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膵疾患診断の第一歩は膵の存在に考えおよぶことから始まるといわれる如く,最近までは一般臨床医にとっては関心のうすかった膵や,胆汁を肝から十二指腸に輸送する胆管は,十二指腸に到達した未消化食物塊を消化させ腸壁より吸収させるという生命の維持に対して最も基本的で,それだけに不可欠な役割を果たしている.両者はそれぞれに独自の機能を営んでおり,種々の病的状態も全く別個に発生するが,一方,食物の消化吸収が合理的に行われるよう合目的的に発展したと思われる膵・胆道の共通排泄管は両者の病的状態の発生,進展に互に影響し合うという弊害をもたらした.
しかるに膵・胆道疾患に対する診断は他の消化管診断の進歩に比し,明らかに遅れをとっているといわざるを得ない現状である.もちろんこれには解剖学的な位置関係や,検査方法の困難性などが原因としてあげられよう.しかし,胃をはじめとする消化管診断が,その方面の優れた研究者の努力により大いなる進歩を遂げた今,次なる目標は未開の十二指腸へ向けられた.ここでは膵・胆道を非観血的に随時観察し,造影するという前人未踏の領域が内視鏡学者,放射線学者の征服を待っていたのである.幸にも,胃腸を征服した彼等が膵・胆道の入口に立った時にはすでに十二指腸ファイバースコープを手にもっていた.そしてこの未知の世界に数多くの研究者が参加したが,最初に金字塔を打ち樹てたのは目本であり,その最大の功労者は他ならぬ本書の著者の1人である大井至氏である.以後,膵・胆道の内視鏡検査は急速に発達し臨床検査法としての地位を不動のものとした.同時に本法は治療面でも応用され,著者の川井啓市氏および相馬智氏等が内視鏡的に乳頭括約筋切開術を完成させた.また,最近では経十二指腸的に膵・胆道へのファイバースコープを挿入観察する親子式膵・胆管内視鏡検査についても着々と研究が進められており近い将来には生検による組織診も容易に行われるであろう.
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