胃と腸 4巻10号 (1969年10月)

今月の主題 早期癌とその周辺

症例特集

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Ⅰ.症例

 患者:田○範○ 61歳 男 会社員

 家族歴:父が61歳で胃癌で死亡.他に特記すべきものなし.

 既往歴:18歳のとき肺浸潤で1年間休む.37歳のとき肺炎.5~6年前,某病院で胃透視をうけ胃炎と診断されたが,特に治療は受けなかった.

 主訴:外来初診時には自覚症状なし.

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Ⅰ.はじめに

 最近わが国において,胃疾患診断の水準は胃カメラの発明,胃X線,細胞診の開発,さらには胃生検の導入により飛躍的発展をとげた.その結果癌が早期の段階で容易に発見されるようになってきた.

 一方胃癌との鑑別を要するもののひとつとして粘膜下腫瘍が注目されるようになり,その報告例も増加しつつある.胃粘膜下腫瘍はX線的には存在診断は比較的容易であるが,質的診断は難かしく,胃細胞診,生検も無力に等しく,内視鏡診断が最も重要である.

 われわれは胃粘膜下腫瘍の2例を経験したので症例を呈示するとともに,その内視鏡診断につき文献的考察を加えたので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 胃内視鏡の進歩にともなって,最近では胃の粘膜下腫瘍のあるものではその組織診までも内視鏡的に診断することがある程度可能となってきた.粘膜下囊胞も内視鏡的にかなり特徴的であり,他の粘膜下腫瘍との鑑別が比較的容易と考えられるが,最近の綜説1)2)3)の中にもこの点を強調した論文はほとんどみあたらない.最近著者らは胃粘膜下囊胞の1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 胃に発生する腫瘍はその大部分が癌腫で癌腫以外の悪性腫瘍,あるいはポリープ以外の良性腫瘍はいずれも少ない.なかでも胃血管腫は極めて稀で本邦では数例の報告があるにすぎない.また巨大皺襞は蛋白喪失の観点から近年特に注目されるようになり,Ménétrier's diseaseと言われる蛋白喪失性胃炎とそうでないものとに分けられるが,その本態はなお明らかでない.

 われわれは胃の広範な領域にわたり巨大皺襞を伴った胃血管を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

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1.はじめに

 下腹部不快感,呑酸,そう囃を主訴として来院し,胃レ線検査,胃内視鏡検査で,胃粘膜下腫瘍と診断し,手術の結果Stout1)の提唱したLeiomyoblastomaであった1例を報告する.本例は腫瘍の大部分は典型的なLeiomyoblastomaの像を示し,ごく一部にLeiomyomaと考えられる部分があり,両者間に移行像がうかがわれる症例である.

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Ⅰ.はじめに

 レ線検査,内視鏡検査の発達した今日でも,術前にその確定診断を下すことは未だなお困難な揚合があり,特に粘膜下腫瘍などの術前の質的診断は極めて困難である.最近われわれは3例の胃粘膜下腫瘍に類似した極めてまれな胃結核を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 胃ポリーフ.は前癌病変との考え方から,発見次第手術というのが,最近までの傾向であった.近年単発性のものは,あまり癌化する傾向がみられないとの成績から,経過を長く観察した報告も見られるようになった.しかし経過観察の報告の主眼は,癌化するかどうかにあり,経過観察中胃ポリープが消失したという報告は少なく,われわれの調べた範囲では,1例ポリープの先端が脱落したというのがあった1).われわれは胃ポリープ発生部位としてはまれな穹窿部にできた1例を経験したが,それが初回胃X線検査から4カ月後の第3回の検査時消失した興味ある例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 胃梅毒は,1834年Andral2)の報告以来かなり多くの報告がなされてきたが,駆梅療法の進歩と共に激減し,最近10年間は,山田10),三方4),R.M.Mitchell5)らの例を散見するのみであった.昨年は,丸山6),春日井3),西浦7),柚木9)らの報告があり,胃疾患診断法の急速な進歩と共に,早期胃癌との鑑別7)9)あるいは早期梅毒に認められる胃粘膜変化6)などの問題を伴って新しく再登場してきた感がある.われわれは,皮膚に梅毒性乾癬を認めた第2期梅毒患者で,胃に多彩な変化を認め,胃癌を疑って胃切除術を施行したが,胃梅毒であった症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 胃腸に原発するリンパ腫は比較的予後が良好であり,その他のリンパ腫に比べて臨床病理学的にuniqueな存在であるとされていた.しかしSmith&Helwig1),Faris&Salzstein2),Jacobs3),中村4)5)らにより“reactive lymphoid hyperplasia2)”“pseudolymphoma3)”,“reactive lymphoreticular hyperplasia4)”などと呼称されているentityが胃リンパ腫に含まれていることが明らかにされた.筆者らは最近このグループに属すると思われる3例を経験し,うち2例は7年ないし4年の経過観察を行なったのでそれらを報告し,特にこの疾患と悪性リンパ腫への移行の可能性について論じてみたい.

