胃と腸 34巻9号 (1999年8月)

今月の主題 早期胃癌のEUS診断

序説

早期胃癌のEUS診断 神津 照雄
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 胃癌の診断学においてわが国では二重造影法と内視鏡形態診断が並行・切磋琢磨しながら発展進歩してきた.粘膜表面の凹凸をとらえ,かつ表面の色調から癌の深達度診断を行ってきたのである.そして1980年代始めごろより新たに消化管粘膜表面の断層像から深達度診断を行おうとする超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography; EUS)が参入してきた.今日ではそれぞれの利点を強調しながら,あらゆる消化器疾患診療の臨床の現場に取り入れられてきている.更に最近では細径超音波プローブの普及により,改めて構えることのない体腔内超音波検査に発展している.しかし本当に超音波内視鏡は胃癌深達度診断に貢献しているのか,また初心者はどのような読影をすべきなのかということが本号の企画に発展したと言えよう.あまりにも多くの分類に戸惑いを感じてきているからである.食道癌や大腸癌と比較して,胃癌の診断では潰瘍の線維化に伴う変化を読みとることが必要である.早期胃癌では潰瘍線維化を伴うことが多いのにもかかわらず,癌と線維化のエコーレベルの差が表現できない.したがって5層構造の基本のもとに潰瘍性変化を加えたパターン分類が必要となる.その分類が若い人を指導する立場の専門家で表現が異なるからいっそう難解となる.しかし,種々ある誰々の分類も,組み糸をほどけば5層構造と潰瘍線維化の組み合わせにすぎない.X線・内視鏡による早期胃癌の形態分類を作成したころの激しい討論を振り返り,各人のpriorityを尊重しながら歩み寄り,そろそろ超音波内視鏡画像パターン分類の統一を期待したいものである.

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要旨 早期胃癌の代表的なEUSによる深達度分類をUl(+)病変を中心に比較検討した.m病変では,第3層が両側性に胃内腔側に向かって滑らかに先細り状に収束し,同部に扇状の低エコー域を認めることが基本である.若干のニュアンスの違いはあるが,各報告者間には一致点も多いと思われる.一方,sm癌では,先細りする第3層の先端に不整を認めるもの,弧状に中断するもの,第3層の低エコー域が境界不明瞭に中断するもの,胃内外に軽度壁肥厚を認めるものなどとそれぞれの分類が大きく異なっている.すなわち,Ul(+)sm癌の診断基準を煮詰めることで,EUSによる深達度分類の統一が可能になるものと考えられた.

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要旨 切除胃癌例1,880病変のうち早期胃癌1,133病変を主な対象として超音波内視鏡の深達度診断能の検討を行った.胃癌全体の深達度診断成績は,m癌は91.5%,sm癌は68.7%,mp癌は64.9%,ss癌は74.6%,se癌は83.5%,si癌(非切除例を除く)は61.3%であり,全体では79.6%(1,496/1,880病変)であった.肉眼型別の検討では,パターンによる陥凹型の深達度診断を用いても,Ⅱc+ⅢおよびⅠ型早期胃癌の成績が通常型超音波内視鏡,細径超音波プローブともに他の群と比較し約10%不良であった.sm亜分類別の検討では,浸潤が1,000μmを超える病変では良好な成績が得られているが,これ以下の微少浸潤例の成績は不良であった.しかしながら,三次元超音波内視鏡の診断能は良好で500μm前後の浸潤まで正診しえており,微少浸潤の問題をある程度解決してくれるものと思われた.

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要旨 胃癌325例に対するEUSの深達度診断正診率はm74%・sm71%・mp以深91%・全体で81%であった.早期胃癌181例の病巣内潰瘍の併存率はm癌45%・sm癌21%であった.粘膜下層から深層へ扇状に拡がる線維化巣は併存潰瘍の所見であった.この所見が明瞭に認められない併存潰瘍の線維化巣は癌浸潤に伴う線維化巣との鑑別が困難であった.EUS・X線・内視鏡の深達度診断の正診率は,部位では胃体下部~中部でEUSがX線・内視鏡を上回った.sm癌は大きさ・肉眼型によらずEUSがX線・内視鏡を上回った.潰瘍併存例ではEUSはX線・内視鏡と同様にsm1の診断が困難であった.しかし,潰瘍非併存例ではEUSがsm1・sm3の診断に優れていた.

