臨床外科 73巻8号 (2018年8月)

特集 徹底解説! 膵尾側切除を極める

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 膵癌ばかりでなく,IPMNをはじめとした低悪性度腫瘍の手術件数が全国的に増加しつつあります.膵頭部病変には一般的に膵頭十二指腸切除が行われますが,体尾部病変に対する術式は膵切除範囲,リンパ節郭清,後腹膜組織の切除範囲,脾温存の有無など,バリエーションに富んでいます.切除範囲一つとっても,「尾側膵切除術」の中に「膵体尾部切除」「膵尾部切除」「脾温存膵体尾部切除」「腹腔動脈合併膵体尾部切除」などが含まれています.また最近では,腹腔鏡手術やロボット支援手術も導入されつつあります.本特集では,症例ごとに適切な術式を正確に行うため,解剖学的知識を深め,各術式の適応や長所・短所を理解できるよう,さまざまな視点から解説していただきました.研修医から一般・消化器外科医,さらにはこれから肝胆膵外科高度技能専門医をめざす若手外科医の診療の一助となれば幸いです.

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【ポイント】

◆膵体尾部の周囲には胃,横行結腸,脾臓,左腎臓,左副腎などの臓器や領域リンパ節が存在する.

◆膵体尾部切除術において腹腔動脈および上腸間膜動脈から分岐する動脈と門脈(上腸間膜静脈)に流入する静脈の解剖を把握しなければならない.

◆膵体尾部切除術において膵周囲の膜・筋膜(fascia)や膵外神経叢・線維組織を意識した手技が必要である.

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【ポイント】

◆膵癌に対する根治的切除の基本は,組織学的な癌遺残のないR0手術を行うことである.

◆膵癌取扱い規約第7版において,標準的手術によりR0手術が可能かという基準で切除可能性分類が導入された.

◆同規約にてTNM分類,Stage分類が改訂され,Stage分類と治療方針との間のひもづけが容易となり,切除可能性分類の導入とあわせ,詳細な治療方針が選択される.

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【ポイント】

◆非膵癌腫瘍であるIPMN,MCN,P-NET,SPNに対する手術適応および縮小手術の適応は,いまだ議論の余地がある.

◆機能温存を目的とした縮小手術は,リンパ節郭清が不十分となり,また合併症の頻度が高いと報告されている.

◆縮小手術の適応に関しては,特にリンパ節郭清の必要性を十分に考慮し,疾患ごと,症例ごとに決定する必要がある.

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【ポイント】

◆膵液漏に対する対策および予防法は様々に報告されているが,いまだ確立されたものはない.

◆ISGPFの新しい定義では,旧定義のGrade Aが“Biochemical leak”に変更された.

◆膵液漏は,胃内容排出遅延,腹腔内出血,腹腔内膿瘍など,その他の合併症の発生にも関連することがある.

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【ポイント】

◆膵尾側切除後の膵内分泌障害による膵性糖尿病には,低血糖に注意しながらインスリン療法を中心とした血糖管理を行うことが必要である.

◆膵尾側切除後の膵外分泌障害による消化吸収障害には,十分な栄養療法と膵消化酵素補充療法が必要である.

◆脾臓合併尾側膵切除患者に起こる脾摘後重症感染症は極めて予後不良であり,ワクチン接種をはじめとした予防が重要である.

各論:膵断端処理法

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【ポイント】

◆切離ラインの膵頭側尾側を十分に剝離し,安全に膵切離できる術野を確保する必要がある.

◆膵断端からの出血は5-0 PDSを用いて刺通止血を行っていくことが,術後膵液漏発生の予防となる.

◆主膵管は膵実質を含め確実に連続刺通縫合を行っていくことが重要である.

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年8月末まで).

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【ポイント】

◆膵切離前に膵周囲を十分に剝離し,周囲組織を巻き込むことなくstaplerを挿入する十分なスペースを確保しておく.

◆Staplerによる膵切離の際は,膵被膜および膵実質に対し愛護的な操作が重要である.

◆厚い膵に対しては,staplerを使用した膵切離により,術後膵液漏の発生頻度が高くなる.

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年8月末まで).

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【ポイント】

◆膵体尾部切除術における空腸漿膜パッチ法は,主膵管を連続縫合した後,Blumgart変法に準じて空腸漿膜を膵断端に被覆する.

