胃と腸 2巻3号 (1967年3月)

今月の主題 胃液分泌の基礎と臨床

綜説

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 胃の内腔には,胃腺の分泌成分ばかりでなく,食道・噴門を介する嚥下や十二指腸・幽門からの逆流,さらには胃壁における漏出や滲出現象によって生ずる体液成分が認められ,これらを一括したものを一般に胃液と称する.むろん主体は分泌成分であるから,分泌機序の各相に応じてその内容を考えなければならないし,個々の生理条件や病的状態でもその性状を異にする.したがって,胃液の生化学とは,さしあたり胃壁由来の分泌性・非分泌性体液成分についての,生化学的な説明と理解されたい.

1.分泌成分および主な非分泌成分について

 第1図は,胃底腺に相当する胃粘膜構成組織と,それらの分泌成分およびそれぞれへの神経化学的支配の関係を示した略図である.噴門腺・幽門腺領域になるとmucus分泌が主な役目となり,特に後者は大体末梢迷走神経支配下にmucusの多いアルカリ溶液を分泌して塩酸中和の役目に任ずるが,前者の神経支配関係は明瞭でない.

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はじめに

 胃疾患の鑑別にさいして,胃液検査は従来最も普通に用いられた検査法の一つであった.最近の胃疾患の診断法は,X線検査による微細病変撮影判読の技術向上と,胃内視鏡特に胃カメラ.ガストロファイバースコープの開発およびファイバースコープを利用した直視下生検,あるいは直視下細胞診などの技術が飛躍的に向上したので,胃機能よりみた胃疾患の診断,治療法としての胃液検査の価値は低く評価されている感がある.

 胃の機能は嚥下された食塊をひとまず貯蔵することに始まり,刺激により分泌される胃液と食塊を混和して胃液中の消化酵素により消化されやすい靡汁にし,それを胃特有の三層の筋層により腸管へ送り出すはたらきをもっている.また胃液酸度と蠕動とは密接な関係にあり,さらに胃酸は膵液や胆汁の分泌にきわめて大切な役割を演ずる.すなわち,胃液が十二指腸粘膜にふれると特殊なホルモン(Secretin)が粘膜に生じ,これが血行を介して膵腺や肝細胞にはたらいてその分泌を誘発するばかりでなく,同時に胆のうの収縮をうながすホルモン(Cholecystokinin)を誘発する.このように消化吸収の原動力ともいえる胃液分泌の生理についてはなお解明されない点も多いが,ここでは消化器疾患の臨床に必要な程度でのべてみたい.

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Ⅰ.はじめに

 胃液中における塩酸の発見はすでにふるく,1824年Proutにさかのぼるが,胃液検査の創始者は1876年Leubeであるとされる.以来90年の長きにわたって胃液検査は胃分泌機能および胃疾患の診断に応用されてきたわけである.現在もっとも多く用いられている分割採取法の考案は1914年Rehfussが最初でこれにより胃運動のおおまかな分析もできるようになった.それ以来,分泌機構や胃分泌の生理に関する知識は非常に進歩し,より正確に胃機能を評価しようとする多くの方法が登場してきたわけである.すなわちEwaldの食餌試験,カフェイン試験,インスリン試験,ヒスタミン試験,ヒスタミン最大刺激試験,さらに最近のガストリン抽出により近い将来ガストリン試験法の出現が予想される.本邦においてはKatschu.Kalkのカフェイン法による分割採取法が従来もっとも多く用いられているし,最近はヒスタミンを使用するところも増えてきている.またその誘導体であるヒスタログの使用経験もボツボツあらわれ初めている.さらに最近はエレクトロニクスの進歩により日本製の優秀なpH-telemeterも出現し,pH-telemeteringによる研究も段々と盛んになりはじめている.そこで本稿ではこれら各種の方法について主としてその検査法の特徴を中心にし,またその診断的意義について以下述べてみたい.

 さて,最近の胃疾患に関する形態学的診断学の進歩,微細診断化への発展は胃液検査の診断的意義については明らかにその価値を低くしてきたが,なお補助診断としての意義および疾患にともなうまたは疾患を伴なう胃の異常機能を探る上には不可欠の検査法であることは従来と全く変りはないといえる.

 いかなる臨床検査法もそれを施行するにあたっては,その検査は3つの批判に耐えるものでなければならない(lvy&Roth).

 1.先ず医師は何を知らんとしてその検査を行なうのかという点をはっきり知っておかねばならない.一般に胃液検査を行なう場合多くの医師は次の答を知らんとして行なうといえる.

 i)この患者はある刺激に応じて遊離塩酸を分泌するか,分泌するとしてそれは過酸か,正酸か,低酸か?

 ii)その検査で無酸となった場合,その胃にはたして塩酸およびペプシンを分泌することができるか?ということである.

 しかし消化器の専門医は各種胃液検査をくりかえす場合はさらにより多くの情報がえられることを知らねばならない.各種胃液検査法によってわれわれはなにを知りうるのかについては後述する.