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要旨 内視鏡的超音波断層法(EUS)を用いた胃癌深達度診断では,機器の改良によって詳細で明瞭な断層像の観察が可能となっている.すなわち,振動子の高周波数化や観測装置の改善は病変超音波像をより組織ルーペ像に近い形で表示できるようになった.従来,無エコーに近い低エコー層として内部エコーの評価に限界のあった画像も低エコー実質層として表現できるようになっている.この描出能は内視鏡治療の対象となる早期病変診断の客観的な情報として活用できるであろう.しかしながら,機器の改善に対し,自験例における癌深達度判定は改善の一途をたどっているとは言えない.診断基準の改訂を求めるのも1つの方法だが,連続像による診断や,分解能の高い画像の自動解析など新しい解析手法の開発が求められる.

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要旨 通常内視鏡の鉗子孔を介して使用できる高周波数細径プローブを用いた超音波内視鏡検査(EUS)の臨床応用は,EUSそのものを容易とするとともに,比較的小さな早期胃癌病巣の狙撃的かつ詳細な走査(厚さ約0.2mmの粘膜筋板レベルまで)を可能とした.筆者らの検討では,細径プローブEUSの早期胃癌における深達度正診率は約7割であり,通常内視鏡検査と比較して深達度を深めに診断する特性を有しているため,逆にM癌とした場合の正診率は高かった.このような診断特性を把握した上で通常内視鏡検査とEUSの診断結果を総合することが,医師および患者本人による治療方針の選択において,有用な術前深達度情報を提供するものと考えられた.

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 芳野(司会) 超音波内視鏡が開発されてよりほぼ20年が経過し,各種の疾患に対して超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography;EUS)が行われ,その有用性は確立していると言えます.一方,胃癌については,内視鏡的粘膜切除術が広く行われ,早期胃癌の深達度診断の精度を更に向上することは重要な課題です.

 早期胃癌のEUS診断では,癌巣内潰瘍を伴うものが多く,超音波像では癌巣内潰瘍に伴う線維成分と癌組織を判別できない問題点があります.このため,EUSによる胃癌の深達度診断は実際のところそれほど良くありません.しかも,癌巣内潰瘍を伴う早期胃癌も含めて,各人各様の早期胃癌の分類が発表され,わかりにくいとの批判もあります.しかし,熟読するとこれらは類似している部分が多々あります.

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 はじめに,読影者8名の胃癌の深達度診断における指標をTable 1に示す.現状における深達度診断の各人における方法が理解されたと思われる.なお,この分類の詳細については前項の論文を参照していただきたい.

 さて,本読影講座において症例は隆起型癌2例,陥凹型癌8例で,そのうちⅡc型〔Ul(-)〕が3例,Ⅱc型〔Ul(+)〕が2例,Ⅱc+Ⅲ型が2例の計10例についてEUSによる深達度診断を行った(Table 2).深達度の内訳はm癌5例,sm癌4例,mp癌1例で,読影にあたり前述したように進行癌を含むとして開始した.8名の読影者によりEUS像3枚の読影した深達度の成績をTable 3に示す.全体で67%(48/72)の正診率であった.深達度診断において問題となる癌巣内に潰瘍性変化を伴う症例を多く含んでいるためと考えられた.一方,X線・内視鏡診断は正診率が57%(41/72)であった(Table 4).X線像・内視鏡像が各1枚のみの提示であったことによると考えられた.

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 〔患者〕43歳,女性.1993年9月ごろから臍周囲痛が反復していた.軽度の貧血(Hb 11g/dl)はあったが,病歴上,下血の既往はなかった.1994年2月,前医を受診し,胃小腸X線検査で下部回腸に隆起性病変を指摘され,精査目的にて当科を紹介受診した.

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 〔患者〕69歳,男性.1997年5月初旬より心窩部不快感を自覚し近医受診.胃透視,内視鏡検査で異常を指摘され,同年5月20日精査目的のため当院紹介受診となる.

Coffee Break

内視鏡奮戦記(2) 武藤 徹一郎
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 2.大腸内視鏡検査実演の顛末

 St. Mark病院における大腸内視鏡(CF)に対する反応は大変冷ややかなものであった.当時そんな器械があることを知っている人は世界でもほとんどいなかったし,St. Mark病院では良質の注腸二重造影の技術があるから,そんなおもちゃのような器械(medical toy)はいらないというわけである.師のDr. Basil Morsonはもう少しは理解してくれたが,最初はあまり積極的な反応を示さなかった.あのときDr.Christopher Williamsがいなかったら,事はうまく運ばなかっただろうし,2人の人生も全く違ったものになっていただろう.

