臨床検査 56巻13号 (2012年12月)

今月の主題 アルコール依存症

巻頭言

アルコール依存 杠 岳文
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 アルコールと人のかかわりは長く深い.人類がアルコール飲料を製造した記録は,紀元前のメソポタミア文明,エジプト文明,古代中国にさかのぼる.須佐之男命(スサノオノミコト)は八岐大蛇(ヤマタノオロチ)に強い酒を酒桶に満たして飲ませ,酔って寝たところで退治したというのは,よく知られた古事記の神話で,わが国にも神代から酒があったことになる.

 宗教とアルコールのかかわりも深く,人々は神々の怒りによって起こる地震,火山噴火,台風などの天変地異を鎮めるために酒を供えた.“お神酒”は身を清め神との一体感を高める飲み物とされる.こうした宗教的な意味付けが飲酒文化の形成に大きな影響を与えてきたことは否めない.

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アルコール依存症は飲酒コントロールが困難となるために,様々な身体的・精神的・社会的問題などを呈する疾患であり,日本全体で60万人程度存在すると推定されている.アルコール依存症の発見には飲酒に関する問診,γ-GTPやMCVなどの検査,スクリーニングテストなどがあるが,患者が否認する場合も多く注意を要する.日本の一般的なアルコール専門医療機関では,勉強会・家族会などの患者・家族への講義や心理教育,酒歴発表,自助グループ見学・参加,抗酒薬処方,個人・集団精神療法,作業・運動療法などを組み合わせた治療を行い,断酒継続を支援している.アルコール依存症は発症の予防や,断酒による回復が可能であり,医療機関を含め諸機関の協力による予防が重要である.

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アルコール依存症は,全身の様々な臓器障害を引き起こす.その中には日常診療でよく遭遇する生活習慣病である高血圧症,脳血管障害,糖尿病,肝疾患,膵疾患,高齢化社会で急増している認知症,自殺予防の観点から対策が急がれているうつ病などの精神疾患も含まれる.また,頭頸部癌,消化管の癌,乳癌の発癌にも関与している.そのほか,メタボリック・シンドロームとのかかわりも深い.アルコール依存症の治療には一般医とアルコール専門医の連携が必要であるが,まず様々な臓器障害の背景としてのアルコール依存症を早期に診断することが大切である.

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アルコールの吸収と代謝,アルコール代謝酵素遺伝子多型との関連,アルコール代謝酵素遺伝子多型とアルコール依存症との相関,遺伝子多型によって異なるアルコール依存症の臨床像といった点について紹介した.アルコール代謝には主にアルコール脱水素酵素(ADH1B),アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)が関与するが,そのいずれにも遺伝子多型が存在する.非活性型ALDH2,代謝速度の速いADH1Bはいずれもアルコール依存症発症に予防的に働くことが知られているが,依存症の発症は遺伝因子だけで規定されるものではなく環境因子や精神科合併症などの様々な要因が関与する複雑なものであることについて説明した.

各論 〈検査とその読み方〉

アルコール性肝障害 堤 幹宏
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アルコール代謝の特徴は,アルコール代謝関連酵素が主に肝に存在し,体内に吸収されたアルコールの90%以上が肝で代謝され,しかも肝細胞でのアルコール代謝にはフィードバック機構が存在しないことである.したがって,慢性飲酒に伴う様々な臓器障害のうち,最も高頻度で,かつ重篤な障害が肝に生じることになる.また,アルコール代謝に伴って生じるNADH/NAD比の上昇は,肝細胞内の様々な酸化還元反応に影響を及ぼし,一定以上の飲酒により脂肪肝は必ず発生するとともに,血液生化学的には,AST優位のトランスアミナーゼ,中性脂肪,γ-GTPおよび尿酸の上昇をもたらすことになる.しかし,いずれも禁酒によって速やかに改善するのがアルコール性肝障害の大きな特徴である.

アルコール性膵障害 正宗 淳 , 下瀬川 徹
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アルコールは急性および慢性膵炎の主要な成因である.2007年患者を対象とした最新の全国疫学調査では,急性膵炎の31.4%,慢性膵炎の64.8%がアルコール性であった.アルコールによる膵炎発症機序としてアルコール毒性説,蛋白塞栓説など,様々な仮説が提唱されているが確立されていない.膵炎を発症するのは大酒家の一部にすぎない.このため,臨床的に膵炎が成立するためにはアルコールの作用のみならず,喫煙などの生活習慣や遺伝的背景などが複合的に関与すると考えられる.

