胃と腸 34巻8号 (1999年7月)

今月の主題 逆流性食道炎―分類・診断・治療

序説

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 筆者が逆流性食道炎に取り組んだ1972年ごろ,胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease; GERD)の概念はまだわが国にはなく,本主題にある逆流性食道炎という言葉が主体的に使用されていた.今日ではdyspepsiaの大きな概念の中にGERDがあり,更に内視鏡所見として捉えられる逆流性食道炎がある.疾患を数・定量化できる方法論である.GERDと逆流性食道炎所見の関連はパラレルでないことは当然である.本主題では逆流性食道炎の分類・診断・治療を目指したものである.欧米で高頻度にみられる高度な逆流性食道炎はなぜわが国に少ないのか,食道癌の組織型の差にも反映する.逆流性食道炎の分類は種々ある.それぞれ逆流性食道炎の自然史の過程で何を重視するのかで差がある.

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要旨 わが国における逆流性食道炎の頻度を,佐賀県における健常成人6,010例を対象として検討した.内視鏡検査で逆流性食道炎を認めた者は全体の16.3%であった.女性の有病率は60歳までは男性より少ないが,それ以上になると急激に増加した.“胸やけ”は対象者全体の28%が訴え,内視鏡所見のある者で44%,内視鏡所見のない者で25%であった.この頻度は過去にわが国で報告されたものよりは高いものではあった.今回の調査で明らかなようにわが国における逆流性食道炎は高齢者の習慣性,または変性性の腰椎後彎症に合併することが多いという点で欧米のそれとはやや異なる特徴を持っている.欧米にみられるように逆流性食道炎が今後増加していくとは断言できないが,治療法や診断法の進歩に伴い,本疾患への関心が高まってきたことは間違いない.

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要旨 逆流性食道炎をretrospectiveに1978年から20年間の関東逓信病院内視鏡センターの記録から検討した.2,341例をロサンゼルス分類に従い検討した.この結果10年単位では確実に逆流性食道炎は増加していること,殊に1996年から増加傾向が加速していること,この原因に無症状のドック検査が大いに影響していることが明らかになった.また,長期観察81例の検討では,治癒するものは少ないが,大多数は不変,または軽快しており,予後については楽観してよいものと現時点では考えられた.

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要旨 ロサンゼルス分類(以下LA分類)の各病期ごとに様々な形態を示す粘膜傷害がどの程度X線で描出されるのか,X線でも粘膜傷害を分類することは可能か検討した.その結果,供覧した10症例のうちgrade A,B,Cの6例全例で粘膜傷害の描出が得られた.grade B,Cの4例では縦走する粘膜傷害9病変のうち7病変をX線的に描出しえたが,grade Aの2例の粘膜傷害4病変のうち2病変を描出したのみであった.なお,横走する陥凹は3病変あったが全例描出しえた.長径5mm以下の粘膜傷害はX線描出は可能であったが,内視鏡所見との対比は十分にできなかった.また,X線では後壁病変よりも前壁病変が描出しやすく,前壁に限れば色調変化型食道炎やBarrett食道も診断可能と考えられた.

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要旨 逆流性食道炎は胃食道逆流症(GERD)の1つの病態を表すものであり,その代表的な疾患である.発生メカニズムは複雑で,食道胃接合部機能に加え食道体部や胃十二指腸の運動,分泌機能も関与する.病態を規定する食道の要因としては下部食道昇圧帯を構成する壁内括約機構(LES)と体部の運動機能が重要である.LESの機能不全に基づく胃食道逆流は,一過性腹腔内圧上昇への反応異常やLES静止圧の異常低値によるfree refluxとして認められ,一過性LES弛緩も注目されている.食道体部では一次および二次蠕動波の出現頻度の減少や圧の低下が問題となり,食道粘膜の組織抵抗性も関与する.これらが食道炎の形態や重症度に関わってくる.

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要旨 胃食道逆流(GER)発生に最も関与する胃,十二指腸の因子は,GER発生の主な原因である一過性下部食道括約部弛緩を誘発する胃伸展拡張刺激である.胃排出遅延も間接的な胃伸展拡張刺激状態となりGERを誘発する.酸分泌は逆流性食道炎(RE)患者と対照の間に差を認めないとする報告が主流である.逆流液で重要なのは酸,ペプシンであり,胆汁酸は高濃度の酸存在下に,食道粘膜障害を起こす濃度の胆汁酸が存在したときに問題となるが,食後にこのような胃液が存在するかは疑問である.トリプシンの酵素活性はpH7.0以上であり,術後症例や高度萎縮性胃炎症例で問題となる.Helicobacter pylori除菌後のRE発症が指摘されているが,必ずしもRE発症のリスクにならないとの報告もあり今後の検討が必要である.

