胃と腸 24巻12号 (1989年12月)

今月の主題 小さな未分化型胃癌―分化型と比較して

序説

未分化型微小胃癌診断の歩み 高木 国夫
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 胃癌の診断に対して,診断技術の進歩と共に,より小さい胃癌の発見への努力がなされてきた.早期胃癌診断の歴史を振り返ってみれば,直径2cmの小さい癌から1cm前後の小胃癌,更に5mm以下の微小胃癌の診断の歴史でもあった.直径5mm以下の微小胃癌が臨床の場で問題になってきたのは,1970年代で,「胃と腸」で1970年に“診断された微小胃癌”の特集が初めて企画された.微小胃癌の肉眼的形態と共に,X線ならびに内視鏡所見の検討が数少ない症例に基づいて行われた.

 1970年以前においても,既に胃潰瘍癌の検討で,癌の大きさと胃潰瘍の合併の比率から,癌の大きさが2cm以下では潰瘍の合併は少なく,癌が大きくなると潰瘍の合併が多くなり,組織像のうえから,胃潰瘍を伴った癌に印環細胞癌が多いことが明らかにされていた.しかし1cm以下の小胃癌では,組織学的に腺管を形成する分化型腺癌が大多数を占め,印環細胞癌を含む未分化型腺癌が少ないことが問題であった.このように胃癌の組織発生のうえからも,微小胃癌の検討が必須なものとなってきていたわけであった.このような背景も含めて,1970年の初めての微小胃癌の特集では,癌の大きさはlcm以下が検討されて,やはり組織像のうえから分化型腺癌の検討が主であって,未分化型腺癌は,肉眼形態や組織像の点からわずかに検討がなされ,臨床の場では,検討は認められなかった.供覧された微小胃癌症例は5例とも分化型腺癌であった.

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要旨 未分化型胃癌の発生母地(周囲粘膜)には,分化型に比べて明らかに腸上皮化生の発生頻度が低かったが,約40%の症例において少なくともどこかに腸上皮化生がみられた.未分化型癌を印環細胞癌と低分化腺癌に分けて検討すると,胃底腺領域に発生した印環細胞癌の発生母地は全例,化生や偽幽門腺のない胃底腺粘膜であったが,低分化腺癌では,大多数が化生や偽幽門腺を含む粘膜であった.未分化型の発生母地は印環細胞癌と低分化腺癌で異なると考えられた.胃癌の発生初期における発育進展様式を肉眼的立場からみると,未分化型は1mm前後は平坦型であり,2~3mmを超えて陥凹型となり,大きさの増大と共にこの傾向が顕著になった.分化型は,最初から陥凹型を示すものが多く,5mmまでは陥凹型か平坦型で,隆起型は5mmを超えてから増加した.組織学的立場からの考察も行った.

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要旨 小さな未分化型胃癌の特徴と組織発生を検討するために,胃癌手術例のうち病巣の長径が1cm以下の114例122病巣を用いて検索した.純粋の未分化型癌(por,sig)の肉眼型はすべて陥凹型であり,皺襞集中があるものが多かった.占拠部位は,M領域の小彎に多く,C・A領域にあるものでも前壁・後壁にみられた.癌の発生する背景粘膜は,胃底腺領域と中間帯が多く,腸上皮化生がないか,あっても程度の少ない胃底腺域あるいは胃底腺の萎縮した胃固有粘膜上皮から発生すると思われた.一方,未分化型癌と分化型癌との混合型および腺窩上皮型癌は,臨床病理学的,組織学的にみて,純粋の未分化型癌と同様に,胃固有の粘膜上皮から発生するが,より萎縮,化生の進んだ粘膜上皮環境より発生すると考えられた.以上のことより,癌の組織型は,胃固有腺が萎縮し化生へと向かうにつれて,発生する癌の組織型が未分化型から分化型へ連続して変化してゆき,更に成長するにつれて成長する場としての粘膜環境の影響を受けて変化するものと考察した.