◆空腸漿膜パッチ法は,膵断端を密着・被覆することにより,膵液の漏出を軽減し,瘻孔化を促進する.

◆空腸漿膜パッチ法の手術手技は,習熟すれば簡便かつ安全に施行可能である.

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【ポイント】

◆膵切離部の膵実質が厚い膵臓は自動縫合器による切除の際,膵実質の挫滅による膵液瘻のリスクが高くなる.

◆多施設無作為化比較試験の結果では,膵液瘻減少における自動縫合器に対する膵尾側断端膵管-空腸吻合の有用性は証明できなかった.

◆膵切離部の厚い膵臓に対して,膵断端空腸吻合は膵液瘻減少に有用な可能性がある.

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【ポイント】

◆膵断端被覆法として,フィブリン糊やpolyglycolic acid(PGA)シートなどの特定生物由来製剤,肝円索などの自家組織を用いた方法がある.

◆吸収性組織補強シートやフィブリン糊を用いた被覆法は,術後膵液瘻を減少させる.

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【ポイント】

◆膵体尾部切除におけるRAMPS法とは,脈管処理・膵切離を先行して,その後に膵体尾部を左方に脱転しながら切除を行う方法である.

◆腫瘍の後腹膜方向への進展度により,膵後方組織への浸潤が軽度な場合には,Anterior RAMPS,浸潤が高度な場合には,Posterior RAMPSを選択することができる.

◆膵尾部・脾の脱転に先行して,脈管処理を行うので動脈先行処理となり,出血を軽減することができ,腫瘍細胞のもみ出しの懸念もないといった利点がある.

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【ポイント】

◆主病巣の進展だけで適応を決めず,腫瘍マーカーなどを参考に転移病変を極力除外・制御のうえで適応を決定する.

◆術後の虚血性合併症低減のため,血管走行を確認のうえ,総肝動脈・左胃動脈をコイル塞栓する.

◆総肝動脈遠位端・膵頸部・腹腔動脈根部・上腸間膜動脈腹側がR1/2好発部位であり,R0切除を膵切離前に確保する.

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【ポイント】

◆系統的リンパ節郭清を行わないため,術前画像,場合により生検によって病変が悪性ではないことをしっかりと確認しておくことが重要である.

◆高度癒着症例や止血に難渋するような症例では,躊躇することなくHALS(用手補助腹腔鏡下手術)あるいは開腹手術に移行すべきである.

◆自動縫合器による膵実質切離は最も重要なポイントであり,丁寧かつ十分に時間をかけて行わなくてはならない.

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【ポイント】

◆体位,ポート配置を工夫し,適切なポートを術者が使用する.

◆腹腔鏡による尾側視野を活かして,先行して左腎静脈,腎被膜を露出することで膵後方剝離面を確保する.

◆膵切離時は,頭側に良好な視野を確保し,一定の圧を加えながら時間をかけて膵を圧縮して切離部を物理的に薄くする.自動縫合器によって切離部に余計な力が加わらないように留意する.

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【ポイント】

◆脾動脈根部が膵実質の背面深く走向している埋没型では,脾動脈根部処理が困難であることを認識しておく必要がある.

◆脾動脈と膵実質の間を交通する動脈をあらかじめ確認しておくことは,術中の出血予防に重要である.

◆脾動静脈を損傷しないために血管の腹側中央で切開・剥離を進めると,分枝の損傷リスクが低減する.

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【ポイント】

◆近年,欧米ではロボット支援手術による縮小手術が広く行われるようになり,内視鏡手術以上にその施行数が増加している.

◆安定した良好な3D画像による視野,手首機能や手ぶれ防止機能の特徴は,内視鏡手術では困難であった操作も可能にする.

◆尾側膵切除においては腹腔鏡下手術に比較し開腹移行率の低下,在院日数の短縮に寄与するとの報告があり,今後,その応用が広まっていくと考えられる.

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【ポイント】

◆膵中央切除術は膵体尾部腫瘍に対する膵機能温存術式であり,病変が膵頸部から膵体部に存在し核出術の適応がない場合に適応される.

