胃と腸 2巻2号 (1967年2月)

今月の主題 十二指腸潰瘍〔2〕

綜説

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はじめに

 十二指腸潰瘍は胃潰瘍と共に,もっともpopularな消化器疾患であり,今世紀に入ってから詳細な研究が成されてきた.

 胃潰瘍に関する臨床的研究は,近年内視鏡検査の発達普及に伴い,わが国において著しい発展がみられ,成因は別としても,その病態生理は精細に解明されつつあるといえる.

 しかるに,特に本邦においては,十二指腸潰瘍は,胃潰瘍に比し注目をあびることは少なく,その病態の解明に関しても遅々たる進歩しかみられず,未だ1940年代の業績をそのまま踏襲しているといっても過言ではない.この傾向は欧米において消化性潰瘍と呼ぶ場合に先ず十二指腸潰瘍を問題とする傾向にくらべ著しい差異がある.

 かかる点から,今回われわれは十二指腸潰瘍について,比較的厳密に客観的判断のできる,昭和38年以後の材料にて,レ線所見を中心として,その経過を分析してみた.

 以下われわれの成績を中心として,諸家の業績を比較引用しつつ種々考察を加える.

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はじめに

 本邦においては,十二指腸潰瘍の手術々式といえば,広汎胃切除を指すほど,広汎胃切除が普遍的な術式となっているが,最近外国においては,胃を大きく犠牲にするため,残胃のCrippleが問題視され,また,広汎胃切除必ずしも再発潰瘍を防止し得ずとして,Antrectomy plus Vagotomyが代表的術式となっている.

 本合併術は,胃相性胃液分泌をAntrectomyにより,脳相性胃液分泌をVagotomyにより遮断ないし中絶するので,潰瘍治療の主目的である減酸効果は確実であり,胃の犠牲は比較的小範囲切除ですますことができる.その遠隔成績はたしかに優れており,広汎胃切除に代って普及されてよい術式と考える.

 本合併術における迷走神経切断には,普通Total truncal vagotomyが採用されているが,ここには,Harkins,Griflith1)らによって提唱されたAntrectomy plus Selective gastric vagotomyを合併するもっとも新しい合理的な術式を紹介したい.

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はじめに

 十二指腸潰瘍では,胃潰瘍が良性か悪性かといったような鑑別診断は問題にならないであろう.なにしろ,十二指腸潰瘍は良性と判定してまず間違いないのだから.また,実際に十二指腸潰瘍が良性か悪性かが問題になったような報告例はまだないようである.むしろ,胃に比べて,X線検査が不十分であったり,読影にふなれであったり,あるいは不注意のために,十二指腸潰瘍を見落したり,潰瘍がないのにあると誤診したりする症例があまりにも多すぎるようである.また,ほかの疾患を安易に十二指腸潰瘍と診断してしまうような一面もある.しかし,十二指腸潰瘍のX線診断は,すでに,いちおう完成されていて,X線検査さえ着実に行なえば,十二指腸潰瘍は確実に診断できるといってよい.そこである程度の十二指腸の解剖および病理を理解したうえで,十二指腸のX線検査はどうしたらよいか.どのようなときに十二指腸潰瘍と誤診される可能性があるか.また,どのようなときに十二指腸潰瘍が見落されるか.そのようなときには,どのようなX線検査をしたらよいか.どのような点に注意して読影したらよいか.といった立場から,十二指腸潰瘍の鑑別診断を検討することにする.

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 “Deformed duodenal bulb wlthout ulcer”という球部のX線診断に接するたびに,ともすればなげ出そうとする球部内視鏡検査への試みを細々と続けて数年が経過した.

 昭和35年に試作十二指腸カメラを用いて着手した球部撮影の出発点から現在まで数種類の胃カメラ及びファイバースコープを用いて検討を重ねてきた.すなわち,カボカメラ,集検用カメラ,V型短焦点カメラ,パノラマ式ファイバースコープ,Hirschowitz,町田A型などであるが,術中観察あるいは経腹胃鏡法を行なってもHlrschowitzの記載にみられるような成果をあげ得ていない現況である.

 しかし器械的制約の許に失敗を繰り返してきた私たちの経験から,今後の器械的ならびに方法論的見通しは確立されたと自負している.したがって,ここでは私たちの行なった基礎的研究の成績を述べると同時に主として今後の見通しについて論ずることにする.

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 胃結核症は稀有な疾患とされ,その多くは肺結核屍の剖検の際に,または胃潰瘍や胃癌の診断のもとに手術をうけて始めて発見されているようであるが,われわれは最近胃粘膜下腫瘍の疑診の下に開腹し,病理組織学的に胃結核であることを知り得た一例を経験した.

症例

患者:松○み○え,46歳,女

主訴:軽度のるいそう

家族歴:特記すべきものなし

既往歴:約20年前妊娠腎および腹膜炎の疑で6カ月間治療を受けた.生来胃弱であったが二年前胃透視にて胃下垂症を指摘されたのみである.

現病歴:本年四月頃より特記すべき自覚症状なく,るいそうおよび無月経が始まり微熱もあったので近医を訪れたところ胃X線にて胃腫瘍が疑わしいといわれて来院した.

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症例

患者:松○和○,49歳,男,健康診断のため来院した.

家族歴:父は胃縮で65歳で死亡.姉は直腸癌で41歳で死亡.

既往歴:特記すべきことはない.

現病歴:昭和39年10月,上腹部鈍痛あり,胃X線検査を行い,異常なしといわれた.貼和40年9月,当科に健康診断のため来院,胃X線検査,G. T. F検査により,早期胃癌の診断を受け,手術をすすめられたが,来院せず.翌41年3月来院,第一外科に手術のため人院す.

