胃と腸 3巻3号 (1968年3月)

今月の主題 大腸・直腸

綜説

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Ⅰ.はじめに

 下部消化管の診断は,上部消化管のそれと同等に充分に精密・周到でなければならない.このことは私たちの常々主張しているところであり,理窟としては誰でも納得するところである.しかし現実の臨床実際の場面においては,これがなかなかに実行されない.

 その理由は種々あげられるが,そのうち最も大きいものは,小腸・大腸の疾患の診断には長時間を要する,したがってその煩わしさが現実の問題としてとっ付きにくくしている点である.また,十二指腸以外の腸管には数々の疾患はあるが,その頻度は日本人では必らずしも大きくなく,したがって上の長時間の努力も徒労に終るかも知れない.たとえば,癌で比較してみると,厚生省の人口動態資料から昭和40年の訂正死亡率は,第1表の通りである.この表で知られるように,食道と胃の癌の合計は小腸・大腸・直腸の癌の合計の,男性ではほぼ十倍,女性でも5,6倍の多きに達する.したがって上部消化管の方が重要であり,また検査が簡易なうえに,癌の発見度数が大きいことは確かである.

 ところが1956~1960の年次にピークをもっ胃癌は,その後むしろ減少の傾向にあり,少なくとも横ばいの状態に入った.これに反して腸癌では,いずれもわずかながら,着実にその訂正死亡率が上昇している.米国白人の結腸癌は日本人のそれのほぼ4,5倍であるが,極めて徐々にではあっても,日本人も米英などの方向,すなわち胃癌が減少し腸癌が増加する傾向をとりつつあるといえそうである.

 大腸疾患の増加しっっある傾向は,癌のみに止まらず,一般的のものであって,潰瘍性大腸炎などはその好適例である.また,大腸憩室症の症例も増加しているものと思われ,都会ことに東京地方などのように,酪農食・蛋白脂肪食の多い西欧化のっよいと思われる地方に,この疾患は多いように推論される節がある.これを統計処理で比較検討するほどの多数の報告はないが,少なくとも大腸疾患のroutineの検査法に習熟していることは,実地医家の診療実際にも大きく寄与することは疑いない.

 癌は,上部消化管に比して少ないことを上にのべたが,しかし癌を除外すべき疾患,あるいは潰瘍性大腸炎を除外すべき疾患の数は,必ずしも少なくはない.過敏性大腸lrritable colon2)と呼ばれている結腸の機能障害を独立疾患的に取り扱うことにすると,この数は等閑視できない多数である.この診断の基準をはなはだ厳重にしている私たちの教室でも便通異常者の数分ノ1を占める.米国の報告では,腹痛患者,消化器患者の50%以上もこの診断である報告が1,2に止まらない.このような機能障害を診断する第1歩は,器質的変化を除外することである.

 癌に関するかぎり,大腸ではその発見度数は少なくとも,その診断法が有効・不可欠の方法と評価される率,すなわち診断寄与率とでもいうべきものを比較すれば,大腸検査が上部消化管検査よりも効率がわるいとは決していえない.検査がいわゆる空振りにおわる率はむしろ小さいとさえいえそうである.

 したがって大腸を主とする下部消化管の標準的検査法を縷々のべることの意義は,充分あるわけである.しかし検査に長時間を要するという欠点は,早急には消滅しないだろう.これとて体外への開口部(口・肛門)から遠い上に形態の複雑な腸管では止むを得ないのであり,私たちは最近小腸のX線検査を3~4回にわけて順次にみて行く方法をとっているのにくらべるならば,まだまだ十分に簡易の方であろう.従来これらの器官の診断をただの1回の検査で果たそうとしていたことは,あれだけの長さ・あれだけの形の複雑さを考えるとき,少しく虫がよすぎたと反省されるのである.胃の疾患の検査を考えてみても,ただの1回で充分に目的を果たせるケースは必ずしも決してはなはだ多数ではない.

