胃と腸 33巻1号 (1998年1月)

今月の主題 「胃と腸」33年間の歩みからみた早期癌

主題

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はじめに

 食道の早期癌に関する考え方は,最近の15年間で大きく変わった.従来診断が困難であった上皮内癌や粘膜癌の診断が容易となり,その病態が明らかになった.多くの症例を経験するに従い,食道癌の初期像,発育進展の概要が把握できた.

 この結果,早期発見により確実に治癒可能な食道癌,すなわち早期食道癌とは粘膜癌であり,その形態学的特徴は0-Ⅱ型病変であることが判明した.内視鏡的粘膜切除法(endoscopic mucosal resection;EMR)の出現により低侵襲,機能温存治療法が確立され,早期診断への情熱が食道癌の領域においては,かつてみられなかった活気を醸し出した.「胃と腸」の歴史を振り返ってその経過を見返すことは,大変であるが楽しいことと思われる.

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はじめに

 本誌「胃と腸」は1966年に創刊され本号で33年を数えるに至った.本誌に掲載された論文から早期胃癌の診断と治療の道筋について述べるが,早期胃癌の診断は本誌の当初からの課題であり繰り返し取り上げられてきた.既に,早期胃癌の診断の歩みについては“20年の歩み”として20巻1号(1985年)に八尾恒良ら,竹本忠良らにより詳細に記載されている.特に,X線診断について八尾らは「胃と腸」の論文からその成果を記述している.まず,この論文を読まれることをお勧めする.本稿ではこれまでの道筋を取り上げるにあたり,研究者の努力と記述をできるだけそのまま記すことにした.

 さて,診断学の進歩は研究者の努力もさることながら,いわば科学技術の進歩と表裏一体である.簡単に述べると,X線検査では暗室での近接撮影装置,遠隔撮影装置の普及,computed radiography(CR)などがある.一方,内視鏡検査では胃カメラ,生検機能の付与,先端カメラ付きファイバースコープ,ファイバースコープ,電子スコープ,超音波内視鏡,鉗子装置の改良などを挙げることができる.これらの機器の進歩が早期胃癌の診断学および治療の進歩を支えてきた.

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はじめに

 「胃と腸」創刊の辞(早期胃癌研究会代表・村上忠重)の中に,“そして今私が考えていることは‘胃と腸'とした表題が何時“胃と腸”になるかという点である”とある.

 「胃と腸」は早期胃癌という強力な商品をもって登場した.大腸癌に関しては,進行癌が時に話題になるだけで,早期大腸癌は漠然とした概念はあったであろうが,実体は淋しかったはずである.しかし,この創刊の辞にあるように,先人は遠からず大腸癌も胃癌と並んで,診断学の話題を占めるようになることを,予言ないし期待していたわけである.期待違わず,今日の大腸癌,特に早期癌の臨床・研究は隆盛を迎えている.

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 八尾(司会) 本日はお忙しいところをお集まりいただきまして,ありがとうございます.今日は“「胃と腸」30年の歩みからみた早期癌”というテーマで,崎田先生,市川先生,竹本先生をはじめ,11人の先生にお集まりいただきました.11人の先生方で座談会をするというのは,「胃と腸」始まって以来のことでして,どんなふうにまとめたらいいか,始める前から心配しておりますが,よろしくお願いします.

 「胃と腸」ですから,食道癌,胃癌,大腸癌,要するに管を中心にして,診断学,それから病態についての知見がこの33年でどう進んできたか,どう変わってきたかということをお話しいただいて,最後に今後の問題点に触れていただくとありがたいと思っております.多田先生,各論をよろしくお願いします.

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〔患者〕59歳,男性.1993年に舌癌で手術を施行した.1995年7月近医で胃癌を指摘され,超跨波内視鏡検査目的で当科を受診,その際食道に異常を発見された.

〔食道X線所見〕中部食道の後壁に粘膜ひだの途絶と淡い不整形の陰影斑を認めた(Fig.1).陰影斑の境界は不明瞭で長径15mm大,陰影斑内部に1~2mm大の島状の透亮像を認め,空気量の変化で所見が変化し,辺縁に変化は認めなかった(Fig.2,3).

症例からみた読影と診断の基礎

【Case 18】 黒木 文敏 , 飯田 三雄
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〔患者〕57歳,女性.腹痛を訴え来院した.上部消化管および大腸の内視鏡検査で異常を認めなかった.

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〔患者〕63歳,男性.現病歴:半年前から心窩部痛があり,他院で内視鏡検査を施行.食道病変を指摘され,治療目的に当院に入院.既往歴:特記すべきことなし.家族歴:兄が肺癌.生活歴:喫煙;20本/日,40年.飲酒;ビール2本/日.