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Ⅰ.はじめに

 胃診断学の発達に伴ない,胃巨大皺襞の症例も漸次増加の傾向にあるが,最近われわれは胃体部皺襞大彎の巨大皺襞と前庭部大彎の1型早期胃癌と別個に認めた興味ある症例を経験したので,報告する.

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Ⅰ.はじめに

 最近では早期胃癌症例も多数報告され,それらの材料をもとに組織発生学的検索が進められている.一方,癌の多中心性発生の問題にからんで多発胃癌がとりあげられ,いろいろ興味ある問題を提起している.

 われわれは,胃X線所見,胃内視鏡所見および胃生検所見からⅠ型およびⅡa型の多発早期胃癌の臨床診断が与えられ,切除標本の組織検索によってこれが確認された多発早期胃癌の症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 X線ならびに内視鏡検査における記録性の向上を胃癌の進展ないし経過に関しても種々の知見をもたらしつつある.すなわち胃癌の少なくも一部のものにおいては,あるいはまた少なくもある時期においてはその進展が相当に緩徐であることはもはや周知の事実といえよう.さらにまた悪性潰瘍においてもニッシェの縮少,消失,増大の反覆がおこりうることは,いわゆる悪性life cycleとして諸家の報告にみるごとくである.以下X線像により病変の推移を観察しえたかかる1症例について報告する.

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Ⅰ.はじめに

 同一個体に発生する重複悪性腫瘍に関しては,1869年Billroth1)が初めて発表して以来,多くの報告がなされているが,しかし胃および胆囊の重複悪性腫瘍に関する報告は極めて少ない.筆者ら今回,早期胃癌と胆囊癌の重複腫瘍という極めてまれな1例を経験したので報告する.

研究

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胃癌における石灰沈着

Ⅰ.はじめに

 胃癌組織中に石灰沈着がみられるという最初の記載は,1931年のImbertによるものであって,以来諸外国では25例が,本邦では3例の報告がみられるにすぎない.

 石灰沈着現象自体はいかなる臓器にも起こり得る.しかしながら,悪性腫瘍組織中に石灰沈着の生ずることは比較的少なく,ことに胃癌ではまれとされてきた.最近は腫瘍組織の詳細な検討によって,乳癌などではかなりの頻度に石灰沈着を伴っていることが知られている.

 胃癌における石灰沈着の報告は少なく,自験例を除けば外国で25例,本邦で3例の文献的記載がみられ,いずれも極めてまれなものとして扱われてきた.

 筆者は本学病理教室における過去3年間の外来手術胃標本(癌)約200例のうちで1例,剖検例90のうち4例に腫瘍組織中に石灰沈着がみられたので,従来いわれるほど胃癌における石灰沈着がまれではないことを指摘し,併せて若干の考察を加えたい.

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Ⅰ.はじめに

 胃粘膜の組織酵素化学的研究に関する文献は少ないものではない.それは胃の器質的ないし機能的病変の本質を追求する1つの手段として応用され,さらにはまた,臨床診断への応用を目的とした立場からの努力もなされている.しかし,特に後者の立揚には,組織化学的方法が臨床診断に応用し得るかどうかという唯一つの目的のためのみに追求されるきらいがあり,その酵素の正常細胞ないし癌細胞における代謝上の意義ないし特性についての考察が等閑にされがちであるように思われる.したがって,代謝機構における癌特異性の酵素が明らかにされていない現状で,むやみに酵素化学的方法を応用したとしても,少なからぬ例外に遭遇した場合の意義づけに困却し,その後の研究の進展が停滞されるのではないかと考えられる.

 このような意味では,武内9)~12)14)16)がその代謝特性について充分な基礎的研究を行ない,腫瘍細胞における意義づけを行なっているPhosphorylase反応(以下Phr.反応と略す)を,臨床的見地から応用することは理論的解析が可能な点で意義があり,その成績については,既にたびたび報告してきたが2),ここではその総括的成績にっいて胃粘膜のPhosphorylase反応を検討して述べる.

