胃と腸 24巻8号 (1989年8月)

今月の主題 腸のカルチノイド

序説

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 “カルチノイドcarcinoid”とは“carcinoma(癌腫)”と“-oid(―のような)”との合成語である.カルチノイド腫瘍carcinoid tumorは,通常の癌腫に比べて,組織学的に低い細胞異型度(好酸性微細顆粒状の比較的広い細胞質と円~卵円形の均一小型核を有する細胞から成り,核分裂像がないか,あっても極めてまれ)と,特徴的組織構築とを有し,発育緩徐であることを特色としている.その後,本腫瘍は神経分泌顆粒含有細胞(または内分泌細胞)で構成されていることが判明し,種々のアミンやペプチドを含むこと,ときに機能腫瘍としての症状を発揮することも明らかとなってきた.

 しかし,一方で,カルチノイド腫瘍と近似の組織像を示すが,より核分裂像の多い腫瘍(非典型カルチノイド腫瘍など)や,同様に内分泌細胞から構成されるが高度の転移を起こす腫瘍(内分泌細胞癌,小細胞癌など),更に通常型腺癌と内分泌細胞癌との複合腫瘍や杯細胞性(粘液性)カルチノイド腫瘍などの名称が次々と提唱されてきた.

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 Carcinoid tumors may take origin from any tissue derived from the primitive entoderm as well as teratomas. Histologies of clinically benign and malignant tumors are identical and the likelihood of metastasis for all carcinoids is directly proportionate to size of the primary. The overwhelming majority of carcinoids encountered clinically have their primary sites in the appendix, the rectum, and the small intestine. Tumors of the appendix and rectum are usually incidental findings of no importance to the patient and are best managed by very conservative procedures, i.e. simple appendectomy or fulguration. Only the very rare tumors greater than 2 cm in diameter justify cancer type operations. Most carcinoids of clinical significance take origin in the small intestine, particularly the small ileum, and will be manifested by partial small bowel obstruction. If the tumor is confined to the bowel wall, resection will usually prove curative. With resectable regional nodal metastasis cure is uncommon, but the patient will usually have a very long latent period before recurrence is clinically apparent (median 16 years). Carcinoid tumors are usually very indolent at all stages of disease. The median survival after diagnosis of unresectable abdominal metastasis was five years and after hepatic metastasis three years. The malignant carcinoid syndrome, probably resulting at least in part from excessive tumor production of serotonin, is a manifestation of late stage disease and usually hepatic metastasis. Common symptoms are flushing and diarrhea which can frequently be managed by a recently available analogue of somatostatin. After long term exposure to high concentrations of serotonin, carcinoid heart disease may develop which in carefully selected cases can be managed with valve replacement.

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要旨 消化管カルチノイド腫瘍194例220個を検討した.本腫瘍の部位別発生頻度は,直腸(45%),十二指腸第一部(21%),胃(13%)に高く,虫垂(11%),小腸(3%)に低いことが特徴であった.本腫瘍の解剖学的部位別分類を作成し,その部位別の特性を示した.消化管内分泌細胞腫瘍は,低悪性度のカルチノイド腫瘍と高悪性度の内分泌細胞癌とに大別された.

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要旨 1957年より1989年4月までの32年4か月間に癌研付属病院で経験した41例の直腸カルチノイドにつき検討した.症状は排便時の出血が最も多く,腹痛がこれに次いだが,カルチノイド症候群を随伴するものはなかった.X線検査では,亜有茎性~無茎性の円形ないし楕円形の隆起性病変として診断された.大腸内視鏡では,淡黄~黄色の色調の無茎性~亜有茎性の隆起性病変として認められた.径の増大と共に中心陥凹ないし潰瘍を伴った.

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要旨 1988年末までの19年間に国立がんセンター病院で経験された大腸カルチノイドは43症例43病変で,うち42例は直腸に認められた.病変が大きくなるにしたがい,病変の立ち上がりもなだらかなものからくびれをもつものが多くなり,また陥凹を有する病変の頻度が高くなった.陥凹を有する病変では固有筋層浸潤,リンパ節転移,肝転移など悪性カルチノイドの割合が高かった.生検の陽性率は95%であった.遡及的検討が可能であった4例4病変のうち形態・大きさに変化を認めなかったものが2例,4年間に7~10mmと変化し,粘膜下層まで浸潤し転移を認めないもの1例,5年7か月間に13~25mmと増大し中心陥凹の出現を認め,固右筋層への浸潤と肝転移を伴って死亡したものが1例あった.カルチノイドによる死亡はこの肝転移を伴った1例と,粘膜下層まで浸潤した1例の計2例で,合併した直腸癌による死亡が1例あった.治療は内視鏡的あるいは外科的ポリペクトミーなどの局所切除により腫瘍の切除が可能なものが多いが,悪性のカルチノイドに対しては癌に準じた根治手術が必要であり,その悪性の診断指標には大きさと陥凹の有無が重要な所見と考えられた.

