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第39回日本消化器病学会大会は,八尾恒良教授(福岡大学筑紫病院消化器科)を会長として,10月29日~31日の3日間,福岡市で開催された。福岡市は朝鮮半島,中国大陸ならびに東南アジアへの門戸として,今日最も活発な都市であることは周知であるが,この活気を反映したすばらしい学会であった.消化器病学の領域にも分子生物学,分子遺伝学が導人され,病態ならびに病因の解明に応用されつつあるが,今回の学会では,この流れを十分に認識しながらも今日の重要な臨床的課題を網羅した構成となっていた.八尾教授の「Crohn病500例の臨床」と題する会長講演は,それを最もよく表したものであった.福岡大学筑紫病院ならびに関連施設で経験した548例のCrohn病症例を解析し,①男性に多く,小腸型が多い,②累積手術率は10年で40%,③実測生存率は期待値を上回ったと結論した.従来の報告に比べ手術率は低く,またCrohn病の長期(中期というのが正しいかもしれない)予後が良好であることが明らかにされた.また10年以上経過観察された143例についても詳細に検討し,初診時X線所見や活動指数の高さなどが予後に関連すると述べている.欧米の報告に比べ,的確な診断と細心のfollow-upにより,わが国のCrohn病の臨床経過が明らかにされた極めて優れた会長講演であった.
慢性炎症性腸疾患のもう1つの雄,潰瘍性大腸炎(UC)については,シンポジウムでその長期経過について取り上げられ,UCの長期予後(手術率や死亡率)とともに,経過中の病変範囲の進展,女性患者では妊娠,出出産,更に癌化の問題について討論された.UC患者の手術率は,7~17%と施設によるばらつきが大きいが,生命予後はおおむね良好であることが確認された.病変範囲の進展は長期経過例の8~10%でみられ,左側大腸炎型から全大腸炎型への進展が最も多い.また長期経過例では,dysplasiaおよび癌の発生が問題であり,内視鏡による定期的なサーベイランスが必要であることが確認された.
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