胃と腸 37巻7号 (2002年6月)

今月の主題 炎症性腸疾患と腫瘍(1)潰瘍性大腸炎

序説

colitic cancer 赤松 泰次
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 colitic cancerとは

 colitic cancerとは,広義には潰瘍性大腸炎,Crohn病,腸結核,放射線性大腸炎など慢性の炎症性腸疾患を母地に発生した癌を指すが,潰瘍性大腸炎に合併する頻度が高いために狭義には潰瘍性大腸炎に合併する癌を示す用語として用いられる.したがって,colitic cancerを2回に分けて特集し,本号では潰瘍性大腸炎に合併した狭義のcolitic cancerについて,次号では潰瘍性大腸炎以外に合併した癌に関する特集を企画している.

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要旨 第55回大腸癌研究会主題「炎症性腸疾患と大腸癌のすべて」に関連して会員に行った炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,Crohn病)に合併した大腸癌のアンケート結果を報告する.潰瘍性大腸炎では観察された4,796例中123例(2.6%)に大腸癌を認めた.経過年数別発症率は10年まで2%未満,10年を経過すると5%前後に漸増し,21年以降10%以上であった.早期癌が52例(42.3%)を占め,根治度A症例では5生率87.2%であった.Crohn病では観察された2,500例中12例(0.5%)に大腸癌を認めた.経過年数別発症率は経過年数に必ずしも比例しなかった.直腸肛門領域に好発し局所進行した症例が多く転帰不良であった.

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要旨 長期間経過した潰瘍性大腸炎患者は大腸癌発生の危険性が高い.また,dysplasiaは浸潤癌へ進む過程における先駆病変と考えられている.そこで,dysplasiaや早期癌の発見を目的に大腸内視鏡下の生検によるサーベイランスが行われている.しかし,現在の大腸内視鏡検査によるサーベイランスでは十分な成績は得られていない.さらにサーベイランスの成績を上げるためには隆起したDALM(dysplasia-associated lesion or mass)だけではなく,見つけにくいflat dysplasiaも見逃さないようにしなければならない.そのためには,flat dysplasiaの所見であるわずかな色調の変化,表面構造の変化,腫瘍性pit patternを注意深い観察により指摘することが必要である.

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要旨 当院における潰瘍性大腸炎に対するsurveilianceの実態を調査するとともに,発見されたcolitic cancer,dysplasia症例を検討した.1997年4月時点でsurveillanceの対象となった長期経過例は114例で,その後の5年間に毎年surveillance colonoscopyを受けていたのは79%のみであり,全患者の平均surveillance colonoscopy回数は1.9回/5年にすぎず,random生検を施行している症例も一部のみであった.しかし,この期間中に発見されたcolitic cancerの予後はおおむね良好であり,欧米の報告に比べて早期癌で発見された症例が多かった.また,報告例を見る限り欧米で行われている1年ごとのrandom生検によるsurveillanceは,物理的にも対費用効果の問題からも実効性は少ないと思われた.今後,長期経過例におけるsurveillanceへの意識を高め,検査に対するcomplianceを維持するとともに,内視鏡観察の精度向上と分子生物学的手法を用いた効率の良いsurveillance法の確立が望まれる.

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要旨 潰瘍性大腸炎に合併するcolitic cancerのサーベイランスにおける問題点を示すため2例の症例を提示した.①40歳男性で左側大腸炎型.経過10年のサーベイランスにてgiant pseudopolypのポリペクトミーと周囲の生検を行った.この生検は異型なしと判断されたが見直し診断にて異型が疑われた.2年3か月後のサーベイランスでは腫瘍性隆起を認めdysplasia associated lesion or mass(DALM)と判断しDALMの生検でlow grade dysplasia,周囲粘膜の生検でhigh grade dysplasiaを認め大腸全摘を施行した.結果は漿膜浸潤陽性の進行癌であった.拡大内視鏡は腫瘍性隆起と炎症性ポリープの鑑別は可能であったが,深達度診断には有用でなかった.生検病理診断の問題,サーベイランス間隔の問題,深達度診断の問題などを示した.②42歳男性で左側大腸炎型.経過8年の頻回再燃型で再燃を来して当院へ紹介.当院の初回内視鏡で直腸に結節集簇型様の3cm超の病変を発見.生検で高度異型腺腫と区別できなかったが,頻回再燃でもあり大腸全摘術を施行.術後病理では活動性の潰瘍性大腸炎に合併した3.8cm×3.0cm大の結節集籏型様の腺腫内癌と判断された,本症例をcolitic cancerと考えると,左側大腸炎型に対しても7~8年目からサーベイランスを開始する必要性を示唆する.今後も問題例を集積して,サーベイランス失敗例のないように改良していくことが必要と考えられた.

