胃と腸 24巻4号 (1989年4月)

今月の主題 胃・十二指腸出血の非手術的治療

序説

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 上部消化管出血の病因は多種多様である.そのうち消化性潰瘍(急性潰瘍を含む)は60%を占めている.このほか,AGML,Mallory-Weiss症候群,食道・胃静脈瘤,各種腫瘍病変その他,多くの疾病が挙げられる.一方,重篤な血液疾患や高度の腎不全による透析患者など,どこからともなくじわじわとみられる出血もある.

 かつて上部消化管の大出血は,患者はもちろん医師にとっても,この突発的でドラマチックな症候に戸惑いを感じ,補液・輸血を行い,循環血液動態の正常化を図り,出血の状態および既往歴,現症から出血源を推定し,総合的判断に立ち,冷水による胃洗浄,全身的止血法により経過を慎重に観察し,止血しえたか,また持続出血中であるか,更には再出血があるのか,各種のparameterを推理し,対処し,止血の得られない場合は外科的処置を行ってきた.

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要旨 最近10年間の出血性胃・十二指腸潰瘍手術例134例からみた胃・十二指腸出血の病態について検討した.非観血的止血法が施行されていない82例と非観血的止血法施行後に手術となった52例の2群に分けて分析し,前者において胃潰瘍では短時間のうちに大量の輸血を要するものが多く緊急手術率が高かったが,十二指腸潰瘍では比較的緩やかに出血するものが多く待期手術のほうが多かった.潰瘍の性状別では,慢性潰瘍より急性潰瘍のほうに重症例が多く,露出血管の有無では露出血管を認めたものに重症例が多かった.後者においては非観血的止血法が無効と考えられたものが65%であり,潰瘍の性状別にみると急性潰瘍に無効例が多かった.前者と後者の比較では後者において緊急手術率がやや低く輸血量も減少しており差がみられた.

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要旨 胃・十二指腸出血の非手術的治療法としての薬物療法,内視鏡的止血法,血管栓塞術の選択と限界について考察した,出血性胃炎出血や露出血管のない潰瘍出血に対しては薬物療法を,露出血管を有する潰瘍出血や噴水状の動脈出血には薬物療法では限界があり,内視鏡的止血を試みるべきである.しかし,露出血管径が2mm以上の症例や球部変形の著しい十二指腸潰瘍出血,球後部潰瘍大量出血例では内視鏡的止血も限界がある.内視鏡的に出血源の確認が困難な例や原因不明の反復する大量出血例には血管栓塞術が適応となる.また敗血症や腎不全,DICなどの合併症を有する症例では出血局所の止血対策のみでなく,これらの合併症の管理・治療が重要である.

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要旨 消化管出血に対する内視鏡的止血法の効果を消化性潰瘍において検討した.薬剤のみで治療された症例,内視鏡的エタノール局注法ならびにレーザー照射による治療例を,治療前ならびに治療後48時間以内の内視鏡所見の比較により検討した.薬剤治療群では,86例中19例(22.1%)で再出血し,7例(8.1%)では手術が施行された.エタノール局注群では,47例中9例(19.1%)で再出血し,4例(8.5%)は手術を施行した.レーザー照射群は,16例中5例(31.2%)で再出血し,4例(25%)に手術を施行した.再出血例では,内視鏡的止血後の早期の内視鏡検査で新鮮な凝血塊の付着,露出血管などの所見がみられた.また,持続する露出血管の所見は止血効果不良のサインと考えられた.内視鏡的止血法の効果は,露出血管の状態などの局所の器質的変化ならびに背景の全身状態に左右される.その止血効果は,止血法施行後の早期の内視鏡検査で明らかにすべきである.

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 並木(司会)消化管出血Lとその対策は,いつの時代でも臨床の実際において重要な課題ですが,今回は特に胃・十二指腸からの出血を取り上げ,それに対する非手術的療法について,方法論を中心に現況と問題点,更に将来の方向などを含めて討論していただきたいと思います.

 今日お集まりの先生方は,それぞれの非手術的止血法を代表する施設の方々ばかりですので,その得意とする止血法の実際の要領,特にコツ,また,これだけは知っておいてほしいという手技上の要点,留意点を具体的に述べていただき,合わせてこれまでの止血成績を示していただきたいと思います.

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 〔患者〕38歳,女性.主訴は上腹部痛,背部痛.幼少時より神経性胃炎と言われ,胃腸薬の内服歴がある.1987年3月以降胆石発作を反復するため,同年8月,当科へ紹介入院となった.