 2.次に施行せんとする検査法の限界を知っておかねばならない.このことを常に考慮していないと,その成績解釈に混乱をおこし,誤まった結論に導く可能性がある.例えば胃液検査の場合,ゴム管嚥下に伴う悪心,吐き気がつよいと,分泌抑制機構が発生するが,短時間の検査結果では時に無酸として誤まった結論を与えることになる.この抑制の影響を打ち消す程の充分な時間(例えば2時間)検査が行なわれるといわゆる遅延分泌曲線とされる成績がえられることになる.

 3.最後に目的とするものに対し,使用する方法の信頼度を知っておかねばならない.すなわちその検査でえられる成績はどの程度に偽陽性ないし偽陰性をしめすかということ.例えば後述するごとく胃液の酸度にしても,塩酸量にしても正常者,潰瘍,胃炎,胃癌患者にてその成績には相当の重なりがあるのでその値から鑑別診断を行なおうとするのは明らかに無意味である.しかしある揚合にはその成績は診断上重要な情報を呈供することになる.例えばZollinger-EIIison症候群,悪性貧血(日本には少ないが),さらに潰瘍の良性悪性の鑑別など.その他胃液検査は診断の目的ではなく,胃の正常機能を知り,かつそれにおよぼす疾患の影響すなわち病態生理を知るために行なわれる意義がある.胃液検査成績の正しい解釈には分泌刺激機構,抑制機構および胃排泄の調節因子についての充分な知識を必要とするものである.この点に関しては本誌中他の方が詳述されると思うので簡単にふれるにとどめたい.

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はじめに

 胃疾患の治療剤のうち,最も重要な役割を占めているのが制酸剤である.とくに消化性潰瘍の治療の主点はそれらによる酸分泌の調整にあることは周知のことである.しかしながら,実に長年月またあらゆる観点から酸分泌の問題も検討されたが,過酸症を持続的に抑制された状態におくことは,外科的手段は別としても,内科的の治療では満足されていないこともまた周知のことである.

 このように酸分泌を調整,(いまの場合は分泌能の抑制,低下を問題にしている訳であるが)の困難である理由は,酸分泌機転の複雑性にあるといえるし,さらには酸分泌機構が充分に明かにされていないことによると思われる.

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1.基礎の部

 司会(岡部) では私せんえつでございますが,“胃液分泌の基礎と臨床”ということで御造詣の深い先生方にお集りいただきましたので聞き出し役として,司会させていただきます.基礎と臨床ということになりますと非常に広いもんですから,どういうふうに持っていくか,私,ちょっと戸惑っているんですが,一応,基礎ということになりますと,生化学的,または生理学的な面で,之又広い領域で,いろいろ問題があると思うんです.例えば胃液がどうして分泌されるのか,それからそれを促進するものは何か,または抑制するものは何か,そして胃液の成分は?,というふうなことがあるんですが,先ず,長年こういう面をやっておられます和田先生の所でこの面の仕事をされた札大癌研内科の福田先生に1つこの胃液の成分を,Two component theory(2っの構成成分)ですか,Parietal componentとNonparietal componentと言われておりますが,この2つにわけて少し説明をしていただきたいと思います.

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村上 きようはパネルの座談会でございます.それぞれのセクションに対しては,印象記を書いていただいていますので,大体それで落ちなくできると思うんです.パネル,シンポジュームをおもにしていただいて,そのあと一般のほうのご印象をお話ししていただきます.

胃癌について

白壁 胃癌のパネルは,前の日にリハーサルがありました.そのことは印象記に詳細にお伝えしました.かいつまんで申しますと,チエアマンのギュットマンが,早期癌に話をしぼろうというんです,一番困ったのはアメリカです.カースナーがおこりだしてしまって,ドイツも困ったわけですが,ドイツは心配そうな顔をしてだまって聞いていました.フランスはしゃべる速度が早いものですから,とにかくみんなの3倍ぐらいしゃべるわけですよ.ギュットマンがフランスでしょう.それからモデレーターのバンデンブロックがフランス語,アルボー,デュープレー,ブリックあたりがフランス語でしゃべる.カースナーもフランス語がわかるのでかたことでやるんですよ.そうするとドイツからきたジーラフもフランス語がわかる.フランス語をやらないのは,日本の3人とアメリカのブランドボークだけですよ.(笑)チンプン,カンプンで,通訳の長谷川さんに刻々通訳をしてくれというわけですよ.

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症例

患者:戸○政○ 52歳 男性

主訴:心窩部痛

家族歴:特記事項なし

既往歴:10年前肺結核罹患

現病歴:昭和40年夏頃より時折,食事:および便通とは関係のない軽度の心窩部痛を感じたことがあるが,食欲不振・体重減少・嘔吐などは全く認めない.昭和38年10月胃集検にて胃潰瘍瘢痕疑および巨大皺襞と診断した.翌昭和39年12月,自覚症状は全くないけれども継年の胃集検を受け,間接撮影にて粗大な皺襞と前庭部大彎の辺縁不整にて要精検となった.精密検査の結果はびらん性胃炎と潰瘍瘢痕疑と診断され下記するように経過追求の結果,早期胃癌と診断された.