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要旨 胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease; GERD)の特徴的病理組織所見については様々な報告があるが,確定的な見解はいまだにない.われわれは臨床的に明らかなGERDの食道生検材料を組織学的に,対照群と比較検討した.炎症性細胞浸潤,特に好中球・好酸球浸潤はGERD群で対照群に比して高頻度であったが,GERDに特徴的とされる上皮内好酸球浸潤,basal cell hyperplasiaおよび上皮内粘膜固有層乳頭の上昇は対照群と有意差はなく,必ずしも特異的組織所見ではなかった.また,そのほかの病理組織所見や増殖能もGERDに特徴的と言える像はなく,病理組織像のみから診断することは困難であった.GERDの診断は病態を把握し,臨床病理的な総合判断を下すことが重要と思われた.

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要旨 治りにくい食道炎を,①PPI 8週投与でも治癒しない症例,または,②H2拮抗剤の維持療法中に再発しPPIによる維持療法が必要であった症例と定義し,Savary-Miller分類における頻度を検討したところstage Ⅳで高頻度で認められた.変形・狭窄・Barrett食道を有する症例でロサンゼルス(LA)分類のgrade A~Dにおける①の頻度は50,50,78,100%,②の頻度は100,100,78,100%と高値であった.変形の有無別に食道内圧を検討したところ,変形(+)群で下部食道括約部圧が低下していた.よって,LA分類を使用するときは変形の所見を正確に確認することが予後や食道機能を予測するうえで重要であり,また治りにくい食道炎とは食道壁の変形所見を伴うものと結論した.

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要旨 逆流性食道炎に外科的治療を行った症例の成績について内視鏡所見を中心に述べた.食道裂孔ヘルニアで手術施行した37例のうち逆流性食道炎を伴っていた症例は15例で,これらについて術前内視鏡所見と術後の経過について比較した.逆流性食道炎再発例における術前内視鏡所見はgrade 4の症例のうち潰瘍・狭窄を伴った症例であった.再発した2症例は慢性関節リウマチの既往があったが,本疾患との因果関係は不明である.再発時期は術後1年半から3年で,再発後は保存的治療で経過観察している.一方,術前grade 4でも狭窄・潰瘍のみられないような症例では,腹腔鏡下噴門部形成術で軽快治癒しているが,長期成績については今後の課題と考えられた.

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要旨 Helicobacter pylori除菌治療後に増悪した逆流性食道炎の2例を経験した.〔症例1〕は48歳,男性,逆流性食道炎grade A.併存する胃潰瘍の再発抑止の目的で除菌したところ,1年後に胸やけが出現,内視鏡ではgrade B へ進展していた.背景胃粘膜は,除菌前のopen typeからclosed typeに変化していた.〔症例2〕は61歳,女性,逆流性食道炎grade A.広範囲の腸上皮化生を有する萎縮性胃炎であった.除菌後3年6か月で胸やけが出現,内視鏡ではgrade Cへ進展していた.腸上皮化生の胃内分布に変化はなかった.除菌による逆流性食道炎の発症あるいは増悪には,酸分泌の回復と食道胃協調運動の変化の関与が示唆された.

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要旨 患者は48歳,男性.主訴は通過障害.上部消化管造影所見では,下部食道のlcm長の狭窄と十二指腸球部の変形を認めた.内視鏡検査では,ピンホール状の食道狭窄とその口側に潰瘍形成を認めた.潰瘍部以外にヨード不染帯はなく,潰瘍部,狭窄部ともに生検では悪性所見は得られなかった.FDG-PETの結果も加え,逆流性食道炎に基づく良性食道狭窄と診断し,内視鏡的食道拡張術と内服薬による治療を行った.3回の食道拡張術にて,経口摂取可能となり,退院となった.その後,再狭窄と食道炎の増悪を交互に繰り返していたが,現在は酸分泌抑制剤などの投薬にて症状のコントロールが良好であり,外来にて経過観察中である.本例をもとに,食道癌との鑑別診断および良性食道狭窄の治療について考察を行った.