 前置きがはなはだながくなったが,私たちの主張をここに率直にのべ,しかるがゆえにわれわれが大腸の診断学の完成に大きい努力を払っている点を,よく理解していただきたく思うのである.

直腸癌の手術 梶谷 鐶 , 山田 粛
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Ⅰ.緒言

 直腸癌は,本邦の手術材料では消化管の癌の約10%,大腸の癌の60~70%を占め,外科における重要な疾患の一つである.直腸癌の治療は依然として手術法にゆだねられており,照射療法,化学療法は姑息的ないし補助的に用いられるに過ぎない.直腸癌の根治手術については種々の術式が行なわれており,現在なお術式の撰択,あるいは術式の改善などについて幾多の問題がある.治療成績は胃,食道癌などに比べて可成り良好であり,また早期診断の普及と共に著しい進歩が期待できる.

結腸癌 小出来 一博 , 立川 勲
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Ⅰ.緒言

 腸管に発生する癌の中で,結腸癌は直腸癌に次いで多いものであるが,本邦においては諸外国に比較すると,それほど多い疾患とはいえず,一番多くの症例をもっていると思われる癌研外科に於いても150例の症例の集計を報告しているに過ぎない.

 結腸癌は大体55歳より60歳くらいが一番多く,男性に多い.また発生部位はS状結腸がもっとも多く,上行結腸・盲腸・横行結腸・下行結腸の順に少なくなる.

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Ⅰ.はじめに

 表在陥凹型の境界が,全周明らかに読みとれる早期胃癌は,肉眼的にもまだその判定は容易といえるが,本症例のごとく潰瘍周辺の一部のみに癌化を伴う程度の病変の判定は,現在なお組織学的検索の結果を待つほかないと思われるし,又病理学的に異型上皮との鑑別や,潰瘍の癌化を示唆する一資料としても興味が持たれたので報告する.

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症例

患者:伊○鶴○ 58歳,男

主訴:心窩部の重苦しい感

家族歴:母親は71歳のとき肝癌て死亡

既往歴:25歳および35歳,黄疸に罹患

現病歴:昭和40年1月下旬より右季肋部痛を覚え,同年7月,胆石症の疑いで入院加療をうけたが,その際胃X線検査では異常ないといわれた.その後も時々心窩部の重苦しい感じを訴え,41年7月当科を受診し,胃X線検査で第1図のように角対側大彎に異常を発見し,9月1日入院した.

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Ⅰ.はじめに

 胃梅毒は,1834年Andral1)によって報告されて以来,先天性梅毒,後天性梅毒(第Ⅱ期梅毒,第Ⅲ期梅毒)についての報告は相当数に達しており,わが国においても,片山(1886)2)の報告以来岡本(1967)3)迄かなり多数の報告がみられる.しかしながら,これらの報告において胃梅毒の診断基準が,はなはだ多様であり,その根拠の評価に対して慎重な態度を必要とするものもある.われわれは,臨床的に胃梅毒を疑うべきであった激しい多彩な胃病変を認め,その切除胃の病理組織学的検索により,肝に定型的ゴム腫を伴った胃梅毒の一例を経験したので報告する.

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Ⅰ.まえがき

 大腸の憩室は欧米においては,きわめて多い疾患であり,5~25%にみられるといわれている1).これに反し本邦では,従来きわめてまれな疾患とされていた.しかも本邦報告例の多くは急性虫垂炎と誤診して手術を行なった盲腸ないし上行結腸の憩室炎であり2)3)4)5)6),多発性の大腸憩室症の存在に注目されるようになったのはごく最近のことである7)~22)27)

 大腸憩室症の合併症として,急性憩室炎・膿瘍形成・穿孔などのほかに欧米では下血が問題にされている.これに対し本邦では下血を強調した報告はきわめてまれであり,出血を主訴とした多発性大腸憩室症手術例の報告はまだ見当らない.

