胃と腸 24巻5号 (1989年5月)

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要旨 病理学的に確認されえた腸管原発悪性リンパ腫23例について,臨床病理学的検討を行い,それらの肉眼的特徴から以下の5群に分類した.(1)隆起型,(2a)潰瘍型(周堤を伴うもの),(2b)潰瘍型(周堤を伴わないもの),(3)びまん浸潤型,(4)その他.悪性リンパ腫の特徴として,①多発病巣が多い(52%),②腫瘍(特に粘膜下腫瘍)としての性格表現と炎症性疾患に類した形態表現の両者を合わせ示すことが多い,③非上皮性腫瘍かつfree cell(遊離細胞)としての形態表現のものがある,などが指摘しうる.これらの特徴を踏まえ,各肉眼型ごとに癌,筋肉腫,脂肪腫,潰瘍形成性炎症性疾患など類似疾患との肉眼的鑑別診断について述べた.

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要旨 腸管には中胚葉由来で,生体防御の役目を持つリンパ装置が数多く存在する.これらのリンパ装置は,また全身のリンパ節とも関連し合っているため,腸管の悪性リンパ腫では癌に比して多発しやすく,病態と病像も多彩である.この多発性,多彩性を理解するために,腸管のリンパ装置の解剖・生理について述べ,次いで悪性リンパ腫の分類の病期診断,検査と診断上の留意点につき概説した.これを踏まえて,多発性・びまん性の腸管の悪性リンパ腫に類似した形態を示し,鑑別診断上で問題となる疾患(びまん性リンパ濾胞増生症,偽膜性腸炎,アメーバ赤痢,Yersinia腸炎,immunoproliferative small intestinal disease,AIDS,mucosal prolapse syndrome)について,形態的な鑑別点を主体に述べた.

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要旨 13例の腸管悪性リンパ腫につき検討した.内訳は大腸6例,小腸4例,大腸,小腸1例,多臓器2例である.肉眼像については腫瘤型(5例5病変),潰瘍型(4例8病変),限局浸潤型(2例2病変),びまん型(4例)の4型に大別できた.それらの内視鏡像は次のような特徴を持っていた.腫瘤型は形態・表面の平滑度・色調など大きな粘膜下腫瘍と言えるものが多く,またそういったものは内視鏡診断が可能であった.潰瘍型にも粘膜下腫瘍の特徴を残す例がみられた.びまん型は表面平滑な脳回様所見,multiple lymphomatous polyposis,白色がかったやや厚ぼったい粘膜で小陥凹あるいはタコイボびらん様の小隆起の多発を伴うものがあった.

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要旨 原発性腸管悪性リンパ腫32例の内訳は,十二指腸1例,空腸4例(含,他臓器重複),回腸16例(含,他臓器重複),大腸11例(含,他臓器重複)であった.腸管多発悪性リンパ腫は4例あり,12.5%を占め,他臓器重複例は10例,31.3%に認められ,主に胃や他の消化管であった.腸管悪性リンパ腫の治療は,根治手術が13例(41%)に施行され,残り19例が姑息手術に終わった.その理由は大動脈周囲リンパ節(n4+)転移陽性が13例(68%)に認められ,腹膜播種5例,肝転移2例もn4+例と重複して認められた.他の6例は局所所見のためであった。肉眼分類では小腸は壁肥厚型が多く,大腸では潰瘍型が多かった.組織型はLSG分類でdiffuselarge cell型が多かった.腸管悪性リンパ腫が臓器原発か,全身性の一部分症かを手術前に明確にするのは困難であるが,いずれにしても消化管症状を取るため可及的に切除すれば,姑息手術に終わっても,化学療法(AVCP,EMLP,CHOP,VEPAMなど)を施行し,CRを認め5年以上生存例を2例も経験しているので,腸管原発例では姑息手術でも腸管切除を行うことは有意義であり,化学療法で初回寛解導入が得られれば長期生存が期待できよう.

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要旨 広範な消化管にポリポーシス様病変を呈した悪性リンパ腫の4例を提示し,本邦報告例を中心とした検討から,multiple lymphomatous polyposis of the gastrointestinal tractの疾患概念の取り扱いについて若干の考察を加え報告した.