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要旨 患者は70歳,女性.胸やけ,胃液の逆流症状あり.老人検診にて食道裂孔ヘルニアを疑われて,精査目的に来院した.上部消化管X線検査で中等度の滑脱型食道裂孔ヘルニアを認め,食道胃接合部に小隆起性病変を発見した.内視鏡検査では,明らかに挙上した食道胃粘膜接合部に接して半球状の隆起性病変があり,周囲にはびらん性,小潰瘍性病変が認められた.生検組織診断にて食道のpapillomaと診断した.食道炎の治療を開始したところ,粘膜病変は速やかに消退し,papillomaは縮小し,最終的には消失を確認した.

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〔患者〕50歳,男性.1998年2月の人間ドックにて便潜血反応陽性を指摘され,近医で大腸X線検査を受けた.上行結腸・直腸に多発ポリープが認められたため,精査・内視鏡的治療目的に当科紹介となった.

学会印象記

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 第57回日本消化器内視鏡学会総会は金沢大学医学部附属がん研究所所長,金沢大学副学長,がん研究所附属病院外科学講座の磨伊正義教授を会長として,1999年5月10~12日の3日間,金沢市において,金沢市文化ホール,金沢ニューグランドホテル,石川県文化会館(Aブロック),MROホール,エルフ金沢(Bブロック),石川厚生年金会館(Cブロック)の3ブロック,7会場で開催された.すがすがしい五月晴れに恵まれた.A,B,Cブロック間には巡回シャトルバスが運行しており,市内観光気分で乗れた.目的地まで急ぐ場合はシャトルタクシーが配車されており,会場間の移動には不便を感じなかった.朝・夕には金沢駅までのシャトルバスの運行もあり,会員に対するきめ細かい配慮が感じられた.

 本総会の会長講演「Natural historyからみた胃癌の生物学的特性と診断・治療への展開」,特別講演の広島大学第1病理・田原榮一教授の「消化器癌の遺伝子診断の現状と将来」および本学会理事長・丹羽寛文教授の「内視鏡所見の認識,把握を巡って」は基礎と臨床の両面からの広範な内容であり,多くの会員にとって大変勉強になる有意義な講演であった.

Coffee Break

内視鏡奮戦記(1) 武藤 徹一郎
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 最近の大腸内視鏡の進歩は目覚ましい.器械の性能向上はとどまる所を知らず,拡大観察による表面構造の判読から,病変の組織学的性状までが診断できるようになった.ロボット手術(robotic surgery)や遠隔手術(tele-surgery)によって外科医が不要になってくるのと同様に,消化管病変の診断に病理医が不要になるという事態になりそうな勢いですらある.近代社会が自然科学の分野での飛躍的進歩によって,従来からは想像もできなかったほどの変革を遂げつつあるのと同様に,内視鏡の分野でも飛躍的な変化が起きていることは間違いない.内視鏡がどこまで発達すれば十分なのかは誰にもわからず,おそらく一部の専門家とメーカーの協力によって,ますます改良が加えられていくのであろう.しかし,しばらく内視鏡から離れている筆者などにとっては,拡大して細部が見えすぎる内視鏡よりも,名人級の技を必要としない自走内視鏡の開発のほうがはるかに望ましい進歩であると思っている.

 さて,前置きはこのくらいにして,若い内視鏡医の中にはもはや電子内視鏡しか知らない人が少なくないであろう.わずか30年前(と言っても現代の感覚ではかなり昔のことになろうか?)には盲腸に挿入することは至難の技であり,今のようなポリペクトミーの技術も存在しなかった.器械自体の性能も悪く,いかに深くまで早く挿入するのかが興味の中心であり,学会でのテーマになったことすらあった.年をとった悪い癖で,昔の苦労を若い人たちに知っておいてもらいたいと思い,ここに雑文をしたためてみることにした.寝転がってでも目を通してもらえれば幸いである.

症例からみた読影と診断の基礎

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〔患者〕43歳,女性.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:1997年4月に行われた人間ドックでの上部消化管造影検査で,胃体下部に異常を指摘され来院.

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 はじめに

 消化管,すなわち食道,胃や大腸における腺腫・異形成と癌の診断基準には,欧米と日本の病理医の間で大きな差が認められていた.このことは,欧米の臨床医や研究者が日本の消化管癌研究(特に早期癌研究)を評価する場合に少なからぬ混乱をもたらしていた.逆に,日本の臨床医や研究者にも混乱を引き起こした.このような状況で,世界中の消化管病理医の間に,消化管の上皮性腫瘍性病変の分類と診断について,コンセンサスを得るべきだという気運が高まった.

