胃と腸 24巻10号 (1989年10月)

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要旨 非腫瘍性大腸疾患のX線・内視鏡診断能をみると,肉眼所見のみからではほとんど同じであった.非腫瘍性大腸疾患を肉眼形態から陥凹性所見と隆起性所見に大きく分けた.陥凹性所見をびまん性と非びまん性に分け,更にびまん性を連続型と区域型に,非びまん性を多発型と単発型に分けた.びまんと非びまんにかかわらず線状の要素のみられた病変を線状とした.X線診断能をみると,連続型82%,区域型70%,単発型89%,多発型83%で,隆起性所見を示すものでは67%であった.区域型・隆起性所見を示した疾患で,初回X線検査で確診をつけることが,やや難しいという成績であった.

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要旨 外科切除例の初回病理診断で,分類困難腸炎は2%(非腫瘍性腸疾患852例中17例)であった.再検討で,その頻度は0.5%(4/852)となった.訂正診断例は,感染性腸炎(8例),虚血性回腸炎(1例),単純性腸潰瘍(1例),小腸結核(1例),潰瘍性大腸炎(1例),およびYersinia感染症(1例)であった.再検後も分類困難腸炎の4例は,粘膜内病変の完治例,回盲弁上の大腸炎(2例)と多発・発赤・広基の,隆起性病変であった.後二者ないし後一者が新しい型の腸炎と考えられた.初回の分類困難腸炎は,再検討で,そのほとんどが分類可能となった(今回は13/17例76%).分類困難腸炎となる最大の原因は,①診断者の実力不足と,②検索方法・検索精度の不十分さ,とにある.このほかに,③病変の肉眼的特徴を残さない,既知疾患の完治,④既知疾患に合併した二次変化,もある.そして,真の新しい炎症性腸疾患は,今回の検討で,1~2種あると推定された.

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要旨 最近10年間で腸の炎症性疾患の分類には初期,最盛期,瘢痕期などの時期を考慮に入れることが必要とされている.そして,初期の病変では縦走潰瘍や敷石像を伴わないアフタのみのCrohn病と,隆起や潰瘍を作らない時期のmucosal prolapse syndromeが診断されるようになった.最盛期の病変では急性出血性直腸潰瘍が一疾患単位とされ,単純性潰瘍が共通した病態を示す言葉となっている.また,瘢痕期の病変としては開放性潰瘍は残っていても肉芽腫や結核菌が証明されない時期の腸結核は,腸結核疑診例と呼ばれている.現在なお,顕微鏡的に診断できない症例は“非特異性潰瘍”として片付けられている傾向にある.これらの症例は“分類困難な潰瘍”としておき,臨床的病理学的に共通する病像を見出し,再分類することが必要と考えられる.腸の炎症性疾患の診断は顕微鏡所見だけでなく,臨床所見と肉眼所見を合わせて診断することが重要である.

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要旨 患者は48歳,女性.主訴は反復する下血.家族歴,既往歴には特記すべきことなし.22年前より年に2~3回ほどの下血がみられ軽快しないため精査入院となる.入院時検査所見は,赤沈亢進,CRP陽性,γ-glb高値以外の異常は認められなかった.小腸,大腸X線検査および大腸内視鏡検査で回腸終末部に縦走潰瘍と多発する小潰瘍,上行結腸~盲腸に発赤調の小隆起を伴った粘膜が認められた.各種内科治療に抵抗するため手術を施行した.切除標本肉眼所見および病理組織学的検索では,既存の疾患群とは異なっており,本例は興味ある分類困難な小腸大腸炎と思われた.

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要旨 GVHD(Graft-Versus-Host Disease)は骨髄移植後や大量輸血後に併発する皮疹,下痢,肝障害などの症状を中心とした疾患である.下痢の原因として以前より腸の炎症が指摘されていたが,その内視鏡所見についての論文はない.筆者らは29歳,男性で慢性骨髄性白血病で骨髄移植を受け,GVHDを併発し,下痢,下血を来したためコロノスコピーを施行,腸管GVHDの内視鏡像を観察し,第34回消化器内視鏡学会総会で報告した.筆者らが観察した腸管GVHDの大腸内視鏡所見は全結腸にわたる多発性のびらんで,そのびらんの形は地図状のもの,横軸方向に細長いもの,あるいはそれが癒合したものがみられた.その一部は出血性のびらんであった.びらんからの生検では,炎症に伴う,上皮基底層の空胞化による上皮の剥離が認められた.