◆本術式は,腫瘍径の小さな低悪性度腫瘍に適応され,膵実質の剝離操作の範囲も少ないため,通常の脾動静脈温存の膵体尾部切除術よりも切除においては容易であるが,膵尾部側断端と消化管を確実に吻合するテクニックが求められる.

◆われわれは,膵尾側の残膵は胃と吻合する.結節縫合による膵実質胃漿膜筋層縫合と,両端針を用いた連続縫合による膵管胃粘膜吻合を施行している.

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Reduced Port Surgery—制限克服のための達人からの提言・8

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はじめに

 reduced port surgery(RPS)による虫垂切除術には,臍切開創のみから行う単孔式腹腔鏡手術と,細径鉗子を利用したneedlescopic surgeryがある.いずれの手法にしても,従来の腹腔鏡手術と同等の安全性を担保した手技を行うと同時に,さらなる整容性を追求した方法でなければならない.本稿ではそのために必要なポイントを,経臍単孔式腹腔鏡補助下虫垂切除術(TULAA)といった術式を中心にして述べる.

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病院めぐり

那覇市立病院外科 宮里 浩
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 かつて琉球王朝の都として栄えた沖縄県那覇市の北部,首里城のお膝元,海を見下ろす高台に当院は立地しております.

 昭和55年に那覇市立の病院として開設され,平成20年より地方独立行政法人(非公務員型)へ移行しております.

急性腹症・腹部外傷に強くなる・5

腸閉塞 三本松 譲
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 私はPGY5(外科研修医5年目)の1年間,離島中核病院で外科研修の総まとめを行った後,さらなる研修をつむため,Fellow(PGY6)として再び中部病院に戻りました.この5年間でほとんどの外科救急疾患の対応は自信をもって行えるようになりましたが,当直帯の緊急手術は研修医とともに責任をもって完遂しなければならないので,毎回非常に緊張します.

 「救急室回診をお願いします.腸閉塞の患者さんがいます」とPGY2からの電話です.

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はじめに

 肝癌診療ガイドラインは厚生労働省診療ガイドライン支援事業により「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン作成に関する研究班(班長 幕内雅敏)」によって,Evidence based medicine(EBM)の手法を原則として2005年に初版がまとめられた1).その後,日本肝臓学会によって2009年に第2版が,2013年に第3版が改訂・刊行された.ガイドラインの中心である「治療アルゴリズム」は厳密にエビデンスに基づいて作成されていたが,多種多様な内科的治療の実情をより反映した,いわゆる「コンセンサスに基づく治療アルゴリズム」も日本肝臓学会編集の「肝癌診療マニュアル第3版」2)に掲載されており,日本肝臓学会から2つの治療アルゴリズムが発信される状態であった.今回の「肝癌診療ガイドライン第4版」(2017年版)3)の改訂では,このダブルスタンダードの状態を解消し,一本化された新たな治療アルゴリズムが作成された.本稿では,外科臨床の現場で最も参照する機会が多いと考えられる治療アルゴリズムを中心に,肝癌診療ガイドライン2017の内容と改訂点のポイントを概説する.

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要旨

症例は69歳,男性,上腹部痛で発症した.CTで肝S3およびS8にそれぞれ直径5 cm大の腫瘍を認めた.S3腫瘍は胆管浸潤が疑われた.肝切除術前に胆道出血が原因の閉塞性黄疸を発症し,内視鏡的逆行性胆管ドレナージを施行した.黄疸は軽快したものの急性胆囊炎を併発し,ドレナージ後5日目に胆囊摘出術を施行した.胆囊摘出後20日目に拡大肝左葉切除術,総胆管切除術,胆道再建術を施行した.病理検査では中〜低分化型肝細胞癌の診断であった.肝切除術から1年3か月で原病再発により死亡した.肝細胞癌に合併した胆道出血に続いて急性胆囊炎を発症した稀な1例を経験した.文献的考察を加えて報告する.

1200字通信・120

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 「母さん,なんで人は死ぬのだろうね.父さんが居なくなって淋しいよ.」

 「そうだねぇ.でもね,きっと神様がお決めになったことなんだよ.」

ひとやすみ・166

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 専門医制度の普及に伴い,学会に出席する機会が増えつつあるが,読者の皆様は学会会場ではどのように過ごされるのだろうか.

