胃と腸 21巻6号 (1986年6月)

今月の主題 大腸生検の問題点―炎症性疾患の経過を中心に

序説

大腸生検の問題点 喜納 勇
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 本号では,大腸生検の問題点を炎症性疾患,特に疾患単位としてよく確立されているものに限って,診断とその経過に関連して大腸生検の果たす役割について論じていただくことになる.

 そもそも大腸生検を大腸疾患の診断に使用することが普及したのは,大腸ファイバースコープに生検鉗子の挿入が可能になった1970年代からである.当然,癌やポリープの組織診断のために大腸生検が使用されたが,その威力は炎症性疾患にも及んだ.潰瘍性大腸炎の診断,更にはその経過においては,活動期,非活動期の組織学的判定,ひいては頻度は低いながらもdysplasiaの出現まで,その応用範囲は拡がっていった.

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要旨 適応を厳格にすれば潰瘍性大腸炎(UC)における生検はさほど頻繁に行う必要がない.生検が必要なのは,UCに合併するdysplasiaと癌の診断―これらには組織診が肉眼診断より精密である―を別にすれば,罹病範囲の決定,治癒の判定においてである.UCの組織像は特徴的であり,組織(生検)像からUCの診断を下しうるが,そのような例では内視鏡肉眼診断の段階で診断がつく.診断自体に生検は必要でなく,むしろ鑑別診断の参考といった要素が強い.

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要旨 Crohn病44例に内視鏡直視下大腸生検を施行し,肉芽腫または肉芽腫様病変の出現頻度を検討した.腸結核および潰瘍性大腸炎との鑑別に役立つ主な組織所見について若干の検討を加えた.肉芽腫または肉芽腫様病変は44例中18例(40.9%)に認められた.病変部からの出現頻度は27例中10例(37.0%),非病変部からは35例中11例(31.4%)であった,正常直腸粘膜からの生検標本を連続切片で検討すると11例中9例(81.8%)に,また肛門部病変を有する8例全例に肉芽腫または肉芽腫様病変を証明した.Crohn病における肉芽腫または肉芽腫様病変は,1回の内視鏡検査で多数の粘膜生検標本を採取し,これを連続切片で詳細に検索することにより高率に証明しうると考えられた.

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要旨 虚血性大腸炎(IC)54例と,抗生剤起因性大腸炎(AAC)40例について,生検診断能と生権組織の経時的変化について検討した.発症3日以内の生検で,31例中26例(84%)がICと診断できた.しかし,日数の経過と共に生検診断率は低下し,8日以上経過した13例では,1例しか組織診断できなかった.ICは急性粘膜病変であり,生検材料が粘膜下層を含まなくても約80%が病理組織学的に診断された.再生上皮が出現した生検標本ではICの病理組織像を保持したものは少なかった.AACの病理組織像はICに類似しているが,一般に炎症の程度が歩く,散在性発赤だけを認めた4例では生検診断できず,発症3日以内の生検群16例中9例(56%)がAACと診断されたにすぎなかった.

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要旨 近年増加傾向にある腸アメーバ症は臨床症状,内視鏡所見において潰瘍性大腸炎,感染性腸炎などとの鑑別が肝要である.特に内視鏡像においては,周辺粘膜に浮腫性変化を伴ったびらんや辺縁に発赤を有する潰瘍に注目し,更にアフタ,易出血所見などが特徴的と言える.糞便中のEntamoeba histolyticaの検索,血清学的検討も重要であるが,適切な採取部位からの生検による検出も高率(84%)であり,腸アメーバ症の診断,ならびに他疾患との鑑別上有効な手段と考えられた.

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はじめに

 代謝性全身性疾患であるアミロイドーシスは,細線維状の形態を有する蛋白質が,全身の諸臓器に沈着する難治性疾患である.消化管へのアミロイドの沈着も決して少なくはなく,生検による確定診断が比較的容易となった現在では,直腸や胃の生検によりアミロイドーシスと判明した症例が報告されている.

 今回,腹痛と水様性下痢を主訴とした患者の胃内視鏡,ならびに大腸内視鏡像において,それぞれ,びらん性胃炎,潰瘍性大腸炎との鑑別に難渋し,大腸生検病理組織学的所見によりアミロイドーシスと確認した症例を経験した.

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はじめに

Crohn病の肉芽腫に極めて類似した非乾酪性肉芽腫を内視鏡下大腸粘膜生検にて認めた“原発性”大腸結核症を経験したので報告する.