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要旨 潰瘍性大腸炎に伴うdysplasiaとcolitic cancerの内視鏡所見について検討した.対象はdysplasiaのみ13例,dysplasiaが検出された後に癌が発生した3例,colitic cancer6例の計22例とした.dysplasiaの内視鏡所見は,顆粒・結節状隆起9例,扁平隆起4例,平坦粘膜3例などである.早期癌はⅡc,Ⅱa,Ⅰsp,Ⅰs,結節集簇様など多彩で,進行癌では3型,5型と浸潤傾向の強いものが多かった.dysplasiaおよび早期癌の見つけだし診断には,色素撤布と拡大観察が有用で,dysplasiaの病変は,Ⅳ型pitやⅢs~ⅢL型pitが粗に観察される.これらの所見に注目して標的生検することが診断には効率的である.

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要旨 最近の電子内視鏡の高画質化により,潰瘍性大腸炎に合併する早期大腸癌やdysplasiaの内視鏡診断が可能になってきた,慢性に経過する潰瘍性大腸炎には大腸癌の合併がみられ,surveillanceの重要性が指摘されている.surveillance colonoscopyは緩解期の患者を対象に十分な前処置のもとで行うのが望ましく,隆起性病変を見逃さないのはもちろんのこと,平坦な病変の拾い上げのために発赤・褪色調変化などの粘膜の色調の変化や表面構造の異常に注意することが大切と考えられる.潰瘍性大腸炎に合併する早期癌やdysplasiaにおいてもその多くは通常の早期癌,大腸腺腫に類似したpit構造を呈しており,色素撒布および拡大観察を併用することにより診断の精度が向上すると思われる.

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要旨 潰瘍性大腸炎関連大腸癌4症例5病変を対象に本症におけるEUSの診断的意義について検討した.浸潤癌の存在診断は内視鏡検査よりもEUSのほうが優っており,1例ではEUS診断が内視鏡診断に先行した.質的診断においては浸潤癌で境界不整な低エコーから癌の診断が可能であり,病変内部にみられる斑状のさらに低エコーの領域は粘液癌に対応した.しかし,粘膜癌やdysplasiaでは炎症による隆起との鑑別はできなかった,深達度診断についても機種を適切に選択すれば良好な診断能が得られると考えられた.またEUSは狭窄や隆起性病変がみられた際に浸潤癌の存在を否定する判断材料でもあった.少数例での検討であり可能性を示唆するにとどまったが,浸潤癌の存在診断を見落とさないためにはサーベイランスにEUSを併用することが有用である可能性がある.

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要旨 潰瘍性大腸炎(以下UC)合併sm以深浸潤癌7症例を用いて,そのsm以深浸潤部と随伴粘膜内腫瘍部の組織所見を検討した.随伴粘膜内腫瘍は腺癌と腺腫とに診断された.粘膜内癌の組織型は高分化~低分化・印環細胞癌まで多彩であった.高分化腺癌は①通常型,②表層分化型,③BC型(basal cell proliferation),④PC型(pancellular dysplasia)の4型に分類され,低異型度癌が高頻度であった.sm以深浸潤部癌は低分化腺癌・印環細胞癌・粘液癌と高分化低異型度癌の頻度が通常大腸癌に比べ高く,UCに発生した高分化腺癌は低異型度であっても粘膜下層浸潤能が高い可能性が推定された.粘膜下層以深に浸潤しやすい癌に特異的な組織所見は得られなかったが,BC型粘膜内癌は他の型とは異なる発育様式を示す浸潤癌に生長する可能性が示唆された.

