胃と腸 40巻12号 (2005年11月)

今月の主題 胃癌EMR後の異時性多発を考える

序説

胃癌 EMR 後の異時性多発を考える 浜田 勉
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はじめに

 早期胃癌の EMR(endoscopic mucosal resection)が始められて約20年が経ち,多数の症例が EMR 後定期的に経過観察されている.その経過中に遺残癌ではなく,他部位に癌が新たに発見されることを臨床では経験する.いったん癌を発生させた背景粘膜をそのまま残した胃に,EMR 後の経過観察中,いつごろ,どのくらいの頻度で,どのような癌が認められるのか.この異時性多発癌は同時性多発癌とその後の胃癌の発育にも関係してくる包括的課題であり,胃癌を扱う消化管臨床医や病理医にとって一度は十分考慮しなければならない問題と言える.異時性多発癌については,過去,もっぱら胃癌手術後の残胃においての検討が主であり,本誌でも39巻7号「胃癌術後の残胃癌」に取り上げられたが,EMR 後においてはどうであるのか,その頻度,部位,組織型やさらに発生の修飾因子やサーベイランスなどはまとめられておらず,今回,この異時性多発癌の実態をみるのが本号のねらいである.

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要旨 胃癌に対する内視鏡治療が普及して久しい昨今,内視鏡治療後の異時性癌に関する適切なサーベイランスが臨床上極めて重要である.国立がんセンター中央病院において,1992年12月~2004年12月に内視鏡的に切除された早期胃癌のうち,当院での治療が初発胃癌で,1年以上経過の追えた1,139例を対象とした.異時性癌は “初発病変治療後1年以上経過した後に胃の他部位に発生した新規病変” と定義した.発生頻度は6.8%,観察中央値35か月の累積発生率は8.2%.統計学的に有意差をもって男性に多く認められた.異時性癌に対する内視鏡治療の適応は,ガイドライン病変・適応拡大病変に対して一括断端陰性治癒切除が得られれば良好な予後が期待できると推測された.

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要旨 1993~2005年に当院で施行された EMR1,785例中,経過観察中に発見され治療された,異時性多発癌43例111病変について検討した.二重癌27例,三重癌11例,四重癌4例,五重癌1例であった.発生時期は二重癌では EMR 後5年以内に81% で次の病変が発見されていた.三重,四・五重癌ではすべての病変が前の病変から6年以内に発見されていた.組織型は高分化型同士の組み合わせが,それぞれ67%,82%,80%にみられたが,高分化型と中分化,未分化型の組み合わせが18~33%にみられた.刷子縁陽性率は二重癌より,三重,四・五重癌の高分化型腺癌のみの症例に高くみられた.経過観察中に最終的に胃切除が施行された症例が5例あった.5例中3例は3~4cm 大の IIa型であり,範囲診断が不明瞭であった.これらの症例は組織学的に高~中分化型腺癌で一部に未分化成分を持ち,免疫組織学的には胃型形質を持った早期胃癌であった.

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要旨 胃癌内視鏡的切除を行った190例に追跡を実施し,18例(9.5%)に遺残を見い出した.遺残診断までの平均期間は208日であり,上部領域では高率に発見された(p<0.01).累積遺残発見率は1年8.8%,2年9.7%,3年12.4% と上昇したが,3年以後にはなかった.また,14例(7.4%)に合計21個の多発癌巣を見い出した.多発診断までの平均期間は768日であった.初回癌巣の肉眼型と同じもの8個,異なったもの13個であり,近傍発生14個,離れたもの7個であった.累積多発癌発見率は1年5.6% から7年26.9% まで,ほぼ一様の傾きで上昇した.内視鏡的切除後のサーベイランスとしては,一括完全切除以外では1年目に数回,白色瘢痕化する3年目までは年1回の切除部位生検を含めた内視鏡追跡を実施する.多発癌診断のためには1年間隔に,初回癌巣近傍を入念に,胃全体を観察し,追跡期間は可能な限り長くすべきである.

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要旨 内視鏡的粘膜切除術(EMR)の適応となる分化型早期胃癌は多くが発癌の潜在能の高い萎縮性胃炎を背景に発生し,内視鏡治療は局所治療であるため,対象病変以外の同時性および異時性多発癌をいかに診断し治療するかは重要な課題である.早期胃癌 EMR 後の異時性多発癌の発生状況を調べたところ,43例(3.8%)に中央値で5年後,51病巣が発生していた.1年ごとのサーベイランスによって大半は内視鏡治療で対処可能な段階で発見されていたが,外科手術を要した症例を1例(0.1%)認めたことから,検査間隔の延長は現時点では望ましくないと考えられる.多発癌予防法としての Helicobacter pylori 除菌治療の評価や多発癌早期診断のための新たな検査法の開発が今後望まれる.

