胃と腸 24巻6号 (1989年6月)

今月の主題 急性胃粘膜病変(AGML)

序説

狭義のいわゆるAGML 多賀須 幸男
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 AGMLはまことに便利な言葉である.本誌の読者の多くは,AGMLと聞けば,前庭部に白苔もしくは黒苔に覆われた大小のびらん性病変が散在している内視鏡像を頭に浮かべるに違いない.更にもし合併症がない患者なら,強い腹痛を訴えていても,H2ブロッカー・制酸剤・粘膜保護剤を投与すればじきに症状は治まり,予後も心配なかろうと想像されよう.

 AGMLとは,もちろん急性胃粘膜病変のことである.急性の胃粘膜の病変と規定すると,当然,本特集に述べられているような様々な病変が含まれることになる.しかし筆者の気持としては,AGMLというときは上記のものに限りたい.非科学的であるがAGMLと急性胃粘膜病変と分けたいのである.狭義のいわゆるAGMLとも称すべきであろうか.頭部外傷などの重篤な病変時や消炎鎮痛剤により生じた胃体部の急性胃潰瘍は,敢えてAGMLと呼ぶこともないし,小生の持つAGMLの語感に似合わない.同様な感想をお持ちの読者もかなりおられるのではなかろうか(暴言多謝).

主題

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要旨 AGMLに関して,内視鏡医の立場から,歴史的な展開,現状,今後の方向について,意見を述べた.もともとAGMLの概念は,内視鏡所見を中心に概念づけがされており,病理学的な裏づけが少ないなど基盤の弱い点がある.しかし,今日対象とする疾患が増加し,多用される事態となり,この概念に混乱が生じている.この時点で,概念,定義を論じることは極めて重要なことと考え,1つの定義を提唱した.現状では,緊急内視鏡を前提とし,臨床症状を加味し,かなり厳しく病変の程度と時間的な経過を限定した.しかし,今後,AGMLの病態生理学的な研究が進めば,この概念も変わっていくことが予測される.

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要旨 急性胃粘膜病変(AGML)は“急性の症状を伴って突然発症する胃粘膜病変”と概念的に理解されてきたが,あくまでも臨床の立場に立った概念であり,その発症機構,診断および治療の面から総合的に概念に言及した報告は少ない.そこで今回,発症機構について再灌流現象によるフリーラジカルの関与を実験的に証明し,病態生理についての概念を示した.更に治療面についてはH2ブロッカー出現前と後の死亡率および手術施行率の変化について著しい差のあることを認めた.すなわちH2ブロッカーが有効であるということである.しかしこの治療に反応しない症例も存在し,外科手術を余儀なくされる場合もあり,このような症例に対しては胃(亜)全摘術を採用している.

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要旨 原発性肝癌に対する経カテーテル的肝動脈化学塞栓療法(TACE)後の急性胃粘膜病変(AGML)25症例42病変について,病理組織学的立場から検討した.42病変中,10病変が潰瘍,7病変がびらん性胃炎と組織診断された.これら17病変のうち,上皮細胞の異型は13病変(76.5%),異型線維芽細胞は11病変(64.7%),異型内皮細胞は5病変(29.4%),死生性腺管は10病変(58.8%),結合織増生は5病変(29.4%)に認められた.びらん性胃炎よりも潰瘍で上皮細胞異型は強い傾向があった.上皮細胞異型は軽いものが多かったが,中等度以上の異型を示す細胞は,多形性でくすんだ過染色性大型核と微細空胞状の比較的広い好酸性胞体を有しており,変性・壊死性変化を示す細胞も認められた.以上の結果から,TACE後のAGMLには上皮細胞,間質細胞に異型が出現する可能性が高いことを指摘し,併せて癌との鑑別点とTACE後のAGMLの成因について簡単に考察を加えた.