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要旨 患者は61歳男性,階段昇降時の息切れを主訴に受診.注腸造影,大腸内視鏡検査で直腸に広基性ポリープおよびS状結腸に全周性の腫瘍を認めた.生検の結果,直腸病変はカルチノイド,S状結腸病変は腺癌であり低位前方切除術が施行されたが,直腸カルチノイドは同時性に肝転移を来しており喫状切除が行われた.更に,術後1年目にS状結腸癌の肺転移および直腸カルチノイドの再度の肝転移が発見され切除を受けた.直腸カルチノイドの報告例は近年急増しているが,他の悪性腫瘍を合併することや転移を来すことがまれならず見られるので厳重な経過観察が必要である.

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要旨 患者は59歳,女性.1981年3月上腹部不快感を主訴に来院し,X線,内視鏡検査で十二指腸球部小彎前壁寄りに径5mm大の粘膜下腫瘤様隆起を認め,生検でカルチノイドと診断された.入院後のX線,内視鏡検査では明らかな隆起は球部に認められず,隆起が存在したと思われる部位より計2回の生検を施行したがカルチノイドの組織は得られなかった.その後,外来で1~2年に1回の割でX線,内視鏡検査による経過観察が行われたが,1989年3月現在カルチノイドの再発は認められず,初回生検によって完全に消失したものと考えられた.

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要旨 患者は70歳,女性.便秘と肛門部出血を主訴として近医受診.直腸癌と診断され,当院紹介となった.注腸X線検査で,直腸Rbに限局潰瘍型の進行癌,終末回腸に浅い陥凹を伴う粘膜下腫瘍を認めた.組織学的検索では終末回腸の腫瘍は径2.8cmで,粘膜下層に主座を置き,一部粘膜層にも浸潤する深達度ssのカルチノイド腫瘍であった.所属リンパ節転移を認め,銀還元反応陽性であった.直腸Rbの腫瘍は限局潰瘍型の進行癌で,深達度はa2の中分化腺癌であった.

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要旨 患者は68歳,男性.ドック検診の胃透視で十二指腸球部に隆起性病変を指摘され入院した.胃十二指腸X線透視では十二指腸前壁に直径15mmの粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.上部消化管内視鏡検査ではカルチノイドが疑われたが,初回生検でカルチノイドの所見は得られず頂部に陥凹を伴う潰瘍を形成した.21日後の潰瘍面からの再生検でカルチノイドと確診された.上部消化管超音波内視鏡所見では粘膜下層に限局した低エコー層として描出され,所属リンパ節の腫脹は認められなかった.また肝臓などへの転移も認められず遠位広範囲胃切除術が施行された.EUSはカルチノイドの術前検査として有用な検査法であると考えられた.

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要旨 患者は49歳,女性.1983年5月の内視鏡検査で十二指腸球部小彎に表面平滑な広基性小隆起性病変を認め,生検では陰性であった.1984年5月と翌年10月の内視鏡所見は初回と差異を認めなかったが,1985年10月の生検でカルチノイド細胞を認めたため,手術を施行した.術後の検索で大きさ5×5mm,深達度smの十二指腸カルチノイドと診断した.本症例を報告すると共に,十二指腸カルチノイドの本邦報告例に自験例を加えた160例を集計し検討を加えた.

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要旨 右季肋部の腫瘤に対する初回入院時の腹腔鏡所見では,肝表面の多発性の円型黄白色調の腫瘤が認められ,同生検による病理組織学的所見により肝細胞癌およびその肝内転移と診断された.抗癌剤により腫瘤は縮小した.4回目の入院時では,肝は著しく腫大したが,血液・化学検査には異常所見は認められなかった.下血の精査目的での注腸X線検査で直腸に狭窄がみられた.病理解剖学的には,直腸に3×4cmの結節を認めカルチノイドと診断された.また,肝は腫大し多発性の転移巣を認め,そのほかに前立腺,膀胱,心臓,腎臓,甲状腺にもカルチノイド性組織学的所見が認められた.