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要旨 患者は36歳の男性で,主訴は臍下部痛であった.来院3か月前より持続的な鈍痛を覚えるようになり,近医で胃X線検査,大腸X線検査,腹部エコーなどが行われたが異常はみられなかった.症状増悪のため当科に紹介入院となった.小腸X線検査で,回盲弁から約40cm口側に幅2.5cmの著明な狭窄がみられ.周堤形成,縦長潰瘍の存在も疑われた.切除標本では,大きさ3.5×2.0cmの境界明瞭な下掘れ潰瘍が腸間膜付着側に存在し,周辺の膨隆もみられた.しかし,縦走潰瘍は存在しなかった.組織学的には潰瘍はUl-Ⅳであり,線維性結合組織の増生により腸管壁は著しく肥厚していた.病理学的診断は単純性潰瘍であった.自験例の潰瘍はまれな部位に発生したことから術前に小腸癌,Crohn病との鑑別を要した.

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要旨 患者は63歳,女性.腹痛,下痢,発熱のため入院.左下腹部痛,defenseを認めたため憩室炎を疑い抗生剤を投与し,症状は消失したが,5日目より再度発熱し,腹水を認めたため,手術施行.X線的に下行結腸に竹の節状変形を認めた.われわれは動物実験でショックによる血流障害が原因と思われる竹の節状変形を経験したが,本症例も憩室炎→エンドトキシンショックによる虚血性疾患と診断した.

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要旨 非特異性多発性小腸潰瘍症9例を平均18年間経過観察した結果,本症の主症状(持続する潜出血と貧血),小腸潰瘍の多発,手術後の再発などの病態は従来の記載とは全く変化していなかった.本症は手術によっては完治しないが,栄養療法の導入によって,社会生活に対する障害の程度は改善されている.本症のHLAはCrohn病のそれとは全く異なっていた.また,腸切除後,本症は小腸以外の十二指腸,大腸に特異な病変を生じた.特に十二指腸病変は鋭利な辺縁を有し,周囲の反応に乏しかった.両病変は組織学的に特異的な変化を認めないことより,本症に特徴的な病変の可能性が示唆された.すなわち本症は小腸に限局した疾患ではなく全消化管に及ぶ疾患であると考えられる.

今月の症例

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〔患者〕 33歳,男性.主訴:血便.既往歴:16歳(17年前)時に便器を真赤にする下血があり痔核手術を受けた.18歳時に痔核再手術.32歳時に排尿異常を訴え泌尿器科で肛門指診を受け内痔核を指摘された.現病歴:1980年4月10日突然嗄声を認め耳鼻咽喉科入院.5月7日声帯ポリープ切除を受けた.5月15目痔核疑いで外科紹介初診.直腸ファイバースコープでColitis cystica profundaと診断され入院した.入院時現症:体格中等,栄養良,腹部に腫瘤なく,表在リンパ節も触れない.血液・尿検査にも異常を認めなかった.

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要旨 患者は20歳の男性で,当科受診の1年3か月以前に他院で小腸切除術を受け,病理学的検索で好酸球性胃腸炎と診断された.今回,上腹部痛,悪心,嘔吐,下痢を主訴に当科受診,血液検査では末梢血好酸球および血清IgEの増加を伴っていた.上部消化管X線検査と内視鏡検査では,胃前庭部および十二指腸第2部の浮腫による伸展不良がみられた.また小腸X線検査では,上部小腸の伸展不良,中~下部小腸の管腔狭小化が認められた.入院後,かゆ食,輸液により症状は軽減し,副腎皮質ステロイド投与により血液検査も速やかに正常化した.また,X線上の異常も改善を示した.退院後,再度症状の出現をみたが,副腎皮質ステロイド投与により速やかに消失した.

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要旨 患者は46歳女性,26年来の下血と,貧血,腹痛を主訴とし来院.腹部単純X線所見で直腸S状結腸の走行に一致する多数の大小不同の石灰化像が見られた.大腸造影X線検査で直腸内腔の著明な狭小化,拇指圧痕様の壁不整が見られた.大腸内視鏡検査で肛門皮膚からS状結腸約40cmに及ぶ直腸S状結腸のびまん性海綿状血管腫と診断.Miles手術を行った.