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Ⅰ.はじめに

 早期胃癌の診断において隆起型(Ⅰ型)および陥凹型(Ⅲ型)は,しばしば肉眼的所見(特徴)と組織学的所見の不一致に遭遇し,その診断の困難性を痛感しているが,表面隆起型(Ⅱa),表面陥凹型(Ⅱc)は前二者にくらべて比較的容易に肉眼単位の診断が組織診断と一致をみている.

 しかしながら表面陥凹型(以下Ⅱcとする)の診断が主としてびらんの診断であるので,良性びらん,潰瘍の治癒経過中とくに瘢痕などがきわめてⅡcと鑑別困難なことがある.

 最近のように,なるべく早期に,なるべく小さい病変を探し出そうとする現状においては,又誤りをおかす危険も大きく,十分注意を要する問題であり,私達は,著者自身の反省の意味において本症例を報告する.

技術解説

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 普通,医学雑誌に投稿依頼されると,必ず所属氏名を書かされるようである.気管食道科の医師が,X線テレビ診断と装置の趨勢という技術解説を2回にわたって執筆するというと,一体どういう解説ができ上るか極めて不安に感ずる方も多いと思われる.しかし気管食道科という耳鼻科か,外科かわからない科に何となく医長という肩書の元におしこめられたのは,元々機械と医用映画と医用テレビの好きな医師が仕方なく肩書におさまったと考えていただきたい.しかしそうかといって,私は「胃と腸」という消化器専門の雑誌に書くいわれはまったく存在しない.というのは私は医師になってから十数年間,胸部疾患ばかり取り組んできた外科医であり,その後放射線科医となり,現在の名目の気管食道科医となっているのである.しからばこの医師が何でこのような表題と取り組み,また何故このような科を遍歴したかというと,前にも述べたように,元々ちょっとばかり機械に強かったことに他ならない.といっても機械工学を専門にやったこともないし,電子工学も生かじりである.いうならばちょっとばかり好きであることと,一たびはじめると故障さすまで承知しない性質があったからに他ならない.

 このように技術解説というテーマでありながら,私ごとのつまらないことをくどくど述べたのには,ちょっと理由がある.技術というものは職人の話である.職人というのは同じことを何回も繰り返し反覆して,少なくとも自分の頭ではわかったような顔をしており,さらに原理的に単純下して理解してしまうものではないだろうか.少なくともある程度の基本的な技術をマスターし,これを反覆修錬しているうちに,自分も職人となったつもりになるものである.これは機械の単純化原理を基礎的に知ることになるのではないだろうか.

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 日本における胃の早期癌が世界的に認められるかどうかは,内視鏡もさることながら,何といってもレ線の説得力如何にかかっいると小生は信じています.なぜならば少なくとも現在では,レ線の方がはるかに広く普及し,将来も一般患者にとっても内視鏡やカメラ受診よりもレ線受診の方が楽なので,学問的なことは別としても,早期癌診断の普及という点ではまずレ線を世界のすみずみにまで広めねばならないと思うからです.

 6~7年前まだ胃早期癌が潰瘍と診断された切除胃の鏡検で,たまたまみつかっていたころ,私がある大学で講演したことがあります.

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<質問>並木先生に次の2点をうかがいたい.北海道より転勤してきた患者の話によると先生のところでは,ファイバースコープ前処置として分泌抑制剤の注射を行なわず特別な薬をのませ,また胃の中に空気を入れるのに特殊な器械を用いているとのことですが,

①ファイバースコープの前処置としてどのような方法を行なっておられるのか?

②特殊な胃内空気器械とは?

編集後記 岡部 治弥
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 澎湃として湧き起こった胃疾患診断学の進歩,特に早期胃癌診断学発展の機運に即し,消化器専門医師の日常の診療に研究に直接役にたつ雑誌をと心がけて本誌が出発したのはつい昨日のように感じられるが,早いもので号を重ねて本号は12冊目である.この間,つねに読者の要望に応えて行きたいというのが編集同人達一同の衷心からなる願いであった.幸にして本誌は消化器専門誌として健やかに発展をつづけているようである.今後,ますますこの要望と信頼にこたえて,1号1号直接読者の血となり肉となる内容に富んだものにするよう決意を新たにせねばならないわけである.

 扨,本号は綜説に胃機能の分泌面を初めてとりあげた.日夜進歩をつづける胃の形態学的診断学のうらづけとして大切な面である.読者に御益するところが大きければ幸である.毎号新らしい知見を与えてくれる早期癌症例は本号もまた,極めて示唆にとむ新らしい所見がすぐれたX線写真,内視鏡写真と共に提供されている.早期癌診断における興趣の更につきざることを思うのである.

基本情報

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胃と腸
2巻3号 (1967年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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