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要旨 3cm以下の未分化型胃癌89例(早期癌65例,早期類似進行癌8例,副病巣16例)の特徴を粘膜ひだのない領域と,ある領域に分けてX線診断の立場より検討した.(1)粘膜ひだのない領域の病変のX線診断は陥凹面と陥凹縁より5型に分類でき,各々のX線像で,深達度,潰瘍の合併率が推定できた.sm以深に浸潤の可能性が高く,潰瘍の合併率の高いX線像は1.1~2.0cmで多く発見された.m癌が多く,潰瘍の合併が少ないX線像は2.1~3.0cmのものが多く発見されていた.病変の存在部位によって描写されるX線像に特徴があった.(2)粘膜ひだの存在する領域の病変のX線像は,陥凹面と粘膜ひだより3型に分類でき,各々のX線像で深達度,潰瘍の合併率が推定できた.この領域の病変は1.1~2.0cmのものが多かった.(3)粘膜ひだ集中とニッシェが描写されているX線像は全領域に存在し,sm以深へ浸潤している可能性が高かった.(4)1.1~2.0cmの大きさの病変群の中で,切除標本で病変を指摘できない病変が7病変あり,4病変は術前にX線学的に診断されており,X線診断能は向上しているものと考える.

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要旨 1982年1月から1988年12月までの7年間に当センターで切除された早期胃癌は549例645病巣であった.その中で,10mm以下の小さい未分化型癌について,11~20mmの未分化型癌36病巣および10mm以下の分化型癌85病巣と対比しながら,臨床病理学的特徴および内視鏡像を中心に検討し,以下の結論を得た.(1)10mm以下の小さな未分化型癌は13例14病巣で,10mm以下の早期胃癌99病巣の14.1%であった.(2)臨床病理学的には比較的若年男性のM領域の単発Ⅱc型癌が多く,深達度はm癌が多かった.(3)m癌のうちからUlを伴いやすく,粘膜内浸潤は中間・深層型が多かった.また,分化型癌に比べ,小さいうちからsm浸潤しやすい傾向があり,sm内は浸潤性に発育する傾向があった.(4)内視鏡的には“発赤斑を伴う褪色”が最も重要な所見と考えられた.(5)胃底腺領域の小さな未分化型癌に特徴的な内視鏡像は見出せなかった.

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要旨 小さな未分化型胃癌の診断上の問題点を明らかにすることを目的として,悪性の確診が得られないまま6か月以上,5年以内の経過観察がなされた最大径2cm以下の胃癌36例(分化型腺癌19例,未分化型腺癌17例)の確診前の内視鏡所見をretrospectiveに検討した.これらの確診前の内視鏡所見は,①異常所見の認められない無病変群,①小褪色域を示す褪色群,①発赤,びらん所見を示すびらん群,①潰瘍あるいは潰瘍瘢痕像を示す潰瘍群,の4群に大別可能であった.組織型別に各群の頻度をみると,未分化型胃癌では,無病変群の頻度が高く(7例41%),これらのうちにはⅡbの経過例(2例)や,突然のように病変像の出現する症例(2例)が含まれており,確診前での病変像の指摘は極めて困難であった.これに対し,分化型胃癌では潰瘍群とびらん群が15例(79%)と大半を占めており,微小胃癌の経過観察例を除き,確診前での病変像の指摘は十分に可能であった.しかも,これら15例の確診前の内視鏡所見をretrospectiveに検討すると,7例(47%)に悪性を疑えた.また,今回検討した各群のうち,褪色群は最も少なく,3例のみであったが,いずれも未分化型胃癌であり,小さな未分化型胃癌における1つの特徴像と考えられた.以上の成績から,小さな未分化型胃癌の診断は分化型胃癌に比べ,明らかに困難であろうと考えられる.今後,より多くの症例を発見するためには,悪性所見に乏しい潰瘍,あるいは潰瘍瘢痕に対する積極的な生検診断,小褪色域に対する注意深い観察が不可欠と思われる.