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要旨 患者は44歳,女性.便潜血反応陽性にて来院.大腸内視鏡検査で,S状結腸に,面状不整な陥凹局面を有し,その辺縁にⅠs様の隆起部を伴う病変を認めた.空気変形陽性で,隆起部分に内視鏡的な硬さは認めなかった.Ⅱc+Ⅰs型sm癌と診断し,開腹手術を施行した.病変は17×11mmで,高分化腺癌,深達度sm1a,ly0,v0,n1,2(-)であった.病理組織学的には,高異型度癌としての形質を獲得した腫瘍細胞が,陥凹性病変として発育し本病変のごとき形態を呈するに至ったと推測された.

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要旨 患者は79歳,男性.心窩部痛にて当科受診.上部消化管内視鏡検査にて胃噴門部に隆起性病変を認められたため,精査加療目的で入院となった.胃X線検査では径約4cmの隆起性病変を認めた.胃内視鏡では隆起の立ち上がりは周囲粘膜と同様の粘膜で覆われているが,表面は大部分粘膜が脱落し,腫瘍が露出していた.露出面は暗赤色調を呈し易出血性であった.胃噴門部の悪性粘膜下腫瘍の診断にて胃全摘および脾摘,リンパ節郭清術施行.切除標本では大きさ3×3×2.5cmの砲台状の粘膜下腫瘍で広く浅い潰瘍を形成するという特異な形態を示した.組織診断はH・E染色では円形,長楕円形,紡錘形の細胞が錯綜し,部分的に胞巣状になり,密に増殖する間葉系腫瘍であり,核分裂を×20で1視野に5個以上と多数認めた.H・E染色からは平滑筋肉腫とされた.免疫組織化学的染色では平滑筋アクチン,デスミン,ビメンチン,S-100,NSE陰性,CD34,c-kit陽性となり,消化管間葉系腫瘍をGISTと総称する分類ではGIST,uncommitted type,malignancyとなった.GIST分類はその必要性を認めないとする立場の意見があり,いまだに広く使用されていないのが現状と思われる.新しい消化管間葉系腫瘍の分類として更に症例の検討が行われ臨床的有用性が高められることが望まれる.

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要旨 患者は40歳,男性.35歳時に扁桃摘出術.祖母は胃癌で死亡.1998年6月,胃検診にて胃ポリポーシスを指摘され来院.消化管精査にて食道全域にびまん性にglycogenic acanthosisと同様の白色小隆起を認め,胃は前庭部を中心に大小不同の隆起が密在しており,体部小彎にも拡がっていた.直腸,S状結腸には数mm大の,周囲と同色調または発赤調でⅠ型pit patternを示すⅠsからⅠsp型隆起が多発していた.組織学的にはいずれも異型上皮は認めず,以上の特徴的な消化管所見よりCowden病と診断した.また顔面の小丘疹などの皮膚所見のほか,本症例は著明な甲状腺腫大も認め,吸引細胞診にてclass Ⅲと診断された.

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欧文目次

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 最近,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease; IBD)が目立って増加している.しかし早期発見・治療で完了する大腸腫瘍と異なり,IBDは鑑別診断も治療も一筋縄ではゆかない.免疫異常が発症と治癒遷延に関与していることは明らかであるが,どう治療に結び付けるかが難しく,臨床医を悩ますところである.系統的にまとめた指導書も少ない.

 このような折,武藤徹一郎,八尾恒良教授ら,わが国のIBD診療をリードする第一人者らによって編纂された「炎症性腸疾患」が刊行された.IBDに関するすばらしい書籍が編集されているとの噂は耳にしていたが,久しく待たれていた大著である.

「胃と腸」質問箱 八尾 隆史
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(質問) 多発癌と重複癌の違いについて質問します.胃や大腸において,複数の癌が存在する場合どう呼ぶのが正しいのでしょうか.Warrenら(Warren S, et al. Multiple primary malignant tumors. Am J Cancer 16: 1358-1414, 1932)によると,各腫瘍が悪性であり,離れて存在し,一方が他方の転移でないことが重複癌の診断基準とされていますので,同一臓器であっても重複癌と呼んでもよいと考えますがいかがでしょうか.

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「病院早わかり読本」という題名のとおり,この本は,“医療(病院)とは何か”,わが国の“医療・福祉制度や費用の仕組み”,“医療の質の向上”,“患者の権利について”など,われわれが現在,そして将来に向けて医療福祉社会に生きるために必要な大切な問題を横断的に取り上げ,要点をわかりやすく解説している.しかも,医療に職を持つ人たちにとってはもちろん,医療を受ける人たちにも,日常出会う身近な問題,更には,めまぐるしく変化する医療社会の現状に遅れないための新しいテーマがきめ細かく選択されている.目次に目を通しただけでも,われわれが本来知っておくべきことなのに漠然としか把握していないようなことがらについて,この書が答えてくれることに気がつくはずである.