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要旨 潰瘍性大腸炎(UC)のdysplasiaはcolitic cancerに進展していくリスクの高い前癌病変であるため,多くは全大腸切除の適応である.内視鏡的に認知できる隆起を伴ったdysplasiaはdysplasia-associated lesion or mass(DALM)と呼ばれており,特に初回検査で診断された症例はlow grade dysplasiaであっても浸潤癌を合併していることがある.DALMの多くは不整な粗大顆粒状あるいは絨毛様の板状隆起を呈する境界不明瞭な病変(non-adenoma-like DALM)であり,典型例での診断は比較的容易である.しかし,なかには腺腫様のDALM(adenoma-like DALM;Ad-DALM)も認められ,同じくUC患者に発生するsporadic-type adenoma(UC-SpAd)との鑑別が問題となる.UCの内視鏡的・組織学的罹患範囲外に発生した境界明瞭な病変はUC・SpAdと診断してよいが,罹患範囲内に発生したpolypoid dysplastic lesionについては,その周囲に平坦なdysplasiaや癌が証明されない限りAd-DALMと確定診断することはできない(indeterminate lesion).厳密な鑑別はできないが,UC発症から10年以上経過している50歳未満の患者で,DALMに特徴的ないくつかの組織学的所見とp53強陽性・β-catenin陰性の所見を有するものはprobable Ad-DALMに分類して外科的対応を検討する.UC-SpAdとprobable UC-SpAdはfree marginが確保されていれば一般患者の腺腫と同様の対応が可能であるので,DALMの一部でないことを確認するための病変周辺からの複数個生検が重要な意味を持つ.

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要旨 潰瘍性大腸炎合併大腸癌およびdysplasiaにおける遺伝子変異,さらに癌発生のハイリスク群と考えられる長期経過全大腸炎型潰瘍性大腸炎症例の大腸粘膜におけるmicrosatellite instability(MSI)について検討した.癌あるいはdysplasiaに対して手術施行した,潰瘍性大腸炎12症例,21病変について,loss of heterozygosity(LOH)を検討した結果,LOHは17番染色体短腕(71%)および8番染色体短腕(59%)に高頻度に認められた.βカテニン遺伝子異常は,評価できた14病変いずれにも認められなかった.癌合併2症例のうち,1例の癌病変にAPC遺伝子変異が認められた.大腸癌非合併の長期経過潰瘍性大腸炎14例の大腸粘膜にMSIは認められなかった.

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要旨 症例は34歳,男性.20歳発症の全大腸炎型潰瘍性大腸炎で,慢性持続型に経過していた.発症より10および12年後の大腸内視鏡検査と生検では軽度活動期潰瘍性大腸炎を認めるのみであったが,14年後の内視鏡検査でS状結腸に結節状隆起とⅠs型隆起を認め,生検でhigh-grade dysplasia(HGD)と診断された.X線・内視鏡上,介在粘膜と直腸にも範囲の不明瞭な顆粒状粘膜が散在しdysplasiaが検出された.大腸全摘術を施行したところ,結節状隆起は低分化成分を伴い粘膜下層深部に浸潤した癌,Ⅰs型隆起はHGDであった.これら2つの病変の周囲粘膜およびS状結腸と直腸にはdysplasiaが多発していた。本例における癌は比較的短期間に発育・浸潤したと考えられた.

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要旨 患者は65歳,男性.全大腸炎型の潰瘍性大腸炎と診断され,発症後6年目に当科を受診.外来通院治療を続け,翌年の発症後7年目からサーベイランス内視鏡検査を開始した.発症後8年目のサーベイランス内視鏡検査にて,S状結腸にDALMを認めたため手術を施行した.患者の希望により,結腸左半切除術を施行した.切除標本にて,DALMの部分には癌を認めなかったが,DALMとは離れた平坦粘膜部に浸潤癌(sm癌)が認められた.組織型は,高分化~中分化腺癌で,静脈侵襲,リンパ管侵襲は認められず,リンパ節転移も認められなかった.術後,5年経過した現在も,再発は認められず,また残存大腸のサーベイランス内視鏡検査でもdysplasiaは認められていない.

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要旨 43歳,女性.31歳時より血性下痢で発症.都立駒込病院内科で治療を継続,寛解状態にあったが43歳のフォローアップの精査時に直腸隆起性病変を指摘された.大腸全摘術を施行され切除標本では大腸全体に粘膜萎縮,瘢痕を認めたが炎症細胞浸潤は軽度で寛解状態にある潰瘍性大腸炎の状態であった.主病変は粘膜下層に一部浸潤する高分化腺癌であり,それ以外にも広範に異型腺管が認められ,一部は微小粘膜内癌と診断しうるものであった.

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 本誌第36巻10号に掲載されました中島寛隆先生の「消化管疾患の肉眼所見に関する用語」に対して質問させていただきます.