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要旨 患者は59歳男性で上腹部不快感を主訴とし来院.全身の表在リンパ節腫脹と軽度の低蛋白血症を認めたが,白血球数・分画に異常はなかった.消化管X線および内視鏡検査で胃には1個の粘膜下腫瘍,小腸・大腸には微小な多発性ポリープ病変を認めた.リンパ節生検標本と各消化管病変の生検標本から異型リンパ球のびまん性浸潤増殖がみられ,非ホジキン悪性リンパ腫と診断した.VEPA療法で胃病変の著明な縮小および小腸・大腸のポリポーシスの消失を認めた.本例は形態学的にはMLPと考えられるが,従来報告されているMLPの中にも続発性のリンパ腫が含まれている.以上よりMLPの疾患概念の再検討が必要と考えられる.

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要旨 13年間の病悩期間を有する潰瘍性大腸炎に大腸原発悪性リンパ腫を併発した1例を経験した.患者は37歳,男性.咳,腹満感,全身倦怠感,上腹部痛,体重減少を主訴として入院.注腸造影でback wash ileitisを伴う全大腸型の潰瘍性大腸炎の所見に加え,横行結腸に径6.5cm大の全周性の潰瘍形成を認めた.潰瘍面の周囲粘膜への移行はなだらかであり,潰瘍部の腸管腔はむしろ拡張していた.患者は入院約1か月後に死亡し,剖検で全結腸型の潰瘍性大腸炎に併発した大動脈瘤型の横行結腸原発悪性リンパ腫(diffuse,large cell type)と診断された.同様の本邦文献報告はなく,21例の海外報告例と比較検討した.

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要旨 潰瘍性大腸炎に悪性リンパ腫を合併した症例を経験した.患者は39歳男性で,発熱・下痢・腹痛を主訴に来院し,注腸X線検査,内視鏡検査と生検で全結腸炎型の潰瘍性大腸炎と診断された.内科的治療を続け一時軽快したが,約5年後に再燃し,発熱・下血により全身状態が悪化したため,止むなく全結腸・直腸切除兼回腸瘻造設術を施行した.切除標本の詳細な病理組織学的検索で,多発性の悪性リンパ腫(びまん性リンパ腫・大細胞型,T細胞型リンパ腫)の合併が確認された.潰瘍性大腸炎に合併する悪性リンパ腫の報告例は非常に少なく,両疾患の因果関係もいまだ詳細には解明されていない.本症例では,反応性か腫瘍性か鑑別に苦慮したT細胞性リンパ球の増殖が優位であり,リンパ腫との移行が示唆された.

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要旨 immunoproliferative small intestinal diseaseと考えられる症例を経験した.患者は54歳,女性.1年前より下痢,体重減少が出現し,低蛋白血症を指摘され入院.著明な低蛋白血症を認め,蛋白漏出性胃腸症を証明した.消化管X線,内視鏡検査では小腸皺襞の肥厚と胃から上部小腸にかけてびまん性に微細顆粒状粘膜を認めた.生検で大細胞型悪性リンパ腫と診断された.CT上腹腔内リンパ節の腫大をみた.血中,腸液中にα鎖蛋白は認められなかった。化学療法を施行したところ一時的に下痢,低蛋白血症は軽快し,X線,内視鏡像の改善をみた.

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要旨 患者は73歳,女性.20年前に特発性門脈圧亢進症で脾臓摘出術ならびに食道離断術が施行されている.1987年8月,食道静脈瘤の経過観察のため上部消化管内視鏡検査を施行した際,十二指腸球後部にひだの腫大と粘膜面の顆粒状変化を認めた.同時に行った生検で(immunoproliferative small intestinal disease((以下IPSID)の疑いが持たれ,小腸造影,注腸造影が施行されたが,上記のひだの腫大は十二指腸球後部に限局していることが確認された.入院後の諸検査と再生検から,IPSIDではなく,形質細胞腫と診断された.全身の系統的な検索で偶然,盲腸に癌が発見されたため,回盲部切除術がなされ,その際の腹腔内の検索でも,形質細胞腫は十二指腸に限局していることが確認された.合併疾患との兼ね合いから現在無治療で経過を観察中であるが,1年4か月を経ても病変に変化は認められない.

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〔症例1〕37歳,男性.主訴:腹痛,現病歴:サバの刺身を食べ,約30時間後に腹部全体の激しい疼痛および嘔気が出現し,当院を受診した.入院時現症:腹部全体に圧痛を認めるのみで,腸雑音には異常はなかった.検査成績:中等度の自血球増多とCRP陽性を認めたが,白血球分類で好酸球増多はなかった.抗アニサキス抗体は入院時は陰性であったが,1か月後の再検査では陽性であった.

〔腹部単純X線所見〕第4腰椎の高さに異常な小腸ガス像と鏡面形成を認めた(Fig.1).