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要旨 虫垂の杯細胞カルチノイドの6症例につき,臨床病理学的立場から検討した①組織学的に本腫瘍は粘液産生細胞,好銀性細胞,銀還元性細胞,粘液と銀顆粒を同時に有する細胞,Paneth細胞などの種々の成熟型細胞から構成されていたが,概して銀反応陽性細胞は少なかった.一方,②リンパ管侵襲と神経周囲浸潤は全例に,静脈浸潤は3例に認められ,6例中3例に手術時すでにリンパ節転移と回腸盲腸壁への直接浸潤がみられた.そして,③5年以上の経過観察がなされた5例中4例が5年以内に癌性腹膜炎で死亡していた.以上の結果から,本腫瘍は十分な悪性性格を有する腫瘍で,本腫瘍をカルチノイドの1 variantとするには問題があることを指摘し,併せて本腫瘍の名称に関する簡単な考察を加えた.

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〔患者〕 54歳,男性.主訴:左上腹部痛,背部痛.1987年9月中旬ごろより左上腹部痛,背部痛と全身倦怠感を来すようになり,近医を受診した.上部および下部消化管X線検査では異常はみられなかったが,血液検査で軽度の肝機能障害と高アミラーゼ血症があり,当科を紹介された.

 入院時血液データ:T.Bil 0.8mg/dl,GOT 47μ,GPT 72μ,γ-GTP 225μ,s.Amylase 312 IU,Lipase 288μ,CA 19-9 320U/ml,CEA 3.1ng/ml.

早期胃癌研究会

1989年6月の例会から 長廻 紘
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 1989年6月の例会は21日(司会担当:藤田学園保健衛生大内科 中澤),エーザイ5階ホールで行われた.

〔第1例〕 69歳,男性.最終診断:胃癌(小細胞癌),術前診断:胃悪性リンパ腫(症例提供:国立療養所武雄病院外科 久原).

学会印象記

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 第37回日本消化器内視鏡学会総会は,1989年5月11日より13日までの3日間,名古屋市中小企業振興会館(吹上ホール)を会場に,中澤三郎藤田学園保健衛生大学教授を会長として開催された.シンポジウム4題,パネルディスカッション4題,特別講演2題,更にsummit talk,Japan-USA satellite symposium,教育ビデオセミナーなど,多彩なプログラムが組まれ,今日の日本消化器内視鏡学の話題が網羅された感があった.一般講演題数240余,一般ポスター演題数300,総演題数は600題を超え,連日生憎の雨にもかかわらず,多数の参加者を得て,活発な討議が行われた.学会前に印象記を依頼されていたこともあり,できるだけ多くの会場に足を運ぶことを心掛けたが,なにぶん7会場に分かれており,筆者が聞きえた範囲で,若干の印象を述べてみたい.

 第1日目,朝8時55分の会長の開会挨拶には,2,000名収容の第1会場は半数以上が埋まり,会員の熱気を感じた.中澤会長は,挨拶の中で,会員全員の発言と,十分な討論を望まれ,今学会の隠しテーマは,“直接参加学会”であることを披露され,ポスター展示を重視したいと述べられた.

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要旨 術前に十二指腸ソマトスタチン産生腫瘍(somatostatinoma)と診断しえた極めてまれな1例を経験したので報告した.患者は59歳の男性で十二指腸前壁に径9mmのポリープを認め,頂部に陥凹とびらんがあり,生検でカルチノイドの診断を得た.また血清ソマトスタチンは高値(160pg/ml)でsomatostatinomaが疑われた。術後血清ソマトスタチンは正常化したことと,免疫組織化学で腫瘍内のソマトスタチン陽性を確認したことから本邦で4例目,術前に確診できたものでは第1例目の十二指腸somatostatinomaと考えられた.腫瘍は通常のカルチノイドと異なる腺管形成を呈する部分があり,浸潤は粘膜下組織まで及んでいた.

初心者講座 食道検査法・20

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 はじめに

 1976年,体腔内の超音波検査が導入されて以来,内視鏡超音波検査(endoscopic ultrasonography,以下EUS)は,装置の改良が行われ,普及してきた.特に食道は超音波検査が不可能であったが,EUSの導入により,超音波による後縦隔リンパ節転移の診断,食道癌の深達度診断,食道粘膜下腫瘍の診断が行えるようになった.今回は,食道癌,すなわちリンパ節転移の診断,食道癌深達度診断を中心に報告する.