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要旨 胃癌は H. pylori 感染に伴う慢性炎症を背景として発生し,両者は密接に関連している.そのため,H. pylori 除菌に胃癌の予防効果が期待されている.各国の H. pylori 感染の治療ガイドラインにおいて,一次癌および二次癌の予防として慢性胃炎および早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術後胃が除菌の適応疾患とされている.しかし,スナネズミを用いた動物実験では,H. pylori 除菌が胃癌を予防することが証明されているが,臨床における前向き試験ではまだ明確な結論は出ていない.胃癌の内視鏡的切除後の経過観察中に,切除した部位とは別の部位に二次癌を認めることがあるが,H. pylori 除菌が二次癌の発症を予防できるか検証した.わが国で行われた後ろ向き研究では,早期胃癌の内視鏡的切除例のうち H. pylori 除菌群での発現率は年0.86% で,非除菌群は年2.9% と有意差を認めた.また,二次癌に対する介入試験の成績では,平均5年の経過観察で非除菌群67例のうち10例(15%)に二次胃癌の発現を認め,除菌群65例では二次癌の発現を認めなかったと報告された.短期間の経過観察中に H. pylori 除菌が新たな胃癌の発生を抑制したとは考え難く,この成績は H. pylori 除菌が二次癌の発育進展を抑えて内視鏡で発見される時期を遅らせていると考えられる.現在この試験の追試が多施設共同研究として大規模に行われており,その結果を待ちたい.

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要旨 縮小手術は endoscopic mucosal resection(EMR)と並んで,早期胃癌治療法の選択肢のひとつである.理論上胃切除術の残胃粘膜面積が広ければ,それだけ胃機能が温存される利点の反面,異時性胃癌の発生リスクは高まる.機能温存縮小手術160例の1~12年(中央値5.2年)の追跡で異時性胃癌は5例発見され,術後5年での頻度は2.8% であった.この頻度は,報告されている EMR のそれより低く,幽門側胃切除術のそれと同等であった.Helicobacter pylori(HP)感染は術前ではほぼ全例に認められたが,機能温存縮小手術により約半数まで減少し,5年以降に再度上昇する傾向がみられた.HP 有病率低下の原因は不明であるが,迷走神経切離による急激な胃内部環境の変化が考えられた.観察された異時性胃癌5例のうち2例は,術後いったん陰性化した HP 感染が発見時には陽性となっていた.進行度は4例が早期,1例が進行で,2例は幽門側胃切除術,2例は EMR で再発を認めていないが,スキルス胃癌症例は死亡した.

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要旨 患者は72歳,男性.胃癌検診で異常を指摘され当科を受診した.上部消化管内視鏡検査で,胃前庭部前壁に直径2cm の0´ IIa および胃角部後壁に0.7cm の0´ IIc を認め内視鏡的粘膜切除術(EMR)を行った.病理組織診断は高分化型管状腺癌(tub1),深達度 m であった.この後,初回 EMR 後17~26か月にかけて3個の0´ IIc と1個の0´ IIa に対して EMR を行った.初回 EMR 後26か月の時点で amoxicillin,clarithromycin,lansoprazole による Helicobacter pylori 除菌療法を行った.1年後の尿素呼気試験で Helicobacter pylori 陰性であることを確認した.その後は初回 EMR 後83か月まで局所遺残および新たな胃癌は認めていない.

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〔症 例〕 59歳,男性.過去4年間に5回の2~3日間持続する多量の黒色便を認め,輸血も施行されていた.他院にて,繰り返し上・下部消化管を中心に精査されたが,出血源は不明であった.小腸出血が疑われ,2004年6月4日,当科にてカプセル内視鏡検査を施行した際,十二指腸に浮遊する新鮮血を認め,出血性病変の存在が疑われた.2004年6月30日,精査・加療目的にて当院外科入院となった.

