胃と腸 13巻3号 (1978年3月)

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 クローン病は,Crohnら(1932)によって最初regional ileitisの名称で報告された回腸末端部を好発部位とする慢性炎症性肉芽腫性疾患であるが,その後回腸末端部ばかりでなく小腸のその他の部分,大腸,胃などをも侵すことが明らかになったので,限局性腸炎regional enteritisとも称せられている.わが国では,1939年塩田により非特種性局所性腸炎として紹介されてから本症についての関心が高まり,あいついで症例が報告され,ことに1975年に「目本消化器病学会クローン病検討委員会(委員長:山形敞一)」と「厚生省特定疾患クローン病調査研究班(班長:土屋周二)」が発足し,また1973年以来目本大腸肛門病学会,日本消化器内視鏡学会,日本消化器病学会であいついでシンポジウムとして取り上げられるに及んで,一躍脚光を浴びるようになってきている.筆者は幸いにそのすべてに参加しているので,この機会にわが国におけるクローン病研究の現況について,「日本消化器病学会クローン病検討委員会」の経過の紹介をも含めて,筆者が理解している範囲で解説したいと思う.それには,最初にクローン病の概念と名称について述べ,診断基準について触れておきたいと思う.

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 腸の炎症疾患は悪性腫瘍と異なり,病理学的特異性を有しないことがある.したがって,一時点のみの病理学的検索では決定的な診断を下すことができない場合があり,臨床と病理のあらゆる情報を総合して診断する必要が生じてくる.その典型的なものが病理学的には“非特異性潰瘍”と診断せざるを得ない,治癒した腸結核であろう.

 クローン病は,欧米では古くから疾患単位として確立された疾患1)2)でありながら,今なお,論議の対象とされているのは,病因の未知,予後の不良3)4),などと合せ,診断の面でも決定的な所見を欠くことにあると考えられる.

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 わが国における消化管のX線検査は,二重造影法を主体としていて,これによって胃や大腸のX線診断は大きく向上した.最近小腸にも二重造影法が導入され14),すでに微細病変の描写も可能になり,従来わが国に少ないとされてきたクローン病の報告も次第に増えつつある.

 本邦におけるクローン病のX線診断をふりかえってみると,もっぱら欧米の成書をそのまま受け入れ,これに従ってきているというのが現況である.欧米の成書にみられる小腸検査法は充満法と圧迫法が主体で,クローン病のX線診断もこれに基づいたものであり,所見もケルクリングヒダの異常や辺縁の変化,変形に重点がおかれている6)11)13)16).このように手法の異なる欧米の診断学を,そのままわが国の二重造影主体の診断学にあてはめていくのは無理であり,危険でもある.胃のときと同じように,二重造影法を主体とした小腸の診断学理論を確立する必要がある.

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 クローン病は腸の炎症疾患の中で,原因不明の代表的なものである.このため病理形態学的にも絶対的な診断基準はなく,現状では種々の病理形態学的所見を総合して診断されている.Crohnらが1932年に初めて一つの独立疾患として報告して以来,クローン病の病理形態の特徴的所見は多くの先達によって挙げられてきた3)9)12)13)15)~18)26)30).しかし,個々の病理組織所見は他の腸炎疾患にも見られるものであり,またときには特徴的病理組織像に乏しいために,病理形態学的にクローン病と診断できないことがある.

 炎症疾患は固定した状態にはなく,種々の過程を経るものであり,特に腸管においては二次感染などにより,ますます複雑な病理形態像を示す.さらに治療によっても同様の現象が見られる.したがって,病変の正確な診断は臨床症状,X線や内視鏡検査,病理組織学的検索などを組合せた総合的視野から行うべきことは当然である.また炎症疾患を病理形態学的に診断しようとする場合でも,われわれはいかなる時期の病変や病変部位を検索しているかを常に念頭に置く必要がある.

