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1.はじめに
飲酒運転が社会に与える影響は大きい.2002年6月1日より道路交通法(以下,法)の改正があり,飲酒運転の罰則の対象となる呼気中アルコール濃度は0.25mg/l以上から0.15mg/l以上〔血中アルコール濃度(blood alcohol concentration;BAC)は0.05%から0.03%〕へと変更されている.この法改正により,飲酒運転検挙数の減少など,ある程度の効果を認めた1)ものの,目標に掲げる飲酒運転撲滅までには程遠い.しかも,その罰則をこれ以上に引き上げたところで,さらなる減少が期待できるかは疑問である.なぜなら,飲酒運転を減らす対策の中に,習慣多量飲酒者への介入やアルコール依存症に関しての治療的介入が欠けているからである.
2012年の米国の報告では,飲酒運転者は生涯にわたって危険な飲酒習慣を示すことも報告されている2)が,飲酒運転による事故がニュースとして報道されることはあっても,その運転手の飲酒状況まで詳細に報じられることは国内では少ない.診断基準3)を要約すれば,アルコール依存症とは,「アルコールの連続使用が身体症状に影響を及ぼしており,飲酒の調節ができず,飲酒が生活の中心となり,問題が生じていても使用が続いてしまう」疾患である.重要な点は「飲酒のコントロールができないこと」にあり,飲酒の調節ができなければ,運転する機会ごとに飲酒運転につながる危険性も高いと推測できる.
アルコール依存症だけではなく,飲酒量の多い者や飲酒頻度の高い者などの習慣飲酒者にも飲酒運転のリスク要因があり4),その実数はアルコール依存症者よりはるかに多いことも忘れてはならない.また,アルコール関連3学会のプロジェクトチームは,「概ね1時間あたり4gのアルコールが消失する」5)と提言しており,ビール500ml飲用後の代謝に5時間かかる計算になることも,重要でありながら周知されてはいない.睡眠中はアルコールの代謝が部分的5)になっていることなどから,飲酒翌日の起床後すぐの運転が飲酒運転のリスクとなることも知っておいて損はない.そして,最もよくある誤解は,飲酒後に水分を多量に摂取することで代謝が早まるというものであり,たとえ点滴を施行したとしても代謝が早まることはない6)ことを知っておくべきである.
本稿では,アルコール濃度の検査における意義・注意点,アルコール依存症と飲酒運転との関連について説明する.
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