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書評「ドクター平三郎の世界漫遊記」
武藤 徹一郎
pp.1338
発行日 1997年9月25日
Published Date 1997/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403105196
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“それでも地球は回っている”というガリレオの言葉はあまりにも有名であるが.本書を読んで筆者の頭にはこの言葉がまず浮かんできた.著者の市川博士が.X線二重造影法で描出された胃の早期癌を欧米の専門家たちに見せてもなかなか理解されない状況の中で.“それでもこれは早期癌だ”と叫びつつ奮戦される姿が本書に生き生きと描写されているからである.
今でこそ.X線二重造影法は胃でも大腸でもルーチンの検査としてわが国で定着しているが.この技術が確立され.日本での普及が始まったのは昭和30年ごろからであり.その普及は国内においてすら決して容易なことではなかった.その普及の達成には早期胃癌研究会をはじめとして.各地で熱心に継続されている胃癌を中心とする消化器疾患研究会の存在の力が大きく.その努力は現在でも綿々と続けられている.胃癌多発国であるわが国では.胃癌の早期発見には国民的な関心があるので.その普及は当然のことのように考えられるが.それでも新しい技術が確立され広く普及するには.多数の人々の絶えざる努力・情熱と時間が必要だったのである.しかし.これが胃癌が少ないために興味もあまりない欧米が相手であるうえに.言葉の問題や人種的偏見の要素も加われば.それがはるかに困難な仕事であることは想像に難くない.時代も日本が経済大国となる何年も前の昭和30年代であれば.その困難さは想像を絶するものがあったであろう.
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