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アルコールの慢性多量飲酒は神経系にも影響を与え多彩な疾患群を形成する.なかでもWernicke脳症はアルコール依存症に併存する代表的な急性神経中枢疾患であり,意識障害・小脳性失調・眼症状を3徴とする.発症早期のビタミンB1大量投与が必要であるが,慢性期にはKorsakoff症候群へ移行し認知機能低下が持続する.一方,Wernicke脳症のエピソードがなくともアルコール依存症者は,頭部MRI上,萎縮・脳梗塞・深部白質病変が顕著である.脳外傷や痙攣の既往,肝性脳症などが合併していることも多く,将来のアルコール関連認知症の素地となる.認知症発症の際には,断酒に加え包括的な生活スタイル改善プログラムが悪化防止に必要である.

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アルコール摂取や肥満により脂肪性肝炎を生じるが,両者には共通の病態が存在することから,肥満はアルコール性肝障害進展のリスク因子となり,過度の飲酒はメタボリック症候群の促進因子となる.飲酒によるメタボリック症候群の構成因子に対する影響では,高血圧発症リスクの増加,中性脂肪上昇などの有害事象のほかに,適正飲酒によるHDLコレステロール上昇,心血管疾患発症率・死亡率の低減,インスリン抵抗性の改善などの好ましい効果も報告されている.飲酒とメタボリック症候群発症に関する研究結果は一致しておらず,アルコール代謝の人種差を考慮する必要がある.

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飲酒に関連して救急外来を受診する患者は,2010年に行った筆者の調査によると小児を含めた全受診者の約1%であった.半数が中等度以上の酩酊状態で,多くは救急車を使って夜間に受診しており,救急外来での簡単な処置や治療で帰宅できる軽症者が多数を占めていた.スクリーニング検査ではその半数でアルコール依存症の可能性があった.救急外来へ意識障害を主訴に来院する患者の原因の鑑別として,アルコール関連疾患が挙がる.検体検査のうちアルコール血中濃度は診断に有用であるが,施設によっては常時測定できるとは限らない.通常の検体検査で得られる平均赤血球容積やγ-グルタミルトランスペプチダーゼの数値から,患者がアルコール多飲者であるかどうかを簡便に見極めたり,血漿浸透圧の実測値と予測値の差(浸透圧ギャップ)から血中エタノール濃度を概算したりすることが,汎用的で判断の根拠として有用である.なお救急外来には,アルコール依存症患者の救急疾患を治療するだけでなく,根本にあるアルコール問題を専門的治療へ橋渡しするという重要な役割があり,諸外国では実践され成果を上げている.

話題

アルコールと発癌 横山 顕
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1.はじめに

 2009年までにWHO(World Health Organization)のIARC(International Agency for Research on Cancer)は,飲酒が原因で発癌する臓器は口腔,咽頭,喉頭,食道,肝臓,結腸・直腸と女性の乳房であり,アルコール飲料,飲料中のエタノール,飲酒と関連して発生するアセトアルデヒドの3つを,発癌物質と結論づけた(表)1).2005年の厚生労働省多目的コホート研究(Japan Public Health Center-based prospective Study;JPHC Study)は,飲酒関連癌のリスクは1日1合未満相当(以下日本酒換算,ビール500mlに相当)の習慣飲酒者では,ときどき飲酒する人の2.3倍であり,男性の癌死亡の13%が1日2合の飲酒に起因すると概算した2)

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1.はじめに―わが国のアルコール医療

 わが国のアルコール医療は,1963年に久里浜病院(現久里浜医療センター)にアルコール依存症の専門治療病棟が設置され,入院3か月間での集団のプログラム治療が行われたことに始まる.それ以前のアルコール依存症患者に対する医療は,特別の治療技法をもたなかったこともあり,精神科の閉鎖病棟で他の精神疾患患者と一緒に治療が行われていた.結果として,依存症の治療というより,飲酒にまつわる様々な問題で社会や家族に迷惑をかける患者を隔離収容する意味合いが大きかったようである.1975年には,久里浜病院でアルコール中毒臨床医研修事業が開始され,この機に学んだ者が日本各地で同様の集団のプログラム治療を実践し,“久里浜方式”として広く知られるようになった.また,最近では中年男性を中核群としながらも,患者層は女性,若年,高齢者と多様化し,それぞれの特性に応じたプログラムも行われるようになり,治療プログラムには認知行動療法も幅広く取り入れられてきた.