 1304頁「島状粘膜残存」での説明ですが,これはいわゆる“Insel”のこととしての説明と考えました.しかるに中島先生は説明として,“文字どおり解釈すると正常粘膜の取り残しと捉えられるが,実際には癌性びらん・潰瘍による再生粘膜から成るものが多い.”と記されています.たしかに“Insel(島状粘膜残存)”は,“正常粘膜の取り残し”で良いのですが,“癌性びらん・潰瘍による再生粘膜から成るもの”は「聖域」と呼ばれるべきものであると私は理解しています.もちろん,その成因も違っているわけで,中島先生は言葉の使い分けもなく,また成因の違うものをあたかも同じものとして述べておられます.

学会印象記

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 第88回日本消化器病学会総会は2002年4月24日から26日の3日間,旭川で牧野勲会長(旭川医科大学第2内科)により単独開催された.会場は12会場があてられた,地方都市での開催では避けられないことではあるが,本会の開催施設も旭川市民会館,旭川グランドホテル,ニュー北海ホテルの3施設に分かれていた.ただし,旭川市民会館,旭川グランドホテルはほぼ隣接しており,移動には全く問題なかった.また,ニュー北海ホテルもそれほどの距離はなく,特にストレスはなかった.逆に,ぶらぶら歩いて10分ほどの移動で,さわやかな4月の北海道を体感できた.

 本会は「生命情報の学習と活用」の基本理念に沿って,シンポジウム8企画,パネルディスカッション8企画,ワークショップ8企画,計24の企画が行われた.さらに,特別講演3題,招待講演1題,理事長講演,会長講演,国際シンポジウム3企画も行われ,盛りだくさんの内容であった.さらに,社会問題にまで発展している医療事故を防止するために「消化器領域におけるリスク・マネジメント」が特別に企画された.

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欧文目次

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 1年ほど前,馬場先生に3か月だけのトレーニングを受けたX線技

師さんが撮影した集検フィルムを見せて頂いて驚いた.私の病院で3年くらいトレーニングした医師が撮ったフィルムよりはるかに診断価値が高い写真だった.医師が撮影するルーチンX線検査も,何とか考え直さなければと思っていた矢先にこの本が出版された.

 一読して感じるのは,新しい検査法を指導された馬場保昌先生の妥協のない学問に裏打ちされた,X線診断学に対する強固な信念と実力,そしてその素晴しさを肌で感じて一途にX線検査に打ち込まれた多数の技師さん方の時間とエネルギーである.まさに現代社会ではほとんどみられなくなった,“塾”の産物と言えよう.その成果もすばらしい.本書に示された資料によると全国の職域検診における胃癌発見率は0.04%であるのに対し,東京都予防医学協会の新しい検査法による胃癌発見率は0.07%,しかも早期胃癌率は80%に達している.また,癌研健診センターの成績では胃癌発見率は古い方法の0.14%から新しい方法では0.3%に上昇し早期胃癌率も67%から92%と驚くべき成績の向上をみている.それにも増して新しい検査法の価値は提示されたX線写真を見れば一目瞭然である.

編集後記 武藤 徹一郎
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 潰瘍性大腸炎(UC)におけるcancer surveillance(CS)がようやく始動しはじめたようである.第55回大腸癌研究会のアンケート調査で,わが国でも癌合併頻度が2%未満(10年),5%前後(10年~),10%以上(21年~)と経年的に上昇することが明らかにされた.この記録は多方面で利用しうる貴重なものとなろう,UCの罹患率,大腸癌の発生率が年々上昇しているわが国の状況を考えると,CSの重要性はますます高まるに違いない.現時点では欧米の経験に従った方法の導入しかないが,経験を積むに従って日本独自の方法が開発されることが期待される.色素撒布,拡大内視鏡の活用などがその1つであろう.7年以上の経過を有する左側大腸炎,全大腸炎に年1回のtotal colonoscopyを行い,DALMから生検を採取し,その他に10cm間隔に生検を採るという欧米のマニュアルがわが国でもそのまま通用するかどうかは,上述した内視鏡の新しい技術を含めてわが国が独自に検証しなければならない.本特集にはこの方法がよかった例と問題があった例の両方が報告されている.経験の少ない間は,とにかくマニュアルどおりに行うことであり,活動期にCSを行わないという決まりもきちんと守るべきである.dysplasiaと癌の異同に関しても,まずは欧米のプラグマティズムに見習うことが肝要である.その意味でも,本特集が今後のわが国での適切なCSの普及に役立つことを期待している.

基本情報

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胃と腸
37巻7号 (2002年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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