臨床外科 73巻9号 (2018年9月)

特集 癌手術エキスパートになるための道

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 外科学において診療,教育,研究が重要であることは言うまでもない.そして診療の分野においては,医療倫理も含めた患者さんへの温かい対応,豊富な知識に基づいた適切また的確な判断,そして優れた医療技術は,それを支える大きな柱である.

 特に外科医においては,手術手技も含めた高度な技術によって,その診療は遂行される.一方,これらの手術技術の修得は,多くの先輩から後輩への指導とそれによる経験の蓄積,そして学術集会や論文,さらには手術見学などの機会を通した見聞によって,時を重ねつつ成し遂げられる.

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【ポイント】

◆今や癌手術の定型的術式となっている内視鏡外科手術は,早い時期からのトレーニングの有用性が指摘されている.

◆初学者が学ぶ内視鏡外科の基本手技は術式に関係なく共通なものであり,各診療科合同の教育プログラムの運用が可能である.

◆初期研修医から基本的な外科手技の教育を開始することによって,次世代のエキスパートの育成を支援する.

エキスパートへの道 Step 2

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【ポイント】

◆模範的手術を繰り返し見る.

◆操作手順,視野展開の鉗子操作,剝離層同定のランドマークを覚え込む.

◆手術後のeditingは経験数を倍増させる.

◆エネルギーデバイス,ステイプラーなど器機の使用方法とpitfallを熟知する.

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【ポイント】

◆ロボット支援手術においては,体腔内外でのアームや鉗子同士の干渉を解消する工夫が必要である.

◆ロボット操作のトレーニングにはシミュレーターやデュアルコンソールが有用と思われる.

◆手術支援ロボットは内視鏡手術のツールの1つであり,腹腔鏡手術の概念を理解しておかなければならない.

エキスパートへの道 新たな潮流

Cadaverを用いた技術習得 伊達 洋至
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【ポイント】

◆cadaver surgical trainingは,献体を用いた手術手技などの技術習得であり,off the job trainingとして重要である.

◆日本外科学会と日本解剖学会は「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」を公表しており,これに準拠すれば違法性に問われることはない.

◆献体者へ敬意を払い,感謝することを忘れてはならない.

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【ポイント】

◆症例数の多い施設で学び,責任ある手術を自身で行える技量を養う.

◆座学のみならず,複数の施設で直に見て学ぶ.

◆high volume centerで周術期管理も学ぶ.

◆食道特有の解剖に精通し,かつソフトなタッチの手術を行う.

◆アプローチ,再建など多種ある術式を理解し,臨機応変に応用できる判断力と技量を養う.

◆サルベージや困難症例を治療してこそ真のエキスパートとなる.

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【ポイント】

◆胸腔鏡下食道癌手術においては,骨性胸郭による動作制限があるために,カメラオペレーター,助手との協調作業と使用する鉗子,デバイス類の選択などの工夫が必要である.

◆安全で確実なリンパ節郭清のコツは食道の十分な授動と周囲臓器の適切な圧排である.

◆術前のシミュレーションとともに,胸腔鏡下食道切除術の特性を理解したナビゲーション手術の有効性が示されている.

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【ポイント】

◆エキスパートは縮小手術や再建方法に関心をもち,術後QOLや補助化学療法のコンプライアンスに配慮する.

◆エキスパートは多職種と行うキャンサーボードで指導的な立場をとれる知識と資質が必要である.

◆胃癌手術の難易度は増しており,真のエキスパートへの集約化が必要な分野になりつつある.

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【ポイント】

◆胃癌の鏡視下手術では,繊細な手術を可能とする微細解剖の理解が重要である.

◆鏡視下手術では動作制限が存在するため,それを回避するさまざまな工夫について習熟しておく必要がある.

◆弛まぬ努力と,患者さんを大切にする謙虚な気持ちが手術手技の向上には必須である.

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年9月末まで)。

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【ポイント】

◆自己修練として主な術式別に,自分の手術アトラスのようなものを作っていくことが勧められる.

◆手術の上達には解剖学的な剝離面の認識が重要である.

◆外科医の上達は,経験豊かな外科医の模倣から始まる.