 いくつかの変遷はあったものの,わが国でのアルコール医療は専らアルコール依存症患者,特にその中でも比較的重篤な患者に対して断酒を唯一の治療目標とする治療が行われてきた.一方で,有効な薬物治療もないまま治療成績に大きな改善はみられず,長期の断酒率は20%程度とされている1)

アルコール依存症と飲酒運転 長 徹二
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1.はじめに

 飲酒運転が社会に与える影響は大きい.2002年6月1日より道路交通法(以下,法)の改正があり,飲酒運転の罰則の対象となる呼気中アルコール濃度は0.25mg/l以上から0.15mg/l以上〔血中アルコール濃度(blood alcohol concentration;BAC)は0.05%から0.03%〕へと変更されている.この法改正により,飲酒運転検挙数の減少など,ある程度の効果を認めた1)ものの,目標に掲げる飲酒運転撲滅までには程遠い.しかも,その罰則をこれ以上に引き上げたところで,さらなる減少が期待できるかは疑問である.なぜなら,飲酒運転を減らす対策の中に,習慣多量飲酒者への介入やアルコール依存症に関しての治療的介入が欠けているからである.

 2012年の米国の報告では,飲酒運転者は生涯にわたって危険な飲酒習慣を示すことも報告されている2)が,飲酒運転による事故がニュースとして報道されることはあっても,その運転手の飲酒状況まで詳細に報じられることは国内では少ない.診断基準3)を要約すれば,アルコール依存症とは,「アルコールの連続使用が身体症状に影響を及ぼしており,飲酒の調節ができず,飲酒が生活の中心となり,問題が生じていても使用が続いてしまう」疾患である.重要な点は「飲酒のコントロールができないこと」にあり,飲酒の調節ができなければ,運転する機会ごとに飲酒運転につながる危険性も高いと推測できる.

 アルコール依存症だけではなく,飲酒量の多い者や飲酒頻度の高い者などの習慣飲酒者にも飲酒運転のリスク要因があり4),その実数はアルコール依存症者よりはるかに多いことも忘れてはならない.また,アルコール関連3学会のプロジェクトチームは,「概ね1時間あたり4gのアルコールが消失する」5)と提言しており,ビール500ml飲用後の代謝に5時間かかる計算になることも,重要でありながら周知されてはいない.睡眠中はアルコールの代謝が部分的5)になっていることなどから,飲酒翌日の起床後すぐの運転が飲酒運転のリスクとなることも知っておいて損はない.そして,最もよくある誤解は,飲酒後に水分を多量に摂取することで代謝が早まるというものであり,たとえ点滴を施行したとしても代謝が早まることはない6)ことを知っておくべきである.

 本稿では,アルコール濃度の検査における意義・注意点,アルコール依存症と飲酒運転との関連について説明する.

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1.はじめに

 アルコールには中枢神経抑制作用があり,適量の飲酒は入眠を促進し,主観的な熟眠感を増す.そのためにアルコールは古くから睡眠薬としてよく用いられてきた.このことは今日でも変わりはないが,それはアルコールが容易に手に入るというだけではなく,睡眠薬を危険な薬とみなしている者が多いという理由にもよるであろう.

 しかし,皮肉なことに不眠の解消を目的に用いていたアルコールが不眠の原因になっていることがある.特にアルコール依存に進展した例では,離脱期にひどい不眠を伴い,重篤な精神身体症状さえ出現する.離脱期を脱し,たとえその後断酒を続けることができても,長年にわたって不眠に悩まされているものが少なくない.こうしたアルコール関連の不眠の発現は決して珍しいことではないばかりか,常用飲酒は睡眠時無呼吸症候群や睡眠時異常行動を増悪させるなどの様々な睡眠の問題を起こしうる.