初心者講座 座談会

消化器疾患とUS・CT・12

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 牛尾(司会) 本日はお忙しいところをお集まりくださり,ありがとうございました.

 最近,消化管とCT,消化管とUSの絡みが出てきました.それには5つぐらいの理由があると思います.それは,①CTとUSは,肝臓,胆囊,膵臓といった実質臓器で有効な検査法として発達してきましたが,そのほかに急性腹症とか,圧痛が強い患者,腹痛の患者,または腫瘤が触れるような患者で,まずfirst choiceとしてUSまたはCTをされる施設が出てきています.②大腸はお腹の中を一周するかのごとく走行している臓器です.一方,小腸はその真中を占める重要な臓器です.こう考えると,腹部の面積の大部分を占めるのが腸だということになります.したがって,周辺の臓器の異常と腸管の異常をどのように鑑別するかという問題が生じている.③小腸,大腸には胃に比べて腫瘤や炎症性疾患の種類が多い.④外国の論文を読むと,炎症性疾患,例えばCrohn病とか,憩室炎とか,膿瘍とか,Fistelといった病変のCTやUSの写真が放射線科,または画像診断の雑誌でたくさん取り上げられている.⑤一方,日本のことを考えてみると,わが国では二重造影法が普及しているし,最近の内視鏡の進歩も目を見張るものがあって,世界をリードしているのは,みなさん方ご存じのとおりです.一般的に言えばX線と内視鏡は粘膜面を見る診断学ですが,US,CTは粘膜下層とか,周辺臓器の診断学に力を発揮するわけです.診断する場合にも疾患によっては粘膜面,腸壁,周辺の組織や臓器の情報も必要とされ,最近では総合画像診断という概念が生まれてきている.

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欧文目次

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 Acid induced duodenal ulcer pain: the influence of symptom status and the effect of an antispasmodic: Kang JY, et al (Gut 30: 166-170, 1989)

 十二指腸潰瘍の痛みがどうして起こるのかはまだわかっていない.有症状者では多くの場合,酸が痛みの原因らしいが,胃十二指腸の運動異常ないしスパスムもその一因との報告もある.著者らは,この古くからの問題を新しい手法で解明しようとしている.

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 Elevated gastrin levels in patients with colon cancer or adenomatous polyps: Smith JP, et al (Dig Dis Sci 34: 171-174, 1989)

 ガストリンは実験動物での発癌物質誘発大腸癌および,in vitroでのヒト大腸癌やヌードマウスに移植したヒト大腸癌の成長を促進することが知られている.

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 Chronic intermittent elemental diet improves growth failure in children with Crohn's disease: Belli DC, Seidmen E, Weber AM, et al (Gastroenterology 94: 603-610, 1988)

 報告によれば,15~40%にみられるという小児Crohn病の成長異常は主として栄養摂取不足に原因のあることが,アイソトープを用いた代謝的研究の面から確認されている.

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 Small polyps found during fiberoptic sigmoidoscopy in asymptomatic patients: Achkar E, Carey W (Ann Intern Med 109: 880-883, 1988)

 S状結腸内視鏡検査で,直腸からS状結腸にかけて1cm以下の小ポリープをしばしば発見する.特に5mm以下のポリープは,組織学的に過形成性のものが多いと言われるが,人によっては,腺腫のほうが多いとも言う.それが仮りに過形成性ポリープであっても,その64.7%の例に別の部位に腺腫を認めたとの報告もある.

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 Anorectal varices, haemorrhoids, and portal hypertension: Hosking SW, Smart HL, et al (Lancet i: 349-352, 1989)

 痔核と肛門直腸静脈瘤の成因,および両者の関係については論争が多い.肛門直腸静脈瘤は門亢症に生じる門脈全身側副血行路で,直腸,肛門管,外側肛門縁にできる.痔核は門脈とは直接交通のない血管のクッションであり,直腸には出現しない.それにもかかわらず,両者を同一の疾患であるとみなす者がいる.これら両疾患の門亢症や肝硬変患者における頻度は未だ明らかではない.そこで,100名の肝硬変患者を追跡調査した.

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 Adenocarcinoma in Barrett's oesophagus: an overrated risk: Van Der Veen AH, et al (Gut 30: 14-18, 1989)

 Barrett食道は食道の癌発生要因の1つとされているが,どのくらい癌発生の危険性があるのかは報告者によって異なり,癌発生が過大に考えられていることもしばしばある.内視鏡による逐年検査が有用か否かも議論されているが,その重要性を強調する意見が圧倒的に多い.そこで,著者らは166例のBarrett食道例を対象に,癌発生の頻度と内視鏡検査の有用性をretrospectiveに検討した.

