胃と腸 4巻11号 (1969年11月)

今月の主題 十二指腸の精密診断

綜説

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はじめに

 胃のX線診断の進歩は,X線写真と切除標本との比較がその基盤となっている.すなわち,両者の所見を対比してみて,自らの診断技術の拙さを知り,病変の描出や読影能力の向上に努める.この繰返しで,病変の描出や,読影力は進歩し,対比症例のつみ重ねから,X線所見の整理・分類が行なわれ,所見の客観性が確立される.

 胃のX線診断を志す人にとって,胃の切除標本は,最上の師であり,鞭である.

 一方,十二指腸潰瘍は,胃疾患に劣らぬほど数多い疾患であるのに,そのX線診断は,遅々として進歩しない.原因は,種々であろうが,最大の理由は,師であり鞭である切除標本が,極めて得難いことにあろう.

 筆者も,過去2年半,十二指腸球部精検法として,遮断剤静注法によるHypotonic duodenographyを行ない,そのX線像と対比可能な手術標本の蒐集を心懸けているが,今日までに,わずか20例の標本を得たにすぎない.未だ所見の整理,分類を行なえる段階ではないが,症例の供覧と共に,簡単に,従来の十二指腸球部潰瘍のX線診断学と比較してみたい.

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Ⅰ.十二指腸のX線検査手技

 十二指腸をX線像として明確に画き出すためには,いわゆる十二指腸低張造影(Hypotonic duodenography15)一定の語がないのでここではこう呼んでおく)が最も目的にかなった方法と思われる.1911年Skinner32)は十二指腸内にゾンデを通じて造影剤を注入し胃陰影を除きその全走行を検査する方法を考えた.わが国では1926年中川・結城20)によって創始され,彼らは本法を十二指腸単独造影と呼んだ.続いて藤浪11)・高安37)らはこの単独造影法を用いて診断した十二指腸の種々の疾患を報告している.高安37)は十二指腸の逆蠕動が強くてゾンデがそこに入らない時は微量の硫酸アトロピンを注射すると述べているが,十二指腸の低張造影を意図したものではなかった.1938年Ritvo26)はベラドンナの経口投与により薬理学的十二指腸検査を行なった.以来日常の胃・十二指腸検査に種々の薬剤を用いた人もあるが,これらはいずれも球部の診断に応用され,その全体を追及するためのものではなかった.

 十二指腸低張造影とはゾンデを十二指腸下行部に挿入し,蠕動抑制剤の注射および粘膜麻酔剤の注入によりその蠕動と緊張を完全に除去して行なう単独造影である.筆者らは昭和22年頃から十二指腸のX線学的研究を続けて来た.始めは薬剤を使用せず藤浪らの方法を用いていたが11)20)37),十二指腸の運動曲線を描記しさらに種々の薬剤に対する反応を検討している中に,その蠕動抑制と低緊張を得るためにはアトロピンが有効であるのを見,続いてブスコパン,パドリンなどを使用するようになり,現在ではこれに胆管造影を同時に加えて十二指腸およびその周囲臓器のX線学的研究を行なっている28)30)31)33)34)

乳頭部癌の診断と治療 穴沢 雄作
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はじめに

 十二指腸乳頭部癌は2つの立場から取り扱われている.小腸癌の中に含まれる十二指腸癌の一分型として論議する考とえ,膵胆管系の癌腫として,膨大部領域癌や膵頭部癌と同列に扱う立場とがある.

