献概要を表示

潰瘍性大腸炎に対する手術適応は重症(28%),難冶(65%),大腸癌またはdysplasia(7%)で,難治が最も多かった.従来のステロイド治療に加えて血球成分除去療法などの治療効果を分析して新しい手術適応を作成する必要がある.手術術式は病変をすべて切除する大腸全摘,回腸囊肛門吻合術,また肛門管を温存して排便機能を良好にする回腸囊肛門管吻合術が標準術式である.当科では主に回腸囊肛門管吻合術を行い,ステロイド大量投与例を含めて94% 人工肛門を造らない一期手術を行っている.術後の排便機能,QOLは良好で,成長障害,壊疽性膿皮症などの腸管外合併症も改善する.内科治療の効果が十分でない難治例では時期が遅れることなく手術を行うことが重要である.

  • 文献概要を表示

サイトメガロウイルス(CMV)感染は潰瘍性大腸炎(UC)の難治化要因として注目されているが,その病理組織学的特徴については不明な点が多い.今回,難治性UC切除連続例35例を対象として,CMV感染の病理組織学的特徴を明らかにするとともに,組織学的CMV感染と生検診断および血中抗原による臨床診断法との関連性について,臨床病理学的ならびに免疫組織化学的立場より比較検討し,以下の結果を得た.①CMV感染陽性率は切除標本上で51.4%(18/35)であり,そのCMV陽性細胞の存在部位は主として潰瘍部の肉芽組織の血管内皮細胞であった.②CMV陽性率は血中抗原で44.0 (11/25),生検組織で15.4%(4/26)であった.そして,血中抗原陽性11例のうち10例(90.9 %)と生検陽性4例のうち4例(100%)では切除標本上にもCMV陽性細胞を認めた.なお後者の陽性例はすべて肉芽組織が採取されており,免疫組織化学染色(IHC)法により明確に診断された.③CMV感染陽性者の臨床的特徴は陰性者と比較し有意に高齢であった(p=0.0025).④ 血中抗原の陽性細胞数と切除標本における組織学的感染細胞数とは相関しなかった.以上の結果から,難治性UCにおいてはCMV感染を常に念頭に置く必要があり,そのCMV感染診断の向上には,潰瘍底の肉芽組織から生検材料を採取すること,およびHE染色による組織診断法に加え免疫組織化学染色法と血中抗原測定法を併用することが重要であると結論した.

  • 文献概要を表示

pouchitis(回腸囊炎)は,潰瘍性大腸炎に対する大腸全摘回腸肛門(管)吻合術後に発生する非特異的粘膜炎症である.診断は臨床症状や内視鏡検査により下される.わが国では,厚生労働省難治性炎症性腸管障害調査研究班(日比班)により回腸囊炎診断基準が作成された.内視鏡所見をとる際には,日比班から出されている「pouchitis内視鏡診断アトラス」が参考になる.治療は,metronidazoleおよびciprofloxacinなどの抗生物質が有効である.まれに,抗生物質投与を中止するとpouchitisを繰り返す症例がある.

  • 文献概要を表示

潰瘍性大腸炎における拡大観察

 1. 潰瘍性大腸炎診断における内視鏡検査および拡大内視鏡検査の役割

 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)診療における内視鏡検査の役割として,①UCの診断および他疾患との鑑別,②病型の決定,③重症度の評価,④治療効果の判定(治療の継続,変更の決定など),⑤UCの長期経過例に合併するdysplasiaや大腸癌の診断などがある.UCの重症典型例では,潰瘍,びらん,出血などのマクロ的な所見が主体であるため,通常内視鏡検査のみで病変の評価は十分に可能であり,拡大内視鏡検査の診断的意義は少ない.一方,通常内視鏡検査では診断が困難な微細所見の拾い上げ,およびdysplasiaや粘膜内癌などの初期の腫瘍性病変の診断に拡大内視鏡検査が有用である.さらに臨床的緩解時期に拡大観察を行うことで通常内視鏡では緩解期様に見える粘膜がまだ活動期粘膜であるとの診断や,再燃までの期間を推定することなどによりUC難治化の予測が可能である.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 光の深達度はその波長に影響され,短波長の光は浅層で反射されるのに対し,長波長の光は深部に到達する.さらに,体内では組織により光の吸収特性が異なっている.narrow band imaging(以下 NBI)は面順次型内視鏡において,狭帯域の分光特性光を発生する光源で特定の深度と色調を強調するシステムとして開発されたテクノロジーである.

 最近,消化管内視鏡用のNBI ステムとしてヘモグロビン吸収特性の狭帯域フィルターで構成された光源が開発されている1).このNBI光源は粘膜浅層の血管構築を強調し,上部消化管癌の深達度診断や大腸腫瘍の拾い上げに有用であることが報告されている2)~5).われわれは潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; 以下UC)に対してNBI観察を行う機会を得たので,その使用経験について述べる.

  • 文献概要を表示

〔患者〕46歳,女性.

