精神医学 59巻7号 (2017年7月)

特集 MRIのT2・FLAIR画像での白質高信号の意味を読み解く

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 MRIのT2やFLAIR画像での微細な深部白質高信号は血管性認知症などで高頻度に出現するものの,健常な中高年者でも年齢依存的に比較的高頻度で認められるため,精神疾患の病態生理や治療との関連はあまり注目されてはこなかったが,高齢のうつ病に高頻度でこの白質高信号が認められたという1988年のKrishnanら4)の報告があり,わが国では1993年のFujikawaら2)の報告によって,この現象がうつ病の症状や病態とどうかかわるのかという興味が持たれるようになった。しかし,その後,Alexopoulosら1)が脳卒中後うつ病とMRIでの白質高信号を有するうつ病(神経症状を呈することのない微小脳梗塞性うつ病)とを一つの疾患群として「血管性うつ病:vascular depression」の概念を提唱したことにより,MRIでの白質高信号を有するうつ病が脳器質性感情障害の範疇で論じられるようになり,いわゆる内因性のうつ病とは異なる疾患群と捉えられるようになって,うつ病研究の主流から外れるかの様相を呈する弊害を生んできた感がある。

 双極性感情障害や反復性うつ病は20〜30歳台の若年成人に初発することが多いが,大部分の単極性うつ病は中高年初発であり,しかも女性に多いという性差のある疾患群であって,この中には高率に白質高信号を有する一群が存在することになるので,うつ病研究の主要なテーマの一つであったはずであるが,そうはならなかった。我々は前頭葉白質高信号が中高年うつ病の発症脆弱性となってはいないかという仮説に基づいて研究に着手し,この仮説の妥当性を示す予備的な成果を得て報告してきたが8),大規模な調査での成果はまだこれからである。ただ,この仮説が証明されると,今,健常者であっても,将来,うつ病を発症するリスクを負うことになり,従来の大規模なうつ病の遺伝子研究での正常対照の選択が誤っていたことになるので,その採択基準の変更を迫られることになるとともに,この白質高信号を修復できればうつ病の発症予防,再発予防に繋がることを示唆しているといえる。

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はじめに

 MRIのT2強調像やFLAIR像での大脳白質高信号は神経・精神疾患において認めることが多いが,中高年の健常者においてもしばしばみられる。その白質高信号の放射線学的鑑別においては,まず,日常よく遭遇する陳旧性ラクナ梗塞,拡大した血管周囲腔をMRIで区別する必要がある。中高年の健常者にみられる白質T2高信号病変は以前は病的意義が少ない加齢性変化などとされていたが,現在は脳機能に影響する異常所見と考えられている。また,健常者にみられる大脳白質病変に類似するMRI所見を呈する神経・精神疾患としてはさまざまなもの(脱髄性疾患,遺伝性疾患,感染性疾患,自己免疫性疾患,腫瘍性疾患,中毒性疾患)がある。本稿では放射線科的にみた白質病変のアプローチ,および白質病変を呈する代表的な神経・精神疾患について簡潔に解説する。

白質高信号の神経病理 池田 研二
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はじめに

 MRIで白質の高信号を来す疾患は脱髄疾患,代謝異常症や中毒性疾患ほか多々あるが,ここでは高齢者にみられる非特異的な白質高信号(white matter hyperintensities;WMH)の神経病理について述べる。その促進因子は加齢と高血圧であり,糖尿病,高脂血症や喫煙なども関与するとされている。認知症ほかうつ病,パーキンソニズムなどの危険因子であることに加えて,アルツハイマー型認知症(Alzheimer-type dementia;ATD)では頻度が高く両者の病因的な関連性が示唆されている。

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はじめに

 脳画像技術の著しい発展により,精神疾患における脳画像研究が盛んになっている。とりわけmagnetic resonance(MR)装置を用いた脳画像研究に関する報告数は飛躍的に増え,疾患における特徴的な変化も報告されるようになってきている。うつ病ではT2強調画像において高信号を示す脳領域の存在が指摘されており,特に,高齢初発のうつ病では,脳室周囲や前頭葉深部白質領域において,有意にその頻度が高く発現していることが分かってきている。また,これらの白質領域の変化が多ければ多いほど治療抵抗性となることも報告されている。近年では,精神疾患における白質の微細な構造変化を評価するためにdiffusion tensor image(DTI)を用いた解析が主流になってきており,うつ病に関しても,これまでにさまざまな報告がされてきている。本稿では,高齢うつ病におけるT2強調画像・深部白質領域の高信号の臨床的意義,DTI研究の意義と成果,今後の画像研究の展望について概括する。