〔腹部超音波所見〕胆囊管合流部よりやや十二指腸側の総胆管内に径2cmの結石を認め,これより肝側の総胆管,胆囊管,肝内胆管に拡張所見を認めた.

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要旨 過去9か月間にわれわれの施設で192例に回腸内視鏡検査を施行し,うち17例は内視鏡観察下に粘膜色が淡い赤色あるいは灰色を呈し,光輝性が喪失し,光沢がなく,血管透見像ははっきりしていた.健常的なビロード様から平絨様(velveteen)となった.腸腔の多くが拡張していた.筆者らが工夫したIndia ink標識法を用いて,内視鏡下に生検標本を採取した41例の健常者と17例の回腸粘膜萎縮の回腸粘膜を定向(orientational)包埋し垂直に切り出し,光顕と走査電顕で観察した.健常回腸粘膜の絨毛の高さは370μm

から500μmまで,平均416±22μmであるが,回腸粘膜萎縮の絨毛の高さは0から320μmまで平均185±164μmであった.両者の間には著明な差があった(p<0.001).絨毛萎縮の程度に基づいて,軽度萎縮,中等度萎縮,高度萎縮,および萎縮疑いに分けた.萎縮程度と炎症程度の間には有意差はなかった.走査電顕下では,軽度萎縮で絨毛が著明に短くなり,中等度萎縮で乳頭状となり,高度萎縮で顕著な絨毛構造がなく脳回状を呈していた.

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要旨 6例の食道mucosal bridgeを経験し,うち3例で,その形成過程を内視鏡的に経過観察しえた。原因は内視鏡的食道静脈瘤硬化療法2例,食道カンジダ症,Barrett食道,逆流性食道炎および原因不明各1例であった.食道mucosal bridgeは極めてまれな病態で,過去15例の文献報告があるにすぎず,自験6例を加え臨床的検討を行った.原因は後天例が14例と多く,すべて炎症ないし潰瘍病変に続発して形成されていた.形成機序としては,壁在性のmucosal bridgeでは,潰瘍底が粘膜下で交通し,取り残された粘膜がmucosal bridgeを形成する説,また食道壁の前後方向のmucosal bridgeでは,炎症による肉芽がこの方向に癒合する説が有力であり,pseudopolypが関与する炎症性腸疾患におけるmucosal bridgeの形成機序と若干の相違があるものと思われた.

早期胃癌研究会

1988年12月の例会から 岩下 明徳
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 1988年12月の例会は古澤(九州がんセンター外科)の司会で21日に開催され,胃3例,十二指腸1例,大腸1例の5例が検討された.

 〔第1例〕67歳,女性.Ⅱc型早期胃癌類似進行癌十隆起型十二指腸癌(症例提供:県立岐阜病院消化器科 山田)

1989年1月の例会から 小越 和栄
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 平成になって最初の例会は高木(癌研外科)の司会で1月18日に開催され,3例が検討された.

〔第1例〕 39歳,女性,Lesser-Trélat症候群(脂漏性角化症+胃癌)(症例提供:藤沢市民病院 中島).

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要旨 患者は37歳,女性.2年半前から胃ポリープで経過観察中.胃内視鏡検査で体下部後壁に2~3cm大,境界鮮明,表面平滑な褪色域を認め,生検で印環細胞癌が得られた.胃X線検査では同部位に周囲と比ベバリウムの付着性とアレア像とが異なった領域がみられた.切除胃では体下部後壁に,径約25mmのわずかに褪色した領域があり,周囲粘膜との高低差はない.組織学的には癌は大きさ14×7mm,不整星芒状,粘膜内に限局した印環細胞癌で,平坦なⅡb型早期胃癌であり,retrospectiveにX線・内視鏡像を見ても癌の範囲を正しく指摘することは困難であった.またこの癌巣の周囲に限局して腸上皮化生の範囲が認められ,内視鏡的褪色域とほぼ一致した.

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要旨 21歳の男性の切除胃の組織学的検索により,1つの進行癌病巣以外に,胃粘膜の腺頸部層に限局した80か所以上の微小Ⅱb型の印環細胞癌から成る多発癌病巣を発見した.連続切片作製による検討から,各々の病巣は別個に存在し,主病巣近辺のみならず広く分布しており,それぞれ別個に発生したものと考えられた.このような多発胃癌は珍しく,癌の発生を考えるうえで興味ある1例と考えられた.

