精神医学 28巻10号 (1986年10月)

巻頭言

卒後研修に望むこと 大原 健士郎
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 小学生の頃に,大きな植木鉢でカボチャを栽培したことがある。祖父が農業をしていたので,私は野菜を作ったり,草花の手入れをすることがとても好きだった。私は毎日,鉢にたっぷりと水や肥料を与え,カボチャの実が育つのを待った。カボチャの苗は大きく育ち,屋根の上までも茎を伸ばした。そして花が咲き,大きなカボチャが実った。私はしごく満足であった。祖父が畠で作ったカボチャに決して劣らないほど見事な作品であった。ところが,割ってみて驚ろいた。私のカボチャは見かけ倒しで,全く食べられる代物ではなかったのである。この失敗は,いつまでも私の心的外傷として残った。専門家に依頼すれば,恐らく,鉢植えのカボチャでも立派に結実するであろうが,私のような素人では,とてもカボチャは鉢の中ではまともに育たないのである。

 浜松医大に赴任してから,かれこれ10年になるが,毎年数人ずつ入局してくるフレッシュマンを眺めているうちに,教室員がカボチャのようにみえてきた。見かけはまずまずであるが,内容に乏しい者もいるし,見かけは悪くても,味の良い者もいる。見かけも内容も立派なカボチャになってほしいと努力はするが,そのうちに,自分自身も大したカボチャではないことに気づき,栽培の意欲がひるんでしまうこともある。ここでひとつ言えることは,肥沃な畠に種をまいておけば,大した努力をしなくても,カボチャは良い実をつけるが,小さな鉢に種をまいておくと,日夜をわかたず肥料や水を与えても,大した実はつけないということである。私は,教室はまさにカボチャ畠だと思う。できるだけ優秀な人材を揃え,その下にフレッシュマンを配属させ,彼らに活躍の場を与えてやれば,教室は豊かな土壌を備えることになる。とはいうものの,教室員が真の意味でカボチャと異なる点は,教室員というカボチャは,自由に動き,肥料であれ,太陽光線であれ,選択する権利を持っているということである。教室が健全に発展し,教室員が大きく成長してゆくためには,この動くカボチャが自由に選択できるメニューをいくつか用意する必要がある。教室によっては,同種の種を畠にまき,同一条件下で栽培し,色・形・味,すべてが全くよく似たカボチャを量産しているところもある。これは,作る方も,作られる方も型にはまっていて,比較的に容易である。しかし,カボチャを買い求める側にしてみると,いかにも味気ないし,こんなことでは,周囲の多様な需要を十分に満たすことはできない。

展望

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V.現代における単一精神病論

1.単一精神病論の復興とその背景

 ロマン主義時代に発展した単一精神病論は,Griesinger15)によって完成されさらに終結に導かれたということができる。一方,科学としての精神医学の進歩とともに,精神疾患のそれぞれの成因も次第に解明され,精神疾患全体の単一性という考え方は,理論的には成立する根拠を失ったことになる。しかし同時に,成因がまだ解明されないいわゆる「内因性精神病」の領域では,依然として単一論的な思考方式が適用される可能性が残されているとみなすこともできる。この可能性と,Kraepelinの二分法に宿命的につきまとう矛盾が臨床的にしばしば経験されるという実態とが結びついて,「内因性単一精神病」という概念の誕生をみるにいたったものと考えられる。このように,現代の内因性単一精神病論は,歴史の流れの中でロマン主義時代の単一精神病論とのかかわりをもってはいるが,決してたんなる再現ではないことに留意しなければならない。

 すでに述べたように,単一精神病を主題とするかまたはそれに深く関連した総説は,Rennert37,38)およびVliegen49,50)らによってまとめられているが,それらをみると,単一精神病について論ずる場合には,少なくとも精神医学の思想の流れに関与するすべての論説を検討しなければならないことになる。しかしそれはあまりにも繁雑であり,また実際には不可能でもあるので,RennertやVliegenの論述の中で浮び上ってくる,いくつかの重要と思われる所論をとりあげ,それらをつなぎ合せて,現代における内因性単一精神病論の大筋を描くことにする。

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 抄録 入院例313名中,主診断がDSM-Ⅲ診断の,いわゆる機能性精神病患者229名につき,第4軸の頻度分布の第1軸診断別特徴を調べた。