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年9月末まで)。

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【ポイント】

◆患者のアウトカムを重視した手術を.

◆1つ1つの手技は常に論理的に.

◆アプローチにとらわれない.

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年9月末まで)。

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【ポイント】

◆解剖(特に肝門部脈管走行)を術前に十分把握する.

◆EOB-MRIによる部分肝機能評価により術式選択を行う.

◆安全確実な肝葉切除の3点セットで肝離断する.

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【ポイント】

◆腹腔鏡下肝切除術(LLR)は2010年の保険収載および2016年の適応拡大に伴って本邦で年々実施数が増加している.

◆LLRはその術式,切除範囲により難易度が大きく異なり,チームの習熟度に合わせて適応拡大してくことが重要である.

◆術中出血などのトラブル時の対応も,事前にチームとしての対応法を用意しておく必要がある.

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年9月末まで)。

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【ポイント】

◆局面に応じた適切な手技の選択と確実な手術基本手技の修練を常に意識する.

◆肝予備能評価の絶対的な基準はなく,チームの熟練度や患者の全身条件により変化する.

◆屈曲のない適切な位置へのドレーン挿入は術後管理にとって重要であることを認識すべきである.

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【ポイント】

◆膵癌に対する外科手術は根治をめざせる唯一の治療であるが,高難度手術であり,十分な修練が必要である.

◆膵癌の手術においては術前術後の管理にも精通している必要があり,術前の手術適応についてもチームで協議する.

◆膵癌は容易に膵外浸潤を起こし,周囲の脈管の合併切除を要することも少なくない.血行再建の手技もマスターする必要がある.

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【ポイント】

◆膵癌に対する腹腔鏡下手術は他臓器や脈管の合併切除を伴わない体尾部の腫瘍に限定されている.

◆基本手技の修得,エキスパートの手術を見ること,術前画像の熟読,自分の手術の見直し,手術成績の把握が肝要である.

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はじめに

 ヒトを含めた動物では,明暗などの外的環境の周期的変化に伴い,その生体機能も周期的に変化することが知られている.このおおむね一日の周期的なリズムを概日リズムあるいはサーカディアンリズムと呼ぶ.サーカディアンリズムは24.2〜25.1時間(24.8時間)の変動リズムであり,地球の一日の周期よりやや長い.通常この差を,太陽光による光刺激によって,睡眠・覚醒の位相反応曲線を前進あるいは後退させることにより同調(synchronizationあるいはエントレインメントentrainment)させる.哺乳類におけるこれらリズムを調節する時計中枢は,視床下部の前方にある1万6千個の細胞群からなる視交叉上核に存在する.また,明暗刺激に対する同調は,松果体と網膜およびこの視交叉上核の3つが関与する.視神経交叉の上部に位置する視交叉上核は背内側部(シェル)と腹外側部(コア)とに分かれ,自発的なリズムはシェル内に蓄えられている.一方で,光刺激が網膜に入射することでコアが興奮し,シェルのリズムを再起動する.視交叉上核から発せられたリズムの信号は松果体へ伝えられ,松果体ではこの情報に応答してメラトニンを分泌する.メラトニンはセロトニンから松果体で生成され,光刺激入射後14〜16時間で分泌を開始し,その分泌は夜間に高く昼間に低い.この視交叉上核は,哺乳類の身体の中では親時計(主要時計)の役目を果たしており,これ以外に親時計に支配された子時計(末梢時計)が存在し,連携してリズムを形成している.末梢時計は自身では長時間リズムを作れないため,普段は主要時計の支配下にあるが,状況に応じて独自に動く柔軟性を備えている.肝臓内にある末梢時計は食事の時刻によりリズムが変わることが知られている.これら末梢時計は肝臓に加えて,心臓,腎臓,血管,皮膚,口腔粘膜,末梢血単核球などに存在する.

 近年,これら生体リズムと悪性疾患との関連が明らかになってきており,リズムを応用した治療(時間治療)が悪性疾患治療に応用されつつある.本稿では時間治療を応用した癌治療を,筆者が行っている大腸癌肝転移治療を中心に紹介する.