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要旨 急性胃粘膜病変(AGML)の成因として,①ストレスによるもの,②各種薬剤によるもの,③飲食物によるもの,④胃の血管性変化に基づくもの,の4つに分けている.内科で扱うストレスによるAGMLの大半は精神的ストレスによるものである.その病型としては,出血性びらんが多発するものが多く,次いで白苔をこうむる浅い潰瘍性変化の多発するもの,びまん性の粘膜出血だけをみるもの,これらが混在するもの,に大別できる.薬剤によるAGMLの中では解熱・鎮痛・消炎剤によるものが45%を占めており,老年者に多く発生する傾向にあった.飲食物によるAGMLとしては,アルコールによるものが代表的であるが,ニンニク,激辛食品でも発生した例を経験している.胃の血管性変化によると思われるAGMLは老年者の胃体部に巨大な深い潰瘍を呈することが特徴である.内視鏡検査後のAGMLは0.1%の発生頻度であったが,発生機序については今後の課題である.いずれにしてもAGMLの診断においては,上部消化管をくまなく内視鏡的に観察することが重要である.

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要旨 1971年7月より1987年12月までに北里大学病院で急性胃粘膜病変(AGML)と確診された症例は231例であった.これらの誘因をみると薬剤87例,精神的ストレス57例,不明51例の順で多く,身体的ストレスとしての手術侵襲,外傷,熱傷は各々9例,2例,3例であった.胃酸分泌亢進による攻撃因子増強などよりも,胃粘膜血流の低下や粘液産生の低下などの防御因子減弱をAGML発生の主因とする報告が多いが,外科の立場でのストレス潰瘍発生においては,ストレス刺激による迷走神経,内臓神経,副腎皮質の胃に対する作用がからみ合って生じる攻撃因子と防御因子のバランス失調を根本的な成因と考える.

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要旨 上部消化管検査後に発症するAGMLについて検討した.当院では1987年までに17例を経験し,その頻度は過去12年間の全検査例43,499回について1,000件当たり0.36件に相当する.1988年の全国アンケート調査では1,000件当たり0.7件であり,小施設で頻度が高い傾向があった.患者が検査後に疼痛を訴えても大施設では検査を繰り返すことが困難なためと考えられる.患者の検査経験回数,生検の有無に有意差はなく,40歳台,男性に多い傾向があった.患者は検査後3~8日で激痛を覚え,再検査では白苔もしくは黒苔で覆われた島状や線状のびらんが主として前庭部にみられる.通常の抗潰瘍療法により数日で治癒する.内視鏡後のAGMLは消化性潰瘍,悪性腫瘍例で期待値より低く,アニサキス症,食道静脈瘤,無所見例で高かった.斜走筋を欠く前庭部は検査時の送気で著明に伸展され,強い蠕動性の収縮が加わって生じた虚血が,粘膜の抵抗が低下したり酸分泌が過剰である症例でAGMLを誘発するものと考えられた.消化性潰瘍やポリペクトミー例で発生が少ないのは抗潰瘍薬が処方されるためであろう.内視鏡検査後のAGMLはまれであるが,その発生を予防するには過剰の送気を避けること,検査後数日間H2ブロッカーを投与することである.

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要旨 いまの診断域を越えたい,静止の一面をみる病理の学問を補足したい,あてがわれた診断学と診断域に住みついて永すぎる,観念的に,実験的に,理論的であることを狙いたい,ことなどから変形学を使いAGMLをみた.まず,虚血性大腸炎27例,薬剤性大腸炎29例につき,各層別にX線所見をとった.そして,粘膜には潰瘍,粘膜下には浮腫,thumbprints,筋層にはspasm,segmentation,longitudinal involvement,粘膜下と筋層の合併にはbamboo-joint signを対応させてみた.次に,上記所見をAGMLのX線写真上に求めた.これらの所見がAGMLにもみられることから,前記の考え方は,胃にも腸にもcommonに使えるX線所見だと考えられた.

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 並木(司会)今日は最近関心の持たれている急性胃粘膜病変(AGML)についてお話し願いたいと思います.