 彼は当時,内科の研究生として免疫の研究をしていたが,私がCFを持参したことを聞きつけて大変興味を示したのである.患者を集めるから1度デモンストレーションをやれという.大腸専門の病院であるから有疾患者を選ぶのは簡単で,とにかく4人の患者が集められた.ある日の午後(いつだったか思い出せないが,到着してからそれほど日は経っていなかったと思う),X線室でデモをすることになった.話だけでは興味を示さなかった医者たちも,このときばかりはたくさん集まり,小さな部屋は人で埋まっていた.最初の患者はCrohn病で,回腸直腸吻合を行った術後の下痢の原因が知りたいという.後から思えば吸引・レンズクリーナーが自動でないCFをこんな状態の患者の直腸に挿入するなんて,無謀としか言いようがない.CFは黄色い糞汁内へ突入し,サクションはさっぱり効果なく,緩んだ肛門からは糞汁がどんどん漏れ出てくる.最近の電子スコープと違って集まった見物人には何も見えず,何の説明もなく(当時の私にはできるはずもない!),小さな部屋は糞臭に満たされるという惨憺たる結果になった.見物人は1人減り,2人減り,…そして誰もいなくなった.残る予定の患者の検査がどうなったのかも記憶に定かではないが,第1例目だけは当時の状況をまざまざと思い出すことができる.

症例からみた読影と診断の基礎

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〔患者〕40歳,男性.主訴:粘血便.現病歴:インドネシアに渡航し,1か月後から粘血便および肛門不快感が出現した.症状が持続したため,4か月後に当院を受診した.同性愛歴はない.

リフレッシュ講座 病理検査手技の基本・3

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はじめに

 1950年前半,胃カメラ,X線二重造影法,集団検診の導入により早期胃癌症例の発見数が増加するようになり,1964年にはファイバースコープ直視下胃生検による早期胃癌の組織診断がなされるようになった.それとともに異型上皮から成る限局性病変から生検組織が採取されることが多くなり,異型上皮と癌との組織学的鑑別診断が問題となった.一方では早期胃癌の発見がまだ一般的ではなく,早期胃癌の病理組織診断経験に乏しい病理医が情報量の少ない小さな生検組織を診断していたがために,早期癌でありながら生検組織で癌と診断されない症例が増加しはじめた.このように早期胃癌の診断が普及しつつある時代においては,この異型上皮と早期癌との病理組織学的鑑別診断の問題を解決することが強く要請され,胃癌研究会で胃癌生検組織診断のための基準づくりがなされた.これがGroup分類を提唱するようになった時代背景と動機である.

 1971年に提唱された胃癌取扱い規約の胃生検組織診断基準(Group分類)の緒言に,“本分類の目的は,日常の臨床検査において,直視下生検法によって得られた胃粘膜小片の組織学的所見を簡潔な方法で表現しようとするものである.この分類はその主眼を癌か否かの鑑別に置いており,胃癌またはそれと類似の変化を示す境界領域の病変の群別が中心となっている.”とGroup分類の目的が明記されていて,この原則は現在に至っても変わりはない.

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1.はじめに

 日本人にも大腸疾患が増加しており,大腸内視鏡検査のニーズが高まっているが,被検者からみると3Kの検査(苦しい,臭い,汚い)とも4K(3Kに加えて空腹),とも言われており,すこぶる評判が悪い.特にスコープ挿入にあたって,内視鏡医の手技の巧拙に左右され,相性の悪い医者が検査を担当しようものなら“お産よりも辛い検査”になる.いきおいsedationの力を借りて,被検者を半分眠らせた状態で検査を遂行することが常道になっている.

 しかしsedationに伴う偶発症も無視できないし,sedationなしでも短時間のうちに挿入できるcolonoscopistも大勢いるわけだから,内視鏡医は手技の習熟に努めて,被検者にとって楽な検査を目指すべきである.

 大腸内視鏡を少しでも楽な検査に改良すべく,スコープの機構面からの工夫も継続されている.内視鏡医の技術不足は道具で補う……と言えば問題があろうが,ここ数年間で大きい飛躍が期待できそうである.そこでその概略を2回に分けて紹介したい.

早期胃癌研究会

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 1999年4月の早期胃癌研究会は4月17日(水),東商ホールで開催された.司会は幕内博康(東海大学外科)と松川正明(昭和大学附属豊洲病院消化器科)が担当した.ミニレクチャーは多田正弘(埼玉県立がんセンター消化器内科)が「Strip biopsy―その偶発症に対する予防と対策」をビデオで詳細に提示した.合併症の予防と対策に加え分割切除や再発病巣に対するstrip biopsyなど,熱意ある挑戦に感銘を受けた.