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 クローン病は,口腔から肛門までの消化管のどの部位にも発生し得る線維化や潰瘍を伴う肉芽腫性,全層性炎症性病変で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫などを組織学的特徴とする疾患であるが,しばしば再発を繰り返すこと,腹部の瘻孔,腸の狭窄や栄養障害,貧血,関節炎,虹彩炎,肝障害などによって患者が長期間病苦にあえぐことはよく知られている.われわれの経験した数例のクローン病のうち2例の再発症例をとりあげ,その臨床像を検討したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

 〔症例1〕初診時25歳,現在27歳,男子,会社員(営業担当)

 主 訴:右下腹部痛,るいそう

 家族歴:特になし

 既往歴:17歳の時急性虫垂炎にて虫垂切除をうけているほか特記すべきものはない.

 現病歴:1974年5月頃より,食事摂取や排便とは無関係に右下腹部のしくしくする痛みがあり,上腹部の重圧感,腹部膨満感,嘔気などを伴っていた.近医にて十二指腸潰瘍を指摘され,注射療法で上腹部の愁訴は改善されたが,下腹部のとう痛は次第に増強してきたので,1975年4月8日,当科外来を受診した.初診時,身長170cm,体重49kgで過去8カ月間に8kgの体重減少をみていた.食欲は普通で,毎日1行普通便があり,血便,粘液便などの異常はみない.白血球増多12,300,CRP(+++),α2-グロブリン高値15.0%,などを認め,腹痛は一進一退であったので精査の目的で1975年8月29日入院した.

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 イギリスのクローン病と日本のクローン病との間に,本当に比較できるような相違があるのであろうか?筆者が見聞した対象は,ロンドンのセントマーク病院という,極めて特殊な病院での症例に限られているので,その経験のみからイギリス全体のクローン病について語ることはできない.しかしながら,セントマーク病院でクローン病の典型例を何例も見る機会を得て,クローン病の肉眼所見に対する1つのイメージができ上り,そのイメージが欧米諸国のクローン病にもあてはまることが確認できたにもかかわらず,わが国のクローン病を眺めるときには,そのイメージとは随分かけ離れたような症例に遭遇することが少なくないのは何故なのだろう,という疑問を筆者は常々抱いていた.筆者が誤ったイメージを持っているのかもしれないし,あるいは,肉眼所見の相違は病期の違いのためかもしれない.しかし,日本のクローン病の中には,欧米諸国のそれとは肉眼的に異なる形態を呈するものが含まれているという可能性はないだろうか?

 この機会に,セントマーク病院で得たクローン病のイメージを再現して,これと日本のクローン病とを視覚的に比較してみることにした.数少ない経験についてごく率直にクローン病の肉眼所見について述べるつもりであり,決して科学的な比較論ではないことを初めにお断りしておきたい.筆者が抱く疑問に賛同されるか否か,読者の方々の御批判をあおぎたいと思う.

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 われわれは,小腸のCrohn病として切除後4年目に残存小腸に再発し,回腸・回腸間の内瘻形成が認められたために再手術した症例を経験したので報告する.

症例

 患 者:27歳 男

 主 訴:腹痛

 家族歴:特記することなし

 既往歴:<20歳>1969年3月,臍周囲に痛みを訴え,時々嘔吐するようになった.その約2カ月後,急に強い腹痛が現れたので某医を受診し,イレウスの診断をうけ,手術の目的で某病院に入院した.諸検査の結果は異常が認められず,腹痛も軽快したため10目間で退院した.

 <21~22歳> 時々軽い腹痛を訴えていたが放置していた.

 <23歳>1972年9月4日,強い腹痛のために某医を受診し,再びイレウスの診断をうけ,精査治療の目的で9月6日に当センターへ入院した.入院後も強い腹痛が持続するため,イレウスの診断のもとに開腹術を施行した.

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 胃疾患診断の技術の進歩はめざましいが,胃悪性リンパ腫の早期診断には困難な点が多い,1972年当時,X線検査,内視鏡検査,生検組織像からRLH(Reactive Lymphoreticular Hyperplasia)と診断され,その約1年後に諸検査の結果,悪性リンパ腫と診断された症例を経験したので提示する.

