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書評「大腸疾患診断の実際 全2冊」
八尾 恒良
1
1福岡大学
pp.692
発行日 1989年6月25日
Published Date 1989/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403106484
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一見,奇妙な本である.書名が「大腸疾患診断の実際」であるのに内視鏡検査法の記載はなく,疾患の発育経過,自然史が入っている.ましてや「人体の腫瘍」がどうして「診断の実際」に結びつくのか?と思いつつ読みはじめてみると,これが面白い.提示された美しいX線写真,マクロ,ミクロ,内視鏡写真など,これまでの著書の中でも最高のレベルのものであろう.また,豊富な症例が疾病の本質を良く理解させてくれる.そして文章はそれほどうまくないのに,ついつい引きこまれて先を読んでしまう.
どうしてかと考えてみて気がついた.この本はまさに著者そのものである.著者の思考は“診断の実際”にとどまらず,“診断”を通じてみた大腸疾患の本質を問題としているのだ.著者は,長年月消化管のX線診断に従事してきた.そして従来にない微細なX線診断技術によって見出される微細な所見の解析から疾病の本質に思考をめぐらし,新知見にとどまらず,真理を捉えんとしているのだ.だからこの本では華麗で精緻なX線写真を中心にすえ,これを説明するための道具に内視鏡写真が使われ,マクロ,ミクロが用いられている.そして,その思いが“X線病態生物学”なる新造語を生み出している.このことは,本書の中でも顆粒集籏型病変や大腸癌の深達度診断,発育経過,大腸ポリポーシスやcancer family syndromeの項をみれば,非常によく理解できるであろう.
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