 (1)精神分裂性障害ではストレスなしと評定されるものが多く(64%),大うつ病は中等度以上のストレス(コード4以上)の後に発症するものが多く(63%),双極性感情障害は,ストレスなしと中等度以上のストレスの後に発症するものとが50%ずつで,神経症圏では,軽いストレス(コード2,3)の後に発症する傾向にあった。

 (2)精神分裂性障害の下位分類(病型分類)内では著明な差異がなかった。

 (3)大うつ病の病型分類では単一エピソードよりも反復性でストレスなしのものが多かった。しかし,ストレスの強さは精神症状の重症度に影響を及ぼさなかった。

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 抄録 われわれは先に精神分裂病新鮮例を主な対象として病棟内認知地図検査を行った。今回は陳旧分裂病患者80名を対象に同様な検査を,認知地図を自由に描かせる(自由検査)条件および病棟の外壁を示す枠組み内部に描かせる(制限検査)条件で行った。描画表現の中心によって認知地図をS型(全体中心),SS型(部屋部分中心),R型(廊下部分中心)およびN型(数字で部屋を表現)の4描画型に分類した。自由検査において,SS型の出現率は42.5%で,新鮮例の結果と一致し4描画型のなかで最高であり,描画の断片化現象が分裂病患者の基本的障害のひとつであることを示唆した。自由検査でSS型を示す患者は制限検査においてもSS型のままであることが多かったが,自由検査でR型を示す患者の多くは制限検査でS型に変化した。SS型の患者はS型,R型よりも若年発症であり,自由検査がSS型の患者で制限検査でもSS型のものは,制限検査でS型に変化したものより罹病期間が長かった。またN型の出現数は少ないが,陳旧例に独特な描画型であった。この型の患者は他の3型よりも若年発症だった。このようなSS型,N型と陰性症状や治療抵抗性との対応が考察された。

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 抄録 身体に基礎づけられる精神病の中から進行麻痺を選んで病像変遷を調査した。

 治療と経過が病像に及ぼす影響を排除してもなお,痴呆型の増加と誇大型の減少が認められた。これはMendelら多くの報告と一致する。戦後の一時期,逆行的な現象がみられたが,これは誇大型進行麻痺患者の受診が相対的に高まったためと推察される。

 進行麻痺の病像変遷を分裂病の病像変遷と比較すると,進行麻痺では分裂病の場合と異なり,「時代精神」といったものを反映するような変遷は認められなかった。これは進行麻痺が分裂病に比し,身体因によってより規定される疾病であるからと考えることができる。しかし一方,Treponema pallidumという同一の原因から生じ,疾患単位のモデルとなった進行麻痺にも,時代による病像変遷があることも確かめられた。

 以上の結果について病塑性(Pathoplastique)の観点から考察を試みた。

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 抄録 うつ病の発現における生体リズム障害の関与の有無を探る研究の1つとして,11名の大うつ病者(DSM-Ⅲ)の口内温リズムと臨床重症度を互いに対応させつつ測定した。測定は,入院第1,4週に行ったが,体温測定は連続各3日間行った。体温の結果は最小2乗法により分析したが,全員が有意なサーカディアンリズムを示した。また,臨床症状の重症度と相関して体温リズムの周期が相対的に短縮していることから,このリズムはフリーランしているものと考えられた。この外的脱同調の他に内的脱同調の存在も推定されたが,24時間周期分析における位相自体は臨床症状と相関せず,位相変化のもつ病因的意義は少ないものと考えられた。

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 抄録 症例は56歳の男性で,頭部CT検査にて優位半球後頭葉に脳梗塞と思われる低吸収域が認められた。本例では純粋失読のほかに写字障害,漢字の想起困難,色彩失認,地誌的概念の障害,右半側空間の無視,右同名四半盲,保続などが認められたが,更に特異な味覚錯誤症と嗅覚錯誤症がみられた。近年,純粋失読はdisconnexion theoryによって説明されることが多いが,失認の立場で本例の失読,色彩失認,味覚および嗅覚錯誤症を眺めると微細な範疇化の障害として統合的に理解出来るように思われた。

