胃と腸 18巻6号 (1983年6月)

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 近年の早期胃癌診断学の進歩とその普及は目覚ましいものがあり,量的には発見される早期胃癌数の増加,また,質的にはその形態像の変貌などの状況を生み出している.このことは同時に非癌病変に対する認識の変化や鑑別対象の質的変化をもたらしてきている.すなわち,良性病変と鑑別困難な早期胃癌の検討は,いつの時代においてもその時代における診断学の限界と将来の診断学の進むべき方向を示すうえで,常に1つの手掛かりを与え続けるものと考えられる.本稿では内視鏡診断の立場から,良性病変と鑑別診断困難な隆起型早期癌の診断学的意義,あるいは今後の課題などについて筆者らの得た最近の成績を中心に述べる.

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 良悪性の鑑別困難な陥凹型早期胃癌と言えば,従来はⅢ型あるいはⅢ+Ⅱc型早期胃癌が挙げられていた.しかしX線・内視鏡診断の進歩に伴い最近では微小癌やⅡb型早期胃癌が見付けられるようになり,これらの微細な病変と胃炎などとの鑑別が問題となっている.1982年秋の消化器病3学会合同秋季大会のポスターシンポジウム“肉眼的に悪性所見を認めにくい早期胃癌”で取り挙げられた陥凹型早期胃癌の症例を見ても,ほとんどが微小癌か浅いⅡc型早期胃癌で,類似Ⅱbとも言うべき症例を扱った報告であった.そこで,浅いⅡc型早期胃癌とⅢ型あるいはⅢ+Ⅱc型早期胃癌について症例を中心にして述べる.

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 近年早期胃癌診断学の発達と共に,微小癌やⅡb病変のような従来診断困難であった微細病変の診断に関心が集まっている.最近当院でも古典的とも言うべき典型的な早期胃癌の相対的頻度は減少し,微小癌や類似Ⅱb 病変,あるいは良性潰瘍と鑑別困難な症例の頻度が増加している.もちろん,早期胃癌の肉眼形態が時代と共に変貌したわけではない.以前には,見落とされたり注目されなかった病変が見出され,診断することが可能になったわけであろう.

 しかし飜って考えれば,現在診断されている微細病変は,肉眼的に識別されやすい,むしろ特殊な例が診断されているとも言えるかもしれない.胃切除標本の病理組織学的検索で,術前に見逃されていた早期胃癌の合併を見出す苦い経験から考えても,臨床的に多くの微小癌が見逃され,また良性の潰瘍や胃炎性変化とみなされている病変の中に,良性と紛らわしい早期胃癌が隠れている可能性を考えねばならない.

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 1971年4月第13回日本内視鏡学会総会で初めてⅡbについて臨床的立場でシンポジウムが行われた.打ち合わせで各施設から多くの症例が提示されたが,Ⅱb の定義を実際各症例にあてはめてみると,いろいろな問題が出てきた.これをある程度整理するために,この定義に補則が付けられた.詳細は省くが,結局これらを典型Ⅱb,類似Ⅱb,随伴Ⅱbに分けて検討することになった.著者らは随伴Ⅱb あるいは類似Ⅱb の摘出標本レントゲノグラム(以下“摘出標本 R-G”と略す)を用いて,X線像,特に area の形態,溝による粘膜模様の変化について retrospective に分析して報告した.

 われわれはこのとき得られた成績をもとに,今日まで単独Ⅱbを術前に発見するよう努めてきた.当初は小彎上にあるものだけが contour の異常だけを手掛かりに発見された.その後,熊倉らによるX線装置の改良やバリウムの改善によって,微細粘膜模様の描写能は著しく向上し,正面像によってかなり微細な模様まで描写されるようになってきた.白壁はシンポジウム後に行われた座談会で将来2cmぐらいのⅡbは診断可能になるだろうと述べているが,われわれの教室においても次第にこれに近いⅡb症例が発見されてきている.