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要旨 54歳,女性.主訴は心窩部痛.腹部超音波検査で総胆管内に中空の索状影を認め胆道回虫迷入症を疑われ,ERCPで確診.虫体はEST,駆虫剤で自然排泄した.3か月後,再び心窩部痛出現ERCPで胆膵管の拡張と総胆管末端の陰影欠損像を認め,腫大した十二指腸乳頭部の生検で高分化型腺癌と診断され,膵頭十二指腸切除術を施行した.文献を見ると1980年以降,本邦胆道回虫迷入症の報告は19例で,回虫症は激減したが胆囊炎様症状を呈する急性腹症の際に本症は忘れてはならない.超音波検査で中空の索状影が認められればその診断は容易である.治療は,駆虫剤の使用や内視鏡的摘出など保存的に経過をみて,それに抵抗するものや,合併症のあるものが手術適応となろう.

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要旨 患者は59歳,女性で,意識消失発作を主訴に来院した.家族歴では,姉2人,母,叔母がvom Recklinghausen病であった.既往歴では,生下時より全身に特異的な大小の腫瘤を認め,52歳時,十二指腸潰瘍で手術を受けた.現病歴は,1986年3月,突然数分間の意識消失発作があり,緊急入院した.初診時現症では全身に特異的な皮膚病変を認め,高度の貧血を呈した.腹部血管撮影,腹部CT,小腸二重造影にて,Treitz靱帯より約7cm肛門側にクルミ大の腫瘤を認めた.同年5月開腹術を施行し,同部とその近傍の計3か所の腫瘤を含めて空腸部分切除を施行した.免疫組織化学を含めた病理学的検索では,神経線維腫の像を堅し,悪性所見は認めなかった.

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要旨 患者は51歳,女性.心窩部不快感を主訴として近医を受診,当科を紹介された.胃X線内視鏡検査により胃噴門部から穹窿部にかけての大きなBorrmann 1型様の進行癌が発見され,手術となった.手術時の肉眼所見は,H0P0S2N1で,胃全摘出とR2の郭清が施行された.病理組織検査により,この腫瘍は直径40~80μmの,多核を有する巨細胞を中心として構成され,具体的構造が全く欠如していることが明らかとなり,極めてまれな胃原発の巨細胞型未分化大細胞癌と診断された.患者は術後約2か月で多発性肝転移と右癌性胸膜炎を来し,急速な経過でmultiple organ failure(MOF)となり死亡した.一方,本症例には,腫瘍量に比例して変動する著明な白血球増多が認められたが,腫瘍組織からはcolony stimulating factorは検出できなかった.胃原発の巨細胞型未分化大細胞癌は本症例を含めてもわずかに3例が報告されているのみである.

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要旨 患者は44歳,男性.主訴は空腹時の心窩部痛.外来の胃X線検査では胃角部後壁に2個の大きな潰瘍があった.2か月後のX線検査では潰瘍は著明に縮小したが,胃角部の小彎線,大彎線に硬化像がみられた.初回より5か月後のX線,内視鏡フィルムでは胃角部より胃体部後壁にかけて腫大した粘膜ひだの集中を伴う浅い不整形の陥凹を認めた.これらの所見より胃癌,または悪性リンパ腫を強く疑ったが,この間にとられた胃生検標本には,これらの所見がみられなかった,悪性病変として胃全摘術を施行した.切除胃の病理組織学的検索の結果,診断はびまん性,中型の悪性リンパ腫であった.悪性リンパ腫の細胞は粘膜内,粘膜下層に広くみられ,固有筋層,漿膜下層にも一部浸潤していた.今後,通常見慣れない胃病変を扱うときには,胃生検診断のみに頼ることなく,X線,内視鏡所見も疎かにしてはならないと考えられた.

初心者講座 座談会

消化器疾患とUS・CT・8

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 山田 それでは次にリンパ節転移に関して超音波,CTの有用性をディスカッションしていただきたいと思います.神津先生,超音波の立場からどうでしょう.

初心者講座 食道検査法・16

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はじめに

 最近,食道の内視鏡検査法などの発達にしたがい,比較的表在性で予後の良い癌の発見が急激に増加しつつある.これらの表在性(または早期)食道癌の形状を十分表現し,かつ共通に討論するための新たな肉眼分類が求められ,1986年7月に,食道疾患研究会内に食道癌病理分類改訂委員会(下里幸雄委員長)が発足した.1987年6月の第41回食道疾患研究会(施設代表者会議)で最初の試案が提案され,1年の試行期間後,1988年6月の第42回食道疾患研究会で主題IIとして「食道癌肉眼分類の検討」がもたれ,大勢として試案はほぼ受け入れられたと判断された.上記委員会では同研究会での討論を踏まえ,少数の小さな訂正を加え,最終案が作成された.本稿では,その最終案を同委員会の1人(板橋)として紹介し,国立がんセンターのデータ,および研究会で発表された諸施設のデータを参考にしながら解説を加える.

