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2.大腸内視鏡検査実演の顛末
St. Mark病院における大腸内視鏡(CF)に対する反応は大変冷ややかなものであった.当時そんな器械があることを知っている人は世界でもほとんどいなかったし,St. Mark病院では良質の注腸二重造影の技術があるから,そんなおもちゃのような器械(medical toy)はいらないというわけである.師のDr. Basil Morsonはもう少しは理解してくれたが,最初はあまり積極的な反応を示さなかった.あのときDr. Christopher Williamsがいなかったら,事はうまく運ばなかっただろうし,2人の人生も全く違ったものになっていただろう.
彼は当時,内科の研究生として免疫の研究をしていたが,私がCFを持参したことを聞きつけて大変興味を示したのである.患者を集めるから1度デモンストレーションをやれという.大腸専門の病院であるから有疾患者を選ぶのは簡単で,とにかく4人の患者が集められた.ある日の午後(いつだったか思い出せないが,到着してからそれほど日は経っていなかったと思う),X線室でデモをすることになった.話だけでは興味を示さなかった医者たちも,このときばかりはたくさん集まり,小さな部屋は人で埋まっていた.最初の患者はCrohn病で,回腸直腸吻合を行った術後の下痢の原因が知りたいという.後から思えば吸引・レンズクリーナーが自動でないCFをこんな状態の患者の直腸に挿入するなんて,無謀としか言いようがない.CFは黄色い糞汁内へ突入し,サクションはさっぱり効果なく,緩んだ肛門からは糞汁がどんどん漏れ出てくる.最近の電子スコープと違って集まった見物人には何も見えず,何の説明もなく(当時の私にはできるはずもない!),小さな部屋は糞臭に満たされるという惨憺たる結果になった.見物人は1人減り,2人減り,…そして誰もいなくなった.残る予定の患者の検査がどうなったのかも記憶に定かではないが,第1例目だけは当時の状況をまざまざと思い出すことができる.
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