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 内視鏡器械の改良により,直視下生検が容易に行われるようになってきた.その結果,早期胃癌の発見率は上昇し,徐々にではあるが胃癌による死亡率は減少しつつある.しかしながら依然として切除胃癌の約半数は進行癌であるし,更に,切除胃の病理組織学的検討にて全く偶然に癌が発見されることもしばしばある.このことより,われわれが日常行っている内視鏡検査でいったいどのくらい癌を見逃しているだろうか.

 今回は,びらん,胃炎などとの鑑別が困難な比較的平坦な癌,すなわち微小癌,単独 Ⅱb,随伴 Ⅱbについて内視鏡所見を検討した.

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 中澤(司会) 最初に6例の肉眼所見を御覧いただいて,そこで二,三のコメントをしていただき,それを敲き台にして個々の鑑別について座談会を行いたいと思います.

 (症例呈示,Figs.1~6)

 ただいまの症例を参考にして日頃の御経験をお話しいただくわけですが,本号の主題の隆起,陥凹,Ⅱb の良性病変と鑑別困難なという意味合いでお話をいただきたいと思います.その後,診断へのプロセスや生検の適応,それから今後の問題をお願いいたします.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type Ⅱc
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 A 47 year-old male patient was admitted to Keio University Hospital in 1982 for the treatment of gastric cancer which had already been detected at another hospital. X-ray examination of the stomach was done on January 7, 1982. At fluoroscopy barium-filled stomach and double contrast study revealed no abnormal findings, but by compression study with magnified intensifier (about 1.5×) an irregular depression was easily found at the greater curvature of the proximal antrum (Fig. 6a~d), and the diagnosis of early gastric cancer, type Ⅱc, was made.

 Endoscopic examination done on January 12, 1982 (Fig. 7a, b) revealed a shallow, irregular depression of the mucosal membrane at the greater curvature of the proximal antrum. Malignancy was confirmed by biopsy.

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 家族性大腸ポリポージス(familial polyposis coli 以下 FPC と略す)に,胆囊ポリポージスを合併した1例を経験したので報告する.大腸は肝彎曲部で癌化しており,胆囊にみられた約30個のポリープも,その2/3に癌化(carcinoma in situ)を認めた.両者の合併例の報告はまだない.

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 癌の組織診を行う際に,最も重要な判断根拠が細胞異型(CAT)であることは言うまでもないが,細胞個々の異常とは別に,癌においては,癌細胞の空間的配列にも異常が生じる.例えば腺癌では bizarre な腺管,いわゆる異型腺管像が現れてくる(Fig. 1).この所見は“構造異型(SAT)”として診断上のウエイトを与えられており,事実,組織診に当たっては,われわれは半ば無意識のうちに構築パターンの異常を探索していることを否定できない.特に高分化型腺管腺癌・境界領域病変などでは,判断は構造異型の程度に大幅に依存する.ところが,細胞異型に関してはおびただしい研究が行われたのに対して,構造異型の解析は村上,太田ら以外にはほとんど手が付けられておらず,判断も概ね直観に頼らざるを得ないのが現状である.そこで今回,癌における構築異常がどのようなものか,その三次元的実体を明らかにすべく,胃腺癌の代表的な組織型を対象として連続切片からの復構を試みた.その結果を組織像に還元して再評価を行い,診断上留意すべき像の特徴を把握するよう努めた.

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 胃癌は同じ胃の腺上皮より発生した悪性腫瘍でありながら,その癌組織の形態は個々の症例,更には胃という拡がりの中での局在,すなわち幽門腺領域,胃底腺領域,あるいは中間帯,噴門腺領域のいずれに発生するか,また増殖進展,転移先という組織環境によっても多種多様である.したがって組織分類に際しては,用いられる基準となる尺度により大きな幅を持ってくる.現在用いられている胃癌組織分類には,大別すると二分類法,三分類法の2つに分けられるが,Järvi らをはじめとする化生性腸上皮由来の胃癌の提唱に始まり(いわゆる Laüren の分類),Mulligan,Morson,更には本邦における今日の中村(恭),菅野らによる胃型,腸型の2分類論(分化型癌と未分化型癌)につながる(以下中村分類と略す).他方,胃癌研究会における胃癌取扱い規約中の胃癌の組織学的分類(以下規約分類と略す)は長与の提唱する高・中・低分化の三分類法に通ずるものであり,いわゆる一般型 common type を高分化型管状腺癌 well differentiated tubular adenocarcinoma(tub1),中分化型管状腺癌 moderately differentiated tubular adenocarcinoma(tub2),低分化型腺癌 poorly differentiated adenocarcinoma(por)に分け,更には乳頭腺癌 papillary adenocarcinoma(pap),膠様腺癌mucinous adenocarcinoma(muc),印環細胞癌 signet ring cell carcinoma(sig)と分類してある.この分類は突き詰めて考えれば二分類法を用いるとき,三分類法のうちの中分化型管状腺癌(tub2)の位置づけが難しいことから結果的には現行の規約分類のような複雑な分類ができあがったと考えられる.