 著者が日々の診療生活を通して“患者さんたちが何を望んでいるか”,あるいは“患者さんたちに何を知ってほしいか”,また医療に従事している人たちが“専門職として何を心得ておくべきか”,“何を知っていなければならないか”を自らに問いかけ,自らが求めた答えを1人でも多くの人たちに知ってほしいという願いがこの書に込められているように思う.著者の言葉を借りるならば,まさしく“信頼と創造”の関係を,医療を提供する側と受ける側との相互の間に芽生えさせたいという心である.

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 本来,日本内科学会の認定した研修病院で臨床研修を確実に行っておれば,認定内科医・認定内科専門医の筆記試験はそれほど難しいものではないはずである.個々の症例については,各自がその場その場で十分勉強し,理解できているであろう.しかし,自分1人の経験のみからでは,内科で要求される幅広い基礎的知識をすべて網羅するのはほとんど不可能である.したがって,多忙な研修医生活の合間に,内科全般にわたる知識を整理し,受験に備えるには,それなりの工夫が必要となる.

 本書は,研修医が,今まで経験したり勉強した知識を整理し,認定内科医・認定内科専門医の受験に備えるのに最適の問題集であろう.自分が受験したときにこんな本があったらなあ,というのが,本書を見て思った正直な感想である.そう思った理由はいくつかある.まず第1に,執筆者の多くは,かつてこれらの試験問題を作成した経験を持つ認定内科専門医であり,試験でどのような点が重視されているか,問題の傾向を把握することができる.第2に,本書は単なる問題集ではなく,半分以上は問題の解説にあてられており,問題を解きながら,今まで知らなかった知識の整理や再確認ができる.第3に,受験にあたっては病歴要約も採点の対象になるが,巻末に付録として付けられている病歴要約の記載方法は,採点者が何を考慮して採点しているかというポイントを要領よくまとめており,症例のsummaryを作成するのに大いに役立つであろう.

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 医師の国家試験が2001年から大幅に見直され,これまでの知識偏重型から患者とのコミュニケーション能力や基本的な臨床能力を重視したものになるという.実地に即した幅の広い医療を提供できる医師を育成するため,臨床研修の必修化とともに将来的には実技試験も行う予定であると厚生省は発表している.

 この方針を実施するためには基礎系の先生の協力の下に,学部における臨床教育の早期開始やスタッフの充実とともに,内容のレベルアップを考えなければならない.医学生に対する教科書は多く出版されているが,どれも従来の知識偏重の域を出ない.実習中心の教育を充実させるための適切な教科書がないため,これまでは専門家を養成する専門書によって代用してきたのが現状である.

編集後記 三木 一正
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 今日,胃食道逆流症(GERD)の概念が普及し,その病態および治療が討議されるようになった.逆流性食道炎はGERDの一現象をとらえた分野であるが,客観的に検討できる病態であり,過去に2回(18巻11号,27巻9号)本誌で取り上げられてきた.その後,分類に関しては,ロサンゼルス分類,日本食道疾患研究会分類が策定された.治療に関しては,PPIの普及,内視鏡下手術による治療成績の蓄積が得られている.一方,HP除菌による逆流性食道炎の発生に新たな問題点も報告されるようになった.以上のことを踏まえ,時代的進歩を図ってきた本症の最近10年の変化・問題点を中心に,第一線でご活躍中の経験豊富な専門家に再び考察していただいた.

 序説で神津が述べているように,いま再び逆流性食道炎が主題に取り上げられた理由は,①欧米と同じようにわが国でも今後増加傾向にあるのか,②どのような症例・病態が内科的および外科的治療に奏功を示すのか,③その病態は胃の運動面からみるのか,食道を重視した立場からみるのか,などの結論に迫れるか,という点である.本症の時代的変遷は確かに認められるが,地域,民族,年代,性別によって差異を認めることが明らかになった.しかし,その病態についてはいまだ不明な点が多いと言わざるを得ない.治療法についてはPPIの登場で大きく前進した.予後も楽観的になったと言える.最近,わが国のGERD研究会では,欧米で生まれ,日常診療で使用され始めている“QUEST問診票”の日本語版を試作し,逆流性食道炎の診断をスコア化(4点以上)する試みもあるが,これも未完成である.本号の多くの情報が,より客観的で簡便な本症診断法の確立およびその診療に大いに役に立つことを期待したい.

基本情報

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胃と腸
34巻8号 (1999年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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