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 最近受け取った1通の手紙がこの書評を書き始めるきっかけを作ってくれた.差出人は,北米ノースキャロライナ(The Bowman Gray School of Medicine)のDavid Ott.彼は,ボスのDavid Gelfandと共に,消化管の二重造影法でその名を知られた男であり,これに関する多くの論文を発表している.彼らの二重造影法が極めて日本的であることもあって,私は,これまで,北米消化器放射線学会で顔を合わせる度に意見を交換してきた.今度の手紙も,彼らの二重造影法に賭ける情熱がほとばしるような内容のものである.

 吉田・市川のこの本にOttの手紙を重ね合わせたとき,私は,二重造影法を世界に広めるために心血を注いだ市川を想い,そして,その市川が畢生の仕事として企んだ「第1回国際胃癌会議」が無念の延期を強いられるに至った経緯を思い出していた.

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 近年の画像診断の進歩により肝内腫瘤性病変の発見が容易となり,また術中エコー,最新機器の普及により肝切除術の安全性が向上して,肝切除症例は急速に増加している.現在は,編者が序文で言及しているように,一般の施設において,消化器外科医なら誰しもが肝切除を正確にしかも安全に行うことが要求される時代となりつつある.つい十数年前まで,肝硬変合併例の肝切除において術中出血,および術後肝不全との闘いに四苦八苦していたことを思い起こせば,昔日の感を禁じえない.先達者たちの業績に深謝するばかりである.本書はその先達の手による肝臓外科の実地書であり,肝臓外科のノウハウが惜しみなく掲載された最良のガイドブックである.

 本書は肝臓の解剖,画像診断,肝予備能を含めた機能検査,種々の手術法,進行肝癌の治療法,更には肝移植,肝臓外科の歴史など全7章,368ページに及んでいるが,従来の成書にとらわれず,肝臓外科医が臨床で経験する率直な疑問に明確に答えてくれるものとなっている.解剖の章においては初心者に必要な基本的な知識のみならず,intersegment plane,肝内門脈枝分岐形態のvariationについて述べ,区域,亜区域切除の問題点にまで言及している.手術法に関しては種々の手術法が丁寧に解説されているが,それぞれに執筆者の手術における“コツ”が述べられており,また術中の合併症,偶発症への対応の仕方なども記載されている.止血法と新しい機器の紹介も,これから肝臓の手術を行おうとする者にとっては有用であろう.米国おいて多数の移植を手掛けられている執筆者による肝移植の章は,肝移植の現況を忠実に理解することができ,移植のみならず,折しも進行癌に対する血行再建を伴った拡大切除が試みられている現状において,肝臓外科医のみならず消化器外科に携わっている者すべてが必読であると感じられる.そのほかにも術中画像診断の有用性と限界など,「肝臓外科の実際」というタイトルどおり,臨床面の実際的なことを十分に紹介した本と言える.

編集後記 八尾 恒良
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 本号の編集後記は心躍りつつ筆をとる心境にはならない.病理面では岩渕論文は遅れて読めず,渡辺教授の序説と岩下論文からは,臨床に密接した内容が汲み取りにくいからである.これは病理学的には新しい染色法や電顕によって解明されたカルチノイド産生物質の知識を基に,その定義,分類,発生などがメインテーマにされているの対し,臨床では臨床的に捉えられる機能の有無を問題にしているせいであろう.もちろん,基礎的知識のフィードバックが,小泉のreviewによる主張―クラシックなセロトニン産生に基づく症状のみをカルチノイド症候群とするのではなく,カルチノイド腫瘍が産生する種々のホルモンによってもたらされる症状として捉えたい―に連らなることは理解できるが…….渡辺教授が今後の魅力ある課題としている産生物質の量と臨床症状との相関の解明が待たれる.

 臨床の面では9mm以下の直腸カルチノイドはポリペクトミーで治療しても大丈夫らしいという石川論文が注目される.しかし,症例が少なく今後の検討で結論が出されるべきであろう.また,この論文でカルチノイドが良性と悪性の2つに分けられるという従来の記載を踏襲しているのが気がかりである.胃癌でも粘膜内癌は良性か?と言いたくなるからである.

基本情報

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胃と腸
24巻8号 (1989年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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