書評
—Black DW,Grant JE 原著,髙橋三郎 監訳,下田和孝,大曽根彰 訳—DSM-5®ガイドブック—診断基準を使いこなすための指針
須田 史朗
1
1自治医科大学・精神医学
pp.1006
発行日 2016年12月15日
Published Date 2016/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205282
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本書はDonald W. BlackとJon E. Grantによる“DSM-5® Guidebook”の全訳であり,数あるDSM-5解説書の中でもAmerican Psychiatric Association(APA)が出版した本家本元の“公式ガイドブック”である。
1990年代以降,科学は目覚ましい発展を遂げ,さまざまな技術革新が多くの生命現象を可視化することに成功した。精神医学もその恩恵を受け,分子生物学や神経画像,疫学研究によるデータの蓄積が新たな知見と洞察を生み,なおも発展を続けている。ことに臨床研究においては,DSMによる疾病分類が果たしてきた役割は計り知れない。2013年5月,APAはおよそ20年の時を経てDSMを全面改訂し,DSM-5を世に送り出した。DSM-5では作成の基本指針に「DSM-Ⅳ出版以来蓄積されたエビデンスを,変更を行う指針として用いる」という項目が含まれており,これまでの研究成果により提唱,あるいは変革された新たな疾病概念が反映されている。本書の冒頭は「科学とは経験を体系的に分類することである」というイギリスの哲学者George Henry Lewesの言葉の引用に始まり,「新しい知識に応じて精神疾患の分類——そして,その診断基準——は進化していかなければならない」という一文で締めくくられており(「はじめに」より),このガイドブックを記した筆者のDSMに対する考えと科学的姿勢が示されている。
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