胃がんの疫学 栗田 英男
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Ⅰ.はじめに

 疫学的研究態度とは集団の中で展開する疾病の流行現象を時間的,空間的な場(すなわち環境)で観測し,解析することによりその疾病のHost-Agent-Relationshipを明らかにすることである1)

 したがって,胃がんの疫学的研究でも,環境,宿主および病因について追求し,流行像を把握するとともに,最終的には,それらの相互関係を解明することにある.

 しかし,がんにあっては,これまでの伝染性疾患や栄養欠乏症などとことなり,一つの要因が決定的な病因となりうることは考えられず,むしろ各種要因が複雑にからみ合った複合因子(Complex Factors)として発がんに関与するものとみられる.

 そこで,胃がんの疫学的探究により,これまでに得られた知見を各要因ごとに簡単にまとめてみた.

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欧文目次

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 実地医家のための会の藤沢正輝氏をはじめとする方がたの書かれた「臨床検査」は,小冊子ではあるが,実地医家の行なう臨床検査のあらゆる問題が盛られている点で貴重な本である.大病院において,臨床検査は情報蒐集という点を残してますます臨床の医師の手から専門の技師の手に移りつつあり,その隔絶から一面に多くのひずみを生みつつある.なぜなら臨床検査はいわゆるベットサイドの医師を離れては不完全なものであるからである.実地医家がある意味では最も生きた臨床検査を行ないうる立場にあることを本書は感じさせてくれる.そして現在ではまだ狭いこの範囲を着実に極めてゆく道も示している.したがって臨床検査に対する認識不足から宝の山に入るのをためらっている実地医家の人にとっては啓蒙の書でもある.

 現在の臨床検査を学問的にいかに考えるかということはむずかしい問題であるが,藤沢氏の言葉を借りれば,take off(離陸)の時代としてうけとめられている.この実地医家の会の方がたは臨床検査を早くも日常診療に十二分に活用されているが,それに至るまでの開拓者の苦労も行間に滲んでいる.この点で病院の検査室で臨床検査の発展に努力している私どものような医師にとっても共感を覚えるところが少なくない.私たちの仲間も苦労を共にしている親愛感と,いわゆるミサイル検査といわれる未来学に対する喜びを常々持ち合わせているが,本書の著者らも同じようなものを抱き,これを実地医家の人々にあますところなく分かちたい熱意と親切心が十分に窺える.

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 昭和33年の日本内科学会総会における弘前大学松永教授の「潰瘍性大腸炎」という宿題報告があまりにもみごとであったために,当時演説をお聞きした者はもちろん,その後出版された同名の美しい著書を見た者は,わが国においては比較的少ないといわれるこの疾患に対して強烈な印象を刻みこまれたものであった.以来,大腸疾患というと松永教授ならびにその御一門の名が必ずといっていいほど,書籍を飾ってきてすでに10年をこえているのである.この間,松永教授を補佐し,美しいX線写真を暗室の中で黙々と製造してこられた,当時の助教授山口保博士が自ら執筆された本であるから,まさに期待の著書である.

 本書は,小腸のX線検査法と,大腸X線検査法との二部からなっている.いたずらに論理のみに走らず,本書の特徴はむしろ,著者の長年にわたる貴重なまた豊富な経験をメモ的に,随所にちりばめた実地的なものである.

編集後記 熊倉 賢二
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 本誌は,創刊号以来,毎月テーマを決めて,極めて独創的な論文を掲載しつづけてきた.そして,その成果を世界にひろめるために,英文抄録をものせるようになった.これほど意欲的な雑誌はほかに類がないであろう,しかしその反面,あまりにも急速にプランを遂行してきたために,多くの貴重な論文の掲載を忘れてしまいがちであった.本誌が広く愛読され,高く評価されるにつれて,全国から多数のすぐれた論文が集まってきたのに,あるものは1年以上も未掲載のままである.そこで,今月号は今までの編集方針を少し変えて,早期癌とその周辺の症例を特集することになったのである.

 さて,本号の論文をみると,粘膜下の腫瘍にしても,胃の結核や梅毒にしても,また,自然に脱落したポリープ例,さらに早期胃癌の多発,重複,合併例や経過観察例などにしても,ごく当然のようにきれいな写真をかかげて,堂々の論陣をはっている.恐るべき底力である.また,研究欄では,各著者が自信をもって書いている.いずれも教えられることが多い.明日からの研究か診療にもすぐに役に立つであろう.

基本情報

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胃と腸
4巻10号 (1969年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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