胃と腸 37巻8号 (2002年7月)

今月の主題 炎症性腸疾患と腫瘍(2)潰瘍性大腸炎以外

序説

大腸の炎症と癌 下田 忠和
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 今月号は潰瘍性大腸炎以外の炎症性疾患に伴う大腸癌の特集である.周知のように潰瘍性大腸炎以外の炎症性腸疾患では長期経過による発癌の頻度は低く,散発的にCrohn病,腸結核,放射線性腸炎,日本住血吸虫症などに併存した癌の症例報告がみられる程度である.そこで本特集ではこれらの炎症性疾患における癌発生の現状がどうなっているか,主として文献考察を行うことになっている.炎症が直接癌発生と関連している証拠は,粘膜に異形成(dysplasia)の存在あるいは高度の再生異型の存在を確認することである.しかしこれらの疾患でその関係を詳細に記載したまとまった報告はほとんどないようである.近年Crohn病に発生する癌は直腸あるいは他部位の瘻孔と関連しているとの報告がなされている.最近ではCrohn病は内科的治療によって経過観察をされることがほとんどで,今後長期経過の症例の増加とともに癌発生例の報告が出るかもしれない.いずれにしても炎症がコントロールされると,潰瘍性大腸炎と同じく癌発生の危険性は低くなり,日本ではますます症例報告が主体となるであろう.しかしこれらの臨床所見ならびに病理所見を十分に記載することが最も重要である,炎症と癌の関係は潰瘍性大腸炎がそうであるように,持続性の炎症が粘膜腺管の細胞動態に異常を来した結果発癌と結びつくと考えられる.また炎症が広範囲に及ぶと発癌の危険性も高いと考えられる.そのようなことが症例報告からある程度その実態が判明できればと思っている.

 炎症と大腸癌は第55回大腸癌研究会の主題として取り上げられ,その際,colitic cancerの全国的なアンケート調査が行われた.潰瘍性大腸炎が主であるが,その実態が明らかにされることであろう.また潰瘍性大腸炎では,発癌防止あるいは早期発見のためには,その診断からの経過観察(サーベイランス)のやり方が論議されている.今回は多数例の潰瘍性大腸炎の経過観察を行っている施設の先生方による座談会が組まれている.今後の日常診療における経過観察の方法について何らかの示唆が得られることを期待している.

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要旨 過去12年間に当センターで経験したCrohn病の癌化例は小腸癌と直腸癌の異時性癌1例,直腸癌1例,痔瘻癌3例の5例6病変であった.それらの癌化例をもとに臨床病理学的特徴,癌化の発生形式,治療上の注意点を検討した.癌発見時の平均年齢は35歳,Crohn病の病脳期間は14.8年であり,病理組織学的所見では粘液癌5病変,中分化腺癌1病変であった.癌化の発生形式を①びまん性びらん病変からの癌化,②瘻管病変からの癌化,③common cancerに分類した.①のびまん性びらん病変からの癌化は潰瘍性大腸炎のcolitic cancerと同様な発生機序であると考えられた.また狭窄病変の口側や小腸の検索は困難なため,全例に有効なsurveillanceを行うことはできないであろうが,10年以上のCrohn病罹患歴の患者にはできる限り癌を念頭に置いた検索が必要である.特にびまん性のびらん病変や瘻孔病変を有する患者には注意を要する.

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要旨 腹部放射治療後の放射線誘発大腸癌として本邦にて症例報告された58症例63病変を対象とした.放射線治療が施行された原疾患としては,婦人科腫瘍が95%を占めた.大腸癌罹患時の年齢の中央値は67歳(38~80歳)であった.放射線治療から大腸癌発生までの期間の中央値は17年(2~35年)であった.出血症状と便通異常を主訴とする症例がそれぞれ52%を占め,また発生部位は直腸前壁が54%と多かった.病理組織学的には粘液癌が24%を占め,また72%の症例において病理組織学的にchronic radiation colitisの合併を認めた.大腸癌罹患後の生存期間の中央値は3年(1か月~25年)であった.

