精神医学 62巻8号 (2020年8月)

特集 精神科医療における病名告知—伝えるか,伝えるべきでないか?伝えるなら,いつ,どのように伝えるか?

特集にあたって 明智 龍男
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 インフォームド・コンセントの法理の原則に則ると,意思決定能力のある患者に検査や治療の説明をする場合には,大前提として病名を伝えておく必要があると考えられる。一方,がんの告知を例にとると,わが国でがんの診断病名を率直に伝えるようになったのはわずかここ20〜30年ぐらいのことである。患者-医師関係もパターナリスティックなものから,患者の自律性を尊重するスタイルに大きく変わりつつある現代の医療の中で,精神疾患に関しての病名告知の是非や方法論を論じることには意義があるのではないだろうか? 一方,がんも同様であるが,精神疾患に関しては,スティグマの問題や患者の意思決定能力の問題など,より複雑な背景が存在する。また疾患によってはそもそも治癒が困難な病態や現代の医療水準では進行性の経過をたどるものも含まれる。加えて,患者には知る権利があると同時に知る権利を放棄する権利もあると言われる。

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抄録 統合失調症の病名告知は古くから議論されてきた問題であり,特に2002年の「精神分裂病」から「統合失調症」への呼称変更の前後で注目されたように思われる。呼称変更から18年が経過し,病名告知は促進され,統合失調症という用語も馴染んではきたものの,臨床において病名告知は最も重要であり悩ましい作業であることに変わりはない。しかし,病名をいつ,どのように伝えるかについては精神科医の中でも十分なコンセンサスが得られているとは言えず,それを教育・研修するようなシステムもなく,各主治医のスタイルによってさまざまというのが実態ではないだろうか。本稿では,統合失調症の病名告知の実際について,筆者の拙い経験を書かせていただき,病名告知の教育・研修についても若干言及する。

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抄録 「双極性障害の病名をいつどのように伝えるか」について筆者の告知方針を紹介した。病名告知は,医師-患者の治療関係の確立のためにも,初診時に行うことが原則である。診断の根拠を示し,患者の意見も受け入れて,告知,心理教育を行い,治療を開始することが必要である。告知や心理教育の内容の記憶が曖昧な患者もいるので,適時病名を再告知することが望ましい。また「双極性を有する気分障害患者」に病名告知に関するアンケートを行い,その結果を報告した。多くの患者は病名を受容していたが,「偏見を持たれる」と考える患者は少なくなく,「治りにくい」と受け止めた患者は多かった。双極性障害において「病気を治す」ための,最初の一歩が病名告知と考えた。

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抄録 身体症状症という依然として概念が共有されきっていない病名とその告知問題を概観した。もちろん病名のみならず何をどのように伝えていくかが重要であるが,まずそのために患者から得ておくべき情報として持ち合わせている病態モデルや受診経路を挙げた。また,一般的に身体症状症がどのように受け止められているか,医療者はどう捉えているかを紹介しながら,診断の内包している問題を検討した。特に診断基準の変遷がこのような病気の本態を捉えているのか,本質に近づいているのかについては心因性の議論も含めて言及してみた。また,告知は本来治療の一部として機能すべきであるが,診断を下すことによる患者への影響を列挙しつつ,今後どのような工夫が可能なのかについても考察した。

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抄録 診断名(病名)告知は,本来の医療行為の一部であり,治療契約を結び,治療を実施するための前提となる手続きである。しかしパーソナリティ障害(personality disorder:PD)の治療では,患者の疾病認識と診断が大きく相違することがままあり,診断名告知が治療上の問題となることがある。本稿では,PD診断の意味を確認し,それについて医療倫理的な視点から診断名告知について検討を加えた。その治療では,PD概念の不十分さのゆえに明快な説明が困難であることや,診断・評価に時間をかける必要があること,また,診断名に付きまとうネガティブなイメージが患者を傷つける可能性があることから,診断名告知が必ずしも治療に貢献しないケースがある。他方,PDの回復や治療効果についての知見が集積されつつあり,また,当事者による回復の報告やピアサポートの動きがみられるなど,診断名告知が患者の回復に貢献し得る状況が醸成されてきている。この情勢において我々は,診断名告知を,彼ら自身の疾病認識に働きかけながら,治療の流れの一部として実施することが必要である。

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抄録 認知症の病名告知については,診断がなされればできるだけ速やかに告知すべきであるものの,受容を強いることは控え,本人が否認したり,保留している場合は,その向き合い方を尊重して見守ることが大切であると筆者は考えている。それとともに,病名告知の目指すところとリスク,病気の先入観や偏見が受容に及ぼす影響,そして実臨床における告知の実際について筆者の経験から述べた。どのように告知の可否の見当をつけているのか,言葉を選びながらどのように告知の衝撃を調整しているかについて,かかりつけ医や専門医たちの経験を参考に述べた。最後に,“アルツハイマー型認知症”という病名は認知症診療において最も頻繁に用いられるが,その診断を受けた人の中には一定程度タウオパチーが含まれているとされる。そのことを情報提供すべきか否かについて検討する時期にきていることを述べた。