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欧文目次

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 近年,外科診療の高度化に伴い,周術期の患者管理も複雑の度を加えているが,その一面を反映するものとして,チューブ,カテーテル,ドレーンなどの使用機会が著明に増加していることが注目される.手術操作部の局所コントロールのためにドレーンが挿入されることも,ほぼ日常的である。重篤な患者ほど,また大手術の術後ほどその数は多くなる.外科病棟の主治医団が多忙をきわめているか否かは,担当する患者に挿入されているチューブ類の総数を患者数で除した商,つまりチューブインデックスとでも呼ぶべきものによって代弁されるというジョークも聞かれるほどである.これらのチューブ類はもちろん,それぞれ目的をもって使用されるわけであるが,その適応,挿入の基本手技,予測される効果,合併症などについて十分な認識をもって行うべきことは論をまたない.不適切な実施は有害無益である.

 ところで,こうしたチューブ類の適正な使用,あるいはそれにまつわる問題点について系統的に解説した指導書がこれまで世に出たことはなかったのではなかろうか.このたび,北海道大学外科田辺達三教授により編集され医学書院より出版された「外科病棟マニュアルー病棟担当医のチューブマネージメント」は,その意味で大いに注目に値するものである.大変時宜を得たものであり,しかも内容的に素晴らしく,非常に利用価値の高いガイドブックである.

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 clinical decision makingはわが国の臨床医学には新しい領域である.これに関連して思い出すのは,かつての高橋晄正氏らによる計量診断学であるが,それは必ずしもわが国で成功したとは言いがたい.本書で扱われているのは,計量診断学の流れとは別に,1970年代の一連のアメリカ医療変革運動の中で,生命倫理などと共に必然的に生じてきた新分野である.

 新しい分野であるとはいうものの,臨床場面における決断を構成するとして著書が挙げている臨床決断分析(clinical decision analysis),医療認知心理学(medical cognitive psychology),臨床疫学(clinical epidemiology)という3部門はそれぞれある程度は既に研究の蓄積がある.本書はこれらを総合して新しい視野を示してくれているところに新鮮さがある.

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 Gastric emptying of mixed solidliquid meal in patients with intestinal pseudoobstruction: Mayer EA, et al(Dig Dis Sci 33: 10-18, 1988)

 仮性腸閉塞症(IP)患者の腸の機能については,これまでに詳しく.調べられてきている.しかし,胃排出能については,ほとんど知られていない.特に液状食および固形食の胃排出能を同時に検索した報告はこれまでになかった.著者らは,IPと診断された患者の,胃排出の特徴を.調べると共に,迷走神経系の神経支配を内圧測定により確認し,更に血中ガストリンと膵酵素の値を合わせてその影響も検討した.11例のIP患者(女性7名,男性4名)と,年齢,性の分布が同じとなるような正常対照群7例の比較検討を行った.

編集後記 吉田 茂昭
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 上部消化管出血が本誌で初めて取り上げられたのは第4巻第2号(1969年)であり,第8巻第7号(1973年)では消化管出血の緊急診断が主題となっている.その7年後の第15巻第7号(1980年)で非手術的止血法について詳細な特集が組まれ,更にその9年後が今回の特集である.正直に言えば,この企画を担当するに当たって幾つかの不安があったことは事実である.1つは前回取り上げた各種の止血法に画期的な進歩があったかという点であり,また1つは主題の性質上,“「胃と腸」らしさ”とも言える診断,適応決定,効果判定における形態学的な裏付けが困難ではないかという点である.しかし,先に出版された各特集号と今回のそれを読み合わせてみると,上部消化管出血の診断と治療が技術的な側面ばかりでなく,考え方のうえでも大きく前進していることがよくわかる.この9年間の症例の蓄積によって各方法論の特質が整理され,その適応と限界が明らかにされたことは,これから止血を試みようとする若い医師たちには大いに参考となるものであろう.主題論文,座談会ともこの辺の問題点を十分に意識した内容となっており,小生の不安は杞憂に帰したようである.執筆された先生方,座談会に臨まれた先生方のご苦労を多としたい.

基本情報

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胃と腸
24巻4号 (1989年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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