 〔主訴〕腹痛.

 〔既往歴〕特記事項なし.

 〔現病歴〕2001年,月経時に腹痛がひどく,婦人科を受診したが異常を指摘されなかった.その後も月経時の腹痛は続き,2003年5月,近医での便潜血陽性のため当院紹介となった.

早期胃癌研究会

  • 文献概要を表示

第44回「胃と腸」大会は,2005年5月25日(水)に第69回日本消化器内視鏡学会総会サテライトシンポジウムとして,赤坂プリンスホテルで開催された.司会は浜田勉(社会保険中央総合病院消化器科)と松川正明(昭和大学附属豊洲病院内科)が担当した.

  • 文献概要を表示

症例は59歳,女性.健診異常の精査としての上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行脚の顆粒状病変を認め,MALTリンパ腫を疑ったが,生検では確定診断に至らなかった.1年1か月後の生検でlow grade MALTリンパ腫の診断を得たが,内視鏡所見上は改善傾向を認めた.尿素呼気試験,病理組織と培養ではHelicobacter pylori(以下 Hp)陰性,血清Hp抗体のみ陽性であった.除菌療法を施行し,再発なく経過している.その後の病理,免疫組織学的検討にて,CD20,CD10,bcl-2陽性であり,初回検査時よりfollicular lymphomaであったとの診断に至った.MALTリンパ腫との組織学的な鑑別が困難であり,Hp除菌療法が有効であった1例として,ここに報告する.

  • 文献概要を表示

患者は79歳,男性.便秘を主訴に近医を受診した.上部消化管内視鏡検査で異常を指摘され精査目的で当院に入院となった.上部消化管内視鏡検査では残胃吻合部小彎,前壁に辺縁不整な潰瘍性病変がみられ,同部からの生検で低分化型腺癌と診断された.胃体上部から穹窿部にはひだの乱れがみられ一部に融合所見もみられた.胃X線検査では胃壁の伸展は比較的良好であるが,一部に粘膜の凹凸不整が目立ち,粘膜ひだに辺縁の不整像がみられた.残胃全摘術が施行された.残胃ほぼ全体を占める低分化型腺癌と診断された.腫瘍細胞は,吻合部小彎,穹窿部前壁の潰瘍性病変およびその周囲の粘膜に露出しているが,他の大部分では粘膜面に癌はみられず粘膜下層以深に癌は浸潤していた.残胃の検査の際にはその特異性を十分理解したうえで行う必要がある.

  • 文献概要を表示

患者は74歳,女性.便潜血陽性を指摘され二次検査目的で入院.低緊張性十二指腸造影にて,十二指腸第2部の乳頭口側・内側前壁寄りに,壁の伸展不良を伴う不整形の陥凹性病変を認めた.上部消化管内視鏡検査で病変の陥凹部分は,まだらな発赤を伴い小結節状の隆起を認め,生検にて印環細胞癌と診断された.以上より,原発性十二指腸癌の診断のもとに幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本で腫瘍は十二指腸第2部の乳頭口側にあり,大きさ15×10mm,肉眼形態的には 0 IIc Ul(+)類似病変で,病理組織学的には印環細胞癌,深達度ssであった.文献上本例は,十二指腸印環細胞癌として本邦第7例目であったが,肉眼的にIIc類似進行印環細胞癌の形態を呈した症例は,他に報告をみなかった.

--------------------

欧文目次

編集後記 斉藤 裕輔
  • 文献概要を表示

 本号は難治性潰瘍性大腸炎の診断と治療の新知見について特集した.潰瘍性大腸炎の患者の増加に伴い,再燃時に治療に抵抗性のいわゆる難治例の割合も増加し,その診断や治療法について日常臨床上,読者を悩ます病態の一つとなっている.桜庭論文では難治性潰瘍性大腸炎についての総論的な診断および治療法の解説が述べられた.診断面では村野論文において難治例における正確な内視鏡検査診断および難治化の予測に有用な内視鏡所見が述べられるとともに,眞部論文では難治性潰瘍性大腸炎の診断および治療効果の判定に低侵襲の体外式超音波診断の有用性が新たに示された.また,和田論文,池田論文では難治例における cytomegalovirus 感染の重要性,診断および治療法が示された.さらに,難治例に対する免疫抑制剤(安藤論文)や白血球除去療法(蘆田論文)などの具体的治療法についても解説された.術後患者のmanagementにおいて大きな問題となる回腸囊炎(pouchitis)についての診断と治療についても福島論文で解説された.さらに研究段階ではあるが,拡大内視鏡(筆者論文)や narrow band imaging(NBI)(松本論文)を用いた難治化の予測についても呈示され,本号はまさに“難治性潰瘍性大腸炎診断・治療マニュアル"となっている.本号を参考に,今後さらに増加する難治性潰瘍性大腸炎患者の診療に役立てていただければ幸いである.

基本情報

05362180.40.10.jpg
胃と腸
40巻10号 (2005年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
3月11日~3月17日
)