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はじめに

 大腸結核のX線,内視鏡所見は特徴的であり,診断は比較的容易とされている.特にCrohn病との鑑別が重要であるが,当初,潰瘍肥厚型の所見を呈し,大腸癌との鑑別に困惑し,生検が有用であった症例を経験したので報告する.

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はじめに

 近年,本邦においても潰瘍性大腸炎やCrohn病などの炎症性腸疾患が増加し多数発見されるようになってきたが,これらの疾患の鑑別疾患の1つに腸アメーバ症を常に念頭に置く必要があると考えられる.われわれは初回診察時に潰瘍性大腸炎と誤診したため再燃緩解を繰り返し,4年後の生検で偶然Entamoeba histolyticaを発見され確定診断の得られた1例を経験したので報告する.

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はじめに

 大腸炎症性疾患の確定診断において内視鏡的直視下生検は極めて微力である中で,アメーバ性大腸炎は生検が有効な数少ない疾患の1つである.今回,分類不能の大腸炎とされ,生検で本症と診断された1例を報告する.

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はじめに

 内視鏡的にアメーバ赤痢が疑われ,生検で悪性リンパ腫と確診された1例について報告する.

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小林(絢)(司会) 本日は先生方,お忙しい中をお集まりいただきましてありがとうございました.

 ご承知のごとく,大腸内視鏡検査-これには当然直腸鏡ならびにファイバースコープを含めます-がルーチン化され,殊にかつて外科領域でのみ行われていた直腸鏡は内科系の施設でも大変普及しています.一方,Crohn病,潰瘍性大腸炎などの特発性炎症性腸疾患も,その病因はともかくとして,決してまれな疾患ではなくなりました.それと共に,その境界にある非特異的な炎症性腸疾患も,日常診療の場ではしばしば経験するようになりました.

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〔症例の見どころ〕腸結核のX線検査による臨床診断は比較的容易であるが,典型的X線像を呈しても特に抗結核剤にて加療された症例は病理組織学的に腸結核の確定診断が得られることはまれである.本症例も術後の病理学的検索では腸結核としての確定的所見は得られなかったが,加療前に施行された大腸生検にて結核菌が証明され腸結核と確診された症例である.

 患者は38歳,女性.2年前より時々腹痛が出現していた.数か所の病院を受診するも腹痛の原因は不明であった.当科にて腸結核と診断し抗結核療法(SM,INH,RFP)を3か月間施行したが,狭窄症状が出現してきたため手術された.入院時,赤沈値50/90mm,CRP3+,便結核菌培養(5日間)陰性,Mantoux反応強陽性であった.

Coffee Break

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 救急隊員に抱えられて,患が闖入してきた.44歳の家婦で,胃潰瘍が治癒した後,3か月ほどガスター,セルベックスによる維持療法中の患者である.昨日の夕方から便と尿が全く出なくなったという.便意も尿意もしきりなのだが,さて,トイレに行ってみると,少しの便も1滴の尿もないというのである.昨夜は20~30回もトイレに通い,苦しいのと不安とで一睡もせず,朝になるのを待って近くの診療所にゆき,注射と浣腸をして貰ったが,やはり便も尿も出ず,ますます苦しくなるばかりで,救急車に運ばれて来診したという次第である.話の間もじっとしておらず,顔には冷汗が流れている.腹部は全体に膨満,緊張して,臍下には小児の頭ほどに膀胱が触れ,指先で軽く押しても痛い.

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要旨 種々の理由で腸切除が行われた虚血性大腸炎11例を用いて,同疾患の経時的変化を病理形態学的に検討し,その病型分類を試みた.また同疾患の特徴の1つである縦走性潰瘍の成り立ちについても言及した.病型は,びまん出血期,多発びらん期および潰瘍期に3大別された.潰瘍期は更に活動性潰瘍期,治癒進行性潰瘍期および治癒潰瘍期(潰瘍瘢痕期)に亜分類できた.活動性潰瘍期は発症後4日目と12日目の例にみられ,結腸紐上に沿う縦走潰瘍を伴っていた.治癒進行性潰瘍期は19日目と25日目に,治癒潰瘍期は46日目の例から認められた.縦走潰瘍は,初回発症時に形成される揚合と,多発びらんの融合・進展にて形成される揚合の2過程が考えられ,両者は初回の虚血の程度差によると考えられた.