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司会 十二指腸潰瘍と申しますと,胃潰瘍よりいかにも消化性潰瘍という名前がピッタリとするような印象を受けるのですが,最近のはなやかな内視鏡診断がどうも用いられないので,勢い昔からのレントゲン診断が主力をなし,最近の状勢から見ると,胃潰瘍の蔭にかくれているような気もしないではありません.しかし治療が非常に厄介であり,頻度もかならずしも少なくないし,わたしは非常に重要な疾患だと思います.それではまず疫学的な点からみました胃潰瘍と十二指腸潰瘍の差ということについてまず大柴先生から.

胃潰瘍との相違

大柴 大体日本における昭和31年から35年までの統計を集計してみたのですが,外来患者1,907,098名のうち消化管疾患が591,321名となっております.そのうち胃潰瘍36,279,十二指腸潰瘍がいくらか少なく,30,336人ということになっており,消化管疾患に対する十二指腸潰瘍の頻度が,5.14%です.そのほか共存潰瘍が2,330,胃切除術後の空腸潰瘍が247あります.胃癌に関しては,この間に23,502名ということで,十二指腸潰瘍の方が,いく分胃癌より多いという格好になります.胃潰瘍と十二指腸潰瘍についてですが,日本ではまだ胃潰瘍は少し多く,1.2倍という数になっております.その他性比は外来の患者では1.11,消化管疾患では1.21,胃潰瘍は2.63,十二指腸潰瘍3.53,共存潰瘍が4.24,Postbulbar ulcerは,男の方が10倍以上という数字が出ています.年齢は申すまでもございませんが,十二指腸潰瘍では20歳台,胃潰瘍では,30歳から40歳台にピークがあります.非常に面白いのは,年次推移をみますと,胃潰瘍を含めて,全体ですけれども第2次大戦の時に増加して,戦争後は減少してきている.昭和29年,30年ごろから,また増えてきて,昭和37年,38年の統計では,ほとんど戦争中と同じくらいに潰瘍疾患が増えてきている.ただ,ここでまた注目するのは胃潰瘍と十二指腸潰瘍の比率が,戦後だんだん小さくなって1に近づいてきているということだろうと思います.それから地域別にみると,いつでもいわれているようですが,南の地方にどうしても十二指腸潰瘍が多い.季節的には冬が多くて,夏が少ないようです.死亡統計でみると,日本では,胃潰瘍は世界一だが,十二指腸潰瘍は,世界の順番からいうと,真中くらいに位置していることになっております.それじゃ,十二指腸潰瘍と胃潰瘍はどんなふうに違うかというと,職業的な違い,特に精神労務者,高等教育を受けたような人,学生とか,そういう人に十二指腸潰瘍が多くて,また,都会に生活している人に胃潰瘍に比べると,はるかに十二指腸潰瘍が多いということです.もう1つは,潰瘍の成因を20いくつか並べてあるうちの1つになっておりますが,潰瘍についても遺伝関係があるんじゃないか,ということで,大体胃潰瘍を含めてUlkus-Belastungが18%というような数字が出ております.普通のUlkusでない患者さんは,5%とか8%しかない.特に潰瘍のうちでも十二指腸潰瘍の方は,二十数%と,胃潰瘍よりより強い遺伝負荷があるようなことが,統計上わかりました.大体こんなところでございます.

技術解説

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 前回は胃生検技術の大様について説明しましたが,今回は,胃内各種疾患に対する胃生検について述べてみたいと思います.

Ⅰ.診断的意義(成功例から)

 ガストロファイバースコープ(FGSと略)による直視下胃生検のもっとも期待される意義は,胃内の限局性病変の診断にあって,特に早期癌の診断,ポリープや潰瘍の良性悪性の鑑別にあります.胃癌特に早期癌を中心に,胃潰瘍およびポリープの生検成績および技術について検討する.なお胃生検によって診断が簡単につくと考えがちですが,病巣部より確実に生検しえても必ずしも診断が容易でない場合もあります.とくに生検組織の腺管が正常腺管より密にあって,腺管内に過染性の細胞が重層して,いわゆる異型上皮として,病理学上癌か否か問題となります.細胞診と同様に,false negative,false positiveとみなされる症例もあることは,胃生検の技術と共に生検組織の診断上重要な問題で,後述したい.

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 19日(月)8時30分から,HallBにおいてパネル(1)Intestinal Absorptionがchairman,Dr. H. M. Pollard(ミシガン大,胃腸科),moderatorは松永藤雄教授(弘前大内科)とDr. D. H. Smyth(York,Sheffeld大,生理)で定刻通りはじめられた.

 Pollard教授は開会にあたり,松永教授の御努力に感謝され,ついでmalabsorption syndrome(以下MASと略す)の研究の発展の歴史を短かく紹介した.すなわち,gluten-free食餌とWoodによる粘膜研究方法の発見以来この領域への関心が高まり,電顕により微細構造も明らかとなり,一方クロマトグラフィーや反転腸管などの手技も応用され,また臨床的にも蛋白漏出性胃腸症や,従来機能異常と思われていたのが実際には酵素欠乏によると判明したdisaccharidase deficiencyなどの知識も普及し,各種の基礎的機序の解明もすすみつつあると挨拶した.

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食道鏡シンポジウムは座長Ch. Debray(Paris,France),副座長P. N. Chhuttani(Chandigarh,India),司会者近藤台五郎,林田健男と6人の演者によって行なわれた.

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編集後記 増田 久之
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 今年は例年になく寒さが酷しく,雪も多いようですが,皆様には新しい年を迎えられて,あるいは学会をひかえて,ますます忙しく,張り切っておられることと存じます.世界学会に代表される昨年のように,今年も充実した年でありたいと思います.

基本情報

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胃と腸
2巻2号 (1967年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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