Reduced Port Surgery—制限克服のための達人からの提言・9

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はじめに

 鼠径部ヘルニアは良性疾患である.手術侵襲を加える以上は,術前より何かが良くなったと患者が実感できることが求められる.万が一にも術前よりも悪くなることだけは避けなければならない.単孔式内視鏡手術は多孔式に比べ整容性に優れていることから注目されているが,技術的困難性が高い手術である.自施設の術式が患者にとってどのようなメリットがあるのかを検証しつつ,その実施にはより慎重でなければならない.

 本稿では,われわれが行っている単孔式TEP(totally extraperitoneal repair)に関して,技術的な面を中心に概説する.

急性腹症・腹部外傷に強くなる・6

大腸閉塞 伊江 将史
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 みなさんこんにちは.前回の「腸閉塞」は理解できたでしょうか.「小腸閉塞」と比べて今回の「大腸閉塞」は病態が異なり,緊急性も高い疾患ですのでしっかり区別して理解を深めましょう.

 大腸閉塞は診断と治療に遅れが生じると,壊死や穿孔をきたし,敗血症性ショックから致死的な状態に至る,極めて緊急性が高い疾患です.初期治療としては減圧処置が重要となりますが,その方法は原因疾患によって異なり,それぞれの病態と治療法を理解しておく必要があります.また,閉塞性大腸癌では急性疾患でありながらも腫瘍学的側面を考慮した治療戦略が重要です.

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【はじめに】

 下肢静脈瘤の手術といえば,血管内焼灼術,抜去術,高位結紮術がある.これらの治療によって症状は取り除かれ,末梢静脈瘤も縮小・消失するといわれている.日帰り手術も増えてきているが,後出血のリスクから瘤切除までは行わない施設もある.しかし,瘤が目立つためスカートや半ズボンをはきづらいなど,整容面で悩んでいる患者も現状では多い.そのため,瘤切除もしっかり施行してあげることが,下肢静脈瘤治療の満足度を上げるために重要である.当院での下肢静脈瘤治療は,1泊2日で行っている.瘤切除の傷を「小さく・少なく」するために作成した88(ハチ・ヤ)ディセクター(剝離子)を用いた手技を紹介する.

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2021年9月末まで)。

病院めぐり

公立岩瀬病院外科 土屋 貴男
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 当院のある須賀川市は福島県のほぼ中央に位置しており,東洋一の牡丹園や日本三大火祭りで知られる松明あかしなどが有名です.当院は須賀川市および周辺町村組合立の地域中核病院であり,設立は1872(明治5)年にまで遡ります.当時地域の先覚者たちが近代医学導入のため創立し,1873年には院内に須賀川医学校が併設されました.当時の医学校には全国から医療を志す若者が集まったと言われます.稀代の政治家で関東大震災後の帝都復興に尽力した「後藤新平」もその一人です.当院の外来棟3階にはギャラリー「後藤新平ホール」が設置されており,同氏に関連した手紙や書,写真などが閲覧できます.2011年の東日本大震災では病院外来棟が被災しましたが,新外来棟が2013年に完成し,2017年3月からはNICU,GCUを併設した周産期センターが供用開始となり,現在では診療科目23科,病床数279床にて運用されています.附属高等看護学院も併設しており,臨床研修指定病院として現在も教育に力を入れています.

 当院外科は常勤医6人で,消化器外科,一般外科,乳腺甲状腺外科,呼吸器外科疾患に対応しています.2017年の手術件数は636例で,外科医一人あたりの症例数が多いのが特徴です.内訳では消化器疾患が多く,胃癌,大腸癌,肝胆膵悪性腫瘍などの手術で地域のがん診療を担っています.また,当院の特色として腹腔鏡手術が多いことも挙げられます.胆摘やヘルニア以外にも胃癌・大腸癌や肝・膵切除にも積極的に腹腔鏡手術を導入し,腹腔鏡手術は年に300例を超えています.また,肝胆膵疾患においては,開腹による血管合併切除を伴う高難易度手術も手掛けています.

ひとやすみ・167

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 「継続は力なり」ということわざがある.些細なことでも,挫けることなく続けていれば,それなりに業績となり,他人から評価されることになる.