症例

 患 者:34歳 女性 会社員

 主 訴:嘔気,嘔吐

 既往歴:虫垂切除術(18歳)

 家族歴:特記すべきことなし

 現病歴:1970年頃より嘔気,嘔吐があり,数カ所の病院を受診し,諸検査を行なったが,いずれも胃に異常はないといわれた.しかし症状はその後も続き,1971年10月初め,某医受診し,入院精査の結果,早期胃癌を疑われ,1972年1月,国立がんセンター病院を紹介された.

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 消化管の脂肪腫は比較的稀な疾患であり,文献上散見されるにすぎない.部位別にみると,本邦では胃の報告が多く,大腸脂肪腫の報告は比較的少ない.しかし近年,大腸脂肪腫の報告は漸次増加しており1)~3),今後も大腸診断技術の向上に伴って増加するものと思われる.最近われわれは腸重積を起こした横行結腸脂肪腫の術後,直腸癌を発見し,根治手術を施行した症例を経験したので報告する.

症例

 患 者:69歳 女性 無職

 主 訴:腹痛

 既往歴:62歳のとき乳癌にて手術および術後照射を受けた.乳癌はStage Ⅰであった.

 家族歴:特記すべきことなし.

 現病歴:1975年10月11日朝より臍周囲の強い腹痛があり,嘔吐した.近医を受診し,腹部単純X線検査を受けたが,特に所見なく鎮痛剤注射を受け帰宅した.しかし腹痛は2,3時間毎に発来し,軽快しないため10月13日同医院入院,10月14日当科へ転院した.排便は10月11日までは毎日あり,以後停止した.10月11日より食事摂取せず水分のみ摂取していた.

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欧文目次

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 膵疾患診断の第一歩は膵の存在に考えおよぶことから始まるといわれる如く,最近までは一般臨床医にとっては関心のうすかった膵や,胆汁を肝から十二指腸に輸送する胆管は,十二指腸に到達した未消化食物塊を消化させ腸壁より吸収させるという生命の維持に対して最も基本的で,それだけに不可欠な役割を果たしている.両者はそれぞれに独自の機能を営んでおり,種々の病的状態も全く別個に発生するが,一方,食物の消化吸収が合理的に行われるよう合目的的に発展したと思われる膵・胆道の共通排泄管は両者の病的状態の発生,進展に互に影響し合うという弊害をもたらした.

 しかるに膵・胆道疾患に対する診断は他の消化管診断の進歩に比し,明らかに遅れをとっているといわざるを得ない現状である.もちろんこれには解剖学的な位置関係や,検査方法の困難性などが原因としてあげられよう.しかし,胃をはじめとする消化管診断が,その方面の優れた研究者の努力により大いなる進歩を遂げた今,次なる目標は未開の十二指腸へ向けられた.ここでは膵・胆道を非観血的に随時観察し,造影するという前人未踏の領域が内視鏡学者,放射線学者の征服を待っていたのである.幸にも,胃腸を征服した彼等が膵・胆道の入口に立った時にはすでに十二指腸ファイバースコープを手にもっていた.そしてこの未知の世界に数多くの研究者が参加したが,最初に金字塔を打ち樹てたのは目本であり,その最大の功労者は他ならぬ本書の著者の1人である大井至氏である.以後,膵・胆道の内視鏡検査は急速に発達し臨床検査法としての地位を不動のものとした.同時に本法は治療面でも応用され,著者の川井啓市氏および相馬智氏等が内視鏡的に乳頭括約筋切開術を完成させた.また,最近では経十二指腸的に膵・胆道へのファイバースコープを挿入観察する親子式膵・胆管内視鏡検査についても着々と研究が進められており近い将来には生検による組織診も容易に行われるであろう.

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 本書をみて,まず最初に感ずることは,従来の診断学の教科書とも,またいままでの内科診断学書とも全く趣きを異にしていることである.最も大きな相違点は,本書が単なる内科の診断学ではなく,外科診断もあれば,皮膚科,泌尿器科,産科,婦人科の各科領域にわたって,それぞれの専門家がそれぞれの診察の仕方と評価の初歩を,学生にとりつきやすい形で要点を明らかにしながら要領よく書いていることである.