早期胃癌研究会

1989年2月の例会から 丸山 雅一
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 2月度の早期胃癌研究会は2月15日(水)に開催された.当番司会は白壁(早胃検)が担当し,胃3例,大腸3例が検討された.

 〔第1例〕52歳,男性.噴門部の腺癌・扁平上皮癌(衝突癌?)(症例提供:名古屋第一赤十字病院内科 安藤).

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要旨 74歳,女性.排便時下血を主訴として近医を受診し,直腸腫瘤を指摘され当院入院.注腸造影,内視鏡検査で歯状線直上に,Borrmann 2型様の腫瘍を認めた.術前の数回にわたる生検においても,良悪性の確定診断ができず,直腸切断術を施行した.切除標本では腫瘍は2か所(5×5cm大と,0.8×0.8cm大)に認められ,stageⅠであった.病理組織学的には,小型~中型の異型に乏しいリンパ球のびまん性浸潤を固有筋層まで認めた.介在する形質細胞の胞体内免疫グロブリンではmonoclonalityは証明されなかった.手術時採取した腫瘍部単核浮遊細胞の細胞膜表面形質では,BlとIL-2Rが陽性であった.以上から直腸原発の悪性リンパ腫で,組織分類(LSG)からはびまん性中細胞型(B細胞性)と診断した.また,肛門側の小病変も同様の悪性リンパ腫と診断した.術後10か月経過した現在,再発は認めていない.

初心者講座 食道検査法・17

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 新しい肉眼分類(案)の分類上の基本的立場

 近年,食道癌の個性追求の要望から,術前治療を行わず手術が行われるようになった.その結果,食道癌の肉眼形態が多種多彩であることが判明し,従来の規約上の肉眼分類が臨床の場で役に立たなくなった.そこで,約2年間検討され,1988年6月18日,第42回食道疾患研究会で下里幸雄博士(国立がんセンター病理部長,食道癌病理分類改訂委員長)より発表された分類(案)はTable1のごとくである(著者もこの改訂委員の1人として参画した).そして分類上の基本的立場では,①消化管全体の共通の肉眼分類に近いものにするが,食道の特徴を出すよう努力すること,②粘膜面の形態を重視するが,予後を反映する割面の性状も参考にすること,③粘膜上皮の癌進展を明確にするためにルゴールや色素染色法による所見を参考にすること,などが重視された.以下,1型から4型の進行食道癌の肉眼型について,食道癌の進展,予後を加味した解説を行う.

初心者講座 座談会

消化器疾患とUS・CT・9

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 木村(司会)昨今におけるUS・CTの診断分野における役割は相当大きなウエイトを占めてきましたが,本日は胃における超音波,特に体内走査である内視鏡的超音波検査,endoscopic ultrasonography以下EUSと言いますが,それに限ってお話をお伺いしたいと思います.

 まず,今までの胃の診断では,歴史的にもX線,内視鏡で尽きるところまでいったかと思うところですが,その限界を突破する意味でも,このEUSに大きな期待が寄せられるわけです.今日ご出席の各施設ではどの程度EUSを胃の診断に使っているか,これをX線と内視鏡の手法,手技と比較しながら話していただきたいと思います.では,富士先生からお願いいたします.

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欧文目次

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 Frequency of upper gastrointestinal lesions in patients with liver cirrhosis: Sacchetti C, et al (Dig Dis Sci 33: 1218-1222, 1988)

 肝硬変に伴う血行動態の変化が,上部消化管粘膜に何らかの変化を惹起しうることは想像に難くない.一方,上部消化管出血は全身的凝固能の低下と相俟って,肝硬変の重篤な合併症の1つであるが,近年の研究では静脈瘤よりも,むしろびらん巣や消化性潰瘍が出血源となることが多いと報告されている.しかし,これら上部消化管病変の出現頻度に関する報告は,ほとんどなされていない.そこで,著者らは種々の重症度の肝硬変患者142名について胃・十二指腸病変の出現頻度をprospectiveに調査した.また,対照群として肝生検で再生結節の存在が否定された63名の軽症肝疾患患者を選ぶと共に,肝硬変の重症度と消化管病変の出現頻度の相関を検討するために肝硬変患者をChild-Turcotte基準のPugh修正案に従って3群に分類した.確認された内視鏡的粘膜病変は消化性潰瘍,びらんおよびこれらを伴わない胃・十二指腸炎などであった.消化性潰瘍の出現頻度は肝硬変患者と対照群で差はなく,胃・十二指腸炎は肝硬変患者に多くみられたが,有意差を認めなかった.これに反して,びらん病変は肝硬変患者で有意に多く(29.6%vs11.1%,P<0.01),しかもChild A,Bがそれぞれ21,および26%であったのに対して,Child Cでは48.4%と上昇し,重症度との相関がみられた.こ

のような調査結果を得た背景として,著者らは肝硬変に続発する門脈圧亢進症が惹起する上部消化管のうっ血性変化,ならびに異化の亢進がもたらす防御因子の産生低下などにより,正常の粘膜修復機転が阻害され,攻撃因子に対する粘膜の脆弱化が起こっているのではないかと考えている.