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 抄録 熱性けいれん(FC)罹病の双生児32組について分析を行った。1)卵性別,組別(pairwise)のFC一致率は1卵性双生児(MZ)56%(10/18),2卵性双生児(DZ)14%(2/14)(P<0.05)であった。2)性別ではMZ男73%o(8/11)〉女29%(2/7),3)発端者別(probandwise)ではMZ 71%(20/28)>DZ 25%(4/16)(p<0.01)であった。4)一般集団3歳児における双生児96組(同性男41,同性女34,異性21)中のFCの頻度は男11%(11/103),女10%(9/89)で,単生児における発生率(男87.9%,女7.5%)とほぼ一致した。5)組別の脳波診断一致率はMZ 100%(18/18),DZ 40%(4/10)(p<0.001)であった。6)FC双生児の組内の臨床症状類似率は同胞例よりも高く,反復回数を除く10項目についてプラスで有意の相関が見出された。とくに外的環境要因,熱発の程度,脳波背景活動異常および発作性異常の4項目は相関係数が+1に近く,遺伝的関与の大きさが示唆された。7)MZ不一致8組で不一致に相当する環境要因は見つからなかった。一致のDZ 2組では,個々の徴候には著しい非類似が見出された。8)1親等近親者に高いFC罹病率が見出された(両親18%,同胞46%)。

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 抄録 52歳の男性で,左中大脳動脈血栓症による右不全片痙性麻痺とジャルゴン失語を有する症例において,脈血栓症発症後1年2カ月ほど経過してから,歩行時に麻痺側の顔面を含む右半身に強直性のけいれん発作(運動覚反射てんかん)が出現するようになった。発作時間は約5〜10秒であり,その際患者は転倒するが,発作の間意識消失は認められず,発作の後歩行障害が一過性に改善するという現象が認められた。この現象は,歩行の度に繰り返し起こり,これらの発作に対して抗けいれん薬や中枢性筋弛緩薬の効果は殆ど認められなかった。

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 抄録 精神症状を呈し,精神医学的治療を必要としたクローン病の3例について報告した。症例1:精神症状が先行,当院内科入院後クローン病と診断され,第3回目入院時には躁状態,幻覚妄想状態,意識障害を呈し死亡した。症例2:初診時,不登校,反抗,攻撃性を示し,思春期適応障害と診断されたが,その後,クローン病と診断,ステロイド等で身体症状が改善し精神症状も病前レベルとなった。症例3:クローン病と診断後,経過中に幻覚妄想状態を呈したが,haloperidolにて改善した。症例1と2は一過性器質精神病,症例3は急性妄想状態と診断した。また,クローン病には心身医学的発生機序を持つ面と症状精神病を出現するという二面性があることについて考察し,身体的治療同様,心理的サボートの必要性について述べた。

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 抄録 1980〜84年に滋賀医科大学附属病院外来を受診した患者の中で,DSM-Ⅲ診断記入のある成人主要6疾患の患者1,779名につき,生まれ月と年齢を調べた。滋賀県人口動態統計から1901〜80年生まれを対照群として,各疾患群毎に月別出生数(O)と,その年齢構成に従って対照群月別出生数から計算した期待値(E)からO/E比を算出しその季節変動を検討した。

 精神分裂病では冬生まれが,大うつ病単一エピソード,大うつ病反復性では夏生まれが多いが,いずれも有意の差はない。双極性障害では1〜3月生まれが多く,神経症群,適応障害,心身症では夏・秋生まれが多く,有意の差を認める。戦前生まれより戦後生まれに頻度のピークが早くなる傾向が,大多数の疾患群で認められた。精神障害の頻度の生まれ月による偏りは,何か周産期に関係した生物学的要因が存在することを示唆している。この他,この問題に関する多数の報告を検討し,提示されている仮説について総説した。

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I.はじめに

 各種抗てんかん薬が記憶機能に及ぼす影響については多くの報告がある。概括するとphenobarbital,phcnytoinにおいては,記憶機能障害が認められ,carbamazepinc(CBZ),sodium valproate(VPA)においては認められないとする報告が多い1,4,6,8)。むしろCBZ,VPAについては,てんかん患者において注意機能或いは学校での成績などに改善を認めたとする報告もある2,5)

 Macleodら3)はphenobarbital(PB)が短期記憶機能に及ぼす影響をSternbergの課題(1966)7)を用いて調べ,PBはてんかん患者の短期記億における比較照合過程を用量依存的に障害し短期記憶検索速度を遅延すると報告した(図1:図中のてんかん群はweek 1では8〜15,week 2では20〜32μg/mlのPBを服用)。