〔上部消化管内視鏡所見〕 下十二指腸角より約3cm 肛門側に,内腔に突出する隆起性病変を認めた.急峻な立ち上がりを呈する病変基部の上皮は,周囲の十二指腸粘膜と同様であり,明らかな境界はなかった(Fig.1a).大小様々な類円形~不整形の多発潰瘍を伴っており,潰瘍底は,やや混濁した半透明の膜で被覆されていた(Fig.1b).色素撒布像では,潰瘍部以外は絨毛様の粘膜で覆われていた(Fig.1c).

消化管造影・内視鏡観察のコツ

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はじめに

 近年,内視鏡検査機器の改良と診断技術の進歩に伴い,食道病変の診断にはもはや造影検査は必要としないという X 線不要論がすっかり主流となり,食道病変に対して造影検査をしないで治療法の適応や術式の決定を行っている施設が増えている.しかし,造影検査は,内視鏡検査では得られない数多くの情報を提供してくれるものであり,互いの利点と欠点を知ることで,さらに診断能の向上が期待できることは言うまでもない.そこで,食道病変に対する造影検査の有用性,特に食道上中部の精密検査における撮影と読影の注意点,コツについて述べる.

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はじめに

 十二指腸は幽門輪から Treitz 靭帯付着部までの約25~30cm で,球部・下行部・水平部・上行部の4つに区分される.このうち,ルーチンの内視鏡検査で最低限確認すべき範囲は球部から Vater 乳頭部を含む下行部までである.これより深部への挿入は困難なことが多く,必要な場合には有効長の長い十二指腸鏡や小腸鏡の使用を検討する.球部は絨毛で覆われた単一の空間として認識される.球部と下行部の境界は内視鏡観察で比較的容易に認識できる上十二指腸角(supraduodenal angle ; SDA)とその外側を結ぶ面とされる.下行部は後腹膜腔に存在し,特殊な形態を有し病変発生頻度の多い Vater 乳頭部が存在すること,マクロ的には輪状ひだ(Kerckring 皺襞)が存在すること,などが特徴である.

早期胃癌研究会

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2005年6月の早期胃癌研究会は6月15日(水)に一ツ橋ホールで開催された.司会は田中信治(広島大学病院光学医療診療部)と小野裕之(静岡県立静岡がんセンター内視鏡部)が担当した.mini lecture は「消化管 X 線検査における FPD 及び C アーム式寝台装置の活用法」と題して杉野吉則(慶應義塾大学医学部放射線診断科)が行った.

 〔第1例〕 58歳,女性.低分化腺癌を伴い sm3 に浸潤した盲腸の LST(症例提供 : 札幌厚生病院胃腸科 黒川聖).

 読影は小林(松山赤十字病院胃腸センター)が担当し,X 線像(Fig.1)では,盲腸・回盲弁対側に径30mm の表面顆粒結節状の扁平隆起病変を認め,辺縁の性状から上皮性腫瘍と診断した.表面に浅い陥凹を認め(IIa+IIc 型),側面変形を認めることから sm 深部以深浸潤癌と診断した.通常および色素内視鏡像では,扁平隆起(IIa 型)で表面模様も比較的保たれており,X 線所見とは異なり m あるいは sm 軽度浸潤癌であろうと述べた.拡大観察所見では,一部に無構造な部分を認め VN 型 pit pattern と診断した.拡大観察と X 線所見を合わせるとやはり sm 深部浸潤癌と考えたいとした.拡大観察所見に関して,山野(秋田赤十字病院胃腸センター)は,小林が無構造とした部位について,粘液が付着して条件不良であるが,不整な小 pit が不均一に存在し sm1 程度の sm 浸潤と診断した.工藤(昭和大学横浜市北部病院消化器センター)は,小林が無構造とした部位について,不整な IIIs で scratch sign を伴い,sm 多量浸潤癌とコメントした.平田(大阪医科大学第2内科)は,pit のつぶれと読影,sm 癌が露出しているとした.

mini lecture

発育の早い大腸癌はあるのか 松井 敏幸
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はじめに

 大腸癌の発育を形態学的に追跡する研究により,癌の初期病変や発育速度の推定が可能となった.そこで,早い発育をする癌の肉眼型の特徴を論じたい.まず,本邦で行われた多くの X 線画像遡及研究1)~3)を meta-analysis 的に集計分析し,さらに内視鏡画像遡及例の分析を併せて現時点の結論を述べる.

