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第75回日本消化器病学会総会は,3月27,28,29日の3日間,横浜市において北里大学内科岡部治弥会長のもとに開催された.神奈川県民ホールを中心に9会場において,特別講演をはじめとする4題の講演,知識人講話1題,シンポジウム3題,パネルディスカッション3題,ワークショップ1題,一般演題664題,ポスター展示223題という多彩なプログラムのもとに行われた.この印象記は,筆者と教室員とが分担して聴いたものをまとめたものである.
27日の午前中は,ポスター展示,胃出血を聴いた.11時から行われた並木教授の特別講演“小児潰瘍と成人消化性潰瘍のつながり”は長年にわたる研究と豊富な経験をもとに,貴重な具体的ケースを示しながら,潰瘍症の成り立ちについて深い洞察を加えたもので,潰瘍症患者の体質は,既に小児の時期から形づくられていることなど,幾つかの示唆に富んだ重要な問題を指摘し,大きな反響を呼んだ.その後12時10分から三辺 謙名誉会員による故高橋忠雄前理事長の追悼講演があり,その在りし日を偲んだ.午後からの八尾教授の宿題講演“Crohn病のnatural history”は,過去20年間経過を追跡しえた203例のCrohn病患者の治療経過につき,その精力的な研究成果を示したもので,適切な治療が行われれば,Crohn病そのものの生命予後は極めて良好であると述べていた.なお,ワークショップ“Campylobacter pyloriの意義”においては,Campylobacter pylori(CP)の診断法とその病態との関連性について活発な議論がかわされた.現時点では,細菌培養法およびアクレジンオレンジによる組織学的診断法が,臨床の実際に即した診断法であり,モノクローナル抗体による組織学的診断法やurease活性測定法などは,補助的診断法と考えるのが妥当であること,またCPと慢性胃炎,胃潰瘍,十二指腸潰瘍および胃癌などの病態との間に密接な関連性があることのほか,新しい知見も報告された.CPがどのような機序によりgastroduodenal mucosal damageを引き起こすかについては,単にbarrier breakerとしてのurease活性の面のみからは説明できず,mucin breakerとしてのproteaseの関与も示唆された.
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