臨床検査 65巻7号 (2021年7月)

今月の特集 薬物療法に活用される検査

涌井 昌俊
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 薬物療法には古くから種々の臨床検査が利用されてきました.投薬の対象となる疾患・病態と同様に,検査の目的も多様です.効果・副作用を反映する検査所見,投与量の適正さを反映する血中濃度が広く実臨床で活用されてきました.近年では遺伝子解析技術の進歩によって薬理ゲノム学が創出され,薬物の作用標的分子や代謝経路分子の遺伝子情報に基づく効果・副作用の予測という新たな検査活用が展開されています.これは,個々の臨床特性に立脚した医療の基盤となりつつあります.

 本特集では,古くて新しいテーマである「薬物療法に活用される検査」を取り上げました.薬物療法における検査の意義・役割,それぞれの薬物療法で利用される検査,さらに薬物中毒診療やドーピング診断に利用される検査に関して,第一線で活躍する方々に解説いただきました.薬物を扱う診療における検査の意義・役割をあらためて見直し,さらなる活用の展開を考える一助となると幸いです.

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Point

●薬物療法における効果の予測や副作用の予防・軽減のために,薬物血中濃度,バイオマーカー,遺伝子検査などの臨床検査が用いられている.

●臨床試験では,厳格な治験参加条件に見合う限られた患者が選択されていることから,一部の薬剤では臨床現場において最適な用法・用量の選択を行わなければならない.

●効果的で安全な薬物療法を実践するためには,薬物動態(PK)や薬力学(PD)の理解と臨床検査の活用によるモニタリングが必要である.

●抗がん剤投与をはじめ,多くの薬物療法の主体は外来治療となっていることから,院外における臨床検査値の活用が求められている.

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Point

●感染症診療においてはできるだけ早期に菌が判明し,適切な薬剤が選択できることが望ましい.一番早期に菌の推定に有用なのは患者背景・感染部位であることを忘れてはならない.

●適切な抗菌薬を選択するには菌の同定・薬剤感受性検査が必要である.スクリーニング培地やマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF MS)などの発展によって菌同定までの時間が短縮された.

●菌に対して適切であっても,患者個人に対しても適切かどうかは薬物血中濃度〔特にバンコマイシン(VCM)に関して〕の評価や副作用の出現の有無を追跡することで評価できる.

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Point

●抗がん剤治療を安全に継続するためには肝障害,腎障害,骨髄抑制などの副作用の評価が不可欠である.血液検査などの臨床検査は抗がん剤の有害事象のモニタリングに使用される.

●薬物代謝酵素の遺伝子多型は薬物に対する生体反応を予測できる.その結果に基づいて抗がん剤の用量調節を行う.

●マイクロサテライト不安定性(MSI),ヒト上皮細胞増殖因子受容体2型(HER2),上皮成長因子受容体(EGFR),RAS,BRAFなどのがん遺伝子異常の検査はがんの診断,予後予測,治療決定に有用である.

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Point

●関節リウマチ(RA)治療の第1選択薬であるメトトレキサート(MTX)に関連したリンパ増殖性疾患(LPD,悪性リンパ腫を含む)の発症予測には血中可溶性インターロイキン(IL)-2レセプター(sIL-2R)の測定が有用である.

●アザチオプリンによって全脱毛と重篤な白血球減少をきたす症例が日本人では約1%に存在する.そのリスク因子であるNUDT15の遺伝子多型が保険で検査できるようになった.

●RA患者に対してインフリキシマブ(IFX)有効性の目安はトラフ値=1μg/mLである.レミチェックQによってそのトラフ値推定が可能となった.

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Point

●直接経口抗凝固薬(DOACs)はモニタリングが不要とされているが,必要に応じて血栓予防効果や出血リスク評価,薬物血中濃度などを検討しなくてはならない.

●血友病の補充療法では,因子製剤の違いによって試薬や測定法による差異が生じることを考慮して検査結果を評価する.

●凝固因子インヒビターの評価には,ベセスダ(Bethesda)法のほかに,酵素結合免疫吸着測定(ELISA)法の有用性が示されている.

●血友病Aの治療はエミシズマブの登場によって新たな局面を迎えている.今後も抗体医薬や遺伝子治療などの新規治療法が登場するため,包括的なモニタリングが重要となる.