学会印象記

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 1997年11月27~29日,11月の末とは思われない暖かい快晴の下に,新築となった東京国際フォーラムで第54回日本消化器内視鏡学会総会が,東京大学第3外科・大原毅教授の会長の下で開催された.この東京国際フォーラムは日本を代表とするコンベンションセンターであり,有楽町駅前に位置し,東京駅からも徒歩5分(地下通路も整備)という絶好の場所に建築されている.特に圧巻なのが巨大な船をイメージしたガラスホールで,地下1階からほとんど全空間が吹き抜けとなっており,天井は船の底の形をしている。内側は総ガラス張りで,空間を綱渡りのように各階を結んでいる.このほかに4つの大きさの異なるホールが船のドックのように隣接している.参加者のほとんどが初めての来館で,一様に驚嘆すると同時に内部で迷子になり,目的の会場に到着するのに時間がかかることが多かったようである.

リフレッシュ講座 大腸検査法・3

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はじめに

 大腸の炎症性疾患に対する内視鏡検査について,目的と経過に応じた前処置や注意点について述べる.

Coffee Break

校正と誤植 竹本 忠良
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 単行本が文庫に入るときには,最小限でも,誤字などの訂正が行われるし,なかには一章ぐらい追加されることがある.解説もつくのも普通だから,後々,決して油断できない.

 垣芝折多著・松山巌編「偽書百撰」という奇書が,このたび文春文庫に入った.この第1章に,“本は山の如く積み重なり,読もうと思うものも探せず,しかたなく同じ本を本屋に行って買うハメに陥る”とあるが,私なども,同じことをやっていて,文庫本など探すより買ったほうが早いのである.この間も,丸山真男の「日本の思想」(岩波新書)が4冊も出てきた.この文庫本の解説は,池内紀で,洲之内徹のエッセイ集「さらば気まぐれ美術館」の中に“誤植の効用”があると書いてあった(339頁).さては,誤植にどんな効用があるのかと,洲之内徹の本を探すのに多少の苦労をしたが,読んでみて誤植に一般効用などないし,人騒がせな主題は迷惑であると思った.

ボケの四段階 市川 平三郎
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 「医者に“胃癌”と診断されたら,助かる人はいない.“胃癌”は恐ろしい病気だ.ただし例外がある.それは,医者が誤診をした場合だ」などと言われたのは,昭和一桁のころの話.

 でも,今は全く違う.なにしろ,90歳台の人でも,胃や大腸の癌が早期にみつかれば,いとも簡単に内視鏡的に切除されて,活躍が続行できる時代だ.

早期胃癌研究会

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 1997年9月度の早期胃癌研究会は9月17日(水),一ツ橋ホールで開催された.司会は武藤徹一郎(東京大学腫瘍外科)および幕内博康(東海大学第2外科)が担当した.ミニレクチャーとして「食道表在癌の一歩進んだ診断」を有馬美和子(千葉大学第2外科)がビデオを提示した.内視鏡,色素内視鏡,超音波内視鏡,更には超音波内視鏡下穿刺細胞診が示された.画像的にも診断学上からもすばらしいものであった.

〔第1例〕41歳,男性.Ⅰs型からⅡc+Ⅱa型へ変化した大腸sm癌(症例提供:千葉労災病院内科 平野憲朗).

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 1997年10月の早期胃癌研究会は,第37回「胃と腸」大会として10月28日(火)にホテルニューオータニ博多で開催された.司会は松井敏幸(福岡大学筑柴病院消化器科)と牛尾恭輔(国立がんセンター中央病院放射線診断部)が担当した.

〔第1例〕30歳,男性.胃体部前壁のⅡc型癌(症例提供:久留米大学第2内科 中原慶太).

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要旨 患者は79歳,男性.主訴は1日数行の下痢と,体重減少.注腸X線検査では,直腸からS状結腸に径5~6mmの小結節隆起の散在と,横行結腸中部から肝彎曲,上行結腸,盲腸に同様の小結節隆起と,皺襞の集中を伴うびらんを認めた.大腸内視鏡検査で直腸からS状結腸および,横行結腸中部から盲腸まで,円形から楕円形の黄白色調で光沢のない表面顆粒状の,丈の低い小結節病変の散在,皺襞集中,粘膜の萎縮を認めた.各部位の生検材料の病理組織学的検索では,上皮に異型性を認めず,間質にマクロファージの浸潤があり,その胞体内にはMichaelis-Gutmann bodyを有しており,ハンゼマン(Hansemann)細胞と同定された.以上から本例をまれな慢性炎症性疾患である大腸マラコプラキアと診断した.

