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食道の異形成(dysplasia)は,繰り返し研究対象にされてきた.それでも万人の認める結論に到達することはなかったようである.食道の異形成に関する考え方として,①前癌病変,②生検組織診断の便宜上必要な概念,③癌である,とする3者が存在する.
しかし最近になって変化の機運が兆してきた.まず,臨床の場では,内視鏡的ヨード染色法の出現により上皮内癌・粘膜癌の発見が確実かつ容易となり,多数の症例を経験し,その臨床病理学的知識を蓄積することができた.食道の上皮内癌にも分化の良いものが少なくないこともわかった.これと並行して,確実に異形があるが生検組織診断上,癌とも言い難い病変がたくさん存在することも判明した.このような症例をどのように取り扱うか,臨床医は決めなくてはならないのである.しかし,狙撃生検標本という極めて限られた情報しかない条件下で判断しなくてはならないという病理側の困難も存在する.しかも生検は組織欠損を生じ,これに起因する組織反応が避けられない.経過を追及するに従って病理学的判断の困難が増強することはしばしばあり,臨床も病理も悩む結果となった.また食道癌手術に伴う侵襲の過大さ,リスクの大きさを知る病理医は,大胆な判定を自然と避ける傾向があった.すなわち,食道異形成と呼ばれる症例の中には,いろいろな要因でそうせざるを得なかったものが混在していたのである.食道の異形成は同じ言葉を用いていても,同じ施設でも病理医が違うと内容が異なっている可能性があった.臨床医はこのような事情も加味して症例の取り扱いを考えなければならなかった.これまでは病理診断を臨床側が“正しく”翻訳しなければならなかった.しかし,この混乱はむだではなかったようである.
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