 最近われわれは大量の出血を反覆し,X線検査により術前に診断し,手術により治療せしめた大腸の多発性憩室症の1例,および内科的に治療した大出血例の1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.緒言

 結腸の嚢胞は極めてまれな疾患であるが1),その中でも特にまれな横行結腸のリンパ嚢胞と思われる1例を経験.全治せしめたので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 最近,日本においても,従来比較的まれな疾患とされて来た結腸憩室炎の報告は,その数が増加してきたように思われる.しかしながら1955年安井らの19例の報告や,1961年牧野らの22例を集計した統計,または最近われわれが集計した本邦の結腸憩室炎64例では,いずれも右半結腸に多いとしているが,本教室の昭和41年8月まで最近2年8カ月間の16例の経験では,欧米の統計に見るのと同様に,左半結腸に特にS字結腸憩室炎が多かった.これらの事実は,本疾患がまれな疾患であるとの従来の概念から,一般に本疾患が広く理解されていないために他の疾患として治療されたり,または診断がつかないで見すごされていると思われるふしがないではない.本邦においてこの疾患が右半結腸とくに盲腸や上行結腸に多いのは,虫垂炎の疑いで手術されて発見される例が多いためでないかと推察される.

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梶谷(司会) 本日は,「結腸及び直腸の癌」についての座談会に,司会をさせていただきます.諸先生非常にご多忙でやっとこの日が決ったのですが,ご参会下さいまして,大へんありがとうございます.

 結腸・直腸癌のすべてですと,非常に話題が多く,時間に制限がございますので,私どもや,この雑誌の読者に最も興味のありそうな点から,次々に取り上げていきたいと思います.順序としましては,癌の疫学とか発生原因を,まず取り上げなければなりませんが,これは,あとでもし時間があればやることにいたしまして,さっそく臨床の問題を取り上げたいと思います.

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 細胞学的診断法は,婦人科領域にはじまり,ついで肺,胃,胸腹水,口腔,尿路,結腸等あらゆる分野に用いられるようになり,しかもリンパ系或は血液中の腫瘍細胞の検索もその対象となってきた,このように細胞診の領域が拡大すると同時に,各部門における標本採取手技及び細胞像の詳細な研究,即ち各論的な内容が深められており,近い将来,学問的体系を備えた臨床細胞学として確立されるものと期待しえよう.

 胃における細胞診は,近年開発されたファイバースコープ使用による直視下採取法により,その診断成績は著しく向上した.その採取手技(洗滌,吸引,生検塗抹等)や,スコープの改良が尚必要であろうが,直視下法自体は,将来の方向として正鵠を得ているものと思われる.今後の問題は,良悪性に関していかに正確な診断を下すかということである.この点で細胞学的診断と生検組織の病理学的診断の優劣が問題になろうが,臨床家として公平にみて,細胞診には少数の細胞で診断を下しうる利点があり,且教室においては,個々の症例においては,生検組織診と比較して大差ない秀れた診断率を挙げている.しかもたがいに相補うものがある.したがって判定の難しい標本では,両者がたすけあって,より正確な診断を下すことが可能になると考えている.特に最近の如く,早期胃癌と異型上皮の鑑別が問題になる場合,組織診に加うるに,細胞異型に重点をおく細胞診による判定を併せ診断していただきたいと思う.

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Ⅰ.はじめに

 適圧法は現在では二重造影法の影にかくれてやや冷遇されている傾向があるけれども,適圧法にも捨てがたい味がある.私共は大体高圧撮影(120kV)を慣用しているのでバリウムの濃度は少々濃厚であるが,その処方ならびに撮影条件は第1表ならびに第2表の通りである.透視台の位置は,立位一45°斜位一水平位一頭低位である.

研究会紹介

八戸胃腸研究会 吉田 行位
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 八戸胃腸研究会は,昭和39年6月東北大学斎藤達雄教授をお招きして,第1回の発会式を行ない,以来42年末で40回を数えるに至りましたが,会員数は約20人前後で,各自持ち寄りの消化管X線診断を検討し,フリートーキングの形式で会を運営して参りました.

