臨床検査 65巻8号 (2021年8月)

今月の特集1 電解質異常をきたす内分泌疾患

涌井 昌俊
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 電解質異常は基本的な病態の1つであり,その原因となる疾患は多岐にわたります.電解質を左右する多彩な要因の存在を考えれば,その鑑別が必ずしも容易ではないことは納得できます.その検査診断には,電解質異常の発症機序から症候に至るまでの系統的な理解が不可欠です.それに通じるセンスをもって検査の運用管理に努めることは,診療支援の向上につながります.

 本特集では,電解質異常の代表的な原因であり,生体の複雑なフィードバック機構の象徴的な病的状態ともいえる内分泌疾患に着目して「電解質異常をきたす内分泌疾患」を取り上げました.電解質と内分泌の検査異常と病態を整理できるように,各電解質異常をきたす内分泌疾患の概要について,第一線で活躍されている臨床医の方々に解説いただきました.形態学的所見とは違って目に見えない電解質と内分泌の異常の図式を,頭の中で可視化するように理解することの一助につながれば幸いです.

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Point

●低ナトリウム(Na)血症は血清Na値が135mEq/L未満,高Na血症は血清Na値が145mEq/Lを超える状態と定義される.

●低Na血症は高張性,等張性および低張性に分類される.低張性低Na血症は体液量が低下している場合,増加している場合,ほぼ正常の場合の3つに分類される.

●高Na血症の病態は,水が喪失した場合,水がNaより多く喪失した場合,水よりもNaがより多く体内に貯留した場合が考えられる.

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Point

●カリウム(K)代謝異常の鑑別には尿中K排泄量,血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン活性(PRA)または活性型レニン濃度(ARC),酸塩基平衡の評価が有用である.

●低K血症をきたす内分泌疾患には原発性アルドステロン症やCushing症候群などのアルドステロン作用過剰によるもの,甲状腺中毒症,尿細管疾患がある.

●高K血症をきたす内分泌疾患にはAddison病,副腎皮質酵素欠損症,偽性低アルドステロン症,低レニン性低アルドステロン血症がある.

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Point

●カルシウム(Ca)は生命活動の維持に必須の電解質である.血中Ca濃度は常に一定の範囲に収まるように副甲状腺,骨,腎臓,腸管において細やかに調節されている.

●高Ca血症は多尿,倦怠感,腎機能低下など,低Ca血症はテタニー,不整脈,痙攣などの原因となる.いずれも血中Ca濃度が急激に変化した場合に症候性となりやすく,重症例では意識障害をきたす.

●高Ca血症の原因となる代表的な内分泌疾患は原発性副甲状腺機能亢進症(pHPT)である.内分泌疾患以外には,悪性腫瘍に関連したもの,薬剤性,ビタミンD作用過剰,肉芽腫によるものなどがある.

●低Ca血症の原因となる代表的な内分泌疾患は副甲状腺機能低下症であり,副甲状腺ホルモン分泌低下型,不応型に分けられる.内分泌疾患以外では,低マグネシウム(Mg)血症の鑑別が必須である.

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Point

●血中のリン濃度は食物からの吸収,骨・細胞内への蓄積,腎臓からの排泄のバランスによって規定されている.そのなかでも腎臓でのリンの濾過と再吸収過程が特に重要な要素である.

●リンの調整は線維芽細胞増殖因子23(FGF23),副甲状腺ホルモン(PTH),ビタミンD作用が主要な役割を果たしている.これらの因子を調べることで病態の理解・疾患の鑑別が可能となる.

●低リン血症はFGF23・PTHの作用過剰による近位尿細管におけるリン再吸収阻害が病態の中心である.

●高リン血症は腎機能障害によるリンの排泄能低下が最も重要な原因である.通常の腎機能では高リン血症となることはまれである.

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Point

●血清マグネシウムは日常の検査項目でなく,症状も非特異的なため,臨床像からマグネシウム異常を疑うことが最も重要である.

●プロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期使用や抗上皮成長因子受容体(EGFR)抗体薬など,新たな原因による低マグネシウム血症が増えている.

●低マグネシウム発症リスクのある薬剤使用時は予期的,定期的に血清マグネシウムを測定する.

今月の特集2 図解 電気生理学的心電図—忘れていませんか? その成因

河合 昭人
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 心電図は心臓の電気生理学的な状態を波形として記録する検査です.心電図を専門としていない方にとっては,ST上昇・低下や不整脈などの判読ができれば困ることはないかもしれません.しかしながら,実際に診療する医師や検査を担当する臨床検査技師は,電気生理学的な理論を学んでおかないと診断レベルの判読をすることはできません.ST変化やBurgata症候群ではどのようなメカニズムで心電波形が成り立っているのか? その成因を復習する意味も込めて本特集を企画しました.

 とはいえ,学問的に理解するのが難しい分野でもあります.本特集では,心電図というモダリティーを,電気生理学的側面からアプローチして,初学者でもわかりやすく解説をいたしました.多くの図表を用いて説明をしています.心電図について理解のブラッシュアップの機会としていただければ幸いです.

心臓電気生理学と心電図 池田 隆徳
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Point

●心筋細胞膜にはイオン電流を通過させるチャネルがある.内向きチャネルのNaチャネルとCa2+チャネル,外向きチャネルのKチャネルがある.

●心筋細胞膜には自律神経活動を反映する受容体が存在している.交感神経系のβ1受容体と副交感神経系のM2受容体がある.

