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あとがき
関谷 紀貴
pp.354
発行日 2018年3月15日
Published Date 2018/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542201544
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昨年,棋士の羽生善治氏が史上初の“永世七冠”を獲得したというニュースがありました.名人,王位,王座,王将,竜王,棋王,棋聖という7つのタイトルをそれぞれ通算7期以上獲得したことを意味しており,他と比較することが困難な偉業を達成されました.年明けの1月5日には,棋士では初めてとなる国民栄誉賞受賞が発表されています.
昨年の夏,その羽生氏が人工知能(AI)研究を積極的に推進しているNTT副社長でNTT武蔵野研究開発センタの篠原弘道氏と対談された記事を拝見致しました.AIといえば,将棋や囲碁の領域においてもさまざまなソフトウエアが開発されていますが,一般のニュースでは“人間対AI”という枠組みでの話題になりがちです.しかし,対談ではAIと人間それぞれの強み・弱点に触れながら,どのように社会へ組み込んでいくかという内容が語られていました.そのなかで羽生氏は,AIが一番得意なことは膨大な情報処理から導かれた最適化であること,最適化は確率的に以前よりよくすることであり絶対的に正しいものではないこと,暮らしのなかでAIが出す答えを人々が“正しい”と勘違いしやすくなる可能性があること,について触れるとともに,“人間を中心として,人が暮らしていくなかにAIがどうあるべきかという視点で普及”することへの願いを述べておられました.既存の情報処理のみから導かれた結果を,人間がきちんと“解釈”して使用することの重要性を強調されており,さまざまな分野でAIの導入が進みつつあるなかで,本質的な視点が含まれた対談であると感じました.
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