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1.はじめに

 アルコールは,化学的にはエタノール(C2H5OH)を指し,お酒に含まれ,コミュニケーションの手段である一方,犯罪に利用されたり事故の原因になったりと,最も身近で社会的にも重要な薬物の1つである.本稿では,アルコール検査法とその解釈に必要なアルコール代謝や体内動態について述べたい.

あいまにカプチーノ

心惹かれる地球の文様 〆谷 直人
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 素晴らしい風景や芸術を目前にすると,自然に心が震える.そんな心の震えは,何ものにも代えがたい心の糧.大自然の驚異や過去に生きた人々の痕跡は,私に沢山のことを教えてくれる.そんな沢山の感動の貯金が,心を豊かにしてくれる.だから私は30年以上も世界を旅し続けている.

 日本から最も遠い大陸は南米大陸(南極大陸を除く)であろう.南米大陸へは,日本から丸一日飛行機で移動して到着する.ただし直行便がないため,北米大陸を経由しなければ行くことができない.それでも“ロストワールド”ギアナ高地や“地上最後の楽園”パンタナール湿原,巨大な地球の裂け目のようなイグアスの滝,轟音を立てて崩れ落ちるパタゴニアの大氷河,白い砂丘レンソイス……南米大陸は旅人を惹きつけてやまない.

シリーズ-感染症 ガイドラインから見た診断と治療のポイント・8

MRSA感染症 二木 芳人
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はじめに

 近年,わが国においても各種感染症の診療ガイドラインが相次いで作成,公表されている.他の疾患と異なり感染症は,その起炎菌頻度やそれぞれの抗菌薬に対する感受性,あるいは使用できる抗菌薬の種類や投与量・投与法が地域や国によって異なるため,他の地域のガイドラインの流用は時に間違いの元となり,また国際的な統一ガイドラインの作成は難しい.したがって,それぞれの地域や国で独自のガイドラインを作成することが求められる.

 今回のテーマのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染症は,院内感染症の最も重要な病原微生物の一つであり,昨今では市中感染型MRSA(community-acquired MRSA;CA-MRSA)の増加傾向,あるいは標準的な抗MRSA薬の感受性低下などの新しい話題があるにもかかわらず,今日まで,わが国独自の診療ガイドラインは作成されていなかった.しかし,現在日本化学療法学会と日本感染症学会が共同作業で,「MRSA感染症の治療ガイドライン(仮)」を作成中で,今年度中にも完成の予定である.したがって,現時点ではMRSA感染症の診療ガイドラインは存在しないこととなり,それに沿った診断と治療のポイントを執筆することは不可能である.

 そこで本稿では,この新しいガイドラインの作成のコンセプトや背景因子を紹介しつつ,わが国におけるMRSA感染症の現状といくつかの項目に限ってその診断あるいは治療のポイントを解説する.

シリーズ-標準化の国際動向,日本の動き・12

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1.JCCLSそう設の意図と歩み

 日本臨床検査標準協議会(Japanese Committee for Clinical Laboratory Standards;JCCLS)は,1967年に設立された米国臨床検査標準委員会〔National Committee for Clinical Laboratory Standards;NCCLS,現臨床検査標準協会(Clinical and Laboratory Standards Institute;CLSI)〕や欧州における臨床検査標準化の動向を踏まえ,日本における臨床検査の標準化と質的改善を目的として,1985年,日本臨床病理学会(現日本臨床検査医学会)の呼び掛けにより関連学会,協会団体,官公庁および企業などの協力を得て任意団体として発足した.その後2005年,JCCLSは,日本における臨床検査の標準化を標榜し推進する唯一の機関が満たすべき社会的責務を認識のうえ,特定非営利活動法人(NPO)として法人格を取得した.

 そう設以来25年余,JCCLSは,わが国における臨床検査標準化を推進するため,標準物質や基準測定法などの基盤整備,臨床検査にかかわる各種のガイドラインの発行や教育活動を行っている.また,CLSI(旧NCCLS)や国際標準化機構(International Organization for Standardization;ISO),臨床検査医学におけるトレーサビリティ合同委員会(Joint Committee on Traceability in Laboratory Medicine;JCTLM),などと連携して国際標準化に積極的に参画している.特に,CLSIが作成した指針文書などの国内普及に貢献し,2012年にはCLSIよりExcellence in Member Organization Leadership Awardを受賞している.