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要旨 患者は60歳,男性.主訴は間欠的臍周囲の腹痛,腹部膨満感.2002年9月13日より主訴が出現し,近医を受診.上部消化管内視鏡検査,腹部超音波検査を試行するが異常なく,投薬のみ受ける.同年9月29日に,症状が悪化し当院紹介,精査加療目的で入院した.入院時の腹部単純 X 線検査上,拡張した腸管ガス像や鏡面形成はなく,腹部 CT 検査で回盲部から上行結腸にかけ同心円状の層構造を認め,内部先端部に径約3.0cm 大の腫瘤像を認めた.注腸 X 線検査で,上行結腸に,約3.0cm 大の半球状の腫瘤病変を先端にして回腸が上行結腸に逸脱しているのを認めたが,腸重積に典型的とされる蟹爪様の陰影欠損は確認できなかった.大腸内視鏡検査は,上行結腸に半球状の腫瘤病変を認めた.腫瘤は表面比較的平滑で,一部発赤したびらんを伴っていたが,周囲の大腸粘膜は正常であった.基部は Kerckring ひだを思わせる輪状ひだが存在しており,回腸末端部の腫瘍を先端部とした回腸の結腸への逸脱と診断した.先端腫瘍のびらん面より生検を施行したが,確定診断はつかなかった.開腹手術を施行したところ逸脱の状態は継続しており,解除後に回腸部分切除が施行された.Bauhin 弁より20cm 口側の回腸に大きさ径35×30mm の1型類似の隆起性病変を認め,病理学的に B-cell lymphoma(follicular lymphoma,Grade3)(WHO 分類)と診断した.リンパ節に転移を認めたが,他に病変はなく,術後に化学療法として THP-COP 療法を3コース施行し,現在のところ再発を認めていない.

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要旨 患者は66歳,男性.難治性の下痢を主訴に来院した.注腸 X 線検査で横行結腸から直腸 Ra までやや腸間膜側に目立つ腸管の狭小化を認め,大小不同の拇指圧痕様所見も認めた.大腸内視鏡検査では,横行結腸,下行結腸,直腸にかけやや片側性に浮腫を伴った管腔の狭小化と腫大した横ひだ所見を認めた.腹部 CT 所見上,腸管の浮腫とその周囲に脂肪と同程度の低吸収を広範に認めた.病変は広範で悪性疾患を否定できないこともあり確定診断のため腹腔鏡検査を施行した.結腸間膜に固着した変性脂肪垂を採取し病理診断にて本症と診断した.IVH,抗生剤などで保存的に治療したが虚血性変化による大量下血を伴った.そのため病変腸管の切除を目的に開腹したが血管処理困難のため切除を断念し人工肛門を造設した.その後,臨床症状は改善傾向にあったが,術後16日目に腹痛が再燃したためステロイドおよび免疫抑制剤を使用し症状の改善を認めた.

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要旨 患者は57歳,女性.上腹部不快感を主訴に当科を紹介受診した.X 線検査では十二指腸下行脚に約5cm にわたる全周性の狭窄が描出され,粘膜面には小潰瘍像が指摘できた.内視鏡検査では,上十二指腸角に小潰瘍が存在し,下行脚の全周性狭窄に続いていた.粘膜面には白色微細顆粒状の多発隆起所見がみられた.超音波内視鏡検査では腫瘍は不均一な点状エコーを呈する類円形の腫瘤として認められた.腫瘍を含めた幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本では全周性で4.2×4.0cm 大の粘膜下腫瘍性病変が十二指腸下行脚に存在し,粘膜面には小潰瘍が多発していた.病理組織学的には十二指腸壁の一部粘膜を除きほぼ壁全層に中型異型リンパ球の濾胞状増生が認められ膵頭部に浸潤しており follicular lymphoma,grade1と診断した.病期分類 Stage IV であり,術後抗 CD20抗体(Rituximab)を併用した CHOP 療法を行った.十二指腸原発 follicular lymphoma の中で,腫瘤を形成し浸潤傾向を呈する進行した症例はまれであり,十二指腸原発 follicular lymphoma の発育進展を知るうえで貴重な症例と考えられた.

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要旨 患者は,71歳,男性.健診で貧血を指摘され,精査のため当院を受診.上部消化管内視鏡検査で,胃体上部大彎に約7cm の巨大な腫瘤性病変が認められた.腫瘤の表面は比較的平滑であるが,一部にびらん性の変化が認められた.また上部消化管造影でも同様に巨大な腫瘤性病変が認められた.内視鏡時の生検では診断に至らなかったが,胃の腫瘤性病変が貧血の原因と考えられ,手術が施行された.摘出標本から病理学的に胃炎症性類線維ポリープ(IFP)と診断された.IFP は無症状で発見されることも多いが,本症例の場合,巨大であり,潜在的な出血から貧血を来したと考えられた.

