精神医学 58巻12号 (2016年12月)

  • 文献概要を表示

身体疾患患者に合併する精神障害

 2011年,それまでの4疾病(がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病)と並んで,精神疾患が医療政策の重要な対象となり,国民に広くかかわるものとして明確に位置付けられた。ところで,これら4疾病には,うつ病を代表とした精神疾患が高頻度に合併する。たとえば,心筋梗塞患者の15〜20%に大うつ病が合併する。さらに,うつ病は患者のQOLを低下させ,身体疾患の危険因子となり,その予後を悪化させることが高いエビデンスをもって実証されている2)。世界疾病負担の指標である障害調整生命年(disability-adjusted life year;DALY)に照らせば,うつ病が他の疾患に合併すると,心身共に重症となり,障害による健康のロスが大きくなり,さらには寿命のロスも加わることになる。したがって,メンタルヘルスへの介入はこのいずれをも改善させることが期待される。

 しかし課題は大きい。第一に,これらの患者のほとんどが精神科医療にアクセスしていないということ(ただし,これらの患者がすべて精神科に押し寄せたら精神科医療はパンクしてしまう)。第二に,これらの患者が従来の精神科治療を受けたとしても,適切な効果が上がるとは言えないこと。身体疾患に伴ううつ病に対して標準的な治療を行っても,その効果は決して十分ではなく,ましてや身体疾患の予後改善には繋がらない2)。うつ症状が改善してもセルフケア行動は改善しないという報告も少なくない。餅は餅屋といった発想で,循環器疾患は循環器医,精神疾患は精神科医というような分断した医療は必ずしも有効ではない,ということだ。

  • 文献概要を表示

抄録

 本研究では,神経発達症や社交不安症などの診断を受けて児童精神科を受診している子どもの養育者を対象に自由記述式の予備調査を行い,育児ストレスエピソードを収集した。収集した記述について項目分析と因子分析を行ったところ,5因子24項目が抽出された。5つの因子についてCronbachのα係数を算出したところ,高い信頼性が確認された。また,作成した育児ストレス尺度の各因子得点とPOMS短縮版のTMD得点および育児スタイル尺度の各因子得点について,Pearsonの積率相関係数を算出した結果,すべての因子間で有意な正の相関関係にあることが確認され,育児ストレス尺度(PSS-CP)の妥当性も確認された。

  • 文献概要を表示

抄録

 原発性脳腫瘍は人口1万人につき年間1.5人程の低い発生頻度で,髄膜腫はその約3割を占める。特に髄膜腫は発育が緩徐で,脳実質外に局在するため,神経学的兆候に乏しく,精神症状のみで精神科を受診することが稀にみられ,配慮すべき鑑別疾患の一つとして挙げられる。大脳鎌天幕部髄膜腫に伴い精神病性うつ病を呈した66歳女性例の治療経験を報告する。一般に脳腫瘍の際,抗うつ薬治療の効果は乏しく,てんかんの惹起やせん妄を含めた意識障害の悪化などが危惧されるため使用を控える傾向にある。本症例はclomipramineの静脈投与とsulpirideを併用し,抗うつ薬治療が奏効した。脳腫瘍に合併する感情障害,うつ病の治療に関しては,未だ確立されているとは言い難く,報告や研究は本邦では少ない。脳腫瘍に伴う抑うつ症状の診断と治療の参考になると思われ,文献的考察を加えた。

  • 文献概要を表示

抄録

 本研究の目的は,初の国産ギャンブリング障害尺度であるパチンコ・パチスロ遊技障害尺度(PPDS)の短縮版を開発することである。項目と,因子の合計得点との相関などを用いて原版から少数の項目を抽出し,3つの候補となる項目群(3,4,6項目版)を得た。次いで,それらの項目群の信頼性・妥当性を比較検討し,6項目版を採択した。また,その6項目版の性能を評価するため,原版の信頼性・妥当性との比較を行ったところ,短縮版は合計得点においてのみ原版の代替となり得ることが示された。この短縮版が原版とともにさまざまな場面で活用されることで,日本の障害対策が進展することが期待される。