検査の花道・12

超音波検査に取りつかれて 桑山 美知子
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はじめに

 “若い技師の方にエールを”という連載の原稿依頼が舞い込み,何を書けば良いのか途方に暮れていますが,臨床検査技師になって40年が経過し,せっかくの機会をいただきましたので技師生活を振り返ってみることにしました.

学会へ行こう

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2012年11月29日(木)~12月2日(日)にかけて第59回日本臨床検査医学会学術集会が国立京都国際会館で開催されます.この時期,京都周辺は紅葉の真っ盛り.多くの観光客が訪れる季節です.今回の学術集会ではiPS細胞研究最前線の講演や企業展示の併催など,例年にも増して見どころの多い学会だと思います.紅葉に包まれた古都京都の風情を味わいつつ,英知の集まる学術活動もしっかり研鑽できる“おいしい”学会の見どころをご紹介いたします.

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 白癬菌に対する抗体を用いた免疫クロマトグラフィ法による抗原検出キットが糸状菌検出試験紙(以下,試験紙)として市販されている.この試験紙に適した検体採取法として市販の湿綿棒で白癬病巣を擦過する方法の有用性を検討した.KOH直接鏡検法で診断した足白癬では10回擦過と30回擦過検体において試験紙の結果に差はなく,感度81.3%であった.以上より,病巣を湿綿棒で10回以上擦過する方法は簡便で有用な検体採取法と考えられた.

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「臨床検査」増刊号のお知らせ

欧文目次

「検査と技術」増刊号のお知らせ

「検査と技術」12月号のお知らせ

バックナンバー一覧

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 臨床医学に大きく役立つ顕微鏡検査のすべてがここにある! これが私の第一印象である.本書は微生物検査だけでなく,細胞診,血液像,尿沈渣,病理などの顕微鏡検査法があまねく,しかも互いに連携を保って網羅・解説されており,これが本書の最大の特色である.すなわち,横断的な編集であり,しかも各分野が有機的に連携されていて,統一した視点から編集されている.今日の臨床医学に最も欠けている部分は本書によって埋められるものと考える.

 これまでは,そうではなかった! 病院や検査センターにおける顕微鏡検査は,各分野に分かれて行われており,互いの連絡や接触は希薄であった.臨床検査法の教科書も同様であった.すなわち,縦割りの検査が行われており,教科書も縦割りだったのである.皆がたこ壺にこもっているので,互いの様子は互いによくわからない.たこつぼから臨床へ有用な情報を発信することはできるだろうか? できるわけはなく,これが今日の臨床検査・臨床医学の大きな欠陥となっていたが,本書はその欠陥を埋める良いハンドブックとなっている.編者の先生方の力量に負うところが極めて大きいが,わが国の微生物検査に携わる医師と臨床検査技師の中で,本書の編集代表である菅野治重先生を知らない人はいない.

投稿規定

次号予告

あとがき 山内 一由
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 山中伸弥先生のノーベル医学・生理学賞受賞のニュースが飛び込んできました.ご存知のように日本人としては,利根川進先生以来四半世紀ぶり2人目の快挙です.いったんは書き終えた「あとがき」ですが,世紀のビッグニュースに全く触れずに,2012年の締めくくりとなる本号を終えることはできないと思い,書き改めています.

 今回の受賞を伝える報道を通じ,iPS細胞の開発という偉業もさることながら,山中先生の医学研究に対する姿勢に大変感銘を受けました.「まだ一人の患者さんも救ってはいない」,「私たちの一日と患者さんの一日の違いは心している」…….いずれも謙虚ですが,研究者としての目標を明確に指し示し,それを必ず成し遂げようという情熱が表れた力強いコメントです.医療人の端くれでありながら漫然と過ごしてしまいがちな私にとっては,厳しい叱咤の言葉のようにも聞こえ,襟を正さざるを得ない気持ちにさせられました.iPS細胞を用いた新しい医療を実現させ,それを支えていくためには,新しい臨床検査技術の開発が必要となってくることは想像に難くありません.もちろん,既存の臨床検査技術に磨きをかけることも重要です.いずれにしても,山中先生が言われているように,医療人として“患者さんの時間”を心して邁進することが肝要です.

基本情報

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臨床検査
56巻13号 (2012年12月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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