 そこで私は,Connの“Current Diagnosis”をもう一度手にとってみた.Connのそれも,各科の専門家が全科にわたる疾患の要点をわかりやすくまとめていることは確かである.しかし本書のように,学生がベッドサイドに出て,患者をみる際に直接役に立つというのではない.今目的にいえばConnのそれは,やはりdisease orientedである.ではやや古いがHac Brydeの“Sign and Symptom”はどうだろうか.それが古いか新しいかは別としても,症候の基礎的理解のために,従来から米国その他の学生に広く愛読されていたことは十分その価値があったからである.しかし,これとても,学生や研修医が,実習あるいは実践の場で一目で理解しその要領をそのまま利用しうるものではない.

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 国立がんセンター総長石川七郎博士,東北大学病理学笹野伸昭教授,京大内科井村裕夫教授らの編集で,わが国の代表的な研究者48氏により機能性腫瘍にかんする研究の全貌と今後の動向が見事に集大成されたmonograph「ホルモン産生腫瘍」がこのたび刊行された.石川博士は周知のごとくLiddle(1961)が異所性ACTH産生腫瘍のnew clinical entityを発表する以前に,多数の肺癌自験症例の観察から臨床的に異質で特異な臨床症状として色素沈着,多毛傾向,バチ状指や血漿17-OHCSの高値などの存在をすでに1950年代に指摘された.引続き厚生省がん特別研究班を構成すると共にFunctioning tumor研究会を創設され,わが国におけるこの方面の研究を情熱的に推進育成された先達である.笹野教授は文部省がん特別研究班「異所性ホルモン産生腫瘍の基礎的研究」の班長として,また井村教授は異所性ホルモン産生腫瘍の臨床的研究分野でともにわが国における文字通りのfrontierとして高名である.本書は編者らが序文その他で指摘されておるように欧米にもなお類書をみない世界的にもuniqueな著書であり,本書発刊の意義はきわめて大きい.

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 スマートな装幀につつまれた多賀須博士著「胃腸病へのアプローチ」を開き,氏独特の明解な文章にひきこまれて,一気に読破してしまった.たしか数年前より消化器病に関し該博な知識の一端をときどき見せておられたのを思い出し,何年もかかって推敲を重ねられて本書が完成したことがよくわかった.その意味で,本書の完成に対し冒頭祝詞を申し上げたい.

 近年,消化器病学の進歩は著しく,その知識の修得にも,相当な努力が必要となった.実地臨床の場では勿論のこと,特に広い各分野の勉学を要求される医学生の諸君には,わかり易く,簡にして,要を得た,しかも最新の知識をも収録した書籍を求めるに切なるものがある.本書はそのような希望にまさに答えたものといえよう.単なる問題や解説の羅列ではなく,図解を加えて,必要な基礎的知識を説明し,ついで問題をならべ,解答をそえて,一応各項がまとまっている点が特長といえるが,必要な知識をほぼ抜けなく収録してあり,題名の「胃腸病へのアプローチ」にふさわしい教科書であり,参考書でもあるということである.

編集後記 西沢 護
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 胃では,たとえ原因が分らなくとも,胃切除により根治するような疾患が多く,診断学の進歩により,その治療成績も著しく向上してきた.これに対し,腸では原因が分らないだけでなく,内科的にはもちろんのこと病変部の切除を行っても根治せず再発するようなやっかいな疾患が多い.その代表的なものがクローン病であろう.これらの腸疾患をX線,内視鏡を主とした種々の検査所見および臨床所見とマクロ,ミクロの所見とをつき合せて,とことんその診断の限界をつきつめてみようというのが,昨年の12巻11号からはじまった腸疾患の特集である.ちょうど,胃で行われてきた診断手技を用いて,わが国では疾患も少ないし,また臓器の長さや走行などから検査もやりにくい腸疾患に,どこまで確定診断をつけることができるか,またどの位早期のうちに診断がつけられるかである.

 もし,クローン病について,より早期のうちに何らかの処置を加えれば根治成績が著しく向上するものなのかどうかの目安でもつけば,大きな収獲ではあるまいか.

基本情報

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胃と腸
13巻3号 (1978年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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