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 〔患者〕60歳,女性.主訴は黒色便.現病歴:1年3か月前より時々黒色便を認めていた.近医にて上部消化管および大腸のX線・内視鏡検査を受けたが原因不明であった.最近,再び黒色便を認めるようになり,貧血が高度になったため当科を受診した.

 〔小腸X線所見〕十二指腸空腸曲から約1.5m肛門側の中部空腸に片側性の陰影欠損像を認めた(Fig.1).同部位を強く圧迫することによって,大きさ約5×2cmの表面平滑な隆起性病変が指摘された(Fig.2).弱く圧迫することによって腫瘤の表面に淡いバリウム斑を認め,表面に浅い陥凹が存在することがうかがえた(Fig.3).

学会印象記

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 第75回日本消化器病学会総会は,3月27,28,29日の3日間,横浜市において北里大学内科岡部治弥会長のもとに開催された.神奈川県民ホールを中心に9会場において,特別講演をはじめとする4題の講演,知識人講話1題,シンポジウム3題,パネルディスカッション3題,ワークショップ1題,一般演題664題,ポスター展示223題という多彩なプログラムのもとに行われた.この印象記は,筆者と教室員とが分担して聴いたものをまとめたものである.

 27日の午前中は,ポスター展示,胃出血を聴いた.11時から行われた並木教授の特別講演“小児潰瘍と成人消化性潰瘍のつながり”は長年にわたる研究と豊富な経験をもとに,貴重な具体的ケースを示しながら,潰瘍症の成り立ちについて深い洞察を加えたもので,潰瘍症患者の体質は,既に小児の時期から形づくられていることなど,幾つかの示唆に富んだ重要な問題を指摘し,大きな反響を呼んだ.その後12時10分から三辺 謙名誉会員による故高橋忠雄前理事長の追悼講演があり,その在りし日を偲んだ.午後からの八尾教授の宿題講演“Crohn病のnatural history”は,過去20年間経過を追跡しえた203例のCrohn病患者の治療経過につき,その精力的な研究成果を示したもので,適切な治療が行われれば,Crohn病そのものの生命予後は極めて良好であると述べていた.なお,ワークショップ“Campylobacter pyloriの意義”においては,Campylobacter pylori(CP)の診断法とその病態との関連性について活発な議論がかわされた.現時点では,細菌培養法およびアクレジンオレンジによる組織学的診断法が,臨床の実際に即した診断法であり,モノクローナル抗体による組織学的診断法やurease活性測定法などは,補助的診断法と考えるのが妥当であること,またCPと慢性胃炎,胃潰瘍,十二指腸潰瘍および胃癌などの病態との間に密接な関連性があることのほか,新しい知見も報告された.CPがどのような機序によりgastroduodenal mucosal damageを引き起こすかについては,単にbarrier breakerとしてのurease活性の面のみからは説明できず,mucin breakerとしてのproteaseの関与も示唆された.

早期胃癌研究会

1989年3月の例会から 岡崎 幸紀
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 早期胃癌研究会の1989年3月度例会は15日,大阪医科大学第2内科大柴の司会のもとに開催され,胃3例,腸3例の検討が行われた.

 〔第1例〕78歳男性.①胃悪性リンパ腫,②胃潰瘍(症例提供:福井県立病院外科 細川).

1989年4月の例会から 牛尾 恭輔
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 1989年4月の早期胃癌研究会は,19日(司会担当:名古屋市立大学第1内科武内)に開催され,胃3例,腸3例の計6例が提示され活発な討論が行われた.

 〔第1例〕43歳,女性.広範囲なⅡa集簇型胃癌(症例提供:広島大学第1内科,現呉共済病院 徳冨).

