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MRIのT2やFLAIR画像での微細な深部白質高信号は血管性認知症などで高頻度に出現するものの,健常な中高年者でも年齢依存的に比較的高頻度で認められるため,精神疾患の病態生理や治療との関連はあまり注目されてはこなかったが,高齢のうつ病に高頻度でこの白質高信号が認められたという1988年のKrishnanら4)の報告があり,わが国では1993年のFujikawaら2)の報告によって,この現象がうつ病の症状や病態とどうかかわるのかという興味が持たれるようになった。しかし,その後,Alexopoulosら1)が脳卒中後うつ病とMRIでの白質高信号を有するうつ病(神経症状を呈することのない微小脳梗塞性うつ病)とを一つの疾患群として「血管性うつ病:vascular depression」の概念を提唱したことにより,MRIでの白質高信号を有するうつ病が脳器質性感情障害の範疇で論じられるようになり,いわゆる内因性のうつ病とは異なる疾患群と捉えられるようになって,うつ病研究の主流から外れるかの様相を呈する弊害を生んできた感がある。
双極性感情障害や反復性うつ病は20〜30歳台の若年成人に初発することが多いが,大部分の単極性うつ病は中高年初発であり,しかも女性に多いという性差のある疾患群であって,この中には高率に白質高信号を有する一群が存在することになるので,うつ病研究の主要なテーマの一つであったはずであるが,そうはならなかった。我々は前頭葉白質高信号が中高年うつ病の発症脆弱性となってはいないかという仮説に基づいて研究に着手し,この仮説の妥当性を示す予備的な成果を得て報告してきたが8),大規模な調査での成果はまだこれからである。ただ,この仮説が証明されると,今,健常者であっても,将来,うつ病を発症するリスクを負うことになり,従来の大規模なうつ病の遺伝子研究での正常対照の選択が誤っていたことになるので,その採択基準の変更を迫られることになるとともに,この白質高信号を修復できればうつ病の発症予防,再発予防に繋がることを示唆しているといえる。
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