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要旨 (1)長径20mm以下の病変を対象として,未分化型早期胃癌74例82病変を分化型早期胃癌143例166病変および進行癌25例25病変と対比させ,その臨床病理学的特徴を検討した.(2)分化型早期癌に比べて未分化型早期癌は女性に圧倒的に多く,平均年齢も低いが,Ul合併率およびsm率ははるかに高率であった.(3)未分化型早期癌はその背景粘膜の違いによって性状が異なる.F領域のものは,進行癌との性別,平均年齢,分布などの対比から,linitis plastica型癌へ発育進展する可能性が高いことが示唆され,Ⅰ領域のものは,Ul合併率,sm率ともに最も高く,臨床的に早期発見しやすい形態を呈するものが多い.一方,P領域のものは他の領域の未分化型癌と違って,臨床病理学的に分化型癌に類似した性質を帯びている.

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要旨 患者は59歳,女性.1988年10月胃集団検診で異常を指摘.当院での胃内視鏡検査で胃体中部大彎の微小な陥凹からの生検でGroup Ⅴであった.病理組織学的には4×5mm,深達度mの未分化型Ⅱcであった.胃底腺領域の微小胃癌の臨床的発見の報告はまれであり興味ある症例と思われたので報告する.

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要旨 患者は54歳,女性.幽門前庭部のⅡcの内視鏡的切除後の経過観察中1年1か月して,内視鏡検査で胃体部後壁に微小な白斑を認め,1個の生検で印環細胞癌を証明.生検後14日の内視鏡検査で,生検前の小顆粒状白斑の中心に陥凹と周囲粘膜の軽度の隆起を認め,生検前後の変化を確認しえた.病巣は5mm以内で,粘膜層にとどまり,瘢痕もなく,内視鏡的切除を施行したが,穿孔を起こし胃切除を行った.内視鏡的切除標本では,印環細胞癌が粘膜層にとどまり,びらんもなく,径4mmで,Ⅱbであった.粘膜下層に比較的広範囲の線維症を認めた.微小印環細胞癌の生検前後の内視鏡所見と瘢痕像の関連を検討した.

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要旨 30歳女性の留体中部後壁に発生したⅡc型末分化型微小胃癌の1例を報告した.ルーチンX線検査では異所チェックであったが,内視鏡検査で胃体中部後壁に,中心に不整形の淡い発赤を有する褪色調の浅い陥凹と周囲の粘膜異常を認めた.術前のX線検査では病変の質的診断は不可能であったが,術後のレントゲノグラムでは,不整形の溝状ニッシェ,皺襞の中断などの典型的な早期胃癌の所見が認められた.切除標本上癌の大きさは長径3mmで深達度はmであった.この症例はX線的にも内視鏡的にも診断が容易な部位に存在し,術後の病理所見と術前所見との対比が容易で,未分化型微小胃癌のX線所見,内視鏡所見を正確に検討できた症例であった.

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要旨 臨床的に発見された未分化型癌と分化型癌の2例を呈示し,所見の対比検討を行った.未分化型癌症例の患者は59歳,女性.10年前から十二指腸潰瘍の診断のもとに近医で毎年内視鏡検査を受けていたが,胃体部病変を指摘されて当院を紹介された.胃X線,内視鏡検査で胃体上部後壁に浅い不整形の陥凹を認め,生検組織検査で未分化癌と診断され胃亜全摘術を施行した.癌は,大きさ4mmのadenocarcinoma mucocellulare(sig)であった.分化型癌症例の患者は70歳,女性.胸部異和感を主訴に近医を受診し当院を紹介された.胃X線,内視鏡検査で前庭部後壁に小さい陥凹性病変を認め,生検組織検査で分化型癌と診断され胃亜全摘術を施行した.癌は,大きさ5mmのadenocarcinoma tubulare,well differentiatedであった.2例を対比すると,共に陥凹性病変であったが,内視鏡的に,未分化型癌は境界鮮明で褪色調を呈し,分化型癌は境界やや不鮮明で発赤調を呈した.

