精神医学 62巻7号 (2020年7月)

特集 「大人の発達障害」をめぐる最近の動向

特集にあたって 内山 登紀夫
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 DSM-5とICD-11では神経発達障害の概念のもと,知的能力障害,自閉スペクトラム症,ADHDなどが定義されました。WHOのワーキンググループでは知的能力障害をICD-11に加えるかについて多くの議論がありましたが,精神疾患の併存率が高いことから「医学的病態」とみなし神経発達障害に加えることになりました。

 神経発達障害は知的能力障害,ASD,ADHDなどの発達期に障害特性が明らかになる障害の一群です。発達障害の特性は児童期のみでなく成人期や老年期まで継続します。発達障害の人の人生において児童期よりも,成人期以降のほうがずっと長いのです。発達期に親や周囲の支援を得て適応していた人が,成人期になって就職,結婚,子育てなどの事態に直面することで,多様な精神症状を呈することもしばしば経験します。大人になって初めて精神科を受診する発達障害の人も非常に多くいます。その場合の主訴はASDやADHDの診断基準にあるような症状とは限らず,抑うつや不安や身体化症状のことも多いと思われます。神経発達障害の可能性を想定し,必要なアセスメントを行うことで治療方針を立てる上で助けになることもあるでしょう。最近では高齢期の発達障害も重要なテーマであり,認知症との合併や鑑別も必要になってきました。

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抄録 DSM-5とICD-11が,共通する特性を持った生来性の脳機能障害とし「神経発達障害」と新たに定義した。わが国では発達障害者支援法の改正に伴い,社会的障壁の除去や成人期の発達障害の支援が注目されていることを論じた。神経発達障害は生涯にわたる障害であるため,症状の発現は児童期であっても,成人期,老年期まで長期にわたる支援が必要なことがある。最近の大人の発達障害に関する重要テーマは成人期の診断・評価,合併や鑑別を要する精神疾患,壮年期から老年期にかけての身体健康管理や身体合併症の治療,女性の発達障害,成人発症するADHDの可能性などが注目されている。

 本稿では,多様な発達障害概念を整理し,近年の大人の発達障害に関する知見が国際的診断基準にどのように反映されているについて概説した。

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抄録 自閉スペクトラム症(ASD)と統合失調症は以前からその鑑別,併存を巡って議論が続けられてきた。特にASDと統合失調症の誤診に関しては,発達障害概念の変化とともにあらためて見直されている。症候学的検討や病歴の再確認のみならず,生物学的な所見も参考になるが,現状では生活歴の見直しを含めた縦断的な評価と,横断的な評価のバランスが重要と考える。ARMSもASDの二次障害と同様,多様な病状を呈する診断概念であり,直接的な比較研究などはまだ乏しいため,今後研究や検討が望まれる。

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抄録 近年,一般精神科医療において,抑うつや不安などの精神症状の背景に,発達障害の特性が明らかになることも少なくない。成人期の発達障害を診る上での難しさは,まず発達歴や行動特性の情報をいかに得るかだと思われる。加えて,精神症状の併存やそれらと発達特性の類似が,より状態像を掴みにくくしている。だからこそ,発達障害の可能性が疑われる場合には基本に立ち返り,丁寧に詳細な情報を拾い上げる中で,意味のある所見に気付けるように,普段から発達特性の整理をしておくべきであろう。認知の特徴や行動特性を評価することで,特性を配慮した適切な援助へと繋がっていく。そのため,一般精神科医療においても,発達障害に関する評価・診断を適切に行い,支援技術に関しての正しい知識を身に付けることが求められている。

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抄録 女児および女性のASDについて文献的に検討するときには,その対象の年齢や知的水準によって男女比が異なることや,ASDの表現型や特徴が変化することに留意が必要となる。自閉症有病率の男女差は,知的に重度になるほど小さくなり,知的に重度の自閉症の女児の一群が,ごく少数ではあるが存在する。一方,成人期に高機能ASDと診断される,“カモフラージュ”によって特性の目立たない,しかし負荷が内在化しうつや不安を効率に合併する女性(および男性)たちが注目されるようになってきた。ASD者は医療ニーズが高く,ASD者へのさまざまな支援や介入が望まれる。成人期のASDの生活支援において,女性では友人などのインフォーマルなサポートの重要性が指摘されている。慢性疼痛などの訴えのあるときに,発達障害の背景を検討することは,治療プランに利する可能性があるかもしれない。

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抄録 発達障害はその特性が生涯続くものであることから,ロングライフ・ディスオーダーとして捉えるべきであるという考え方が提唱されている。このことは,青年期や成人期だけでなく壮年期や老年期においても,発達特性により顕在化した問題に対し積極的に評価をした上で,治療や支援をしていくことが重要であることを示唆している。このような背景の中,認知症専門外来を受診する患者の中に一定の割合で発達障害を疑うケースが存在することも報告されてきている。そこで,本稿では主に自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)と行動異常型前頭側頭型認知症(behavioral variant frontotemporal dementia:bvFTD)を中心に症例を提示しながら両者の鑑別について概説を試みる。