胃と腸カンファレンス

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症例の概要 患者:31歳,女性.主訴:呼吸困難,空腹時心窩部痛.1985年8月中旬より上記症状出現し,9月3日当科外来受診.触診上左頸部,左鎖骨上リンパ節触知.胸部X線上癌性リンパ管症が疑われた.

 次の点につき御検討ください.胃についてはスキルスの初期像を示唆する症例ではないかと考えますが,9月の時点で病変の深達度および進展範囲をどう読めばよろしいのでしょうか.

初心者講座

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 過去5回の講座でX線,内視鏡検査法,胃癌の診断根拠となる所見などについて述べ,症例検討の進め方についても症例を呈示した.

 系統的にプランニングされた講座ではなかったので,言葉が足りない面や,もっと具体的な症例の呈示が必要な面が残って,今回の講座で一通り終わったとは言い切れない.過去5回の講座で触れることができなかった点について,いくらか補充して本講座を終わりにしたい.

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欧文目次

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Early detection of hepatocellular carcinoma in patients with cbronic type B hepatitis―A prospective study: Liaxv, Y-E, Tai D-1, et al (Gastroenterology 90: 263-267,1986)

 無症候性HBs Agキャリアー,慢性肝炎,肝硬変,肝癌はHBウイルス感染による一連の続発症と考えられ,追跡調査によりHBs Agキャリアーと肝硬変が肝癌のハイリスク群であることが示された.しかし,慢性肝炎の経過を追い,肝癌の発生を調べた研究は現在まで見当たらない.

 著者らは,臨床病理学的に診断した慢性B型肝炎で,HBs Ag陽性者432名と,対照のHBs Ag陰性者105名を対象として,3~6か月ごとの,血清αフェトプロテイン(AFP)と腹部超音波検査(US)により肝癌のスクリーニングを行った.6~85か月(平均26.9±16.8か月)の調査期間中に,AFP上昇が契機となり6名,USにより2名,計8名の無症候性肝癌が,HBs Ag陽性群から発見された. これを計算すると, 年間発生頻度は826/100,000で,35歳以上に限れば,768/100,000となり,文献上,無症候性HBs Agキャリアーにおける頻度よりかなり高くHBs Ag陽性の肝硬変と同じ頻度であった.また,HBs Ag陰性群からの肝癌の発生は1例で,HBs Ag陽性群と陰性群における肝癌発生リスク比は2,35歳以上に限ると5となった.

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Endoscopic laser treatment for gastrointestinal vascular ectasias: Cello JP, Grendell JH (Ann Int Med 104: 352, 1986)

 消化管の末梢血管拡張症は遺伝性出血性末梢血管拡張症をはじめ,心臓弁膜症や慢性腎不全患者において,また特に基礎疾患のない場合でも高齢者に認められることがある.そして,これが上部および下部消化管出血の原因ともなることが報告されている.著者らは1982年2月から1985年3月までに出血源と考えられた43例の消化管の末梢血管拡張症に対してアルゴンまたはNdYAGレーザーによる内視鏡的治療を行った.

 患者は男性27例,女性16例,平均年齢は73歳であった.病変部位は右側結腸に最も多く,以下,横行結腸,左側結腸,胃,十二指腸の順に多かった.約90%はアルゴンレーザーを用いて,1回の内視鏡検査で治療可能であった.検査時に出血していたのは7例で,このほか5例はレーザー治療の際に出血したが,更に治療を続けることにより止血した.また平均392日の経過観察期間で22例が再出血した.これについて7例は更にレーザー治療を行い,5例は手術を行い,残りの症例は輸血,鉄剤投与を行った.

編集後記 長廻 紘
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 前回本誌で大腸の生検が取り上げられたのは9巻2号(1974年)であり,食道生検と併せての企画であった.全大腸から生検が採れる,といった内容であり,12年後の今回は炎症だけにしぼっても,量的に相当増えたものになった.

 個人的には大腸炎の診断に生検が果たして必要かどうか以前より疑問を抱いていて,その解決に立ち向かったつもりであるが(潰瘍性大腸炎),対象が巨きすぎることもあって無難なものにおさまったような気がする.Crohn病に関しては浜田論文で肉芽腫の採取部位,出現率について現時点の結論としうるデータが得られたと思う.急性腸炎については疾患の性格上生検によるfollowは書きづらい点もあったと思うが,力作が得られた.ただし腸アメーバ症の論文では残念ながら生検にはあまり触れられていなかった.

基本情報

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胃と腸
21巻6号 (1986年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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