●心臓内の電気的興奮が上部から下部までスムーズに送り届けるための伝播システムとして,興奮伝導と不応期について知っておく必要がある.

●心電図の波形はP波,QRS波,T波,(U波),ST部分から成り,計測指標としてRR間隔,PQ(PR)時間,QT時間がある.

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Point

●体表面で記録する12誘導心電図は,心筋内部で発生している電気現象の総和をみている.

●心筋障害でみられるST低下・上昇には主に障害電流の発生と脱分極不全が関与している.

●陰性T波の形成には心外膜側心筋の活動電位持続時間延長が関与している.

●Naチャネル,Ca2+チャネル,Kチャネル機能障害が障害電流の発生や活動電位持続時間の延長・短縮に影響する.

Brugada症候群と突然死 森田 宏
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Point

●Brugada症候群では心電図におけるcoved型ST上昇が特徴であり,この波形が診断に必須である.

●安静時,夜間睡眠時に心室細動から突然死をきたす.

●ST上昇の機序として,心外膜側心筋の活動電位波形の異常(再分極異常説)および同部位の著明な伝導障害(脱分極異常説)がある.

●活動電位のばらつき,または著明な伝導障害によって心室細動は発生する.

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Point

●J波症候群の大部分はBrugada症候群(BrS)と早期再分極症候群(ERS)から成る.

●心外膜側心室の活動電位の1相に一致して心電図J波は出現する.

●低体温,高カリウム血症,スポーツ心などでJ波は顕在化する.

QT延長・短縮の機序 鈴木 博
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Point

●心室再分極の異常は致死性不整脈の主な原因の1つである.QT間隔は最もよく用いられる心室再分極の指標であり,QT延長・短縮が問題となる.

●QT間隔は心室筋細胞の活動電位持続時間に左右され,活動電位の形成にはイオンチャネルが主に関与する.したがって,QT間隔はイオンチャネルの働きの影響を受ける.

●QT延長では突撃波の発生や不均一な再分極のため,心室頻拍や心室細動のリスクがある.一方,QT短縮では不応期の短縮や不均一な再分極のため,心房細動や心室細動を起こす例がある.

●QT延長・短縮は遺伝子異常,薬剤,電解質異常,虚血性心疾患など,さまざまな成因で起こる.

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Point

●抗不整脈薬はVaughan-Williams分類によってⅠ群〔ナトリウム(Na)チャネル遮断薬〕,Ⅱ群(βブロッカー),Ⅲ群〔カリウム(K)チャネル遮断薬〕,Ⅳ群〔カルシウム(Ca)拮抗薬〕の4群に分類される.

●Ⅰ群薬は興奮性を抑制すること,Ⅲ群薬は不応期を延長することによってリエントリー性と呼ばれる不整脈に対して効果を示す.

●Ⅱ群薬・Ⅳ群薬は,トリガード・アクティビティーと呼ばれるメカニズムによる不整脈と,洞房結節・房室結節が関与する不整脈に対して効果を示す.

●抗不整脈薬は,かえって不整脈を誘発することがある(催不整脈作用).主な催不整脈作用にはCAST型,QT延長型,ジギタリス中毒の3タイプがある.

認定・資格取得でスキルを磨こう・12

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資格の概要

 日本サイトメトリー技術者認定制度は,サイトメトリーに関する正しい知識と的確な操作技術によって医学・生物学の向上に寄与することのできる技術者の育成を目的として,2000年に日本サイトメトリー技術者認定協議会の発足と同時に設立されました.

 認定サイトメトリー技術者の概要を表1に示します.

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目次

書評 泉 美貴

書評 志水 太郎

書評 山中 克郎

「検査と技術」8月号のお知らせ

次号予告

あとがき 河合 昭人
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 本稿を書いているのは5月だ.まだ東京オリンピックが開催されるか,中止または延期になっているかわかっていない.開催予定まで100日を過ぎているのに…….私は,チケットが当たっているからといって絶対に行きたいわけではない.安心で安全な,また世界中の人々がアスリートを心の底から応援できる世界になり,医療体制が平穏となっていれば開催してもよいと思っている.今のこの状況では無理かもしれない.ここは大きな政治判断をしていただき,国民1人1人が納得のできる方向性を見いだしてもらいたい.

 コロナ禍で世界は様変わりしてしまった.一番大きかったのは飲み会がなくなってしまったことだ.もう1年以上,新橋の飲み屋さんに行っていない.私はお酒が飲めない,いわゆる下戸だ.下戸の私にとって飲み会が減ったことはありがたいといいたいところであるが,実はそうではない.お酒は飲めないが,お酒の席は嫌いじゃない.自分でいうのもおこがましいが,アルハラ(アルコールハラスメント)はされたことはあっても,したことは一度もないはずである.なぜなら,飲めない私が部下を飲み会へ誘うこともなく,お酒を勧めるはずもない.そういう意味では,アフターファイブではとってもいい上司であると自負している(ビフォーファイブはわからないが).とはいえ,飲み会がないと飲みニケーションが取れず,若い世代の職員たちとプライベートなことを話すこともできず,これでいいのかな〜?といつも自問自答している.今までが,飲みニケーションに頼りすぎていて,飲まない(ウーロン茶であるが)と何も話せなくなってしまっていたことにようやく気付いた.今の時代,飲み会でコミュニケーションを図ろうとすることは間違っているとはいいたくないが,賛成者は多くないのであろう.時代は変わっていく.私も変わらなければならない.

基本情報

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臨床検査
65巻8号 (2021年8月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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