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 1999年5月の早期胃癌研究会は5月19(水),一ツ橋ホールで行われ,司会は伊藤誠(名古屋市立大学第1内科)と芳野純治(藤田保健衛生大学第二病院内科)が担当した.ミニレクチャーは「Gastrointestinal stromal tumor (GIST)」を岩下明徳(福岡大学筑紫病院病理)が解説した.

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要旨 患者は52歳,男性.スクリーニング目的に施行した大腸内視鏡検査でS状結腸に病変を認め入院した.注腸X線検査ではS状結腸に大きさ10mm大で類円形を呈する隆起性病変を認めた.病変中央部には星芒状の陥凹を有し,側面像において孤状変形から台形状変形を呈していた.大腸内視鏡検査ではS状結腸に,大部分が正常粘膜に覆われた粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.隆起の頂部には星芒状の陥凹を有し,その周辺にも散在性に小陥凹がみられた.拡大観察を施行したところ,病変頂部の陥凹部はpitが消失していた.同部からの生検で中分化腺癌の診断が得られたため,粘膜下層以深に深部浸潤した大腸癌と診断し手術を施行した.病理組織学的には粘膜下層を主座とし漿膜下層まで浸潤した中分化腺癌であった.病変の形態および発育進展を考えるうえで興味ある症例と考え報告した.

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欧文目次

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 第52回日本食道疾患研究会(1998年)を主催した当番世話人の小泉博義先生が,主題の1つに「見て良かった稀な食道疾患」を取り上げられたところ,全国から110余題の演題応募があった.いずれも1施設ではなかなか経験することのできない大変珍しい興味ある疾患ばかりであった.本書はその研究会の発表演題の中から,貴重な疾患であり,しかも画像のすばらしい58題を厳選しアトラスとしてまとめたものである.

 本書を開くとき,中心となって編集を担当された小泉先生はじめ,編集に携わった先生方の食道疾患の診療に対する情熱が強く伝わってくるようである.

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 熟練外科医の華麗なメスさばきや,一流の神経内科医の流れるような所見の取り方にある種の感動を覚えるように,よくトレーニングされた総合医が,多様な訴えを持つ外来患者を相手にインタビューと身体診察を自在に駆使して,短時間に的確な診断を下し,苦痛に満ちた患者の顔から安堵や笑顔を引き出していくさまは,まさに医療のアートである.

 近年,わが国でも外来診療のための研修の必要性がようやく認識され始めてきたが,疾患の多様性,コストや時間の制約から要求される臨床判断学や社会的なマナーまで,すべて含めて一冊の本にするのはたやすいことではない.ましてそれらを凝縮させたマニュアルとなればなおさらである.その困難な仕事を,本書では卓越した一般内科外来医を執筆者に揃え,構成に工夫を加えることにより見事に成就させている.

編集後記 長南 明道
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 EUS(超音波内視鏡)が世に出て20年が過ぎようとしている.EUSはリアルタイムに消化管壁の断層像が得られるため,早くから消化管癌の深達度診断に期待されてきた.しかし,胃に関してみると,早期胃癌ではUl(潰瘍)を伴うものが多いにもかかわらず,エコーレベル上,癌とUlに伴う線維化巣の鑑別ができない.ゆえに深達度診断における各種のパターン分類が現れたが,Ulを伴わない他臓器に比べ難解であるとの声をしばしば耳にしてきた.そこで本号は早期胃癌に絞って企画がなされた.

 わが国のEUSの第一人者の方々だけあって,各論文とも迫力のあるEUS画像を呈示している.特に安田論文はEUS機器の歴史,および画像の進歩がよくわかり興味深かった.診断能については木田,中村,柳井諸氏がX線・内視鏡と比較しながら詳細に述べている.コンベンショナル型,細径プローブともに,Ul(-)病変ではⅠ型癌,Ul(+)病変では開放性潰瘍を合併するⅡc+Ⅲ型sm癌,更に1,000μm以下のsm浸潤癌において診断が困難であり,X線・内視鏡との併用が大切であるとの論調であった.一方,望月論文をみると,Ul(-)癌,Ul(+)m癌の診断基準は各施設ともよく似ている.残るUl(+)sm癌の診断基準を詰めることで早期胃癌EUS診断基準の統一が期待される.

基本情報

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胃と腸
34巻9号 (1999年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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