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要旨 著しい低蛋白血症を伴った胃癌の1例を経験した.大量腹水貯溜を主訴とし,血清総蛋白3.7g/dlと著明な低蛋白血症を呈していた.患者は長期のアルコール飲酒歴を有していたが,肝硬変はなかった.腹水中にも悪性細胞を認めず,癌性腹膜炎は否定された.これらより,アルコール依存のための低栄養状態と考え高カロリー輸液を施行したが低蛋白血症は改善せず,胃癌よりの蛋白漏出性胃症が強く疑われたため胃癌根治術を施行した.胃切除後,血清蛋白は術後1週間で7.7g/dlと著明な改善をみた.組織学的には,腫瘍表面全体が活動性の潰瘍底と同様の変化を呈し,炎症性滲出液の喪失による低蛋白血症を来したと思われる.

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要旨 患者は間歇的右下腹部痛と貧血を主訴に入院した30歳男性.消化管造影検査,内視鏡検査を行い,小腸X線検査で回腸下部に可動性のペニス様腫瘤病変を認めた.腫瘤先端は浅いくびれを有し,茎は辺縁平滑であったが経大腸的小腸X線検査ではKerckring皺襞様のひだを有し小腸粘膜への移行が認められた.以上の所見より小腸良性腫瘍を疑い開腹手術を施行し内翻したMeckel憩室が先進部となった回腸‐回腸型の腸重積を認めた.同部を含め小腸を約10cm切除した.腫瘤先端は潰瘍を形成し,一部に幽門腺様粘膜を認めた.小腸X線検査で特徴的所見を描出すれば内翻Meckel憩室の術前診断は可能であると考えられる.

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要旨 患者は57歳,男性.上腹部腫瘤を主訴とし,X線および内視鏡により横行結腸の限局性炎症性ポリポーシスと診断され,横行結腸を15cm切除.約8cmの範囲にわたり全周性に樹枝状を呈するポリープが密在し,ポリープ間には浅い潰瘍を認め,一部では亀裂を形成していた.ポリープは粘膜層に覆われて線維結合織性の芯を有しており,基本的には浅い潰瘍性病変と関連して形成された炎症性ポリポーシスの像を呈していた.ポリープを覆う粘膜層には,過形成性陰窩もみられるが,異形成性腺管を有する部が多く,中央部では浸潤の明瞭な腺癌に移行していた.本例は病変中央の癌の領域においても,樹枝状の炎症性ポリポーシス様形態をとどめ,癌は表在性の拡がりを示して,潰瘍形成性癌を認めないという興味深い特徴を有しており,その組織発生に考察を加えた.

初心者講座 座談会

消化器疾患とUS・CT・14

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 X線CT検査の利点と欠点

 牛尾 X線CTの利点と欠点についてはどうですか.

 村松 癌に対する術前検査としてのCTの利点は,癌巣を直接観察することが可能であり,隣接臓器との関係を把握することができることです.それにより癌巣の管外側の情報が得られ,手術適応や手術法がある程度決められることです.

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欧文目次

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 Pressure of intraoesophageal varices assessed by fine needle puncture: its relation to endoscopic signs and severity of liver disease in patients with cirrhosis: Kleber G, et al (Gut 30: 228-232, 1989)

 門亢症の患者において食道静脈瘤のR-C signは静脈瘤破裂の危険因子と考えられてきた.R-C signは,組織学的には上皮下の毛細血管と交通した上皮内の血管の拡張を表すと言われているが,その病因や血流動態との関連についてはまだ解明されていない.今回著者らはteflon tubeを硬化療法用の穿刺針に取り付け直接食道静脈瘤圧を測定し,R-C signの有無,その他の内視鏡所見,臨床的生化学的パラメーターとの関連について検討した.

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「新臨床外科学」(第2版)が上梓された.第1版からみると大幅な変更が加えられている.最近の医学や医療は著しい進歩をとげた.その結果,医学部学生に対する卒前教育や卒後教育の中に盛り込むことが要求される事項は大幅に増加した.教科書でも3年を過ぎればもう内容が古くなると言われるほどである.ところが基本として教えなければならない事項は少しも変わらないのであるから,6年間の医学部教育の限られた時間内にどこまで教えるか,細分化された内容を断片的に教えるのではなく,関連する他科や他領域とをどのように組み立てるのか,ということは医学教育にとって最大の課題である.

 もちろん外科教育もこの例にもれないばかりでなく,医学部在籍中の高学年の2年間ほどの間に必須の知識や技術を習得させ,臨床研修と有機的に結びつけるにはどうしたらよいか.これが大きなテーマである.