 十二指腸癌は稀であるが,十二指腸は小腸のうちでも癌の多発部位である.1958年から1962年までの日本病理剖検集報によると,総数56,916例中,小腸悪性腫瘍は105例で,うち十二指腸癌は82例で剖検総数に対して0.14%となっている.Mateerは発生部位を,乳頭上部,乳頭部,乳頭下部の3つに分け症状に特徴があることをのべている.欧米の統計で649例の部位をみると,乳頭上部167例(25.7%),乳頭部290例(44.7%),乳頭下部192例(29.6%)で乳頭部にもっとも多い.この乳頭部癌は十二指腸粘膜から原発するものを言い.総胆管膨大部粘膜から生ずるのは除くべきである.十二指腸には癌腫以外に滑平筋筋腫が多く,良性腫瘍として腺腫,ブルンネル腺腫,嚢胞,神経鞘腫,平滑筋腫,カルチノイド,脂肪腫膵迷入などが発生する.これら十二指腸腫瘍は近年にいたり消化管線X診断の発達や十二指腸ファイバースコープの開発などによって,症例数が急速に増加している.

 一方,膵胆管系の癌腫として取り扱うのは,乳頭部に現われる癌腫は,しばしば膵頭部,総胆管などと密接で臨床症状もこれらの癌腫と差異が少なく,黄疸を発生し胆汁うっ滞に伴なう肝障害や膵機能異常などを惹起し,重篤な全身障害を呈するため,単なる十二指腸粘膜の癌腫とみなさずに,膵胆管系の癌腫として一括して診断,治療を行なうのがよいからである.

 さて,乳頭部の癌の発生母地として,①乳頭粘膜上皮,②乳頭部を覆う十二指腸上皮,③総胆管上皮,④膵管上皮,⑤膵腺房上皮,⑥乳頭部の導管粘膜附属腺上皮,⑦乳頭領域に迷入する副膵組織など,7種類の上皮が考えられる.これらの上皮には過剰再生ないし小腺腫の発生はしばしば認められる.しかしGrahamの指摘するごとく,明らかに破壊的増殖を呈し始めた5mm以下の微小癌においても,すでにこれら発生母地の推定は不可能である.したがって,Childらは膵頭十二指腸癌Pancreaticduodenal carcinomaという語で総括しているが,総胆管膨大部に癌腫が多いので,膨大部癌Ampullary cancer(総胆管末端部癌)あるいは,膨大部周囲癌Periampullary cancer(膨大部領域癌)の言葉を用いる人も多い.この中には上記の発生母地から生ずる癌腫がすべて含まれることになるが,主たる病変の占居部位によって膵頭部癌,総胆管癌,乳頭部癌などと命名し,主たる病変部位が定め難いときは膨大部癌とする人が多い.本論文では,十二指腸乳頭部粘膜に存在する癌腫を乳頭部癌とした.さらに乳頭部粘膜は正常であるが,膨大部癌などで十二指腸粘膜に癌性浸潤,癌性潰瘍を生じたものも併わせ検討した.

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はじめに

 近年,胃X線,内視鏡,生検,細胞診などの各種検査法の普及発達にともない,早期胃癌および粘膜下腫瘍その他各種疾患の診断が急速に進歩した.胃囊胞は胃良性疾患のうちでもまれな疾患とされ,文献的報告も散見するにすぎないが,筆者らはⅡc型早期胃癌の直下に囊胞を有した1例を経験したので報告する.

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はじめに

 筆者らは最近胃幽門前部にⅡa様良性隆起性病変を経験したが,その組織学的診断において,びらん性胃炎という意見も出たが,びらんが単発のため,解釈に困難を感じた症例を報告する.

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はじめに

 胃ならびに十二指腸球部を仰臥位二重造影して,これにさらに圧迫を加えると,仰臥位二重造影法では不明瞭な前壁病変を描写できる1)2)3).この方法は二重造影法+圧迫法であるから,二重造影圧迫法と略称する.症例を記載する前に,この方法について述べる.