これで学んだ画像診断

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食道びらんの二重染色

 これは,びらん型食道炎の急性増悪を生じた際に患者さんにお願いして,急性期から治癒期に至るまでの間,毎週内視鏡観察を行い,トルイジンブルー・ヨード二重染色(toluidine blue-iodine staining ; TB-I 二重染色法)を用いて撮影した写真で,1977年ころのものです.もちろんファイバースコープの写真です.通常観察では,発赤してわずかに陥凹した “びらん” が主体で,中心部に白苔のある典型的なびらん型食道炎でした(Fig.1a).二重染色をすると,通常の観察で発赤陥凹を示す “びらん” 部分は白色の不染帯を形成,中心部の白苔はトルイジンブルー陽性の青い染色領域を形成しました(Fig.1b).一番外側はヨードで染まり,茶色を示しています.白色領域は浅い “びらん”,青い部分は深い “びらん” あるいは潰瘍,そして茶色の部分は正常の食道粘膜を予想していました.そこで,それぞれの染色領域から狙撃生検を行い,組織所見と比較検討しました.予想に反して,“びらん” と思っていた白色領域には薄い上皮があり,再生上皮と考えられました(Fig.2).この上皮は,病巣の辺縁で厚く,中心に向かうほど薄いこともわかりました.青色の部分は肉芽組織で,予想どおりの所見でした.辺縁部の茶色の部分には重層扁平上皮がありました.しかし,上皮内や粘膜固有層に炎症のある部分の粘膜はヨードに対する染色性は不良で,時間の経過とともに炎症所見が薄れ,良く染まるようになりました.白色の領域は “びらん” の辺縁から始まり,治療がうまくできていると,急速に病巣中心部に向かって伸展しました.青く染まる肉芽組織の領域は,はじめは広く,治癒の進行とともに再生上皮に取って代わられ,急速に縮小し,消失することがわかりました.上皮の欠損の広い病巣では,再生上皮の発達とともに肉芽組織はいくつかに分割され,次第に小さくなり消失します.また,白色の再生上皮は正常粘膜との境界部分からヨードに対する染色性を獲得,内部に向かって染色領域が伸展し,白色に染まる再生上皮領域は外側から中心部に向かって収縮,最後にはいわゆる瘢痕を形成することもわかりました.この治癒過程は食道に発生した,もっと組織欠損の深い潰瘍においても同一でした.当時,食道炎の “びらん” に関する論文を読むと,“びらん” の生検であるのに上皮を検出するという,内視鏡所見と生検組織診断との不一致を指摘するものが多数あります.二重染色所見と生検組織所見を比較検討した結果,再生上皮に関する内視鏡診断の不備がその原因であることがよくわかりました.

 食道粘膜上皮の病態が色素を用いることで,色調・形態の変化として描出できました.幼弱な再生上皮が出現し,次第に成熟してびらん・潰瘍病変が治癒する経過が手に取るように内視鏡所見から評価できたのです.上皮の機能を形態の変化として描き出せることがわかり,とても感動したことは今でも忘れられません.

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欧文目次

編集後記 大谷 吉秀
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 早期胃癌に対する究極の治療法である EMR は,早期胃癌症例の増加に伴い 1980 年代半ばにスタートし,既に 20 年が経過した.外科手術に比べ,治療後の QOL の維持という点からは画期的な治療法であり,今日の技術の向上は,さらに大きな病変の一括切除を可能にした.

 しかしながら,胃癌発生の危険性が高い粘膜環境をそのまま温存することから,残った胃粘膜に新たな癌が発生するのではないか,という疑問ははじめから危惧されていた.今回の主題「胃癌 EMR 後の異時性多発を考える」は,これらに答えることを目指して企画されたが,予想どおり興味ある成績が明らかにされた.すなわち,EMR 後の異時性多発癌が,全症例の 3.8 %〔43/1,142〕(上堂論文),6.8 %〔78/1,139〕(横井論文),7.4 %〔14/190〕(細川論文)に発見されている.異時性多発癌の早期発見には,胃粘膜そのものが発癌高危険状態であることを認識した上で,年 1 回,できるだけ長期にわたる follow up の継続が必要なことがあらためて確認された.

基本情報

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胃と腸
40巻12号 (2005年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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