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要旨 患者は60歳男性で,上腹部もたれ感を主訴として人院した.切除胃は全割による病理組織学的検索がなされた.癌組織型は未分化型癌であり,癌が粘膜面に露出していたのは胃体部前壁の小陥凹面と胃角部小彎のびらん面であった.原発巣と考えられた小陥凹は,最大径5mmでUl-Ⅱの浅い潰瘍を伴い,組織学的に腸上皮化生のない胃底腺粘膜領域に存在していた.前庭部小彎のびらん周囲の粘膜は,腸上皮化生を伴った萎縮性幽門腺粘膜であり,病理組織学的および臨床的に粘膜下層内の癌細胞が逆行性に粘膜内へ進展したものと考えられた.粘膜下組織以深の癌浸潤範囲は20×17cmに及び,原発巣が微小であったいわゆるlinitis plastica型胃癌であった.

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 〔患者〕64歳男性,主訴:つかえ感.既往歴:高血圧で内服治療中.家族歴:特記すべきものなし.現病歴:1か月前より食事の際に食道につかえ感が出現.近医でのX線検査で異常を指摘され当院を受診.血液,尿検査成績:特に異常なし.

 〔X線所見〕第1斜位像(Fig.1)で食道ImからEiにかけて山田Ⅳ型の隆起性病変が認められる.表面は大小不同の分葉状を呈するが陥凹は認められない.第2斜位像(Fig.2)では隆起性病変の付着部にわずかな変形を認める(矢印)ことより深達度smと診断される.またやや空気量の少ない写真(Fig.3)では上下約10cmにわたりひだの消失が認められ(矢印),病巣が上皮内伸展を伴っていることが疑われる.

早期胃癌研究会

1989年10月の例会から 牛尾 恭輔
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 1989年10月の早期胃癌研究会は,10月18日(司会担当:多賀須幸男,関東逓信病院)に開催され,胃3例,腸3例の計6例が提示され活発な討論が行われた.

 〔第1例〕31歳,男性.梅毒の胃病変(症例提供:松山赤十字病院胃腸センター 小林).

学会印象記

第31回日本消化器病学会大会 吉田 行雄
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 第31回日本消化器病学会大会は並木正義旭川医科大学教授を会長として10月5,6,7日の3日間,旭川市において開催された.

 一般演題の口演約500題,ポスター展示約450題をはじめ,ストレス,老年者疾患,消化管機能異常など並木教授ならではの企画のシンポジウム4題,パネルディスカッション5題,ワークショップ5題,特別講演1題,招請講演2題,要請講演2題,宿題講演4題,教育講演5題と多彩なプログラムが組まれ,現在の消化器病におけるトピックスがすべて網羅された秋の祭典であった.

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要旨 患者は50歳,女性.上腹部痛,下血を主訴として当科入院.本例は下口唇,手指,足底部に色素沈着を認め,十二指腸,小腸および大腸にはそれぞれ山田Ⅱ~Ⅳ型のポリープが多発しており,Peutz-Jeghers(P-J)症候群と診断された.本例の特異な点は胃の穹窿部から幽門前庭部までびまん性に山田Ⅰ~Ⅱ型の小ポリープが密集していたことである.このような報告は本邦で3例目で極めてまれである.本例は胆囊内に2個の結石と回腸にはMeckel憩室を合併していた.組織学的に下行結腸ポリープはP-Jポリープから癌化したと思われる粘膜癌であり,回腸のポリープはfocal cancerが疑われた.その他のポリープはすべてP-Jポリープに一致した組織所見であった.