 我々がこのような会をつくった目的は,中央におりますと,学会や例会などに多く出席できるのですが,地方の開業医にとっては仲々その機会に恵まれません.それで病院勤務医を含めた同好の士と話し合い,消化器疾患のX線学的診断の技術並びに読みの向上と同時に対癌対策が叫ばれている現在,早期癌に対する新しい知識を導入して,専門医としての自覚と責任を果し,地域医療の向上に些かでも寄与したいと考えたからでありました.

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 学識,情熱何れもおおむね一流の域に達した先生方をもって組織されて居る広島消化器病同好会は,会長浦城教授を中心として,その雰囲気,活動状況何れも全国的レベルにある同好会であろう(筆者の個人的感想ではあるが).

 この同好会は,昭和34年4月20日,槇殿,伊藤,炭田,河村等数人の開業医師が,消化器病集談会をやろうと言う意図のもとに発起人会を開いたのがその発端であった.幹事会で運営されることになった同好会は,出発時の意気込みだけは物凄く,同年5月10日は15の演題を集めて,第1回総会並に講演会を開催した.勢いに乗り過ぎて34年度に5回も例会を開くと言う張り切り様を見せたが後援続かず,尻切れトンボの状態に陥って了った.36年6月,会則を一部変更,浦城教授を会長としてその下に16人の幹事が4グループを編成し,新しい体制をもって同年第1回例会を増田教授の特別講演で開いた.37年から会の運営は軌道に乗り,現在迄に34回の例会を開催して居る.例会は50名から100名位の会員が集まり,演題発表,シンポジウム形式等で行なわれて居るが,その間,総会,例会には全国から色々の先生方に御来広を仰いで特別講演を御願いして居る.白壁,市川両先生によるX線検査の講演とデモンストレーションは,会員のX線読影力向上に多大の寄与をして戴いた.山形,村上,増田,大井各教授の講演は会員に多くの感銘を与えたし,川島,湯川,横山,島田,竹本各先生には会員の知識を向上させる印象深い講演をして戴いた.有志が集って夜遅くまで青山先生の情熱溢るる御話を聞いたのも心に残る憶い出である.

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 “往診は臨床医の生活の重要な一部分で,地域医療を推進する有力な手段である.”と川上武博士は書き出している.また“いままで往診についての系統的発言は寡聞にして知らない.既存の医学・医療が入院・外来診療に立脚して推進されてきたことを考えると,それも当然のことだが,その根底に現場軽視の医療思想のあったことも事実である.”とのべ外来診療の単なる延長としては代置できない診療形態として,往診を正面からとりあげたのが本書である.

 私たちは,往診について日ごろ種々な見解をもっている,“往診先は診療の条件が悪いから,できるだけ外来にこさせるようにしている.”先生方が少くないと思う.そして往診しない建前にしている方もある.

編集後記 増田 久之
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 本号のテーマには2巻12号の小腸に続いて大腸が選ばれた.大腸はこれを検査する上からみて,小腸ほどではないにしても,盲点であり,その方法が上部消化管,ことに胃に比べて進んでおらず,疾患を見逃すことが少なくない.しかも大腸には小腸に比べて癌をはじめとする諸種の疾患が多く,ことに機能異常を加えると,消化管疾患のうちのかなりの部分を占めている.漠然と慢性胃炎と考えている患者のなかに大腸疾患,とくに刺激結腸がかなり多いことはよく経験されることである.また結腸癌,直腸癌には発見が困難な場合があり,見逃される場合が少なくないが,これらの早期癌が少ないことはこの事実を如実に物語っている.従来から大腸疾患は欧米諸国に比べてわが国には少ないと考えられていたが,これは必ずしも妥当ではなく,わが国でも大腸疾患は増加しており,予想よりはるかに多いと考えられる.10年位前までは結腸憩室はほとんどみたことがなかったが,最近ではけっしてまれではない.

基本情報

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胃と腸
3巻3号 (1968年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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