胃と腸 32巻13号 (1997年12月)

今月の主題 胃sm癌の臨床―m・sm1とsm2・3との鑑別を中心に

序説

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 「胃と腸」32巻1号(1997)の主題論文および座談会を熟読含味していただくと,本号の意とするところはほとんどすべてが網羅されている.すなわち病巣の拡がり(大きさ),組織型,潰瘍瘢痕(Ul)の有無によって多少の違いはあるが,一般にm,sm1癌は病巣局所の切除摘出のみで根治が期待できるが,sm2,sm3になればリンパ節(n)への転移が高率にみられ,局所治療だけでは根治性は望めない.したがって最終目標である完全治癒を期するためには,同じ早期癌ではあるがsm1とsm2とは明らかに治療方針の決定に際し区別されるべきである。臨床的に治療法選択に深く結びついている.そこで,sm1までの深達度とsm2以深の深達度癌鑑別に深く結びついている内視鏡下の粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR),腹腔鏡下切除術(laparoscopic local resection;LLR),特に前者を中心に整理してみる.

 1979年,有茎性胃ポリープの内視鏡下絞扼切除術が常岡により報告され,以来本格的に内視鏡治療の発展がみられた.胃癌のEMRは1983~84年に平尾,竹腰,多田らにより相次いで報告され,それぞれ新しい技術手技の工夫が加えられ,全国的に普及してきた.

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要旨 EMR(endoscopic mucosal resection),縮小手術の対象になりうる20

mm以下の陥凹型分化型胃癌264病変を対象にsm2以深浸潤の診断能を検討した.sm2以深癌は,①大きさでは10mm以下では6%,11~15mmで29%,16~20mmでは21%存在した.②占拠部位でsm2以深への浸潤率に差がみられた.10mm以下では,胃体部後壁,前庭部後壁は,sm2以深浸潤例はなかった.③形態的所見ではsm2以深癌の70%が診断可能であった.④X線検査の圧迫法による透亮像,遠景観察の内視鏡像で陥凹辺縁の隆起の存在はsm2以深の病変の可能性が高かった.⑤sm以深癌の潰瘍合併率は10mm以下で12%,11~15mmで32%,16~20mmで22%であり,潰瘍合併の診断能は50%以下であった.sm2以深の診断には病変の占拠部位,大きさ,形態的所見,EUSの所見を総合的に判断する必要がある.

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要旨 sm癌の一部まで内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)の適応となることが報告されるようになった.しかし,それらの病変を術前に深達度診断可能であるかが問題である.今回はEMRの適応であるm,sm1-α癌と適応外であるsm1-β,sm2,sm3癌の内視鏡的深達度診断率について報告した.Ul(-)の2cm以下の病変においては深達度診断正診率は約90%であった.この際深達度診断は従来報告されているsmを示唆する所見を有するものをSM,それ以外をMとした.EMRを行い病理学的検索でsm1-β以深と判明し手術を行った症例についても,その内視鏡所見と切除胃の病理組織学的所見について述べた.EMR後の病理検査でsm1-β以深が判明したら,機を失うことなく外科的切除を行うことが重要である.

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要旨 通常型超音波内視鏡群1,109例,20MHz通常型超音波内視鏡群105例,超音波プローブ群302例の切除胃癌のうち,sm癌241例,19例,78例を対象として超音波内視鏡の深達度診断の現状の検討と将来展望,特に三次元超音波内視鏡につき報告した.sm癌の進行度は,従来のsm層の3等分による浅層(従来のsm1)が絶対値では約1mmであることから,sm浸潤が1mm以下のものをsm1,1~2mm以下のものをsm2,2mmを超えるものをsm3とし,更に,sm1を0.5mm以下のsm1aと0.5~1mm以下のsm1bとして細分類した.超音波内視鏡による深達度診断成績は,sm1a32.1%(18/56),sm1b57.1%(44/77),sm276.9%(80/104),sm387.1%(88/101)とやはりsm1の成績は不良であった.この傾向は,sm浸潤の横への拡がり別の検討でも同様で,5mm以下の成績は49.4%と不良であった。組織型による深達度診断成績の差は明らかではなかったが,肉眼型による差は明らかで陥凹型,隆起型の成績が65.7%,61.0%と不良であった.微少浸潤の同定に三次元超音波内視鏡が期待されている.