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要旨 大腸結核に侵された領域内にみられた大腸癌―大腸結核関連大腸癌―の61論文を解析し,以下の成績を得た.(1)病歴,胸写:肺結核などの既往を有する21例では,20例が9~59年前に罹患,治療された病歴を有していた.大腸結核と確診された14年および19年後に腸結核関連大腸癌が発生した2症例がみられた.(2)腸結核関連大腸癌の95%は右側結腸にみられた.(3)肉眼型:2型癌は2例(3.3%)のみ,粘液癌または粘液成分を有するものは42.6%にみられた.(4)癌巣以外の活動性潰瘍は23.0%にみられたにすぎなかった.線維症も萎縮瘢痕帯もなしと記載されたものは1例のみであった.(5)腺腫または異型上皮巣合併例は27.9%であった.萎縮瘢痕帯からの癌化と判断される3報告例がみられた.上記成績に考察を加え,腸結核の萎縮瘢痕帯は癌化のポテンシャルを高めると推測した.

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要旨 Crohn病に合併した大腸癌4例(以下CD合併大腸癌)の臨床病理学的特徴を検討した.さらに,その4例に本邦報告例11例を加え,本邦におけるCD合併大腸癌の特徴をまとめた.自験例を含む本邦報告例15例の特徴として(1)癌の診断時年齢は平均52.7年と若年であった.(2)癌発症までの罹病期間は平均15.2年と長期間であった.(3)発生部位は,すべてCrohn病の病変内に発生し,15例中4例では,その近傍に痔瘻,瘻孔を伴っていた.(4)すべて単発の癌であった.(5)15例中1例に,dysplasiaが認められた.(6)組織型は,15例中7例(46.7%)が粘液癌であった.若年発症,長期の罹病期間,Crohn病の病変内に癌が存在すること,比較的まれな粘液癌を高率に合併していたことより,Crohn病による長期間の炎症性変化が,発癌に関与していることが示唆された.また,通常,非IBD大腸粘液癌はp53過剰発現の頻度は低いのに対し,Crohn病に合併した大腸粘液癌3例すべてにp53過剰発現が認められた.そのことより,Crohn病合併大腸癌でも,潰瘍性大腸炎と同様,p53過剰発現が発癌に関与していると考えられた.

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要旨 炎症性腸疾患と大腸癌の臨床病理学的特徴について,主として本邦文献を渉猟して検討した.放射線腸炎および大腸結核合併大腸癌は通常大腸癌と比較し年齢差を認めなかった.Crohn病および潰瘍性大腸炎合併大腸癌は明らかに若年に認められた.これらの4疾患に合併した大腸癌の肉眼型では,通常大腸癌にみられる2型の頻度は著しく少なかった.また組織型は通常まれな粘液癌を高頻度に認めた.それらの原因としては,これらのいずれの炎症性腸疾患も,粘膜下層に線維化がみられ,粘膜下層に腫瘤を形成できないこと,線維化によって,管腔内に粘液が排泄できないことが考えられた.炎症性腸疾患と大腸癌の合併は,炎症の好発部位に発生する頻度が高いことから偶然ではないと考えられた.

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要旨 患者は54歳,女性.1982年に小腸型Crohn病と診断され,栄養療法を行うも緩解と増悪を繰り返し,1993年には小腸造影検査で回腸S状結腸瘻を指摘された.2000年2月に水様性下痢と腹痛が増悪したため,当科入院となった.大腸内視鏡検査時のS状結腸の瘻孔開口部よりの生検から腺癌組織が検出されたため,瘻孔部を含めた回腸部分切除術およびS状結腸切除術を行った.切除標本の病理所見では,瘻孔部付近の回腸縦走潰瘍部を中心として固有筋層まで浸潤する高分化から中分化型腺癌を認めた.しかし,術前の画像診断はもとより切除標本の肉眼的観察においてさえも,癌の存在や浸潤範囲を認識することは困難であった.以上の症例の詳細な報告とともに,小腸癌を合併したCrohn病を文献的に集積し,その臨床像を解析した.