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要旨 患者は73歳,女性.胃ポリープで毎年内視鏡的経過観察を続けてきたが,1987年の定期検査で,食道の上門歯列より25cmの部位に黒色の色素を有する表面平滑な限局性の腫瘤性病変が認められた.病変は中心に潰瘍を伴っており,内視鏡的に食道原発性悪性黒色腫が疑われた.生検組織は炭粉を含む炎症性肉芽で悪性所見は認められなかったが,臨床経過,UGI,CTなどで腫瘍性病変が否定できなかったため開胸術を施行した.手術所見としては,腫大した気管分岐部のリンパ節が直接食道筋層を貫き,食道腔内に露出していたことが判明した.病理組織検査では炭粉沈着と強い硝子化を伴う瘢痕様リンパ節であった.

初心者講座 座談会

消化器疾患とUS・CT・16

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 炎症性疾患に対するUSとX線CTの役割

 牛尾 次に炎症性疾患に移りましょう.腫瘍と間違えやすい炎症性疾患として,どういうことに注意しておかなければいけないですか.

 斎藤 子宮内膜症がわかったのがありました.しかし,それはたまたまですね.直腸にかなり狭窄があって,注腸検査や内視鏡検査でも何だかよくわからなかったですね.

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欧文目次

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 日常の診療に際し,臨床と病理との関連性は極めて深いものである.殊に外科領域における病理の立場は質的診断のみでなく,治療面でも手術術式の選択や手術後の様々な治療方針を決定するうえで重要な位置を占めている.本書の序文にも述べられているように,このような密接な関係にある外科と病理を結ぶ“外科病理学surgical pathology”としての成書は欧米では古くからAckermannやSilverbergらの著書があって,わが国でも今なお広く愛読されている.わが国においても,過去において幾つかの本が発刊されているが,外科医と病理学者との綿密な連絡に基づいて編集されたものは少なく,それぞれの部門のアトラス的内容のものが多かった.また,日常診療で最も多い消化器疾患のみを対象とした詳細な外科病理学の発刊はほとんどなかったといってよい.

 本書を手にして,まず感ずることは,求めていたものがようやく現われたという感激に近い喜びである.消化器疾患の外科病理学書となると,豊富な臨床例の蓄積と臨床病理に目を向けた優れた病理学者の存在が不可欠であり,森岡,森両先生の監修によってはじめて成しえたものと思われる.とりわけ,東京大学第1外科には病理学に造詣の深い方々が多く,執筆陣に加わった外科医が臨床と病理の掛け橋となって,本書の内容に厚みを持たせている.

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 森治樹教授の翻訳によるThomas J. Sernka,Ph. D.とEugene D. Jacobson,M.D.による「Gastrointestinal Physiology」を書評を書くために一読させていただいた.その結果は甚だよいチャンスを与えていただいたものと感謝している.

 私にも10年前のことになるが,「消化器疾患の機能と病態」についてアメリカのクリーブランド・クリニックのDr.Dworkenの翻訳を教室の村上講師と分担させていただいたことを思い出す.大半は村上講師の分担となったが,このとき翻訳が容易でないことを身にしみて感じたものである.その理由は両国における疾病の差や,両国での教育の差,研究のための発想の差によるものであろう.しかし,この点に関して序文を書いておられる高久教授の指摘のように,これが翻訳かと思われるほど滑らかな文章にまず驚かされた.このように理解しやすい翻訳は,単に森教授の海外留学の長さによるのみではなく,先生自身著者を良く知っていて,その内容を的確に把握していられることによるものであろう.

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 Sex hormone imbalance in male alcoholic cirrhotic patients with and without hepatocellular carcinoma: Guechot J, et al(Cancer 62: 760-762, 1988)

 性ホルモンが肝細胞癌の発生に何らかのかかわりがあることが示唆されている.ほとんどの肝細胞癌は肝硬変が基礎疾患として存在する患者で,しばしば性ホルモンの不均衡を伴っている.