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要旨 患者は48歳,男性で,3年前より糖尿病を指摘されていた.心窩部痛,咳嗽を主訴として来院し,右上肺野の浸潤陰影および胃体中部から前庭部にかけての大小不同の不整形潰瘍の多発が認められた.喀痰より結核菌が検出され,胃内視鏡下生検で乾酪壊死巣を伴う類上皮肉芽腫が認められたため,糖尿病を基礎疾患とした肺結核に合併した胃結核と診断した.インスリンによる糖尿病のコントロールと,抗結核剤と抗潰瘍剤の併用により6か月後には潰瘍は完全に治癒した.

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要旨 39歳,女性が激しい心窩部痛,嘔吐を主訴として来院した.胃X線と胃内視鏡の所見では壁の伸展は良好であるが,胃体部より前庭部にかけて大小不同の粗大顆粒状変化と角部にやや深い不整形の潰瘍を認めた.生検所見で固有粘膜内にリンパ球と形質細胞浸潤が強く認められ,血清梅毒反応が陽性を示したことより,Warthin-Starry染色と螢光抗体法による検索を行った結果,Treponema Pallidumを胃粘膜組織中に証明した.第2期胃梅毒と確診し駆梅療法を行い,第2クール終了後血清梅毒反応は低下し,自覚症状も改善した.内視鏡所見では駆梅療法開始後約40日で角部の潰瘍は瘢痕化し,粘膜も全体に正常に復した.

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要旨 患者は60歳,男性.腹部膨満感と左側腹部痛で来院,腹部単純写真で小腸ガス像と鏡面形成を認めた.逆行性小腸造影で回腸末端から口側おおよそ2mの部位に腫瘤陰影と管腔の狭窄を認め,回腸腫瘍およびそれによる腸閉塞の診断で手術.開腹所見で回腸末端から口側約160cmの回腸に腸重積を認め,整復すると同部に鶏卵大の腫瘤を触れ,回腸部分切除を施行.腫瘤は大きさ3.5×4.0×4.Ocm,亜有茎性で腫瘤頂部は粘膜がほとんど欠損していた.組織学的には腫瘤は粘膜下層にあり,線維芽細胞,膠原線維,小血管の増生と多数の好酸球浸潤が認められ,inflammatory fibroid polyp(IFP)とした.本邦の小腸IFP報告例は本例を含めて19例で,そのほとんどが腸重積で発症していた.

研究

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要旨 韓国のソウル白病院の胃癌329例の発見年齢,中村の公式で推定した胃癌発生年齢,潜伏年数などを,日本の早期胃癌の発見年齢分布(%)と比較検討してみた.早期胃癌の年齢分布(%)は発癌環境因子の強弱に応じて一定の傾向を示していた.

初心者講座 座談会

消化器疾患とUS・CT・10

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 深達度診断はどこまでできるか

 木村(司会) 進展度という内容の中に,深さの深達度,そして横への拡がり,そして更にリンパ節への転移と3つあるわけです.すなわち,depth,width,そしてlymph node metastasisです.まずは深達度のディスカッションをしていただきたいと思います.次に拡がりについてのEUSの有用性を論議して,続いてリンパ節へいきたいと思います.

 今,福地先生から,重要なご指摘があったのですが,深達度診断で,X線,内視鏡,EUSのどれが優るかということです.福地先生のご意見にいささか反論したい方もあろうかと思いますが,いかがですか.

初心者講座 食道検査法・18

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 本稿では日常の食道検査でみられる良性疾患の種類とその生検組織像,およびそれらの鑑別診断や注意点について述べる.

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欧文目次

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 新谷博士の「colonoscopy」の英文版の初版が出て早7年,医学書院発刊の単行本では未曽有の売れ行きとか聞いていたが,今度日本語版が出,更に読者層が拡がりそうだ.英文版の英語は,平易で大層読みやすく,日本語の訳書など不要と思っていたが,博士が日本国内向けに自分の言葉で語りかけたかった心情は十分理解できるし,実際読んでみて,実力を競うアメリカ社会の中で磨かれ,完熟をみた博士の堅固な思想と長年積み上げた学問が,訳者の助けを借りたとはいえ,一層の親しみをもって私共に近づいてくる.