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 4月中旬,吉田裕司著になる「胃X線読影の基本と実際」が送られてきた.吉田氏の前著「胃X線診断の考え方と進め方」の続編である.前編のほうは,過去数十年,経験と直感に頼ってきた胃X線読影法を,著者なりに分析し,いわば文法書を作るつもりで,豊富な症例と体験を結集した労作であった.読影の初心者に能率的な学習法を示唆し,既にこの道に入って形態学の難しさと奥深さに迷える者には前途に光明と勇気を与えたと言っても過言ではない.

 今般発行された続編「胃X線読影の基本と実際」は前半約85ページと後半約200ページに分かれており,前半は読影の基本が要領よくまとめられ,いわば前著のアブストラクトと言ってよい.けれども図版や説明はよりわかりやすくした苦心のあとが現れている.前著に較べ紙質も格段に上質で症例の写真も綺麗になっているのが嬉しい.この本のハイライトは,何と言っても後半の読影の実際200ページである.この編は前著「胃X線診断の考え方と進め方」で示された科学的,合理的な読影法の応用編と言える.実際の読影にあたってこの法則をいかに運用すべきかを,日常出会う典型的20症例を科学的に解析しながら,極めて親切かつ明快に述べている.「ここまでしか読めない」とか「これ以上読んではいけない」とか,未熟な読影者が常に迷うところを,実際の症例についてわかりやすい納得のゆく理由を挙げて説明するなど,心憎いばかりの気配りが読み取れる.ここでも豊富な美しい写真がふんだんに取り人れてあるのが特徴である.前著「考え方」ではこの種の書物では珍しく胃X線撮影法について72ページを割いて技術的な説明がなされていた.正しい診断の大前提は読影に耐える写真を作ることである.この方面に関心をもたれる人にも本書の写真版は参考になるはずである.

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 Endosonography and computed tomography of esophageal carcinoma: Preoperative classification compared to the new (1987) TNM system: Tio TL, et al (Gastroenterology 96: 1478-1486, 1989)

 超音波内視鏡検査(以下ES)とCTが74例の食道癌の患者に術前に施行された.その結果は新しいTNM分類に従って切除標本の組織学的所見と比較された.ESによる深達度診断は食道壁の低エコーの腫瘤と層構造の関係,周囲臓器への浸潤の有無から判定され,リンパ節の評価は低エコーの腫瘤ではっきりとした輪郭を持つリンパ節は悪性と,高エコーで不明瞭な境界を持つものは良性とされた.CTでの深達度診断は壁肥厚の程度と周囲臓器への浸潤の有無で,リンパ節転移の判定は1cm以下のリンパ節は正常,1cmより大きいリンパ節は転移ありとされた.

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 平和な世が続き,福祉が充実してくるにつれて,安らかに死にたいとの希求が人々の心に起こり,またわが国でも,不治の患者についてのケアの問題がクローズアップされてきている.

 古くより医師は患者を治すことに熱中し,1日でも生命を延長することを至上主義としてきたきらいがある.しかし,一方において現実には近代医学をしても如何ともし難い患者がおり,このような患者に対しては無益な延命治療に終始するよりも別のことを考えてやるべきであるとの考えが強調されてきているわけである.すなわち,限られた最後の人生を苦痛の少ない,充実したものにしてあげるほうがより良いのではないかということである.医師は何が何でも延命に努力すべきであるという態度を放棄する.そして,患者に残された日々を安らかに過ごさせるように配慮する.

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 Controlled trial of bowel rest and nutritional support in the management of Crohn's disease: Greenberg GR, et al (Gut 29: 1309-1315, 1988)

 近年,Crohn病の治療法としてTPNによる腸の安静(bowel rest)が有効であると報告されてきている.しかし,TPNによる,完全な腸の安静(complete bowel rest)が必ずしも必要かどうかについては疑問がある.食物の経口摂取の有無で2群に分けた比較試験では,ステロイド治療の場合,差がないとの報告もある.

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 近ごろ医学・生物学領域の科学論文を英文で発表することは,むしろ必須のこととされ,たとえ邦文誌でも英文抄録が要求されるのが普通となってきている.

 このようなときに出版された本書は,英文原稿の作成に大なり小なり困難を感じている者にとって,たいへん適切な参考となるに違いない.本書の特徴は極めて実用的で,一言で言えばこのうえなく“handy”なことである.それは著者のメリイ・ロビンス博士が長い間リバイザーとして扱った日本人原稿の訂正例について,かゆい所へ手の届くように解説しているからにほかならない.しかも持ち運びに便利な小冊子として,どこででも利用できる配慮がなされている.