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抄録 成人期の自閉スペクトラム症(ASD)および注意欠如・多動症(ADHD)のアセスメントについて概観し,近年の研究動向をまとめ,臨床場面での使い方について考察した。成人期のASDにスクリーニング目的で使用できる尺度には,自閉症スペクトラム指数(AQ),対人応答性尺度第2版(SRS2),親面接式自閉スペクトラム症評定尺度テキスト改訂版(PARS-TR)がある。診断・評価目的で使用するためには,自閉症診断面接尺度改訂版(ADI-R)およびThe Diagnostic Interview for Social and Communication Disorders-Eleven Edition(DISCO-11),自閉症診断観察尺度第2版(ADOS-2),小児自閉症評定尺度第2版(CARS2)がある。成人期のADHDに使用できる尺度には成人期のADHD自己記入式症状チェックリスト(ASRS-v1.1),コナーズの成人期のADHD評価尺度(CAARS),Conners' Adult ADHD Diagnostic Interview for DSM-Ⅳ(CAADID),成人用ADHD診断面接(DIVA)がある。成人期のASDおよびADHDは,他の発達障害や精神疾患の併存が多いため,包括的な検査バッテリーを組む必要がある。

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抄録 大人の発達障害,特に成人になってから自閉スペクトラム症(ASD)を疑われた事例への対応を述べた。ASD診断の告知は治療の一部と考えて,「ASDである/ない」はなく,ASD傾向の強さを伝えるべきである。治療では生活を振り返って治療者とともに対応を考え,また学校や産業医と連携することが重要である。診断のための入院,デイケアやリワークは,事例ごとの特性が軽視されて目標が設定されると,かえって抑うつ感が強まることがある。成人になってからASDやADHDを疑われた事例に対する対応はすべての精神科医が身に付けるべきであり,専門家に紹介するという考え方では他の精神疾患の診療も不十分になりやすい。

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抄録 成人期発達障害者の生活実態と障害保健福祉分野の支援施策との関係について整理を試みた。発達障害者支援法の施行前後は,常用雇用に結びつかない若者が大きな社会的課題であった。当初,成人期発達障害者支援の中心は就労支援であった。ただし,社会的連帯を理念とする障害者雇用促進制度が急激に社会に浸透し,多くの発達障害者は,障害者枠で雇用を獲得するようになり,職業生活以外についても相談支援を受ける仕組みが整ってきている。最近の発達障害者支援センターでは,障害者雇用や障害保健福祉施策に対する関心が薄く,確定診断を求める相談者が増えている。このような相談事例は,潜在的にどのような障害保健福祉の支援が必要であるか,十分把握できていない。一方,強度行動障害やひきこもりなど,障害保健福祉分野で長く解決できていない課題について,発達障害をキーワードに体制整備が図られている。

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抄録 2016年の発達障害者支援法改正では,2005年の施行後に発達障害者支援のニーズが広がってきたことをふまえ,「個々の発達障害者の性別,年齢,障害の状態及び生活の実態に応じて」という観点を,第2条の2(基本理念),第11条(地域での生活支援)に追加している。この法改正後には,発達障害者支援センターを中心にさまざまな分野でも成人期や高齢期の支援ニーズが高まり,支援の専門職ではない交通機関や商業施設などの独自の配慮,当事者同士の情報交換も盛んになっている。特別の分野だけが背負うのではなく,社会全体が障壁の除去に向けて少しずつ変化していくために,今後どのような施策が必要か,本稿を参考にしていただければありがたい。

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抄録 心身の不調による生産性の低下(プレゼンティズム)は精神医学および産業医学上の課題である。勤労者2,905名を対象として,職業性ストレス簡易調査票(ストレスチェック)の諸項目とプレゼンティズムとの関連を横断的に検討した。プレゼンティズムによる生産性低下の平均は5.5%であり,高ストレス群では9.7%であった。ストレスチェックの諸変数は直接および間接的にプレゼンティズムと関連し,プレゼンティズムの30.5%, GDP換算で1人あたり13.4万円の経済的損失を説明した。ストレス反応の中では活気のなさ,不安感,抑うつ感が強くプレゼンティズムと関連していた。職域のストレスマネジメントは労働生産性を大きく向上させる可能性がある。

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抄録 本邦では,成人のASDやADHDの評価にWAISを用いることが多いが,ASDやADHDの評価目的に作成された検査ではないため,WAISのIQ,群指数,評価点などのプロフィール以外,これらの診断や支援に有益な行動や検査時の反応抽出は,検査者の独断で実施されてきた。本研究では,WAIS検査時の行動や反応に基づいてASD,ADHDの特性を評価するチェックシートを作成することを目的とし,最初に40項目の予備的行動チェックシートを作成した。その後,48名を対象に予備的チェックシートを用いてWAISを実施後,解析を行い,最終的に10項目(ASD因子5項目,ADHD因子5項目)の「WAIS用行動チェックシート」が作成され,信頼性,妥当性が確認された。

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抄録 愛媛大学医学部附属病院は2015年4月に子どものこころセンターを開設した。本調査では,開設後2年間の初診患者の動向を明らかにすることを目的に,後方視的に調査を行った。初診患者は1〜15歳の292例(男性192例,女性100例)であった。約9割が紹介受診であり,最も多い紹介元は院外の小児科(49.7%)であった。ICD-10に基づいて行った診断では,F8が最も多く(43.6%),F4,F9と続いた。2017年3月現在の転帰は,治療継続中が150例(51.4%)で,その3/4が発達障害圏の患者であった。センター化したことで,初診患者数が増加し,低年齢化した。また,小児科からの紹介が増加し,発達障害圏を中心に患者が集約されていた。しかし,地域と当センターの連携の不十分さなどの課題も明らかとなり,今後のセンターのあり方について模索中である。

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精神医学
62巻7号 (2020年7月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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