 私が彼のテクニックに初めてお目にかかったのは,1979年にニューヨークを訪れたときのことである.それまで他人の内視鏡テクニックをほとんど見たことのない私にとって,それは得も言われぬ素晴らしい体験であった.スコープを操る彼の両手の動きは,名曲を奏でる名バイオリニストの動きに似ていた,天賦の才だけでなく,それにも増して彼の人並みならぬ努力が偲ばれた.アメリカで外国人が生き抜くためには,彼らを凌駕し,圧倒する強い精神力と逞しさ,それにたゆまぬ努力が必要である.新谷博士は,まさにその類の人である.

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 The protean manifestation of familial polyposis coli; Nelson RL, Orsay CP, Pearl RK, et al (Dis Colon Rectum 31: 699-703, 1988)

 家族性大腸腺腫症(FPC)の臨床像は画一的で,一定の経過をとるので治療法選択の余地はほとんどない疾患と考えられているが,著者らが過去5年間にシカゴ市内のWest Side Medical Centerの3病変で扱った16家系33例の患者について再検討した結果,むしろ非常に臨床像は多彩であることがわかった.検討対象33例のうち家族歴が証明されない発端者が5例(31%)あり,すべて30歳以下であった.発見された癌病巣12個のうち8個(67%)は直腸にあり,そのうち3個は結腸切除兼回腸直腸吻合術(TACIRA)施行例にみられた.癌発生年齢について,異なる家系の3例は20歳以下に,12個の癌のうち7個は31歳以下の患者に発生した.ポリープの増大の速度に個人差があり,TACIRA後に直腸ポリープは消失しなかった.TACIRA施行者17例中3例(18%)は術後各々4か月,7か月,20年後に直腸癌になった.発端者の半数に初回検査時癌があったのに対し,スクリーニングしたFPC家系の17例では3例(18%)にしか癌がなく,すべてDukes'AまたはB1の病巣であった.腸外腫瘍には胃十二指腸ポリープと後腹膜desmoid tumorが3家系にみられた.これらの経験から著者らはFPCの治療指針を次のように立てている.すべての有危険者のスクリーニングは10歳から少なくとも20歳まで毎年,その後は40歳まで定期的に内視鏡検査を行う.初回検査で直腸にポリープがないか,ない状態にした場合,TACIRAで十分である.desmoid tumorが初回開腹時に発見されてもTACIRAでよい.TACIRA施行者は生涯少なくとも半年ごとに直腸鏡を行い直腸を再びポリープのない状態にしておかなければならない.直腸粘膜切除兼回腸肛門吻合術は,直腸ポリープが密生型の患者,生涯内視鏡的追跡が無理な患者,発癌の危険性がない治療を希望する患者に行うべきである.直腸癌を伴う患者には根治的結腸直腸切除術が行われるべきである.要は年齢に関係なく診断時点で結腸切除術を行うべきである,更にFPC患者は全員上部消化管内視鏡検査を行うべきで,特に傍乳頭部癌の危険性が高いGardner症候群では注意を払う必要がある.腸外腫瘍の出現の仕方は,FPCでも遺伝様式で異なるので,画一的な検査スケジュールでなく個人,家系に合わせて行うのがよい.

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 一見,奇妙な本である.書名が「大腸疾患診断の実際」であるのに内視鏡検査法の記載はなく,疾患の発育経過,自然史が入っている.ましてや「人体の腫瘍」がどうして「診断の実際」に結びつくのか?と思いつつ読みはじめてみると,これが面白い.提示された美しいX線写真,マクロ,ミクロ,内視鏡写真など,これまでの著書の中でも最高のレベルのものであろう.また,豊富な症例が疾病の本質を良く理解させてくれる.そして文章はそれほどうまくないのに,ついつい引きこまれて先を読んでしまう.