 筆者は以下に述べるように,胃癌の組織学的特徴のうちで特に2つの特徴に注目して指標とし,それらの組み合わせにより,いわゆる規約分類での common type,更には未分化癌 undifferentiated carcinoma(ud)をも含めて胃癌を4型にグループ分類する試みを行った.本分類は胃癌組織発生論は別として,結果的には二分類法の亜型とも位置づけられるが,本分類法を用い胃癌の組織型別進展様式の特徴の有無を検索し,その成績を述べる.

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 近年,化学療法の普及に伴って,薬剤性大腸炎が注目を浴びている.欧米では,かなり以前よりclindamycin,lincomycin による偽膜性大腸炎がよく知られている.一方,本邦では比較的使用頻度の高い合成ペニシリンによる“出血性大腸炎”すなわち非偽膜型大腸炎の報告が多い.本症の臨床像,特に内視鏡像については既に詳細に報告されているが,X線像についてのまとまった報告はほとんどみられない.最近,著者らは合成ペニシリンに起因した非偽膜型大腸炎8例を経験し,そのX線像を内視鏡像と対比しながら経時的に分析したので,その成績を報告する.

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 Ⅱb 型早期胃癌(以下Ⅱb とする)は,周辺正常粘膜と高低の差がないために,X線・内視鏡診断学が進歩した今日でもその診断は極めて困難であり,われわれが日常 Ⅱb に接する機会は多くはない.Ⅱb と診断される症例のうちで最も多いのは 5mm 以下の微小癌であり,その大部分は切除胃の組織学的検索によって発見されたものである.6mm 以上の Ⅱb が少ない理由として,胃癌はその発生より極めて短期間の時点においては,大部分が Ⅱb の形態をとり,癌発育・進展の過程で正常粘膜に比べてびらん・潰瘍化しやすい傾向のある癌では陥凹や潰瘍が形成され,一方,びらんや潰瘍による癌の部分的脱落の傾向が弱い癌では隆起性発育を示す.そして,極めて少数の胃癌は正常粘膜と高低差のないままの状態で発育・進展し,Ⅱb として認識される形態を呈すると考えられる.このように,診断が困難である Ⅱb の形態はどのような環境において成立するかが問題となる.なぜならば,もしその環境が解明されるならば,胃癌の診断に際して,その環境を考慮することによって Ⅱb 診断の向上をはかることができると考えられるからである.

 本研究は,Ⅱb の存在する胃の背景粘膜,特に Ⅱb の周辺部の非癌粘膜について病理組織学的に検討し,Ⅱb 成立の宿主粘膜要因について考察を試みた.

Coffee Break

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 膵癌早期発見のスクリーニングにアミラーゼ値の上昇をチェックし,できるかぎり ERCP で膵内の異常の有無を調べることが有効であることを述べました.これは,膵癌の主膵管狭窄による二次的膵炎をチェックすることの重要性を示していますが,アミラーゼ値のみでなく,更に膵癌早期発見のきっかけが別の面から見出されてきました.それも膵の専門家が試みている特別な方法ではなく,日常最も多く用いられている胃X線ならびに内視鏡検査によるものであったことは,アミラーゼ値と同様われわれも思いがけなかったことでした.