  • 文献概要を表示

抄録

 初診時86歳の男性。84歳時より妻に対するカプグラ症状や幻の同居人が出現した。認知機能障害を認めたが比較的良好なADLである一方,誤認が活発であったことから,レビー小体型認知症(DLB)を疑った。認知機能の変動も認め,ドパミントランスポーターシンチグラフィで両側線条体への集積は低下しており,probable DLBと診断した。DLBの臨床症状や経過は多様であり,現行の診断基準を踏まえつつも,誤認等のDLBらしさに注目して診療にあたることが大切である。

  • 文献概要を表示

抄録

 本研究では,2014〜2015年の2年間で,新潟いのちの電話が受信した計38,320件の相談電話記録の分析をもとに,電話相談利用者の心理社会的特徴と臨床類型を探索的に明らかにした。本研究の結果,利用者の4.8%に過去の自殺企図歴が認められ,その中には精神保健的問題を抱えている者が数多く存在することが示唆された。また,相談記録情報をもとに多重対応分析とクラスター分析を用いて利用者の分類を行ったところ,いのちの電話利用者は「自殺ハイリスク群」,「高齢女性群」,「壮年男性群」,「若年群」,「特徴不明群」の5類型に分類された。抽出された各類型の相談ニーズを踏まえ,今後のわが国の自殺予防対策のあり方についても考察を行った。

  • 文献概要を表示

抄録

 大部分の向精神薬には添付文書上運転「禁止」規定があるため,患者が治療と運転の両立を望む時,処方医には倫理的ジレンマを生じやすい。筆者は,このジレンマを軽減するため,運転制限に関する薬剤情報を正確に提供する院内掲示ポスターを作成した。ポスターでは,大部分の向精神薬が運転「禁止」規定を有すること,および若干の例外があることを示した上,運転「禁止」規定のある薬剤を受け入れ難い場合には治療の早期段階で申し出るよう説明した。

 このポスターには,処方医の説明義務を補完する役割と,患者の自己決定機会を保障する役割の双方を期待することができる。このポスターの利用は,処方医の倫理的ジレンマを軽減するかもしれない。

「精神医学」への手紙

  • 文献概要を表示

 総務省の勧告を受けて,厚生労働省が,2013年5月29日に「添付文書の使用上の注意に自動車運転等の禁止等の記載がある医薬品を処方又は調剤する際は,医師又は薬剤師からの患者に対する注意喚起の説明を徹底させること」といった通知がなされたのは周知のことと思われる。この問題は学会や専門誌で議論となった4,9)。筆者はこれまで,諸外国と比べ,わが国では薬剤情報および患者提供情報は画一的記載が多く,運転などについて厳しい制限を科していることを指摘してきた5,6)。たとえば,わが国のほとんどの向精神薬は,「眠気,注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので,本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること」と判で押したような文言でほぼ統一されている。一方,筆者が調べた限りでは,米国,英国,オーストラリアなどでは,同じ薬剤でも,わが国と比べ,詳細な薬剤情報が提供されている。たとえば「…プラセボと比べて,眠気に関しては,成人では,〇%…プラセボ対照比較試験では,眠気のために,成人の〇%,子どもの〇%が継続中断…患者は危険な機械操作(たとえば,自動車運転)は,〇〇の治療がそれらに悪影響がないことを確認するまで慎重にされるべきである」といったように,エビデンスを踏まえ,運転に著しい制限を科す表現はほとんど用いられていない。

 薬剤情報にこのような問題はあるものの,現状でこの「注意喚起の説明を徹底」を患者に説明するには何に気を付けたら良いのだろうか。いくつかの試みもみられる3,8)が,少なくとも,患者向けにつくられた薬剤情報にあるように「眠気,注意力・集中力・反射能力などの低下が起こることがあるので,自動車の運転などの危険を伴う機械の操作は行わないようにしてください」とそのまま提示するやり方は議論の余地はない。なぜなら,それは患者に対して自動車などの運転に関して一部の情報提供しかしていないからである。少なくとも以下のような点は追加情報として検討すべきだろう。

