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浸潤とは,ある細胞・組織が正常ではありえない場に存在すること,つまり,本来存在すべき場から離れた所に移動する“こと”を意味する.その結果としての“もの”である細胞・組織を浸潤細胞・組織と呼んでいる.浸潤とは何も腫瘍に限って用いられる用語ではない.例えば,炎症性細胞浸潤あるいは脂肪浸潤というようにである.また,子宮内膜症においては多数の子宮内膜が子宮筋層に存在していて,そのような子宮内膜は浸潤という“こと”の結果としての浸潤内膜である.異所性内膜が現実に存在しているからには,浸潤という“こと”が生起せずしてその存在はありえず,浸潤に“にせ(偽)”はないのである.幻の世界では別であるが!
腫瘍一般の良性悪性診断においては,浸潤という“こと”の結果としての所見が重要視され,大腸の腺腫か癌かの診断においてもまた同様である.腫瘍の浸潤組織は,組織学的に“異所性+異型性”をもって認識される.浸潤という現象(こと)は,正常子宮内膜のみならず胃と腸の正常腺管においてもみることができる.その浸潤組織には異型性がなく異所性のみであるため,それぞれ異所性子宮内膜(内子宮内膜症),そして異所性腺管と呼んでいる.胃と腸の正常腺管が粘膜下組織に,そして子宮内膜が子宮筋層に存在しているのは,浸潤(こと)による結果としての浸潤組織(もの)である.それら異所性腺管に炎症あるいは発育の場が異なることによって細胞・構造異型が多少認められても,それらの起源はというと本来あるべき所に存在している正常の胃と腸の粘膜そして子宮内膜であるので,それら異所性異型腺管を癌あるいは腺腫の浸潤とはせずに異所性腺管と呼んでいる.このように,異所性腺管,腺腫浸潤あるいは癌浸潤であるのかは,その起源となっている組織の異型性をどのように診断するかに依存している.大腸粘膜内病変を癌と診断すればその直下の粘膜下組織に存在する異所性異型腺管は癌浸潤であり,腺腫と診断すれば“腺腫浸潤”である.粘膜下組織の異型腺管の組織所見が偽浸潤であるがゆえに粘膜内病変は腺腫であるということにはならないのである.
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