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はじめに

 胃内視鏡検査は胃カメラ,ファイバースコープの進歩により,X線検査と共に,欠くことができない検査法になって,さらに胃生検も行なわれるようになった.ファイバーガストロスコープを用いて十二指腸球部をこえ,十二指腸下行部まで挿入して観察することは,Hirschowitz(1961)2)の報告以後,Watson(1966)15)のVater氏乳頭部を直視下に観察した報告がある.本邦では,田中ら13)により胃カメラを用いて十二指腸球部の観察がなされている.1968年に,本邦およびアメリカで十二指腸の内視鏡について検討が行なわれてきている6)7)9)10)11)12)

筆者らも1968年に,十二指腸下行部を観察する目的で,全身麻酔下に,ファイバーガストロスコープを十二指腸下行部に挿入して,十二指腸粘膜の観察に成功した10)11),X線検査により発見された十二指腸下行部の腫瘤を十二指腸ファイバースコピーによって,直視下に観察した.また腫瘍部の生検を行ない,膵頭十二指腸切除によって,根治できた乳頭部のIslet cell carcinomaの症例を経験したので報告する.

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はじめに

 グラスファイバーを用いた胃内視鏡の驚異的進歩によって,初めて十二指腸の内視鏡が可能になってきた.欧米では,1966年Watson15)がHirschowsitzのgastroduodenal fiberscopeを用いてVater氏乳頭を観察以来,1967年にRiderら6)のfiber duodenoscopeの試作,1968年にはMcCuneら4)はVater氏乳頭のEndoscopic Cannulationによる膵管の造影を発表した.一方,わが国でも,1963年来,田中14)らにより,胃カメラを用いた十二指腸球部の観察が精力的に研究された.1968年には,十二指腸の内視鏡に関する研究が相次いで発表された.1968年4月の外科学会に,東大手術部高木ら11)による報告があり,著者らは6月7)および7月8)に生検用ファイバーガストロスコープを用いた十二指腸ファイバースコピーを発表した.1968年10月には,第6回内視鏡秋季大会に高木ら(東大)13)および著者ら9)は,さらにそれぞれの方法を詳細に報告した.1968年12月に,第6回日本内視鏡学会関東地方会で「十二指腸の内視鏡」について,シンポジウム2)が開催されて,わが国における十二指腸の内視鏡的研究の現況が総括された.このように,欧米と共に,わが国においても十二指腸に対する内視鏡的研究が相次いで報告されて,今後の大きな研究テーマになってきている.著者らは,全身麻酔下に生検用ファイバーガストロスコープを十二指腸下行部に挿入することに成功した7)8)9)10).さらに生検用のみでなく,診断用ファイバーガストロスコープを用いた,十二指腸ファイバースコピーを検討した.

 各種ファイバーガストロスコープによる十二指腸ファイバースコピーの成績について比較検討し,さらに十二指腸ファイバースコピーにあたっての2,3の問題点ならびに,著者らの経験にもとついた,十二指腸ファイバースコープの基本構造を検討したい.

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はじめに

 膵臓疾患に際しての胃十二指腸変化についてはすでに多数の報告があり,広く知られている.一方胆管系悪性腫瘍における胃十二指腸の変化についての報告は比較的少なく,McConnell(1957),Khilnani(1962)らにより報告されているにすぎない.

 筆者らの教室では最近数年間に手術または剖検によって確認しえた胆管癌16例および胆囊癌14例の胃十二指腸造影フイルムを検討し,種々の知見を得たのでその概要を報告しようと思う.

技術解説

注腸法の手技 井上 幹夫
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はじめに

 バリウム注腸法は回盲部を含む大腸の器質的病変の診断に不可欠な方法である.本法の基本的な事項は胃のレ線診断と異るところはないが,大腸の全長にわたる観察にはそれなりの手技が必要である.以下注腸法の実際について教室で行なっている方法を中心に紹介したいと思う.

診断の手ほどき

Ⅱaについて 五十嵐 勤 , 五ノ井 哲朗
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 Ⅱa型早期胃癌の肉眼所見の特徴は,輪郭のはっきりした平盤状隆起という所見です.そして,この所見を適確にX線写真にあらわすことが,とりもなおさずⅡaのX線診断となります.それには,まず,病変の正面像をきちんと撮影しなければなりません.次に,ⅡaのX線診断の要点についてふれてみます.