 膵と最も関係の深い臓器には,十二指腸と共に胃があることはだれでも知っていますが,膵の異常が胃にどのような変化を及ぼすかを知れば,逆に胃の変化から膵をチェックすることができます.胃と膵との重なりから図のごとく,A,B,Cに膵による胃の変化,特に胃外性圧排像が認められ,特にAの部位は従来から膵による圧排像としてよく知られています.このA部の胃外性圧排像が,特に,膵体部の癌には認められていますが,1978年にアミラーゼ高値例に ERCP で早期膵癌を発見して以来,アミラーゼ値をスクリーニングとして ERCP で膵をチェックして,1年後に,ようやくアミラーゼ高値例に膵頭部主膵管の 1cm の狭窄例を ERCP で発見し切除しましたが,直径 3cm の膵内に限局した腺癌で,膵と十二指腸との間にリンパ節転移をみた症例を経験しました.術後に胃X線所見を振り返ってみますと,胃体中部小彎(A部)に胃外性圧排像を認めました.病巣が膵頭部にありながら,胃体中部小彎に胃外性圧排像が認められたのは,一見両者が離れているので,関連がないように見えますが,実は両者間に密接な関連があります.膵頭部の癌による主膵管狭窄で,膵体尾部の主膵管の著明なびまん性拡張と共に,膵体尾部の膵実質の萎縮,それに伴う線維症の増生を来し,この主膵管拡張と膵の線維症,すなわち膵癌による二次的膵炎が胃体部小彎―後壁の胃外性圧排像に対応していることを知りました.

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高橋徹論文についての質問

 質問1 著者は tub1として,明らかに構造異型の強い癌を選んでいる.しかし,tub1 には細胞異型が強く,構造異型が軽度の癌もある.このような例での胞巣および腺腔の p0 と p1を計測すべきであろう.この結果をお知らせ願いたい.

 同様のことは tub2 でも言える.ここで著者は篩状構造の部を主に選んでいる.しかし,それ以外の tub2 も明らかに存在するはずである.著者の結果では tub1 と tub2 で胞巣と腺腔の p0,p1 間にあまりにも明確に差があり過ぎる.現実にはもっと中間型が存在すると思うのですが,いかがでしょう.

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 胃癌の組織像を腺管形成性と“粘液産生性”の強弱という2つの観点から4型に大別し,剖検胃癌について癌の拡がりの様相を,この4型別に比較検討した研究で,治療法が種々であり,また増殖が激しいために纒めることの難しい剖検胃癌を,このような尺度から分析した着眼点の良さに感心しました.

 その結果は,われわれが経験的に感じ取っているところを数値として浮き彫りしており,その点に意義と価値とがあると思いますが,tub2 の取り扱いに最も苦心されたであろうことが Fig.3 から覗われます.その内容はいかがだったでしょうか? tub1 型が多かったのでしょうか,それとも por,sig 型が大部分だったのでしょうか?

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欧文目次

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 消化管内視鏡の歴史は長く,また内視鏡下の治療に関しても直腸鏡到達部位の有茎性ポリープ切除や食道静脈瘤の sklerosing therapy の検討も古い.しかし,実際には内視鏡下の治療が満足する評価を得られて以来十数年にすぎず,fiberscope が消化管疾患の診断に不可欠の位置を確立してからである.

 近代内視鏡学が臨床診断に関し確固たる位置を占めたとき,既に先達が次の step として内視鏡下の治療に目を向けてきたことは当然のことと思われる.そして最も手近にあったものは直視下での薬剤注入法であり,難治性潰瘍の局注療法,手術を避けた上部消化管癌に対する抗癌剤の注入療法であった.

編集後記 丸山 雅一
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 かつてX線診断を“写像と対応”という発想で解釈しようとしてトポロジーの入門書を読んだことがある.X線所見を肉眼所見の写像とみなし,2つの所見上に1対1の対応を求めること―しかし考えてみるとこれはトポロジーなどを持ち出さなくてもわれわれは微細診断の過程で繰り返し行っている作業である.

 更に,対応する点の集合を1つのパターンとしてとらえ,その特徴と疾患名を“対応”させる作業は炎症性の腸疾患や変形の診断では欠かせない手法である.

基本情報

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胃と腸
18巻6号 (1983年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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