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抄録 神経発達症(知的能力障害,自閉スペクトラム症,注意欠如・多動症など)に対して診断名を伝えるタイミングや方法については,さまざまな工夫が必要となる。まず国際的な診断基準に即した正確な診断を行う必要がある。また診断を行うからには,それが治療や支援に結び付くことが求められる。診断名の告知は,できるだけ本人自身や家族が本人の「困難さ」と「強み」をバランスよく理解し,心理教育として認知行動療法などの治療に役立つように工夫する必要がある。どのような治療や支援を行うかは,患者と医療者の協働意思決定(shared decision making:SDM)として決められるべきであり,患者のウェルビーイングの向上に繋がるものとなるべきと考える。

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抄録 がん治療や早期発見技術の進歩により,年齢調整率でみるがん死亡は減少し,課題は診断・治療から症状緩和,サバイバーシップを含む広範囲に及んでいる。この時代の変遷の中で,がんに関する告知の課題は病名告知の是非から,早期から難治がんまでどのように病状説明を行うか(進行がん,積極的抗がん治療中止,緩和ケアへの移行,予後など)に変わってきたと言える。これらの話し合いは患者・家族,医療者ともに心身の負担を伴うものであるが,患者の意向に即した治療・療養を実現するため,医療者-患者間のコミュニケーションに関する調査,介入研究が行われてきた。患者・家族の意向が反映された治療・療養に繋がる取り組みが全国的にも行われ,患者・家族の負担・苦痛が軽減されていくことが望まれる。

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抄録 インフォームド・コンセントを前提とする医療において,患者-医療者間のコミュニケーションは必須である。医療者が患者に「悪い知らせ」を伝える際に,望ましいコミュニケーション行動を表出することで,患者の心理的ストレスを抑制し,医療者への信頼感を増し,話し合った内容の理解を促進することがこれまでの研究から明らかになっていることから,医療において患者-医療者間の望ましいコミュニケーションを促進することは非常に重要である。難治がんの病名告知や抗がん薬治療中止の意思決定など患者にとって「悪い知らせ」が伝えられる際に,患者が医療者に望むコミュニケーションはSHARE(支持的な場の設定,伝え方,さまざまな情報,情緒的サポート)として,まとめられている。このような望ましいコミュニケーションを促進する方法として,医師を対象としたコミュニケーション・スキル・トレーニング,患者への質問促進リストなどが提案されている。

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抄録 わが国における10代の薬物乱用の実態を調査するために,全国の有床精神科医療施設を対象に実施した病院調査から得られた10代の薬物関連精神障害症例71例を比較検討した。危険ドラッグは2014年調査の48%から2018年調査で0%へと低下し,市販薬は2014年調査の0%から2018年調査で41.2%へと増加し,乱用薬物が危険ドラッグから市販薬へと推移していた。2014年の危険ドラッグ乱用群と2018年の市販薬乱用群を比較すると,学歴やICD-10 F1分類の下位診断カテゴリー,併存障害が異なり,臨床現場において,新たな薬物乱用層が出現していることが示唆された。得られた知見から今後のわが国の薬物乱用防止教育と精神科医療に求められることについて考察を行った。

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抄録 【目的】自殺念慮を有する者のうち,実際に自殺行動に至る要因を明らかにすること。【方法】患者レジストリを用い,自殺念慮を有する全入院者(797名)のうち,実際に自殺行動に至った患者(自殺企図群)の臨床特徴をそれ以外の患者(自殺念慮群)と比較した。【結果】自殺企図群において入院前の精神科通院(66.0%),自立支援医療や障害年金などの制度利用の割合(43.8%)が自殺念慮群(78.3%,56.9%)に比べ有意に低かった。【考察】自殺企図群では精神科医療や社会的支援とのつながりが弱くconnectednessに課題を有し,予防的観点から自殺念慮を有する者を適切な支援に結び付けることの重要性が示された。

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抄録 本稿では,岩手県盛岡市の若年層を対象に実施したアンケート調査に基づいて,その相談傾向および手段の把握と,その相談手段としてSNSの有効性を検討することを目的とした。その結果,対象の若年層は,専門相談機関よりも身近な友人や家族を頼る傾向があること,困りごとがあっても相談をしないと考えている人が多くいることが明らかとなった。また,相談手段は直接会う以外はSNSが主となっていた。したがって,SNSを用いて自己解決や相談窓口の情報を得ることで,若者の援助要請行動の促進に繋がると考えられる。

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精神医学
62巻8号 (2020年8月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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