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I.はじめに

 現在までに悪性症候群の治療として,neurolepticsの中止,補液,冷却,解熱剤,抗生剤投与などの全身管理の他,抗パーキンソン剤(抗パ剤)をはじめ,diazepam11),chlorpromazine6),dantrolene1,13)などの薬物投与があげられている。とくに抗パ剤の使用は,悪性症候群の発症機序の1つとして指摘されている中枢性ドーパミン系の異常との関連で注目される。すなわち抗パ剤は抑制されたドーパミン系を回復させることにより,症状改善をもたらす可能性をもつものであり,すでにdopamineの前駆物質であるL-Dopa4,7,8)やdopamine agonistであるbromocriptine12)などの有効例が報告されている。ただしL-Dopaの使用はすべて内服によるものであり,静注あるいは点滴静注を試みた報告はない。

 最近われわれは,肝癌を併発して重篤な疲弊状態に陥った後,幻覚症状と運動不安を呈した慢性アルコール中毒の患者を経験,このため長期投与していた抗うつ剤とbenzodiazepine系薬剤を中止しhaloperidol 3mgを投与したところ,3日後に悪性症候群の発症をみた。これに対しL-Dopaの点滴静注を試み,著明な改善を認めたのでここに報告する。

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I.はじめに

 うつ病患者における甲状腺機能障害については近年多くの報告がなされている。またうつ状態に甲状腺ホルモン剤の治療が試みられている。

 今回われわれは,血中トリヨード・チロニン(T3),血中チロキシン(T4)の低下を認め,甲状腺機能低下症が疑われたが,精査の結果家族性チロキシン結合グロブリン(TBG)欠損症と診断されたうつ病の症例を経験した。TBG欠損症の患者では,T3およびT4の低下をみるが,遊離トリヨード・チロニン(FT3),遊離チロキシン(FT4)および甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値は正常で,甲状腺ホルモン剤の治療は必要ないといわれる。

 うつ病患者に血中甲状腺ホルモンの低下を認める時,TBG欠損症を念頭において治療すべきであると考え報告する。

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 皆さん,前回の講義で,幻覚を伴う被害念慮に悩まされているいくつかの症例を私が解き明したことを思い起こしてください。大部分の症例では被害念慮は誇大念慮を伴っていたことを覚えておられると思います。これらの症例について私は分析的研究を行ったわけです。今回の私の目的は,これらの症例を互いに近縁のものとして捉えるべきであることを皆さんに示し,そして細部では,つまり症状の組合せやその続き方,あるいは転帰に関してはそれぞれ異なる点があるにしても,少なくとも新たな体系ができあがるまではこれらの症例を1つの同一な疾患の異なる様式として考える必要があることを示すことです。この疾患を私は慢性幻覚精神病と呼ぶのが適当であると思います。

 精神医学においては病理学の独立性を確立しようとすることは常に危険を伴います。私がここで提案しているものは,我々が吟味した事実を合理的にまとめる一つの試みにすぎないということを御了承いただきたいと思います。これらの事実を個別に検討した後,ばらばらなものとするか一つにまとめるかを決定する必要が生じてきます。私にはばらばらなものとするよりまとめて考える方が事実により合致していると思われますが,これは皆さんの御賛同を期待したいところです。

動き

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 春たけなわの1986年4月2日より5日まで,The 3rd Scientific Meeting of the Pacific RimCollege of Psychiatristsが東京新宿の京王プラザホテルで東海大精神科・牧田清志教授を会長として開催された。

 環太平洋精神医学会(略称PRCP)は,大平洋沿岸諸国の精神医学及び精神保健についての相互理解と協力関係を促進するとともに,その教育・臨床ならびに研究に関する情報交換や共同研究などを行い,同地域の精神医学者の学術的な交流と医療水準の高揚を目的として設置された学術団体である。

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I.はじめに

 第3回日本家族研究・家族療法学会の前日(昭和61年5月16日)に,学会主催による第1回の本セミナーが,順天堂大学医学部,有山記念講堂(東京・お茶の水)で開催された。

 今回のセミナーのテーマは,「家」と家族療法―『家』,その光と影--であった。

基本情報

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精神医学
28巻10号 (1986年10月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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