 一般には自分の専門分野や興味ある企画に足が向きやすい.確かに大学病院や基幹病院に勤務している場合には,より専門性を求め,特定分野に集中して聴講したほうが効率的である.しかし人間を対象とする臨床では専門外の知識も必要であり,空いた時間を活用して専門外の分野も覗くと診療の幅が広がる.

昨日の患者

妻を見舞う 中川 国利
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 奥さんが入院患者となった場合,夫の妻に対する態度は往々にしてぎこちなく,仕事にかこつけて面会に来ない夫さえ存在する.しかし稀ながら病む妻を気遣い,頻繁に見舞う夫も存在する.

 40年ほど前にもなるが,われわれ外科研修医はローテーションを組んで人手不足の脳外科を手伝っていた.50歳代半ばのKさんが,脳動脈瘤破裂で入院した.緊急手術を行い動脈瘤にクリップを掛けたが,意識が戻らず全身状態も不安定であった.そこでリカバリー室に長期にわたり入院することになった.

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 小林弘明先生のご執筆による胸部画像診断の入門書『誰も教えてくれなかった胸部画像の見かた・考えかた』が刊行された.胸部単純X線写真に関する数多くの教科書が存在するが,本書はこれまでの他書とは異なる視点で記載されている.すなわち「画像の見えかたのメカニズム」から考える読影法が紹介されている.どうしてその陰影・線が見えるのか,反対に見えないかを解説しながら,陰影・線の写りかた,見かたを習得し,1枚の画像からより多くの情報を取り出すことを目標としている.

 その目標を達成するために,本書には多くの工夫がなされている.まず,Introductionのところで,本書で使用されている最低限押さえておきたい画像ないしシェーマが紹介されており,特に重要なものは付録の「読影時必携! お役立ちシート」に掲載され,実際の画像を読影する際に有用である.CTの横断像やMPR画像が適切に配置されており,読者が胸部単純X線写真上の「陰影や線の成り立ちを考える」ことを容易にしている.また,さまざまな知識の習得と整理を目的として,たくさんのコラムが散りばめられている.本書には極めて多数の手術写真や病理標本,細胞診,組織像が掲載されているが,これらは,ほぼ全てが著者によって撮影されたものである.呼吸器外科医でありながら,画像診断から病理診断までを一人で手がけてこられた著者だからこそなし得た偉業であり,著者の豊富な知識と経験に基づいた完成度の高い専門書である.

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目次

原稿募集 「臨床外科」交見室

バックナンバーのご案内

次号予告

あとがき 田邉 稔
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 先日学会参加のためにハンガリーの首都,ブダペストに行く機会があった.ドナウ川の両岸にまたがるブダとペストが合わさってブダペストと命名されたとのこと.歴史的にはハンガリー王国の首都,ハプスブルグ家の支配下で繁栄を極めた町.第二次大戦中はナチスドイツに支配され,戦後は共産圏に組み込まれたが1989年からは共和国に体制転換,2004年にはEUに加盟して急速に西欧化が進んできたとのこと.何と言ってもめったに行けないブダペストなので,飛行機の中ではガイドブックで十分な予習.今回の出張の(学会以外の)目標は町中を走り回ってブダペストを制覇すること.一泊目,予想通り完璧な時差ボケで朝は4時に覚醒.ベッドの中にいても仕方がないので早速ランニングに出ることに.iPadのグーグルマップを片手に外に出る…目指すはテレビやガイドブックでしか見たことのないドナウ川と世界遺産の王宮殿.英雄広場とセーチェーニ温泉を横目にしばらく走ると通りの向こうに…見えたぞ王宮の丘! そのこちら側にはドナウ川があるはず! 2 kmほど走ると目の前が急に大きく開け,ドナウ川が視界に飛び込む.デ,デカイ…この川.水量が多く流れが速いので,近くで見るとことさら威圧感がある.川沿いには絶好のランニングロードが延々と続く.川の向こうには王宮殿,進行方向にはセーチェーニ鎖橋,左手には国会議事堂.Wow!!まるで世界遺産の写真集に自分が飛び込んでしまったような気分! 今回の出張では,毎朝合計で32 km走破,ブダペストを存分に体感した.勿論日中は学会に出てお役目を果たしたので,ランニングは時間外の余興…遊びに行ったわけではございません.

基本情報

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臨床外科
73巻8号 (2018年8月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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