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要旨 内視鏡的粘膜切除術(EMR)をされた胃sm癌17例について垂直方向への浸潤を軸に脈管侵襲,切除端,リンパ節転移,予後などについて検討した.リンパ管侵襲はsm浸潤部が垂直方向で500μm未満の7例では2例(28.6%)に,500μm以上の10例では9例(90%)に認められた.深部切除端(粘膜下層面)で癌の露出を認めた5例は垂直浸潤が1,000μmを超えていた.局所での癌の遺残,再発は2例で,リンパ節への転移は1例に認められた.EMR標本では粘膜下層が疎となり厚く判定される傾向があり,微少浸潤の境界を500μmまで下げられると考えられた.また断端遺残の判定にはいわゆるburnning effectを考慮する必要があると考えられた.

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要旨 腺腫および早期癌436病変に対して内視鏡的粘膜切除術(EMR)を施行し,14例(3.2%)にsm浸潤が認められ,うち7例に対して外科的追加切除が行われた.追加切除例のうちsm1癌の1例のみに遺残が確認されたが,他の6例では遺残が認められなかった.分化型sm1癌ではその垂直方向浸潤の程度によっては追加切除の必要がない症例があり,今後sm1癌に対する内視鏡的切除術(ER)の適応拡大についての検討が期待される.また,術前にEMRの適応病変であるか否かをX線的・内視鏡的に十分に検討し,手技に習熟していれば,外科的追加切除となる症例は決して多くないことを強調した.

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要旨 内視鏡的粘膜切除術(EMR)後,追加手術を施行せずに経過観察した胃sm癌9例について検討した.切除標本の病理組織学的所見は,組織型は9例中5例がtub1,2例がtub2,papとpor1が各1例で,粘膜内と粘膜下層に存在する癌組織の異型度が明らかに異なる症例がみられた.sm浸潤度は8例がsm1,残りの1例はsm3で,脈管侵襲は3例に認められた.臨床経過は1例で局所再発,他の1例で異時性多発を認め,いずれも再度EMRを行った.3例が他因病死したが,経過観察中(7~68か月,平均32.3か月)リンパ節再発や遠隔転移を来した症例はなかった.切除標本でsm浸潤を認めた場合には原則的に追加手術を考慮すべきであるが,①sm浸潤の程度が軽度(sm1),②sm浸潤部の組織型が高分化型腺癌,③脈管侵襲陰性,の3つの条件を満たす場合には,経過観察が可能と考えられる.

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要旨 近年,早期胃癌に対する腹腔鏡下手術の適応拡大には目をみはるものがある.しかしながら,根治性を維持するという点において,その適応は慎重でなければならない.本稿ではリンパ節郭清の必要性の有無に主眼を置き,早期胃癌,特にsm癌の腹腔鏡下手術の適応について自験例を含めて検討を行った.その結果,早期胃癌においてリンパ節郭清の必要な病変は,①20mm以上の隆起型m癌,②10mm以上の陥凹型m癌,③潰瘍(瘢痕)を有するm癌,④sm癌,であった.リンパ節の転移先の検討から,sm癌の中でもsm1癌はm癌と同じ挙動を示し,1群と#7,8に限局しているので,腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(D1+α)の適応,また他のsm癌は開腹下胃切除術(D2)の適応と考えている.

学会印象記

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 第39回日本消化器病学会大会は,八尾恒良教授(福岡大学筑紫病院消化器科)を会長として,10月29日~31日の3日間,福岡市で開催された。福岡市は朝鮮半島,中国大陸ならびに東南アジアへの門戸として,今日最も活発な都市であることは周知であるが,この活気を反映したすばらしい学会であった.消化器病学の領域にも分子生物学,分子遺伝学が導人され,病態ならびに病因の解明に応用されつつあるが,今回の学会では,この流れを十分に認識しながらも今日の重要な臨床的課題を網羅した構成となっていた.八尾教授の「Crohn病500例の臨床」と題する会長講演は,それを最もよく表したものであった.福岡大学筑紫病院ならびに関連施設で経験した548例のCrohn病症例を解析し,①男性に多く,小腸型が多い,②累積手術率は10年で40%,③実測生存率は期待値を上回ったと結論した.従来の報告に比べ手術率は低く,またCrohn病の長期(中期というのが正しいかもしれない)予後が良好であることが明らかにされた.また10年以上経過観察された143例についても詳細に検討し,初診時X線所見や活動指数の高さなどが予後に関連すると述べている.欧米の報告に比べ,的確な診断と細心のfollow-upにより,わが国のCrohn病の臨床経過が明らかにされた極めて優れた会長講演であった.