 どうしてかと考えてみて気がついた.この本はまさに著者そのものである.著者の思考は“診断の実際”にとどまらず,“診断”を通じてみた大腸疾患の本質を問題としているのだ.著者は,長年月消化管のX線診断に従事してきた.そして従来にない微細なX線診断技術によって見出される微細な所見の解析から疾病の本質に思考をめぐらし,新知見にとどまらず,真理を捉えんとしているのだ.だからこの本では華麗で精緻なX線写真を中心にすえ,これを説明するための道具に内視鏡写真が使われ,マクロ,ミクロが用いられている.そして,その思いが“X線病態生物学”なる新造語を生み出している.このことは,本書の中でも顆粒集籏型病変や大腸癌の深達度診断,発育経過,大腸ポリポーシスやcancer family syndromeの項をみれば,非常によく理解できるであろう.

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 The evaluation of CA 19-9 antigen level in the early detection of pancreatic cancer; Frebourg T, et al (Cancer 62: 2287-2290, 1988)

 膵癌は致命的な疾患で,平均生存期間はわずか3か月,5年生存率は2%である.予後不良は診断が遅れるためで,患者の85%に診断時転移がある.CA19-9の測定は膵癌の診断に有効であるが,そのほとんどは進行癌に対してであった.

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 Influence of ulcer healing agents on ulcer relapse after discontinuation of acu tetreatment: a pooled estimate controlled clinical trials: Dobrilla G, et al (Gut 29; 181-187, 1988)

 潰瘍再発の頻度が最初の治癒を生み出した薬剤によって変わるかどうかという疑問に研究者たちが挑戦し始めたのは,ほんのここ10年のことである.著者らは以下のcriteriaに合うtrialをmeta-analysisの手法により分析し,H2-antagonistで治療された患者と他の抗潰瘍剤で治療された患者の6か月と12か月の再発頻度を比較した.criteriaは,①対照薬は特異的な,証明された抗潰瘍効果を持つ,②1治療群は少なくとも患者数は10人以上,③少なくとも6か月間followされた,④十二指腸潰瘍と幽門前庭部潰瘍であること,⑤最初の治癒は単剤で得られたものであること,⑥治癒後は維持療法は行っていないこと,などであり,すべてのtrialの結果を併合するために,Cochran's weighted methodがそれぞれのtrialにおける再発頻度の差に応用された.

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 最近各大学医学部では,カリキュラムが理論ばかりでなく具体的な治療学をも教えるように変わりつつある.しかし現時点ではこれを総体的,かつ具体的に論じた良いテキストが少ない.

 このほど医学書院からNew Integrated Medical Lecturesシリーズの1つとして,「臨床治療学―ペイシェントマネージメント」が出版された.これは,治療学の教科書として1つのあるべき方向を示したという点で注目される.1979年に上梓された同じNIMシリーズの「治療総論」に比してずっと具体的な項目が多いので,より“各論”的役割を果たすであろうと考えられる,特に,救急蘇生法,中心静脈栄養,死の医学などの項目が新たに加わっている.

編集後記 並木 正義
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 AGMLは,今日なじみ深い言葉として,よく用いられているが,その概念の捉え方については,なお混乱が見受けられる.“定義”ということになると,明確な理念と根拠と普遍性がなければならない.AGMLの定義づけが難しいのはこのためである,この点“概念”は文字どおり大まかな考え方とするならば,その解釈には多少の幅と融通性が許される.そのためか疾病概念には,漠然とした,いささか曖昧なものが少なくない.また疾病概念には,解釈の仕方に時代的変化がみられるのも特徴と言える.これはAGMLについても同様である.主題研究を含めて,この特集号の執筆者は,いずれも確固たる自分の考えをもったこの分野における先駆者である.それだけに,特集号の内容はしっかりしたものであり,AGMLの知識を整理し,深めるのに役立つものと思う.繰り返し読んでいただきたい.

基本情報

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胃と腸
24巻6号 (1989年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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