 日本腹部救急医学会は1982年,当時40歳前後の若手外科医らが,日本外科学会などを牛耳る老練外科教授らに対抗して設立した学会である.それだけに学会総会ではワークショップやシンポジウムに若手外科医を採用し,学会誌では未熟な論文も懇切丁寧な指導を行い,若手の登竜門としての役を担ってきた.

昨日の患者

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 外来での楽しみは,新たな患者との出会いと馴染み患者の治癒過程を観察することである.そして診療を介して様々な患者と語り合うことにより,医者稼業を堪能している.外来を受診するたびに,含蓄ある言葉を言い残す患者さんを紹介する.

 Tさんは80歳代後半の元教師で,大腸癌術後8年ほど経つが再発所見はない.そして定期検診を兼ねて外来をたまに受診しては,さり気なくつぶやく.

1200字通信・121

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 父親の1周忌を迎え,法要に出席したときのことです.法要の冒頭で,お上人様から法話があったのですが,お寺の本堂で位牌を前にし,素直に心に染み入ることになりました.

 「親御さんがお亡くなりになり,代替わりということになるわけですが,代替わりした方から『先代からは何も受け継ぎができておりません』とよく言われます.ただ,そう言う方で実際に受け継ぎができていない方はおられないようです」と話し始められました.

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 ヒトの体や病気のメカニズムは全て解明されているわけではなく,完璧な治療法もありません.医師は,限定された情報の中で,先人が積み上げてきた,知識や経験,臨床研究の結果を生かしつつ,現時点で最善と判断される方法で,患者さんの診療にあたっています.診療をしていくなかでは,数多くの疑問が生まれます.生まれた疑問は,成書や文献で解決できるものもあれば,できないものもあります.解決できない疑問をどうするか,どうすれば解決できるか,ここに臨床研究の意義が生まれます.

 医師として外科医として生きていく以上,診療と研究は切り離せないものです.もちろん,全ては診療から始まります.主治医として,期待通りの結果が得られれば,患者さんも笑顔を見せてくれますし,医師としてもこの上ない喜びでしょう.ですが,1人の外科医が一生で患者さんによい結果がもたらせる数など知れています.せいぜい数百人,数千人でしょう.一方,患者さんの予後やQOLを改善できるような臨床研究の結果を世界に発信できたとしたら,その報告で世界中の数多くの外科医が診療を変えたとしたら,患者さんへのインパクトは数万人,数十万人となることでしょう.

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目次

原稿募集 「臨床外科」交見室

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次号予告

あとがき 橋口 陽二郞
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 巷では外科医を主役としたテレビドラマが大人気の一方,外科医の減少が続いています.不人気の理由は,「仕事がきつい」「訴訟リスクが高い」などさまざまでしょうが,患者さんの意識・態度の変化とともに「やりがいがない」と感じる医師が増えていることも一因かもしれません.外科医が困難な手術に臨む最大の動機は,良い手術をして良い結果を残し,患者さんに喜んでもらいたいということです.ところが,外科手術には常にリスクが伴います.癌の手術であれば,「手術を無事に終了する」「術後に合併症・後遺症を起こさない」「癌が再発しない」という3つの命題を達成しなければ,「完全なる成功」とは言えないわけです.しかし,これを常に達成することは困難です.

 この30年間を振り返っても,明らかに術中死や大量出血をきたす手術の頻度は減っており,機能温存手術の普及により合併症,後遺症も減少,癌の治療成績も大きく改善しています.その一方で,「完全なる成功」でなければ満足しないどころか,「何か落ち度があったのでは」と考える患者が増えている結果,外科医の受けるプレッシャーは並大抵ではありません.しかし,(テレビドラマでも明らかなように?)患者さんが最後に頼りにしなければならないのは,結局「腕の良い」外科医です.上手な麻酔医でもなく,的確な診断を下す内科医や放射線科医でもありません.「初心者」から,「腕の良い頼りになる外科医」に成長していくことは,患者さんのためにも自分のためにも重要であるとともに,その過程は他の職種では得られないような充実感と喜びを伴ったものとなるでしょう.

基本情報

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臨床外科
73巻9号 (2018年9月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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