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はじめに

 厚生労働省が2016年12月に発表した2015年度人口動態統計によると,女性の死因のうち“アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)”がはじめて上位10位に入り,“血管性および詳細不明の認知症”とともに死因の上位を占めるようになってきたことで,ADを含む認知症が単なる知的機能の低下ではなく,死亡率の高い全身疾患として認識されつつある。現在,欧米では認知症の罹患率が減少しているという報告もあるが,高齢化率が進んでいるわが国では,今後もしばらくは高齢者認知症患者数の増加が見込まれている。

 当院神経内科に受診し,認知機能低下が疑われた患者1,554人の疾患別による内訳は,ADが62%,軽度認知機能障害(mild cognitive impairment;MCI)が12%,血管性認知症(vascular dementia;VaD)が9%,パーキンソン病に伴う認知症(Parkinson's disease with dementia;PDD)・レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)が6%であり,特に後期高齢者である75歳以上では,AD 69%,MCIと合わせて80%を占め10),今後人口の高齢化とともにADやMCIが増加することが予想される。本稿では,高齢化とともに患者数が増加するであろうADやMCI,また神経変性疾患の代表的疾患であるPDにおける認知機能や情動機能と白質病変との関連について,さらに血管性リスクファクターの一つである糖尿病における白質病変を中心に述べる。

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はじめに

 日本脳ドック学会による規定5)では,大脳白質病変は脳室周囲病変と深部皮質下白質病変に分けられる。大脳白質病変は,T2強調画像やプロトン密度強調画像で淡い高信号病変を呈する一方,FLAIR画像では明瞭な高信号を呈し,脱髄変化を反映していると考えられている。前頭葉深部皮質下白質の高信号は中高年初発うつ病の12),大脳深部白質や脳室周囲の白質の高信号は認知障害の1),それぞれ発症リスクであると考えられている。大脳白質病変は他に歩行障害などとも関連性が示されている6)。また大脳白質病変は経過とともに進行する例が多く,改善することはないとされている10)。この脱髄変化に対して有効な治療法が開発されれば,中高年初発うつ病,認知障害,歩行障害の予防法や治療法の開発に繋がる可能性が考えられる。

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 来たる2018年はわが国の精神医学の建立者,呉 秀三先生(1865〜1932.以下,呉)が1910年から1916年まで,東京帝国大学精神病学教室員を総動員して1府14県364室に及ぶ私宅監置の現況調査結果を発表してから100年目を迎える。そこで呉が記した情熱溢れる文章は当時より近年のほうが有名であるが,ここではその一部を記す。「・・被監置者ノ運命ハ実ニ憐ムベク又悲シムベキモノナリ。・・実ニ囚人以下ノ冷遇ヲ受ルモノト謂ウベシ。・・今此状況ヲ以テ之ヲ欧米文明国ノ精神病者ニ対スル国家・公共ノ制度・施設ノ整頓・完備セルニ此スレバ,実ニ霄壌月鼈の懸隔相異トイワザルベカラズ。我邦十何万ノ精神病者ハ実ニ此病ヲ受ケタルノ不幸ノ外ニ,此邦ニ生レタルノ不幸ヲ重ヌルモノト云フベシ。精神病者ノ救済・保護ハ実ニ人道問題ニシテ,我邦目下ノ急務ト謂ハザルベカラズ」2)。「・・不幸ヲ重ヌル・・」の文言が近年は“二重の不幸”と称されて,精神医療・精神保健運動のスローガンとして広く知られるようになった。

 2018年3月3日東京有楽町のマリオンで,呉の顕彰も兼ねて「“二重の不幸”から100年—我が国の精神医療のたどった道とこれから」と題する記念フォーラムを日本精神衛生会が主催して行う予定である。本稿ではあらためて知る呉の人間性の偉大さと患者愛について述べたい。

論文公募のお知らせ

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「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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抄録