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要旨 患者は70歳の女性.1994年2月に腹痛にて近医を受診した.注腸X線検査にて,直腸・S状結腸に狭小化が認められ,精査目的にて紹介入院となった.ゾンデ小腸造影検査では回腸遠位部にも狭小化を認め,注腸X線検査にてS状結腸に腫瘍性病変が認められた.既往症として1967年に,子宮頸癌にて放射線治療が施行されており,放射線腸炎に合併した大腸癌を疑い,Miles' operationおよび回腸部分切除術が行われた.術中内視鏡検査にてS状結腸に1型の隆起性病変が認められた.病理組織診断は放射線腸炎に合併した大腸粘液癌であった.放射線誘発大腸癌と考えられる1例を経験したので報告した.

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要旨 子宮体癌の放射線治療後,照射野内に大腸癌が発生した症例(67歳,女性)を経験した,本症例は,その臨床経過から,遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)の可能性を考慮する必要があると考えられたため,MSI試験を施行した.その結果,MSIは検索したすべてのlocusにおいて陽性だった.さらに免疫組織化学的検討により,腫瘍部においてhMSH2蛋白の発現消失を認めた.生殖細胞変異を検討した結果,hMSH2遺伝子に遺伝子多型とされるミスセンス変異を認めたが,明らかな病的変異は今のところ見つかっていない.本症例では,経過中に照射野内に3つの腺腫成分を伴う癌が多発しており,さらに背景粘膜には放射線大腸炎の所見とともに,異型腺管が散在していた.MSI陽性を示す放射線誘発大腸癌はまれであり,本症例は放射線二次発癌とミスマッチ修復異常の関連が示された貴重な症例である.

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要旨 症例は68歳,女性.31歳時に子宮頸癌の診断で外科的切除と放射線療法を受け,59歳時に放射線小腸炎のため小腸部分切除の既往あり.左下腹部圧迫感が出現したため大腸X線・大腸内視鏡検査を施行したところS状結腸に管状狭窄と粗糙粘膜および周囲に透亮像を伴う潰瘍性病変を,横行結腸に扁平な隆起性病変を認め,ともに生検にて高分化型腺癌と診断されたため,拡大左半結腸切除術を施行した.切除標本では放射線大腸炎罹患部であるS状結腸に深達度ssの進行癌を認め,癌の一部と周囲粘膜にはdysplasiaを伴っていた.さらに進行癌周囲のS状結腸には,放射線大腸炎に合致する組織学的変化を認めた,また,放射線照射域外の横行結腸に深達度mのⅡa+Ⅱc型早期大腸癌も認めた.本例の進行癌は放射線大腸炎を背景に発生したと考えられた.

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要旨 62歳,女性.32歳時に子宮体癌に対し子宮全摘,両付属器切除,骨盤リンパ節郭清,およびラジウム針挿入を受けた.以後数年間放射線性腸炎のため少量の下血が持続したが,自然消退した.29年を経て下血で発症.注腸造影および大腸内視鏡で直腸潰瘍性病変を指摘された.Miles手術,腔合併切除を施行され,切除標本では主病変は周堤形成のない小さい潰瘍性病変であったが,固有筋層外に一部浸潤する高分化腺癌であった.背景では直腸病変周囲に広範な線維化と壁肥厚,内腔閉塞などの動脈変化を認め放射線性腸炎による変化が認められた.