 慢性炎症性腸疾患のもう1つの雄,潰瘍性大腸炎(UC)については,シンポジウムでその長期経過について取り上げられ,UCの長期予後(手術率や死亡率)とともに,経過中の病変範囲の進展,女性患者では妊娠,出出産,更に癌化の問題について討論された.UC患者の手術率は,7~17%と施設によるばらつきが大きいが,生命予後はおおむね良好であることが確認された.病変範囲の進展は長期経過例の8~10%でみられ,左側大腸炎型から全大腸炎型への進展が最も多い.また長期経過例では,dysplasiaおよび癌の発生が問題であり,内視鏡による定期的なサーベイランスが必要であることが確認された.

症例からみた読影と診断の基礎

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〔患 者〕 47歳,男性.検診で便潜血反応陽性.注腸検査でポリープを指摘され紹介された.S状結腸病変である.

読影と解説

最終診断:微小陥凹型早期S状結腸癌,深達度sm2以深,ly0,v0,n0

 1.X線所見

 S状結腸にバリウムをのせながら撮影すると,薄層像に近い二重造影像が得られ,不整形のバリウムの溜まりを伴う隆起性病変が描出された.陥凹部の辺縁はわずかな毛羽立ち様の所見を呈し,一部なだらかな部分もみられるが,周囲の隆起部の立ち上がりは基本的に急峻である(Fig.la).圧迫像も重要な診断手技である.強く圧迫すると,バリウムの溜まりは明らかで,陥凹が深いことがわかる.隆起部の辺縁のラインは全周性に明瞭に追うことができ,ある程度の高さを持った病変であることが示唆される(Fig.1b).深達度診断を目的とした側面像では,病変部におけるわずかな伸展不良様の所見を認めるが,対側にも同様の変化があり,明らかな側面変形像とは言い切れない(Fig.1c).

リフレッシュ講座 大腸検査法・2

大腸内視鏡検査―腫瘍性疾患 工藤 進英
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はじめに

 大腸内視鏡検査法は,今日,大腸疾患の診断と治療のために不可欠な検査法となっている.微小癌の治療から炎症性疾患の診断,それから大きなlaterally spreading tumor(LST)など,様々な腫瘍性疾患や炎症性疾患に重要な診療の手段となっている.本稿においては,大腸内視鏡検査の基本的事項と腫瘍性疾患に対する内視鏡検査において大切と思われる最近の知見を解説する.

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要旨 患者は48歳,男性.大腸癌検診で便潜血陽性を指摘され当科受診.自覚症状はなく,既往症に特記事項なし.血液,生化学検査に異常なく,大腸X線検査で上行結腸に限局した,硬化を伴わない全周性の狭窄像を認めた.表面は大小不同の整な結節の集簇で占められ,その間に薄いバリウムの溜まりを認めた.内視鏡所見では結節の表面は周囲粘膜とほぼ同様の色調,光沢を持ち炎症性変化が考えられた.生検所見からは確定診断が困難であった,大腸癌を完全に否定できず,大腸切除術を施行した.切除切片では上行結腸は約2cmにわたり狭窄し,表面はpolypoid lesionで覆われ,その間にびらんを認めた.病理組織学的所見では悪性像はなく,polypoid lesionは炎症性ポリープであり,炎症は粘膜下層までにほぼ限局し,所々に粘膜下膿瘍が認められた.病理所見も診断不能の腸炎であり,限局性の分類不能大腸炎と診断した.

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要旨 患者は46歳,男性(同性愛者).1991年ごろから,HIV陽性と診断されていた.1995年7月ごろから下痢が出現し,止痢剤投与によっても改善せず,次第に血液を混じる下痢となったため,精査入院となった.頻回の便の検索(培養など)によっても原因不明のため,大腸検査を施行した.注腸X線検査では全大腸に潰瘍性大腸炎に類似したleadpipe様変化と,横行~S状結腸に多発する打ち抜き様潰瘍を認め,大腸内視鏡検査では,全大腸粘膜に発赤,びらんと注腸X線でみられた深い潰瘍を認めた.潰瘍辺縁部の生検でcytomegalovirusの封入体を,びらん発赤部の生検でCryptosporidiumを認めたため,混合感染による大腸炎と診断した.