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Point

●循環器系の薬物のなかで,抗不整脈薬は血中濃度の安全域が狭いことが知られている.血中濃度が低いと不整脈に対する治療効果に乏しくなる一方で,高いと心臓内外の副作用が出やすい.そのなかでも実臨床で多く血中濃度が測定されているのはアミオダロンとジギタリスである.薬物動態の基本事項とともに両薬剤の血中濃度測定の実際について解説する.

●従来,心不全の診断および重症度評価の一指標としてB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)とN末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)が用いられてきた.これまではBNPのほうがより多く用いられていたが,新たな心不全治療薬であるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)の登場により,今後はNT-proBNPを用いる機会が増えると考えられる.そのメカニズムなどについて“番外編”として解説する.

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Point

●薬物血中濃度の測定は抗てんかん薬において特に重要である.“参考域の血中濃度”と“治療域の血中濃度”とは区別して考える必要がある.

●リチウムは過量投与による中毒を起こしやすいため,血中濃度測定が必須である.リチウム濃度を上昇させる要因も頭に入れておく必要がある.

●抗てんかん薬の副作用は,アレルギー機序が関与する急性初期反応,用量依存性の神経系への抑制作用,長期服用時にみられる慢性期の副作用に大別される.

●気分安定薬,抗うつ薬,抗精神病薬には,それぞれ特徴的な副作用プロフィールがあるので,それらを知っておく必要がある.

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Point

●薬物中毒の治療において網羅的な臨床検査の有用性は低い.現病歴や臨床症状から薬物を絞り込んで適切な検査を実施する.

●乱用薬物のスクリーニング検査が実施されることは多いが,診断,治療において必ずしも有用性が高い検査とはいえない.

●血中濃度測定が治療選択に有用な薬物は限定的であるが,臨床現場での遭遇頻度が高いアセトアミノフェン,アスピリンにおいては必須である.

●エタノール血中濃度測定はしばしば実施されるが,必ずしも臨床症状と相関しないため,臨床的意義には乏しい.

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Point

●スポーツにおける世界共通のルールとして世界アンチ・ドーピング規程がある.これに基づいて,尿および血液を用いた検体分析が認定分析機関で行われている.

●規則で禁止されている物質を検出するか,禁止物質を使用したことを証明すれば,規則違反を問うことができる.この過程で臨床検査技術や医学知識が大きく貢献している.

●体外から摂取した内因性物質や半減期の短い禁止物質の検出には,アンチ・ドーピング分析に特有の分析法を組み合わせている.

●継時的な検査データを基に禁止物質の使用を検出しようとする新たな手法も取り入れられるなど,現在もさらに洗練された分析技術の開発が進められている.

認定・資格取得でスキルを磨こう・11

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資格の概要

1.一級遺伝子分析科学認定士資格認定試験の概要

 一級遺伝子分析科学認定士資格認定試験は,遺伝子分析科学分野における専門知識および高度な技術に対応できる遺伝子分析科学技術者の育成を図り,遺伝子分析および遺伝子検査技術の発展・普及を促進することを目的としています.遺伝子分析科学認定士の初級資格取得から5年後の更新時より受験が可能となります.詳細については表11)および公益社団法人日本臨床検査同学院のホームページ(URL:http://clmj.jp/index.html)をご覧ください.

INFORMATION

第42回第2種ME技術実力検定試験

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目次

書評 渡辺 弘之

「検査と技術」7月号のお知らせ

次号予告

あとがき 関谷 紀貴
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 2021年度が始まり,早くも3カ月が経過しました.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応が続くなか,新社会人や職場異動をされた方々も,新しい環境にある程度は慣れてきたのではないかと思います.一方で,同僚や上司とゆっくり話をすることが難しい状況が続いており,いまひとつ職場に馴染めないという方もいらっしゃるかもしれません.

 私は感染対策が仕事の1つですが,COVID-19は対策のほころびを見逃してくれない,難しい感染症です.ワクチン接種は大きな福音となりますが,十分に行き渡るまでに時間がかかりそうなので,まだまだ基本的な感染対策が重要になります.このようななかで,職場の内外で十分なコミュニケーションを取る時間がなくなっているように感じます.仕事ですので,“何ができるのか”,“うまくできるのか”といった技術的なことはもちろん大切です.しかし,“自分の同僚はどんな人なのか”,“日常の仕事や生活における悩みを聞いてほしい”,“自分の上司や組織は何を大切にしているのか”といったことを少しずつ共有し理解を深める機会があることは,長い時間を過ごす職場では大切なことの1つなのだろうと思います.

基本情報

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臨床検査
65巻7号 (2021年7月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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