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 Endoscopic lesions in Crohn's disease early after ileocecal resection: Tytgat GNJ, Mulder CCJ, Brummelkamp WH (Endoscopy 20: 260-262, 1988)

 Crohn病に対する手術は閉塞,膿瘍,瘻孔形成,難治例などに施行されるが,治癒率は低く再発率は高い.再発は,それが真の再発か残存病変の再燃かはわからないが,吻合部やその近位部に起こることが多い.この研究は術後早期に,吻合部やその近位の回腸末端において,残存病変が内視鏡的に発見されうるか否かを検討する目的で行われた.

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 Balloon or bougie for dilatation of benign oesophageal stricture? An interim report of a randomised controlled trial: (Cox JGC, et al(Gut 29: 1741-1747, 1989)

 1981年の第1例の報告以来,良性食道狭窄の拡張法としてバルーンは人気を博してきている.その理由は従来の方法(Eder-Puestow金属ダイレーターやCelestinダイレーターなど)では拡張時の力が長軸方向にも及ぶのに比し,バルーンでは制御された拡張圧下で,狭窄部に放射状にのみ圧力がかかる点での安全性が受け入れられているようである.しかし,この流行も従来の方法との効果の比較検討の結果に基づいたものではない.そこで著者らはバルーン法とブジー法との比較検討を無作為割りつけ法で行った.

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 最初に本書の題名を見たときには,具体的にどのような内容の書物なのかを知ることができなかった.それは,このような題名の書物を見たことがなかったことにもよるが,日常の臨床で頻繁に行っているチューブの取り扱いや処置についての書物が出版されようとは想像もしていなかったからである.

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 Controlled traial of bowel rest in the treatment of acute colitis: Mclntyre PB, et al(Gut 27: 481-485, 1988)

 重症大腸炎は頻度は高くないが,危険性があり,緊急を要する場合は手術も必要である。重症大腸炎の内科的治療は副腎皮質ホルモンの静脈内投与と栄養補給であるが,栄養補給が粘膜の炎症を減少させるかどうかは興味深い問題である.禁食による腸管の安静という概念は理論的で,食物による物理的粘膜損傷や腸粘膜からの分泌,食事の抗原性を除くことにより炎症を起こしていた腸が,より早く治癒することが期待される.しかし,これまでに報告されたコントロールトライアルの結果では,今のところ腸管安静を奨励できるものはない.そこで,今回著者らは非感染性大腸炎の重症アタックを有する患者で腸管安静の効果を更に検討した.対象は47例(女性28例,男性19例)の急性重症大腸炎患者で,感染あるいは抗生剤による大腸炎の可能性のあるものを除き,大腸内視鏡あるいは大腸X線検査で診断した非特異的大腸炎であった.これを無作為に2群に分け,1群は高カロリー輸液(禁食群),他の1群は経口食(摂食群)で10日間管理した.なお両群ともpredonine 60mg/日(経静脈的に8時間ごとに20mg)が投与された.腹部単純X線で腸後拡張,穿孔を認めた症例と緊急手術が必要な出血例は除外した.

編集後記 渡辺 英伸
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 本誌での特集主題“腸管の悪性リンパ腫”が連続編として,第23巻12号に次いで出されたのが本号である.前号は腸管悪性リンパ腫の形態学的特徴(X線・内視鏡像,切除材料での肉眼形態,組織学・免疫組織化学,組織型と肉眼型との相関など)に重点を置き,本号は鑑別診断,治療・予後,珍しい腸管悪性リンパ腫に重点を置いている.

 それにしても,本誌を読んで“主題の内容に沿って記述し,鑑別診断上,何が大切かを明確にした文章にしてほしいものだ”と感ずるのは筆者だけではあるまい.また,鑑別上の各所見が各疾患ごとに,どの程度の重みづけがあるのかを明記してもらうと,読者にも更に理解しやすいものとなろう.

基本情報

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胃と腸
24巻5号 (1989年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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