早期胃癌研究会

1997年7月の例会から 伊藤 誠 , 芳野 純治
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 1997年7月の早期胃癌研究会は,7月16日(水),東商ホールにおいて,伊藤誠(名古屋市立大学第1内科)と芳野純治(藤田保健衛生大学第二教育病院内科)の司会で行われた.ミニレクチャーは“早期胃癌の内視鏡的粘膜切除術(EMR)”として長南明道(JR仙台病院消化器内視鏡センター)が行った.

 〔第1例〕54歳,女性.食道癌(症例提供:みさと健和病院内科 藤井幹雄).

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要旨 患者は54歳の男性.吐血で来院.軽度貧血と著明な低蛋白血症を認め,上部消化管内視鏡検査では巨大皺襞を認めた.Ménétrier病と診断し,確定診断を得るためにstrip biopsyを施行した.組織学的にもMénétrier病と一致し,粘膜表層にHelicobacter pyloriを多数認めウレアーゼ・テスト,培養も陽性であった.3剤併用療法を施行したところ,低蛋白血症は著明に改善し,巨大皺襞も改善を認めた.再度strip biopsyを施行し,除菌前後の組織学的変化を検討した.増殖帯に浸潤していた好中球および周囲の浮腫は消失し,拡大していた増殖帯の厚さも正常に近づいていた.

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要旨 短期間に形態変化を来した大腸癌3例を経験した.〔症例1〕はRsの15mmのsm癌.初回検査でIsp型,生検後にIIa+I型,粘膜下局注後にIIa+IIc型に変化した.〔症例2〕はRaの20mmのsm癌.初回検査でIIa型,生検・粘膜下局注後の3か月後に2型様病変に変化した.〔症例3〕はRsの15mmのmp癌.初回検査でIsp型,生検などは施行しなかったが2か月後に2型に変化した.組織学的に〔症例1,2〕では虚血像・線維化が著しく,生検・粘膜下局注による形態変化と推察された.すなわち,大腸腫瘍は虚血・線維化により短期間に形態変化しうる可能性があり,大腸癌の自然史に一考を与えるものと思われた.

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欧文目次

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 中澤三郎教授編集の本書を休日を利用して読ませていただいた.本書を開き,初めに感じた印象は実に読みやすいことである.その理由は序でも述べているように各項目が2行から3行の箇条書き式で区切られ,そして連続性のある文章構成となっているからであろう.

 さて内容についてみると,超音波とは何かの基礎知識の解説から始まり,電子機器の取り扱い,超音波内視鏡の検査法までの総論がわかりやすく記述されている.特に初めて超音波内視鏡の機器を手にとり検査を行おうとする医師あるいは機器のメンテナンスを行おうとする者にとっては,すぐに役立つ内容である.機器の説明も現在市販されているそれぞれのメーカーの機種の特徴が記述されている.

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 高齢社会が訪れ,これまで以上に慢性疾患,特に日本人の死亡原因の第1位である癌診療の重要性が増していることは間違いない.

 ここで,日本の卒前医学教育をかんがみると,基礎医学や診断学の教育に重きが置かれている.一方,治療の詳細や高度な判断については,臨床の現場で修得することが期待されており,癌診療の実際についても,卒前に教育される機会は少ない.にもかかわらず,日本には標準化された卒後研修が存在しないこともまた事実である.その結果,oncologyを体系的に学んだ医師はごく少数であり,内視鏡を担当して診断に関わった内科医や手術を執刀した外科医が,片手間に癌に対する化学療法を行っている現状も見受けられる.

編集後記 八尾 恒良
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 正直な編集後記を書こう.

 本特集号の意図は大柴先生の序説に述べられているように切除され,病理学的に検査された成績(本誌32巻1号)を基に,EMRや腹腔鏡下治療の適応となる症例の診断方法や診断限界を知ることにあった.

基本情報

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胃と腸
32巻13号 (1997年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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