 信頼できる情報提供者にNeuropsychiatric Inventory(NPI)を施行したアルツハイマー病(AD)442症例を対象として,NPIで評価した興奮および易刺激性の有無と関係する要因を検討した。興奮あり群で男性の割合が高かった。易刺激性あり群で教育年数が有意に長く,ApoE4を有する患者の割合が高かった。興奮を有する患者で男性の割合が高かったことには,高齢男性患者は指示や誘導に慣れていないという心理・社会的要因が影響している可能性がある。易刺激性を有する患者で教育年数が長いという結果は,病前の知的レベルの高さが自身の障害への葛藤を大きくする傾向と関係しているのかもしれない。一方,易刺激性を有する患者でApoE4の頻度が高いという結果からは,易刺激性に何らかの生物学的要因が存在する可能性が考えられる。

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抄録

 幻肢は切断後に失った四肢が存在するような異常感覚を指し,幻肢痛は切断した四肢に相当する部位に痛みが出現する病態である。透析中の60歳台の男性が,閉塞性動脈硬化症のため右大腿切断術を施行された。その直後から「無いはずの右足に激痛を感じる」と訴え,非ステロイド性抗炎症薬を投与されたが効果が乏しいため,carbamazepine(CBZ)を投与したところ,幻肢痛に著効した。その後CBZを中断すると幻肢痛が再燃し,再開すると消失することが繰り返され,CBZの効果が再現された。本症例は,レストレスレッグス症候群および左の橋梗塞の既往があることから,幻肢・幻肢痛の発症およびCBZの効果に中枢性の機序が関与する可能性が示唆された。

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はじめに

 加齢はさまざまな疾患の危険因子となるが,精神科領域にもせん妄や認知症など加齢が危険因子となる疾患が存在する。超高齢社会が現実となった現在においては,これらの疾患は日常的に遭遇するものであり,その対応にあたる機会は今後も増加するものと思われる。特にせん妄は複数の因子が関連することが多いため13),複数の疾患を合併し多種の薬剤を内服する高齢者では,原因検索のためにも幅広い知識が必要となる。近年では急性期病院での高齢患者に対するリエゾン精神医学の重要性も示されており11),精神科医が身体疾患・薬剤の知識を身につけることは急務とも言える。

 今回我々は市販の止瀉薬の過量内服からせん妄を呈した高齢患者を経験したため,ここに報告する。なお症例の記載に際しては,匿名性に配慮し若干の変更を加えている。

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(第59巻6号606頁より続く)

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 著者,青木省三先生の日々の診療の姿が目に浮かぶ本である。さまざまな知恵や工夫が語られているけれども,それを知識として覚えるよりも,その姿を思い浮かべながら,つまり,診療に陪席しているつもりで読んでいくとよい。陪席しているかのように読み進められる希有な診療の書である。

 症例が数多く出てきて,その多くが「症例→仮説→対応→ポイント」というかたちで語られている。「症例」を読んだところでいったん本を置いて,自分ならどんな仮説を持ちどう対応するだろうかと考えてから(できればメモしておいて)先を読むことをお薦めしたい。臨床家として力を伸ばすのに役立つし,著者青木先生の診療への理解も深まるだろう。陪席とは“見学”することではなく“参加”することである。これはそのように参加的に読むべき(それができる)本であり,著者の読者への願いもそこにあると思う。参加的に読めば,ここにあるのはマニュアル的なノウハウではなく,個々の患者や状況へのその都度の理解から生み出される配慮や工夫であることがよくわかる。

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次号予告

編集後記
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 巻頭言において呉秀三先生の有名な「二重の不幸」にまつわる興味深いエピソードが広瀬氏によって取り上げられ,呉先生はまさに“日本のピネル”という言葉に相応しい人柄と行動力の持ち主であったことをあらためて教えられました。

 個人的なことですが,私は医学部学生の臨床実習オリエンテーションの際に,毎回この二重の不幸の一文を記したスライドを見せて,歴史的な背景を含めて呉先生が何を語ろうとしたのかを学生に想像してもらっています。そして,精神医療の実情を100年前の二重の不幸と対比させて,現代の日本における精神医療の「二重の不幸」を,特に精神障害への偏見の問題を中心に学生たちに話しています。さらに,精神分裂病から統合失調症への病名変更の意味と問題点は何か,精神保健福祉法はなぜあるのか,心神喪失者等医療観察法の意義は何か,障害者差別解消法や障害者雇用促進法の現実はどうか,日本では欧米とは異なる精神医療がなぜ展開しているのか,長寿国日本は先進国の中でなぜ高い自殺率を示すのか,などの問題を彼らに投げかけてみます。

基本情報

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精神医学
59巻7号 (2017年7月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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