巻頭言
“二重の不幸”から100年—呉 秀三先生の患者愛に学ぶ
広瀬 徹也
1
1神経科土田病院
pp.614-615
発行日 2017年7月15日
Published Date 2017/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205415
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来たる2018年はわが国の精神医学の建立者,呉 秀三先生(1865〜1932.以下,呉)が1910年から1916年まで,東京帝国大学精神病学教室員を総動員して1府14県364室に及ぶ私宅監置の現況調査結果を発表してから100年目を迎える。そこで呉が記した情熱溢れる文章は当時より近年のほうが有名であるが,ここではその一部を記す。「・・被監置者ノ運命ハ実ニ憐ムベク又悲シムベキモノナリ。・・実ニ囚人以下ノ冷遇ヲ受ルモノト謂ウベシ。・・今此状況ヲ以テ之ヲ欧米文明国ノ精神病者ニ対スル国家・公共ノ制度・施設ノ整頓・完備セルニ此スレバ,実ニ霄壌月鼈の懸隔相異トイワザルベカラズ。我邦十何万ノ精神病者ハ実ニ此病ヲ受ケタルノ不幸ノ外ニ,此邦ニ生レタルノ不幸ヲ重ヌルモノト云フベシ。精神病者ノ救済・保護ハ実ニ人道問題ニシテ,我邦目下ノ急務ト謂ハザルベカラズ」2)。「・・不幸ヲ重ヌル・・」の文言が近年は“二重の不幸”と称されて,精神医療・精神保健運動のスローガンとして広く知られるようになった。
2018年3月3日東京有楽町のマリオンで,呉の顕彰も兼ねて「“二重の不幸”から100年—我が国の精神医療のたどった道とこれから」と題する記念フォーラムを日本精神衛生会が主催して行う予定である。本稿ではあらためて知る呉の人間性の偉大さと患者愛について述べたい。
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