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 Endoscopic ultrasonography in achalasia: Deviere J, et al(Gastroenterology 96: 1210-1213, 1989)

 食道壁は超音波内視鏡(EUS)により5層に描出され,第1層の高エコー層と第2層の低エコー層が粘膜層,第3層の高エコー層が粘膜下層,第4層の低エコー層が固有筋層,第5層の高エコー層が外側の境界エコーに一致する.この所見をもとに著者らは,アカラジアと偽アカラジァの鑑別がEUSにより可能かどうかを検討するため,6例のアカラジアと2例の偽アカラジアに対してEUSを実施した.アカラジアの診断は食道内圧測定と典型的なX線所見によってなされた.偽アカラジアはcardiaへの粘膜下浸潤を伴った胃体部小彎の胃癌とX線所見がアカラジアと類似したlymphomaであり,いずれも組織学的に診断が確定している.

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 Current status of ileorectal anastomosis for inflammatory bowel disease: Khubchandani IT, et al(Dis Colon Rectum 32: 400-403, 1989)

 約10年前,著者らは炎症性腸疾患(以下IBDと略す)の大腸亜全摘術後の回腸直腸吻合術について報告した.その後は,Kockらによる回腸瘻造設術がIBD患者の手術に,一般的に行われるようになった.今回,これらの術式を見直した.と言うのも,この施設では,肛門周囲に強い化膿性病変や癌の合併がなければできる限り直腸を温存する手術を行ってきたからである.対象は1959~1986年の間に,この施設で手術した210例のIBD患者.110例(66%)に回腸直腸吻合術が施行された.他の100例は部分切除などであった.回腸直腸吻合術を行った110例の内訳は潰瘍性大腸炎49例,Crohn病61例で,このうち不成功例は,両疾患合わせて11例(10%)のみであった.しかもそのうちの約半数の5例は残存直腸に発生した悪性腫瘍によるものだったが,3例が早期癌で発見されている.成功例99例のうち,半数以上の53例は,二期的手術であった.術死はなく失敗率も低く,定期的な残存直腸の検査を続けていけば,癌の早期発見も可能であった.IBDの再燃による失敗例は6例であったが,吻合不全の予測は直腸の伸展性を注意深く検査することが,経験上重要と思われ,特に適切なマノメトリー検査による適応の可否の決定が必要である.当施設での経験から,IBD症例における手術治療においては,多くの症例で回腸直腸吻合が可能で,患者のquality of lifeに深く関与するものであり,現在においても重要な手術法と考えられる.

編集後記 喜納 勇
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 微小胃癌を5mm以下(ちなみに他臓器も5mm以下にする理由は全くない)とすると,臨床的にdetectできる未分化型微小癌の数が極端に減ってしまうという悩みは今回の特集でも同じ情況であった.その証拠には,症例は別として,主題では5mm以下で分化型癌と対比して未分化型癌を論じた論文はなかった.その理由は何だろうか.detectしにくいrだけなのだろうか.柳澤らが明らかにしているように,未分化型癌は2~3mmまではⅡbあるいはそれに近いという.これではdetectできない.これからは推測になるが,2~3mmを越すと発育が早くなってすぐ5mmを越してしまうのではないだろうか.

 定義のことになるが,分化型癌・未分化型癌というのは実は鳥瞰的な発想である.信州は山国であるというのと同じである.信州も訪れてみれば結構広い平野がある.したがって,虫瞰的にはこれでは不十分である.そんな虫の心を慰めてくれた論文が柳澤・石黒論文であろうか.これらを読むと,未分化型と分化型癌の境はどこか,中間型混合型はどうなるのか,腸上皮化生の強い胃底腺領域は胃底腺領域と呼ばないのか,定義そのものにもいろいろ問題があるようである.

基本情報

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胃と腸
24巻12号 (1989年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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