研究会紹介

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 昭和38年3月「函館胃カメラ会」として発足,現在の「函館内視鏡懇談会」に至る満6年間の歩みを顧みることは,医育機関をもたない地方都市での研究グループの在り方や問題点をよく示すものと思う.発足当初より,橋元富一郎市立函館病院消化器科長が会長となり,現在会員は60余名,その半数は病院勤務者である.例会は毎月10日過ぎの木曜日の午後7時より,場所は主として医師会館,年3~4回は市内の公私立病院の医局に移動して開催している.会誌の発行は2年毎に行なっている.例会のスタイルは,会員の症例検討,病院単位のC・P・C,会員のアルバイトを中心とした講演,他科よりの招待講演で編成される.さらに年2回は当会主催で講師を招いて最新のテーマで一般学術講演会では得られない貴重な知見を頂いている.会としては「共同研究」発表は,当地区で毎年開催される道南医学大会で昭和40年「函館の胃ポリープ」,41年「函館の胃癌」,42年「函館の胃潰瘍」,43年「早期胃癌をめぐる内視鏡診断」(胃の隆起性ならびに陥凹性病変と出血,異物)と,ローカル色豊かな研究を発表した.

 最近の道南医学大会は他科もこのスタイルを取り入れ,講演時間の不足を役員がなげくほどの盛会となっている.

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 かつて昭和36年南日本胃カメラ同好会が鹿大第2内科佐藤教授の御世話で発会・運営され宮崎県からも同好者が参加出席し,1度は当宮崎市で盛大に開かれたことがありました.次いで昭和40年夏,村上,常岡,白壁の諸先生をお招きして,消化器疾患についての各先生方の専門分野の講演会と,当地の諸先生方の呈出された症例のX線,カメラの検討会を開き,参加者に多大の感銘を与えました,これらが直接の動機となり,消化器疾患懇談会の発会の気運が高まり,同年秋宮崎市在住の森・平川・福田・それに筆者が発起人となり,打合せの結果,県下の主要各地医(宮崎は森・福田・都城は貴島,日南は弓削,延岡は黒木)にそれぞれ世話人を依頼し,昭和41年5月第1回の消化器疾患懇話会を発会,県下全般から約100名の参加を得ました.講師には村上教授に再度御足労をお願いしました.

 以来西沢・岡部・古沢・大森・永光・熊倉らの諸先生が講獅として来訪され,幅広く消化器全般について研鑛して参りました.

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欧文目次

書評「心身医学の診療」 深津 要
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 この書の特色の最大のものは,臨床そのものが主体をなしている,ということである.

 そのところを,高血圧症に関する項で,内科医である著者の望月博士は,「これは高血圧症にかぎったことではないが,疾患に特有な性格特徴は存在するものなのか,存在するとすればその疾患との因果関係は如何というような発想のしかたは,心身医学的研究の仮説とはなりえても,臨床の実際において心身医学的に患者を診てゆくためには,疾患の成立機序についての安易な解釈論に陥りやすい点で決して好ましいものではない」という考え方を強調しておられる.

編集後記 中島 義麿
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 1冊の本で十二指腸潰瘍の本がフランスにある.Le Duodenum(Pcsttanot).また十二指腸後封部潰瘍でL'ulcaréné Du Duodenum post bulbaénére(E. Fassis)という1冊の本を手にした時にもフランス人のねつよさを思い出しうらやましかったが,今回の雑誌と2巻1号,2巻2号をもっていれば,日本の開業医は彼らに負けることはないと思った.

 八尾先生のX線像と切除標本の比較は秀れており,また高瀬先生の十二指腸下行部のX線診断や,穴沢先生の乳頭部癌の立派な業績は,どこの雑誌にも見出せず,大内先生の症例検討も,今や日本には早期胃癌が多く,その病変だけでなく周辺も出す像をよみとって,診断しなければならぬという警告を与えて下さった.また日本での月の世界に着いた感じのする日本初のVater乳頭への到着もある.

基本情報

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胃と腸
4巻11号 (1969年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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