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要旨 症例は,54歳,女性.下血にて近医を受診し,画像所見より腸結核が疑われ抗結核療法を約1年間施行された後,患者の希望により当科紹介となった,注腸X線および内視鏡所見では上行結腸から盲腸にかけて腸管の短縮および変形を認め,ハウストラは消失していた.上行結腸から盲腸にかけて瘢痕萎縮帯を認め,回盲弁は開大していた.上行結腸下部の瘢痕萎縮帯内に丈の低い均一な顆粒状隆起から成るⅡa集簇型病変を認めた.病変の大きさは約7cm長で管腔の全周を占めていた.同病変の拡大内視鏡所見ではⅡ型とⅢL型pitの混在する部とシダの葉様(ⅢH型)とⅣ型pitの混在する部分が認められた.腸切除標本では,回腸末端から上行結腸にかけて,多発性の潰瘍瘢痕とびらんの形成がみられ,開放性潰瘍部の粘膜下層には非乾酪性肉芽腫が散見された.上行結腸下部の潰瘍瘢痕帯部に,7.6×5.5cm大のⅡa集簇型病変を認めた.病理組織学的に,同病変は粘膜内に乳頭状に増殖する異型腺管群から成り,異型度の高い部分と異型度が低く再生性あるいは過形成性上皮様の部分が混在するdysplasiaと診断された.すなわち,このⅡa集簇型病変は結核性腸炎に合併したdysplasiaと考えられた.本邦では,大腸結核にdysplasiaがDALMの形態で合併した例は今までに報告されておらず,興味深い症例と考えられた.

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surveillanceの現状

 下田(司会) 本日は,お忙しいところをお集まりいただいてどうもありがとうございました.本日の座談会は「colitic cancer surveillanceのあり方をめぐって」ですが,colitic cancerと言いましても,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)に合併,あるいは続発してくる腫瘍性病変が日常臨床ではほとんどだと思いますので,その点に的を絞ってお話を進めていきたいと思います.よろしくお願いいたします.

 まず,ご出席いただいた先生方の5施設の中で,実際どのようにsurveillanceを行っているのか,行っているか,行っていないかを含めて,お聞きしたいと思います.

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 〔患者〕50歳,女性.1995年人間ドックで十二指腸の異常陰影を指摘されたことあり.そのときは他院で内視鏡を受け粘膜下腫瘍と診断された.1998年6月健康診断のため胃内視鏡検査を受け,十二指腸の腫瘍を指摘され当科紹介となる.末梢血液所見,生化学検査等には異常は認めなかった.

 〔腹部超音波所見〕十二指腸に1.6×1.8cmの低エコーの腫瘤を認め,内部は比較的均一で境界は比較的明瞭であった(Fig.1).

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欧文目次

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 上部消化管X線検査に励む医師,放射線技師にとって最良の教科書が馬場塾の放射線技師の筆により,馬場保昌先生の解説を加えて,発行された.

 撮影X線装置の開発と高濃度造影剤の開発によって,微細な粘膜面がコントラストの良い鮮鋭な画像として得られている.二重造影の利点を十分に生かし,体位変換手技を工夫することによって,その欠点とされていた造影剤の付着不良や小腸流出に伴う読影不能領域の増大などの問題が大幅に減少した.ここに,今なお胃X線検査は健在であることを証明してくれた.馬場先生の情熱と地道な努力,弟子の指導は見事であるが,名人芸とか達人として別扱いしてほしくない.

編集後記 工藤 進英
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 サッカーのワールドカップが終わった.わが家は決勝戦の開催された横浜国際競技場の近く,幸い大観衆の中でこの試合を観戦できた.強豪国のチームが相次いで一次リーグで脱落する中,わが日本代表は決勝リーグへ進出できた.快挙と言わねばならない.しかし世界のトップに向って進むにはもう一つ越えなくてはならない山がある.

 さて,今号の特集は「炎症性腸疾患と腫瘍(2)潰瘍性大腸炎以外」である.炎症“関連”の大腸腫瘍の本体についてはまだまだわからない点が多い.筆者は世界中至る所に出かけていって大腸内視鏡検査と診断を行っている.zoom up内視鏡で,正常・非腫瘍性・腫瘍性などの基本的鑑別が可能であるとするのがわが国の大腸診断学の常識である.ところが,外国の多くの施設では内視鏡診断不可能という理由で,潰瘍性大腸炎の症例に対しては必ずstep biopsyを強要される.pit patternからdysplasiaではないと明確にわかるのにである.まったく閉口する.

基本情報

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胃と腸
37巻8号 (2002年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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