  • 文献概要を表示

 本書はDonald W. BlackとJon E. Grantによる“DSM-5® Guidebook”の全訳であり,数あるDSM-5解説書の中でもAmerican Psychiatric Association(APA)が出版した本家本元の“公式ガイドブック”である。

 1990年代以降,科学は目覚ましい発展を遂げ,さまざまな技術革新が多くの生命現象を可視化することに成功した。精神医学もその恩恵を受け,分子生物学や神経画像,疫学研究によるデータの蓄積が新たな知見と洞察を生み,なおも発展を続けている。ことに臨床研究においては,DSMによる疾病分類が果たしてきた役割は計り知れない。2013年5月,APAはおよそ20年の時を経てDSMを全面改訂し,DSM-5を世に送り出した。DSM-5では作成の基本指針に「DSM-Ⅳ出版以来蓄積されたエビデンスを,変更を行う指針として用いる」という項目が含まれており,これまでの研究成果により提唱,あるいは変革された新たな疾病概念が反映されている。本書の冒頭は「科学とは経験を体系的に分類することである」というイギリスの哲学者George Henry Lewesの言葉の引用に始まり,「新しい知識に応じて精神疾患の分類——そして,その診断基準——は進化していかなければならない」という一文で締めくくられており(「はじめに」より),このガイドブックを記した筆者のDSMに対する考えと科学的姿勢が示されている。

  • 文献概要を表示

 一言で言えば,素晴らしい書である! 国際的にも活躍中で著名な各分野のリーダーである5人の編集者〔兼本浩祐氏(精神医学),丸栄一氏(基礎医学),小国弘量氏(小児神経学),池田昭夫氏(神経内科学),川合謙介氏(脳神経外科学)〕による,臨床現場で役立つてんかんの百科事典のような本である。数多くの執筆者は,熱烈なてんかん学探究者であり,それぞれの分野で眼を輝かせながらそれぞれの視点でてんかんの真実に迫ろうと日々切磋琢磨しておられる。本文653頁,英文索引6頁,和文索引11頁,図228点 表116点より成る。

 「第1章 歴史的展望」では欧米,日本,分類,外科治療の歴史が,「第2章 てんかんの疫学」では疫学調査の方法,成績,今後の方向が,「第3章 てんかんの病理学」では,海馬硬化,大脳異形成,てんかん原性脳腫瘍や周産期脳障害,脳動静脈奇形,海綿状血管腫など脳血管障害や先天代謝異常症が美しいカラーの図で説明されている。

学会告知板

論文公募のお知らせ

  • 文献概要を表示

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

--------------------

今月の書籍

次号予告

編集後記
  • 文献概要を表示

 巻頭言において「精神科リエゾンチーム加算」と「公認心理師法」,そして総合病院精神科の役割が取り上げられている。さらに本号の「研究と報告」,「資料」を見ても分かるように,近年,精神医療において患者・家族はもとより多職種の人々の視点の重要性を扱った論文が,本誌において非常に増えている印象がある。医療スタッフや医療施設の機能分化や専門化に伴う当然の変化と思われる。

 医療の機能分野や多職種チーム医療をより早くから推進してきた英国の例を知ることは,わが国のこの領域の発展を考えていく上で重要な参考資料となる。英国では,一次医療全般を家庭医が担い,二次精神医療を危機介入,早期介入,訪問治療にそれぞれ特化した多職種チームが担い,三次精神医療を精神科急性期病棟と司法病棟が担っている。そうした英国において家族会活動が中心となって発展した慈善団体である“Rethink Mental Health”から2012年に“The abandoned illness”と題した統合失調症の回復促進のための42の提言が発表された。医療関係者に留まらず2,500名からの意見を集約したもので,代表者は英国の精神科医の重鎮であるMurray RM教授(ロンドン大学キングスカレッジ)である。

精神医学 第58巻 総目次

KEY WORDS INDEX

基本情報

04881281.58.12.jpg
精神医学
58巻12号 (2016年12月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月25日~12月1日
)