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要旨 患者は76歳,女性.主訴はなく,本人の希望で当院外来で施行された注腸X線検査,大腸内視鏡検査および生検病理診断で横行結腸に10mm大のⅠs型早期大腸癌が認められた.術前のマーキング目的で,再度大腸内視鏡検査を施行したところ,前回認められたⅠs型腫瘍は脱落し,表面陥凹型に変化していた.切除標本の病理学的検索では深達度mのⅡa+Ⅱc型早期大腸癌であった,生検を行わなくても,固い糞便と腸管の蠕動による機械的刺激で自然に脱落した可能性が示唆され,大腸癌の自然史を考えるうえで貴重な症例と思われる.

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要旨 患者は72歳,男性.1995年3月人間ドックを契機に胃内視鏡検査で胃角部前壁にⅡc様病変を指摘され,生検でlow-gradeな胃MALTリンパ腫と診断された.更に種々の検査によりH. pylori陽性で,深達度sm,表層拡大型のlow-gradeなMALTリンパ腫と診断した.除菌治療によってH. pylori陰性となり,一時的に腫瘍も消失したが,除菌後7か月で胃体下部前壁に新たにⅡc様病変と胃体上部小彎から後壁にびらんの多発を認め,生検でlow-gradeなMALTリンパ腫と診断され,最終的に胃全摘術を施行した.切除胃の病理診断は胃悪性リンパ腫(mixed cell type)で深達度smであった.本症例で除菌治療が成功し一時的に腫瘍が消失したにもかかわらず,病変の拡大をみたのは,比較的早期の段階からやや大型の異型リンパ球が存在していた可能性と,短期間ではあるがtransformationを起こし,悪性度の高い組織像に変わり病変の拡大をみた可能性の2つが推測された.low-gradeな胃MALTリンパ腫を除菌で治療する場合,腫瘍の消失の有無にかかわらず,経過観察には十分注意すべきと思われた.

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 結腸の粘膜側から内視鏡を押してゆくと,まず,筋層と漿膜が破れ,最後に粘膜が破れる1).すなわち,第1段階として,まず,内輪筋,外従筋が掻き分けられるように筋層が分離するとともに漿膜が伸展しながら徐々に断裂してゆく.そして,漿膜・筋層の裂傷に粘膜が入り込み,更に過伸展し,破裂するように一気に穴が空き察孔が完結する.この機序は組織の伸展性の差によると解釈される.

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要旨 患者は初診時69歳,女性.初回胃X線検査では前庭部に限局した辺縁不整とアレアの乱れを認め,胃内視鏡では前庭部は褪色と発赤を認めた.4年後のX線検査でも伸展性はよく保たれ,胃内視鏡では前庭部に限局した粘膜の荒廃像を認め,生検でアミロイドの沈着を認め胃アミロイドーシスと診断された.7年後の胃内視鏡でも変化を認めず,初診時から約8年の経過の後,他院で胆管細胞癌により死亡した.剖検で胃前庭部に限局したアミロイドの沈着は認めたが,その他の部位にはアミロイドの沈着は認めておらず,胃前庭部に限局したアミロイドーシスと考えられた.

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欧文目次

書評「標準免疫学」 矢田 純一
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 本書を料理に例えるならば,それぞれのメニューについてそれを得意とする当代一流のシェフが腕をふるった御馳走が並んでいて,読者はそれに大いに舌鼓を打つことができる.内容はかなり高度であり,詳しく最新情報までが記載されてある.それゆえに逆に,全くの初学者が読み進むには相当厳しいものがあるという気がする.免疫学では極めて普遍的であるけれども,初めて学ぶ人には初体験というような用語がいきなり出てくるという部分もある.したがって,大学の理科系学部の一般の学生がマスターしておくべき内容としてはレベルが高い.

 評者の印象では,学部学生でも特に免疫学を深く学びたいと思っている者や,卒後免疫学に関連した勉強をしようとしている者が現代の免疫学を通覧したいといった目的に最適の教科書ではないかという気がする.

編集後記 吉田 茂昭
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 「胃と腸」が刊行されて33年が経過した.これを記念して,本号ではこの33年間の早期癌の歩みを取り上げることにした.座談会では大先輩から中先輩まで,12人という大勢の先生方に参加を願ったが,「胃と腸」発刊までのエピソード,あるいは早期胃癌診断の黎明期に直面した様々な困難とその解決に向けた諸先輩の努(気)力と知恵,更には早期癌診断の食道・大腸への展開等々,故人を含めた先人たちのエネルギーが脈々と伝わってくる.ことに,これまであまり知られていなかったエピソードの中に光る“常に先を見据えた眼力の確かさ”には敬服する思いである.“近ごろの若い者は――”という台詞はどこの世界でも共通であろうが,若い人たちにとって本特集号は早期癌の問題にとどまらず,ある意味で人生勉強にもなってくれるものと思われる.先人たちの“初心に帰れ”という忠告は,単に過去に戻れということではない.より本質に近づくためのbreakthroughを促しているのである.若い彼らのよりいっそうの奮闘を願うばかりである.

基本情報

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胃と腸
33巻1号 (1998年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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