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 Effect of proctocolectomy for chronic ulcerative colitis on the natural history of primary sclerosing cholangitis: Cangemi JR, et al(Gastroenterology 96:790-794, 1989)

 原発性硬化性胆管炎(以下PSC)は原因不明の慢性の胆汁うっ滞症で胆管の線維性閉塞が特徴的であり,しばしば潰瘍性大腸炎(以下UC)を合併する.PSCとUCの両者に罹患した患者に対する直腸結腸切除術がPSCの自然史に及ぼす影響は知られていないが,PSCの効果的な内科療法がない現在,直腸結腸切除術がPSCに対しても効果があるかどうかを明らかにすることは重要である.

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 「Gastric Anisakiasis in Japan」と題して,アニサキス症の疫学,診断,治療について,企画集約刊行されたことは,大いに意義あることであり,並木正義教授,石倉肇博士に敬意を表する.

 アニサキス症は海産哺乳動物(クジラ,イルカ,トド,オットセイなど)の胃内に寄生する線虫で,その幼虫が回遊海産魚類を第2中間宿主として寄生し,その生造りや,鮨,酢じめなど日本人の古来よりの風習の隙に乗じて,ヒトに侵入し,胃や腸壁に穿入する厄介な病害を与えるものである.本症は1963年日本で報告され,北日本,日本海沿岸地方での発症が問題となったが,最近の流通機構の発達により,日本全国各地に広まり,沖縄でも本症が見られるようになっている.今や日本のみならず,日本食の欧米への進出普及により,本症が世界で大きな話題となってきた.こうした背景から,本書が刊行されたことの社会的意義は極めて大である.

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 新訳の「消化器の分泌と吸収の生理」は消化器生理学の教科書としては評判の高いSernkaならびにJacobson両教授の共著“Gastrointestinal Physiology―The Essentials”をこの分野における本邦の第一人者,森治樹教授が消化器病学の基礎および臨床における長年の経験を活かして適訳された苦心作である.

 消化器生理学は御多分に洩れず活発な研究が展開されており,広範な分野において従来の考え方に変更を迫るような新知見が相次いでいる.このような進歩を広く取り入れ,既存の知識との調和をはかり,体系化することは並大抵ではない.このような意図のもとに多数の専門家を動員した分担執筆という形式で消化器生理学の現状をリアルタイムでまとめようとした解説書は数多く出されているが,首尾一貫した視点からまとめるという意味では新知見の単なる羅列に終わっていることが多い.その点本書は単独執筆の長所が如何なく発揮されている得がたい入門書であり,極めて理解しやすく消化器生理学の全般を把握するのに適している.入門書には違いないが内容の高さはかなりのもので,最新の知見が十分に推敲されてさりげなく適所に組み込まれ,新しい生理学といった印象を与えている点はさすがであり,目をみはるものがある.その理由は,原著のよさもさることながら,訳者の森教授の力に負うところが大きいのであろうと推察している.森教授はニューヨーク医科大学のグラス教授のもとで消化器病学を研究されたが,その成果が巧まずして本書に現れているのではと感ずるのは,同様な体験を有する筆者のみの感慨ではなさそうである.

編集後記 小池 盛雄
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 分類困難な腸炎といっても,誰が,どのようにして,どの程度に検索した結果なおかつ分類困難であったのか,という問題がある.したがってその頻度もおそらく各施設でまちまちであろう.本号主題の筆者はこの方面にも精通した人々であり,その論文は読者を引きつけてやまないところがある.分類困難な腸炎症例を抽出するには,既知の腸の炎症性疾患について全経過を通した臨床像や,病期による形態学的変化を熟知しつくし,そこからはずれていく病態を選別するという困難な作業を伴うもので,深い奥行を感じさせるからに違いない.詳細な臨床検討から“非特異性多発性小腸潰瘍症”が疾患概念として確立され,その後の臨床経過の追跡がなされたように,分類困難な炎症性腸疾患の中から更に丹念な検索により,新たな病態が確立されることが期待される.またGVHDの腸病変のような新しい医療に関わった新たな疾患も更に増加してくることも予測され,心して対応していかねばと感じている.それにつけても病変を十分に検索する環境整備が欲しいものである.

基本情報

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胃と腸
24巻10号 (1989年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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