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司会 十二指腸潰瘍と申しますと,胃潰瘍よりいかにも消化性潰瘍という名前がピッタリとするような印象を受けるのですが,最近のはなやかな内視鏡診断がどうも用いられないので,勢い昔からのレントゲン診断が主力をなし,最近の状勢から見ると,胃潰瘍の蔭にかくれているような気もしないではありません.しかし治療が非常に厄介であり,頻度もかならずしも少なくないし,わたしは非常に重要な疾患だと思います.それではまず疫学的な点からみました胃潰瘍と十二指腸潰瘍の差ということについてまず大柴先生から.
胃潰瘍との相違
大柴 大体日本における昭和31年から35年までの統計を集計してみたのですが,外来患者1,907,098名のうち消化管疾患が591,321名となっております.そのうち胃潰瘍36,279,十二指腸潰瘍がいくらか少なく,30,336人ということになっており,消化管疾患に対する十二指腸潰瘍の頻度が,5.14%です.そのほか共存潰瘍が2,330,胃切除術後の空腸潰瘍が247あります.胃癌に関しては,この間に23,502名ということで,十二指腸潰瘍の方が,いく分胃癌より多いという格好になります.胃潰瘍と十二指腸潰瘍についてですが,日本ではまだ胃潰瘍は少し多く,1.2倍という数になっております.その他性比は外来の患者では1.11,消化管疾患では1.21,胃潰瘍は2.63,十二指腸潰瘍3.53,共存潰瘍が4.24,Postbulbar ulcerは,男の方が10倍以上という数字が出ています.年齢は申すまでもございませんが,十二指腸潰瘍では20歳台,胃潰瘍では,30歳から40歳台にピークがあります.非常に面白いのは,年次推移をみますと,胃潰瘍を含めて,全体ですけれども第2次大戦の時に増加して,戦争後は減少してきている.昭和29年,30年ごろから,また増えてきて,昭和37年,38年の統計では,ほとんど戦争中と同じくらいに潰瘍疾患が増えてきている.ただ,ここでまた注目するのは胃潰瘍と十二指腸潰瘍の比率が,戦後だんだん小さくなって1に近づいてきているということだろうと思います.それから地域別にみると,いつでもいわれているようですが,南の地方にどうしても十二指腸潰瘍が多い.季節的には冬が多くて,夏が少ないようです.死亡統計でみると,日本では,胃潰瘍は世界一だが,十二指腸潰瘍は,世界の順番からいうと,真中くらいに位置していることになっております.それじゃ,十二指腸潰瘍と胃潰瘍はどんなふうに違うかというと,職業的な違い,特に精神労務者,高等教育を受けたような人,学生とか,そういう人に十二指腸潰瘍が多くて,また,都会に生活している人に胃潰瘍に比べると,はるかに十二指腸潰瘍が多いということです.もう1つは,潰瘍の成因を20いくつか並べてあるうちの1つになっておりますが,潰瘍についても遺伝関係があるんじゃないか,ということで,大体胃潰瘍を含めてUlkus-Belastungが18%というような数字が出ております.普通のUlkusでない患者さんは,5%とか8%しかない.特に潰瘍のうちでも十二指腸潰瘍の方は,二十数%と,胃潰瘍よりより強い遺伝負荷があるようなことが,統計上わかりました.大体こんなところでございます.
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